今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

442 八達嶺(中国)人の世の遺産はこれか愚かしく

2012-05-20 13:03:06 | 海外
突然「イエーイッ」賑やかな歓声が挙がった。思わずカメラを向け、シャッターを切った。「ありがとう」と合図を送ると、女の子が「大阪のチュゴクジンでーす」と応えてくれた。友人らと父祖の地へグループ旅行に来たのだろうか。八達嶺長城までやって来て、うれしくて仕方ないといった風情だ。見渡すと白人やアラブ系、民族衣装の山岳高地族のような集団まで、世界中から観光客がやって来ている。もちろん日本人も多い。



万里の長城は、もちろん世界遺産である。「地球上で、宇宙から確認できる唯一の人造物」なのだそうだから、指定を受けて当然だろう。だから世界中からやって来る観光客が絶えないのだろうし、それは中国人にとっても同じ思いらしい。チベットかウイグルか、明らかに少数民族の人たちだと分かる衣装の集団は、安っぽいカセットレコーダのヴォリュームを目一杯大きくして、爆発しているような笑顔で賑やかな音楽を振りまいていた。



とにかく歴史が堆積している中国には、世界遺産が多い。イタリア、スペインとともに40件を超えており、北京エリアだけでも紫禁城、天壇、頤和園、明十三陵、周口店、そして万里の長城がある。今回の旅では、駆け足ながらこのすべてを回った。そのいずれもが、見物客でにぎわっていた。中国では人々の暮らしにゆとりが生まれ、観光ブームなのだろう。日本でも多くの中国人ツアーに出会うのだから、中国国内が賑わって当然だ。



私もその人混みの一員となって思ったのは、「中国の人たちは世界遺産というものにさほど重きを抱いていないようだ」という印象である。特段の根拠があるわけではないのだけれど、そんな感じがしたのだ。もちろんそれぞれに「世界遺産」の指定を受けたことを記すプレートが設置されている。ただ、さほど目立たない所に掲げられていたりして、「世界遺産? それがどうしたの」と語っているように、私には思えたのだ。



確かに1987年に登録された万里の長城や紫禁城(故宮)、周口店などは、これを除いては世界遺産の仕組みが成り立たない、というほどの遺産だといえよう。だから中国の人々が、ことこの点に関しては中華思想を前面に押し出したとしても「恐れ入りました」というしかない。日本でくり返される世界遺産フィーバーを思う時、その違いは大きい。遺産登録が地域の誉れであり、地域起こしの悲願にさえなっているケースが多い日本だから。



そもそも世界遺産制度は、地球や人類にとってかけがえのない自然・文化遺産を登録し、その保全に勤めようという趣旨であろう。それがどうも日本の最近の風潮は、ユネスコから「観光の目玉」としてのお墨付きをいただくような発想で捉えられている嫌いがある。だから登録が決定するや、市役所や駅には巨大な横断幕が張られ、観光業者らが感涙にむせぶ。確かに集客効果は抜群だろうが、保全の責任も厳しく負うことになるのだ。



とはいえ人類の遺産が整備され、だれもが見物できるようになることは素晴らしいことだ。「万里の長城」という、人類愚行遺産と呼べそうなその奇観は、軍馬が駆けた通路や兵士の籠った砦を目の当たりにすると、様々な感慨が湧いてくる。八達嶺の登り口広場は、8年前に比べたらずいぶん整備され、記憶を呼び起こすことが一苦労だった。あまり整備され過ぎると破壊につながるから、ほどほどの観光地に留まっていて欲しい。(2012.3.8)











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