2002年7月、米国中西部ウィスコンシン州最大の都市・ミルウォーキーは、MLBオールスター・ゲームに湧いていた。ダウンタウンはALLSTAR WEEKのイベントでお祭り騒ぎ。そして試合当日の9日、市南郊のミラー・パークは満員の盛況である。国歌斉唱が終わって球場の日本製ドームが開き切った瞬間、上空を2機の戦闘機が通過して行った。轟音がこだまするグランドには大リーグ2年目のイチローがおり、スタンドには私がいた。
ミルウォーキーといえば、中高年世代は「ミュンヘン―札幌―ミルウォーキー」というフレーズが口をついて出るだろう。北緯43度ラインにビール産地が並んでいることに目をつけたサッポロビールが、かつて盛んに用いたキャッチコピーだ。ミュンヘンはドイツを代表するビールの街だし、ミルウォーキーは全米大手のミラービールの本拠地だ。ビール好きにはたまらない3都市であるが、私にはミュンヘンのビール祭りが最高だった。
ビールはともかく、ミルウォーキーは爽やかな街である。人口は63万人というから、日本では地方の中核都市程度ということになるが、ダウンタウンのショッピングモールは大規模で、オールスターのファンフェスタが賑わい、オフィス街は運河に添ってレストランが店を広げ、伸びやかなのだった。ミシガン湖畔は美しい公園で、磯臭さが漂って内陸の街とは思えない。特異な姿の美術館では土砂降りの中、前夜祭のパーティーが開かれた。
清潔で、さっぱりとした印象を受けたミルウォーキーのダウンタウンや住宅街は、お隣りのミネソタ州ミネアポリスとよく似ていた。どちらもドイツ移民が築いた街だというから当然か。面白かったのは通りのあちこちに置かれたポップなアニマル像で、北欧風のビルが多い市街地を明るく彩っていた。シカゴの巨大な現代アートとは全く異なる、遊園地を歩いている気安さがいい。
日本でも、商店街をシンボル像で飾ることが流行りだが、ブロンズの黒いかたまりだったりして、むしろ通りを暗くしているケースがあるのは残念だ。これから計画している街は、ミルウォーキーに視察に行ったらいい。
米国の地方都市での生活がどんなものか、短期間の滞在では知る術も無いが、湖を見晴らす高台に広がる高級住宅街と、郊外で散見した工場街のあたりとでは、暮らしの落差は随分と大きそうだと感じた。それほど高台の住宅地がリッチに見えたということだが、そんな印象を、夜になって紛れ込んだパブでホットパンツのお嬢さんたちに尋ねてみたいと思ったのだけれど、私の英語力が邪魔をした。だからOne more Miller!でごまかした。
ミルウォーキーへは飛行機を乗り継いでやって来た。ニューヨークのラガーディアだったと思うが、チケットのダブルブッキングで搭乗を断られたのには焦った。米国では珍しいことではないと告げられもっと驚いたのだが、職員が競りに懸けるようにして現金でチケットを買い取り、私の席を確保してくれたのには仰天した。
そんな具合に大雑把な米国社会だが、オールスター・ゲームのセレモニーの腕前には舌を巻いた。黒人女性歌手が国歌を詠い終わるタイミングと、球場を覆っている鉄製のドームが開き切る瞬間が一致し、そこを寸秒違わずジェット戦闘機が通過する。こんな緻密な芸当もやってのけるのが米国人気質というものか。このあとニューヨークに戻り、《9.11》の現場を訪ねたのだった。(旅・2002.7.7-10)(記・2010.9.11)
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