万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米軍撤退後の安全保障とは?

2023年05月19日 09時49分30秒 | 国際政治
 次期アメリカ大統領選挙にあって台風の目となるのは、良きにつけ、悪しきにつけ民主党のロバート・ケネディJr氏であるのかもしれません。その理由は、民主党員でありながら、最有力とされる共和党のトランプ前大統領と足並みを揃えるかのように、全世界からの米軍撤退を主張しているからです。ロバート・ケネディJr氏が民主党の統一候補に選出されるかどうかは定かではありませんが、共和党と民主党の両候補が共に同方向を目指すとしますと、どちらが当選したとしても、第二次世界大戦後に成立した戦後体制は、大きな転換期を迎えることとなります。

 それでは、全世界の諸国から米軍が撤退するとしますと、その後の国際社会は、どのような方向に変化を遂げてゆくのでしょうか。理想とすべきは、国際社会にあって法の支配の原則が確立し、主権平等、民族自決(国民による自己決定)、並びに内政不干渉の原則がゆき亘り、国際法の下で平和が保たれている状態となりましょう。既に18世紀末にカントが『永遠平和のために』において示唆したように、全ての国家が民主主義体制へと移行すれば、戦争が起きるリスクはさらに著しく低下します。何れの国の国民も、戦争を望まないからです。

 これと同時に、国際の平和を制度的に支える仕組みの構築も進める必要があります。例えば、国連も、それが存続しているとすれば、法の執行機関、即ち、警察的な役割を担うのみとなり、万が一にも戦争が起きた場合、兵力を引き離したり、民間人を保護したり、停戦状態を維持したり、あるいは、判決内容の強制漆黒を担うなど、平和のための秩序維持的な活動が中心となることでしょう(新しい組織を結成するという選択肢も・・・)。そして何よりも、司法解決であれ(法律問題)、和解であれ(政治問題)、武力を使わなくしてあらゆる紛争やトラブルを平和裏に解決し得る仕組みこそ不可欠です。力を主たる解決手段とする時代に幕を下ろさないことには、人類は、戦争から逃れることができないのです。

 もっとも、理想的な状態に至るには、まだまだ高いハードルが待ち受けています。米軍の撤退が現実のものとなりますと、当然にロシアや中国等の暴力主義国家による‘侵略’が予測されるからです。米軍の撤退は、かろうじて保たれてきたアジアやヨーロッパにおける軍事バランスを一気に崩し、軍事力に優る国による近隣諸国に対する軍事行動を誘発しかねないのです。仮に、世界権力が全世界の全体主義かを狙っているとすれば、米軍撤退は好都合なシナリオなのでしょう。

 それでは、米軍の撤退後にあって、中ロ、あるいは、軍事強国による侵略の脅威に晒される諸国は、どのように対処すべきなのでしょうか。先ずもって検討されるのが、全ての諸国による核武装なのではないでしょうか。核兵器には、攻撃力のみならず、抑止力の効果があります。ウクライナ紛争にあっても、仮にブダベスト覚書等に基づいて同国が核を放棄しなければ、今般の悲劇は起きなかったのではないか、とする指摘もあります。核の相互抑止体制が整えば、軍事大国といえども迂闊に他国を侵略したり、無闇には軍事力を行使することはできませんので、核保有は、最も簡単で効果的な対応策なのです(NPTを終了させることで、即、実現・・・)。

 米軍の撤退については、アメリカとの軍事同盟の解消を意味するわけではなく、同盟国に提供されている‘核の傘’が消えるわけではない、とする反論もありましょう。しかしながら、ロバート・ケネディJr氏の主張は、‘軍隊は国を守るという本来の役割に戻るべき’というものですのですし、トランプ前大統領も‘アメリカ・ファースト’を旨としていますので、アメリカが核の報復を受けるリスクを負ってまで、同盟国のために自国の核を使用するとは思えません。言葉では約束していても、現実には核の傘が開かない可能性の方が遥かに高いのです。

 G7広島サミットは、本日5月19日より21日にかけて人類史上はじめて核爆弾が投下された広島にて開催されます。岸田文雄首相は広島が地盤と言うこともあり、同サミットを‘核なき世界’への取り組みを加速させる機会としたいようですが、ロシアによる核兵器の使用リスクが高まり、かつ、アメリカにあって米軍の役割の見直しを求める世論が主流となりつつある今日、同方針は、どこか現実離れしているように思えるのです。

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