拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

宝剣で焼き餅を真っ二つ

2021-03-19 12:36:45 | 音楽
フィガロの登場人物は焼き餅やきばかりだと書いた。「やき」と仮名にしたのは疑問があったから。つまり、「焼き餅」は妬くのだろうか、焼くのだろうか、という疑問である。そもそもなんで焼き餅というのだろう。と思って調べてみたら、もともと単に「妬く」と言ってたのだが、「妬く」から「焼く」を連想して、焼くんなら餅だろうってことで、焼き餅になったそうだ。つまり駄洒落である。すると、もとの意味からすれば焼き餅は妬くのが正しいわけだが(そういう主張もあるが)、「餅」からしてみてれば、オレたちは焼かれるんであって妬かれる筋合いはない、と言うだろう。うちの電子辞書(シャープ製。もう20年近く使っている)に入ってる大辞林では「焼き餅」は「焼く」とある。ジェラシーでかっかする様子からも「焼く」が合ってる気がする。ところで、「妬く」を「妬む」と書くと「ねたむ」になる。焼き餅をやくのと妬むのとではどこが違うのだろう。同じ漢字を当てているのだから似たようなもので、特に男女間となると「焼き餅」になるのだろうか。因みに、ドイツ語だと「焼き餅」は「Eifersucht」で、「嫉妬」は「Neid」。両者は言葉的にはっきり異なる。「Eifersucht」は「愛情」がからんだときに用いられる。千一夜物語で姉が自分の彼氏と寝た妹の首を掻ききったのも「Eifersucht」によるものであった。以下は「Neid」にからんだ話である。ヴァーグナーの「指輪」に出てくる宝剣「ノートゥング」をジークムントもジークフリートも「ein neidliches Schwert」と呼んでいる。「neidlich」という言葉は辞書にないのだが(ヴァーグナーの造語?neidischはある)、直訳すれば「嫉妬的」な剣、一般には「妬ましい剣」と訳されている。この名称が悩ましい。いったい妬む主語は誰だ?考えられる主語その1。この剣の主であるジークムントとその子ジークフリート。剣を扱う自分たちより扱われる剣の方が立派なので妬んでいる。その2。世の中の人みんな。みんなが羨む名剣ということ。その3。剣自身。自分より切れる剣があることを許さない(白雪姫の魔女と同じ)。すっごく丁寧な訳では「誰もがうらやむ剣」となっていて、2の意味であったが、私は、イメージ的には1か3だった。つうか、あまりつきつめて考えていなかった(ヴァーグナーの歌詞をつきつめて考えると、気が狂う)。実は、いずれの意味であるかはもうどうでもよくなった。面白い演出を思いついた。「ジークフリート」第1幕で、ジークフリートがノートゥングで真っ二つにたたき切るのは金床だが、金床の代わりに「焼き餅」と書いたでっかい餅を舞台に登場させ、それをノートゥングで真っ二つにするという演出はどうだろう!「妬ましい剣」で「焼き餅」を切る、という解釈である。意味もなく裸を登場させる最近の演出よりよっぽど作品の解釈に沿っていると思うのだが。