今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1149 小倉(福岡県)小倉とは梅が膨らむ城下町

2024-02-09 16:26:22 | 山口・福岡
小糠雨が烟る小倉城の庭園で、梅の膨らみを確認している若手造園業者と話す。「小倉は30年ぶりかなぁ」「東京からですか、東京は緑化に成功しましたね」「いやいや、未だに樹木伐採で揉めている街です」「東京の緑化は私らの目標です」「失礼ながら、北九州はどうも粗暴な事件が多い印象があって」「確かにそんな街でした。しかし警察が本気出してくれて、ここ何年かですっかり変わりました」。市から城跡の保全を委託されているのだという。



「あの暴力団の取り締まりが強化されたからですか」「ええ、以前はそれと分かる男たちがうろついているのが当たり前の街でした」「トップに死刑判決が出て、変わった?」「組織を維持できなくなったのか、そうした男たちの姿は見られなくなりました」「それは良かった」「一番変わったのは若もんでしょう。いかにもの格好をして群れていたのに、ぱたっと消えたのです」「消えた?」「女の子にもてないと分かったんでしょう、普通になりました」



小倉といえば祇園太鼓に無法松だが、細川家と小笠原家がリレーした城下町であり、北区と南区合わせて北九州市の人口の40%超が集中、行政・商業の中心になっている。九州各地へ分岐する鉄道網と、新幹線も乗り入れる駅は大きく、空中をモノレールが滑って行く風景は大都会である。長崎街道も中津街道もこの街が起点で、九州の道は小倉に通じる。全国紙が西部本社をこの街に置いているのは、九州全域に新聞を届ける最適の街だからだ。



紫川に沿って常盤橋から城跡へと歩いて、これほどの都市景観はなかなかないぞと感嘆する。早朝の城址公園は重厚な琴の音に包まれ、大音量で流行歌を流す彦根城よりはるかに品がいい。小倉は文学の街でもある。火野葦平や杉田久女らゆかりの文学者を紹介する大きな文学館が整えられ、様々な講座が開かれているようだ。商店街の中に「文学サロン」があったり、社団法人の文学協会が文学賞を設定しているなど、「ブンガクの街」なのである。



全てを回る時間はないので、城跡の一角に建つ「松本清張記念館」に行く。小倉に生まれ、42歳で書き始めて82歳で没するまで、700冊の著作を残した「あらゆる規範を超えた作家」を紹介している。私は一部ながら小説や古代史疑、黒い霧シリーズを夢中に読んだ一人だから、知ったようなことを言わせてもらうと、文章は推敲が足りず、駄作も少なくない。しかし着想・発想の独創性は「作家」に収まりきらず、「文学館」に同居させ難い巨人である。



著作カバーを張り合わせた天井に届く展示を眺めながら、「一番面白かったのは『砂の器』かなぁ」と思う。藤楓会の会員だった母から聞かされたハンセン病差別の悲哀を、こうした物語にして社会に突きつけた力量に感動したものだった。野村芳太郎監督の映画も忘れがたい名作だ。作家の東京の居宅が、私の家から歩いていけないこともない距離にあったと知り、「清張さん、『神々の乱心』をなんとか完結してくれませんか」と頼みたくなった。



小倉名所の旦過市場が2度も火災に遭ったのに、この正月には魚町でも大きな火事があった。旦過市場は復興半ばなのだろうが元気な声が飛び交い、馴染みの客が惣菜を選んでいる。京町銀天街には魚町復興支援を呼びかけるポスターが貼られている。3度の失火に市民は落ち込んだことだろうが、川筋伝統の気っ風の良さが蘇り、街再建へ励まし合っているのだろう。もう「粗暴な街」などと言いません。頑張っていただきたい。(2024.1.30-31)


























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