万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国籍法違憲訴訟の我儘-日本国の重国籍禁止を明確化する?

2018年02月25日 12時14分54秒 | 日本政治
「外国籍取得したら日本国籍喪失」は違憲 8人提訴へ
報道に拠りますと、外国籍を取得すると日本国籍を失うと定める国籍法の合憲性を争う訴訟が、東京地方裁判所に起こされるそうです。原告は、スイスやフランスに在住している8名の元日本国籍者とのことですが、この訴え、原告側が主張する憲法上の根拠を見ましても、かなり無理があるように思えます。

 原告側は、第一に、国籍法第1条1項は、憲法第13条(幸福追求権)に反するとしています。しかしながら、第13条は、“公共の福祉に反しない限り”個人の幸福追求は“立法その他の国制上で”尊重されると述べるに留まり、その具体的な内容を詳述しているわけではありません。原告側は、現行の国籍法の規定は個人の幸福追求を害していると訴えていますが、裁判所においてこの言い分が認められれば、あらゆる法律が、違憲として判断されるリスクが生じます。何故ならば、法律とは、無限の自由(放縦)ではなく、規律ある自由を実現するために、個人の行動に一定の枠を与えるものであるからです。第13条が、一部の人々の個人的、かつ、主観的な幸福感の有無によって法律を改変する法的根拠となるならば、これは、拡張解釈による法の私物化としか言いようがありません。

 原告側が第二に根拠としている憲法の条項は、第22条2項(国籍離脱の自由)です。この条項には、「何人も、外国に移住し、又は、国籍を離脱する自由を侵されない」とあります。同条文を文字通りに素直に読めば、原告の人々は、まさしくこの自由を謳歌したこととなります。何故ならば、外国に移住し、(外国国籍を取得することで)自らの自由意思で日本国籍を離脱したのですから。しかも、条文では、“外国国籍を取得する自由”ではなく、“国籍を離脱する自由”と明記しており、むしろ、無国籍者の発生を回避し、外国国籍の取得と日本国籍の離脱を一対として捉えている現行の国籍法第1条1項の規定と合致しているのです。

 さらに、原告側は、上記の憲法の条文の他に、時代の変化を違憲の根拠として挙げています。重国籍の禁止は、明治憲法下の徴兵制(兵役の義務)を前提としたものであり、日本国を含め、多くの諸国において徴兵制が廃止され、グローバル化が進展した今日では時代遅れであると主張しているのです。しかしながら、重国籍と徴兵制の問題に関しては、国際法において調整のルールが設定されており(「二重国籍における軍事的義務に関する議定書」)、国際社会では、徴兵制の有無は二重国籍の容認とは直接には関係しません。また、蓮舫議員の二重国籍問題に関連して議論されたように、民主主義国家である限り、同問題は、政治や社会等の全般に亘って外国による内政干渉の問題を引き起こします。加えて、近年、スウェーデンやフランスにおいて徴兵制復活の動きがあることに加え、オーストラリアなどでも重国籍の国会議員が失職しており、徴兵制廃止や二重国籍容認は時代の流れとも言い難く、むしろ重国籍が問題視されているのが現状です。

 このように考えますと、現行の国籍法を違憲とする原告側の言い分は、極めて“我儘”な要求に聞こえます(そもそも原告の人々は、権利は求めても、日本国に対する義務を負うつもりはあるのでしょうか…)。もっとも、原告側の主張を否認する判決が下されれば、重国籍を認めていない現行の国籍法の合憲性が確定することになり、これまでその曖昧さが問題視されてきた“外国人の日本国籍取得における重国籍”の禁止についても、法的解釈が明確化する一助となるかもしれないと思うのです。

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14 コメント

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Unknown (宮内庁皇室浄化大作戦)
2018-02-25 20:57:24
重国籍は法律に違反していますから、公務員を始めとして国会議員など全ての公的な立場での職務には着かせないで欲しいですね。

重国籍者はスパイ防止法を作って、行動や発言などにも注意喚起して欲しいですね。

マスコミ関係者や芸能人の重国籍者は開示義務付けて欲しいですね。

日本は重国籍は法律上認められてはいないのですから。
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宮内庁皇室浄化大作戦さま (kuranishi masako)
2018-02-25 21:12:51
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 おそらく、今般の訴訟の判決により、国籍法における重国籍禁止が合憲と確定されることでしょう。そなりますと、政府も、重国籍者に対する対応を迫られることになると思います。特に公人となりますと、その影響は甚大ですので、国民からの情報開示や辞任要求も強まるのではないでしょうか。
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二重国籍 (海外憂国の士)
2018-03-18 07:00:19
原告の野川等が住むスイスでは重国籍が認められています。しかしいざとなると少し違う要です。あちこち眺めて見ましたが「私的憂国の書、「外国籍取得したら日本国籍喪失」は違憲か」に野川なる人物の詳細が記されていると共に、スイスの最近の出来事がきされています。これを引用させてもらいます。
「先般スイス政府のそれまでの外務大臣の辞任に伴い後継者として新たにイタリア語圏の人物が選出されました。この新外務大臣の両親はイタリアからの移民で、本人はイタリアとスイス両方の国籍を保有しておりました。が、大臣就任に伴い世論の大勢に応じるかっこうでイタリア国籍を放棄しました。
二重国籍を認めて居るスイスでも、いざとなると単一国籍が求められるのでございます。事のついでに申し挙げれば、スイスの外交官登用の前提条件はスイス国籍だけを保有することになっております。 」
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海外憂国の士さま (kuranishi masako)
2018-03-18 07:57:45
 コメント、並びに、貴重な情報をいただきまして、ありがとうございました。

