今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

588 マイセン(Meissen)ドイツ

2014-08-13 06:31:11 | 海外
女性が一人、物思いに耽る水辺はエルベ川である。そして対岸に建つのはアルブレヒト城で、ヨーロッパで初めて白い磁器を焼くことに成功した錬金術師は、ザクセン王によってこの城に閉じ込められてしまった。莫大な富を産む磁器の製法を、他国に漏らさないためである。それが1709年のこと。佐賀の鍋島藩が陶工を大川内山に囲い、藩窯の技法を秘匿したのはその34年前のことだった。マイセンと有田はいま、姉妹都市である。





ヨーロッパ磁器の代名詞であるマイセンは、ドレスデン近郊の小さな街で制作されている。およそ陶芸を趣味とする者にとって、一度は訪ねてみたい土地である。ただし輝くばかりの白い肌と、緻密な絵付けを特徴とするマイセンは、陶土の素朴な風合いを好みとする私とは「作風」が異なる。イタリアのファエンツェの方が私には馴染める産地であったが、東洋の白磁をヨーロッパでもと、執念に燃えた開発競争には興味を掻き立てられる。









有田には香蘭社や深川製磁といった会社組織や、柿右衛門、今右衛門などの銘窯がそれぞれに伝統を受け継いでいるが、マイセンは剣がクロスした文様を唯一のブランドとしている。現在の工場は旧市街の外れにあって、博物館も併設されている。そこでは成形、飾り付け、彩色といった各段階の制作工程を、それぞれのベテラン職人が実演してみせてくれる。わずかに灰色がかった粘土が指先で細くのばされ、リアルな造形を出現させる。





この繊細さが、好事家にはたまらない魅力なのだろう、驚くほど高価なのだが売れているらしい。だから「模倣品を作る窯元は500ヵ所以上わかっているけれど、伝統は国立(州立?)の当工場で厳格に守られています」と、日本語のオーディオガイドが強調していた。土産物店などで、ずいぶん安いマイセンだなと底を観ると、釉薬の上から剣のマークに硬いカッターで2本線が入れてある。偽物だけれども売ってもいいということか。



マイセンの街も工場も観光客であふれている。有田など日本の陶磁器産地は、日本人の生活パターンが変わったためか、長い構造不況に陥っている。高くても売れるブランド力をつけなくてはならない。そして街が賑わうのは陶器市の期間だけ、というのではいけない。いずれも言うは易しで、一朝にできることではない。ブランド力のアップは、それを維持する強い覚悟が必要だ。自動車産業でもカメラでも、ドイツ人はやり遂げている。











川のほとりの断崖上に城を築き、その麓に街が生まれるのは、日本の城下町とそっくりである。違うのはマイセンの城や家々の屋根が赤い瓦で統一され、クリーム色の外壁と相まって美しい景観を生んでいることだ。日本の場合は黒瓦に板塀だからぐっと渋い。建築材料が石か木材かの違いによるわけだが、多湿の日本と乾いた空気のヨーロッパとの気候の違い、さらには無秩序に看板や宣伝旗を掲げて平気かどうかの差もあるだろう。













今回の旅は、エルベ川に添ってその中流域と河口近くの街を訪ねる600キロであった。その直前、私は青梅と調布に行く用があって、東京・多摩川の上流と中流域の街を歩いた。その間は約35キロである。ドイツと東京では風景も音も匂いも異なっているようではあるけれど、およそ人間の営みは川と結ばれ、その畔に似た構造の街を築く。そこで人々は生き、家族を想い、世の平穏を願う。その心情は同じだと、旅で知るのである。(2014.6.27)=《ドイツ》終わり






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