 原告の野川氏がスイス在住となりますと、スイス国内で起きている外務大臣の二重国籍問題については十分承知しているはずと思います。にも拘らず、このような訴訟を起こすとしますと、その目的は、一体、何なのでしょうか…。もしかしますと、日本国内においてスイスの情報が拡散する前に、二重国籍を認める方向への誘導を狙っているのかもしれません(もっとも、原告の思惑通りにはいかないのでは…)。
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判決はいつ頃? (海外憂国の士)
2018-03-21 02:16:13
ブログ作成者、Kuranisi Masako 様
ところで、本件提訴に対し判決はいつ頃出るとお考えですか。
そもそもこの裁判は公判なんですか。具体的には被告側は法務省と解釈して良いわけですね。どんな形で訴訟が進められるのか、ご教示ください。
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海外憂国の士さま (kuranishi masako)
2018-03-21 08:15:10
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 まことに申し訳ないのですが、私も、この訴訟の今後のスケジュールや見通しにつきましては、全く予測がついておりません。合憲性が争われますので、最高裁を以って終審となるのでしょうが、手続きにつきましては、ウィキペディアに拠りますと、「最高裁判所で違憲判決を出すには、15名で構成される大法廷において最低9人が出席し(最高裁判所裁判事務処理規則7条[1])、最低8人が違憲判決を支持することが必要である(同規則12条)。違憲判決は、その要旨が官報において公告され、かつその裁判書正本が内閣に送付される。法令違憲判決については、国会にも正本が送付される(同規則14条)。」とありますので、ご参考になさってくださいませ。
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国籍法違憲提訴団について (海外憂国の士)
2018-03-22 06:28:11
ブログ作成者、Kuranishi Masako 様
貴重なご案内ありがとうございました。なるほど結局最高裁までゆくのですか。となると長引きますね。原告代表者がご存命かつ認知能力がある内に判決が出るとよろしいのですが。
さて、この提訴団の他の7名の氏名などはどこかで知ることができるのでしょうか。または知る方法などをご存知でしたら、ご案内ください。
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海外憂国の士さま (kuranishi masako)
2018-03-22 08:54:52
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 原告の詳細につきましては、少なくともネット上では、”スイス・バーゼルで日本人会会長を務める野川等さん(74)ら30~70代の男女8人”とのみ情報が公開されております。もっとも、具体的に訴訟手続きが開始されますと、他の原告につきましても、情報が公にされるものと思います。
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国籍法違憲提訴団について (もも)
2018-08-27 09:32:27
私は法に従い、米国の領事館で米国籍を選び、日本国籍を離脱しました。しかし今は 誰が書いたものかはわかりませんが、
『日本は「国籍単一の原則」から重国籍を原則的に認めていませんが、黙認でしか運用できません。これは、国籍法に重国籍への罰則規定が無く、国籍剥奪の強制執行制度も持っていないことも、後押しします。もしも重国籍を日本政府が知ったとしても、日本政府は「国籍喪失届を出すように」という説得以上のことはできず、国籍剥奪をする術はありません。出生による重国籍で、他国公務員に就任した際にのみ、法務大臣が国籍の喪失の宣言をできるのが唯一の国籍剥奪手段ですが、発令されたことはありません。
国籍喪失者が、国籍喪失により失効したはずの手元のパスポートを使うのは、旅券法により5年以下の懲役か300万円以下の罰金か両方の罰則があります。しかし、旅券法でも罰則のみで国籍を剥奪できず、戸籍が残っていれば日本政府は国籍喪失から判定する必要がありますが、この判定制度は存在しません。
これまで外国籍取得者がパスポートを使ったことで、旅券法違反で起訴されたことは確認されていません。つまり、「外国籍取得時点で日本国籍を喪失」という解釈への司法判断はおりていませんし、起訴しない当局もこの判断に触れることを避けているようです。
こうなってくると、実際に運用できない重国籍を防止しようとする大使館の姿勢が、特異で目立ってきます。』だそうです。
正直者は馬鹿をみる、、です。領事館で日本のパスポートは申請せきませんが 日本に帰り 日本のパスポートを取れば、問題なかったのだと思います。
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ももさま (kuranishi masako)
2018-08-27 10:24:45
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 重国籍をめぐる問題は、明確な司法判断の欠如、あるいは、行政による法執行の怠慢に起因しておりますので、この点を争点とした国籍法違憲訴訟を起こすこともできるのではないかと思います。憲法第73条には、内閣の職務として「法律を誠実に執行し…」とありますので。尤も、法運営が曖昧となっている現状の一因としては、二重国籍を認めている国、国籍離脱を認めない国、及び、中国と台湾、並びに、韓国と北朝鮮といった国籍に関して複雑な問題を抱える諸国(一方の国籍を離脱してももう一方の国籍が残ってしまうかもしれない…)が存在していることがあるのではないかと推測いたします。また、重国籍のリスクについても十分な議論がなされているとは言い難い現状にあります。これを機に、ももさまがおっしゃるように’正直者は馬鹿をみる’とはならないよう、法整備や運営の徹底を行うべきではないかと考えております。
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