万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ネット・マッチング・システムの未来

2023年10月02日 11時34分21秒 | 統治制度論
 現代に繋がる経済活動の始まりが、平和的な‘交換’による相互利益の獲得にあるとしますと、双方のニーズの一致は人々を豊かにする基盤となります(狩猟・採取時代では‘配分’が基盤・・・)。言い換えますと、社会の中に様々なニーズがあり、同時に、そのニーズを満たすモノやサービス等を提供することができれば、それだけ、その社会全体が豊かになることができると言えましょう。この観点からしますと、今日のインターネットの普及は、双方のニーズが一致し、主体間の合意形成のチャンスを飛躍的に増加させるという意味において、経済発展に大いに寄与するはずでした。自らのニーズを情報化してネット上に公開すれば、ネット利用者という極めて広い範囲から相互的に自らのニーズを満たす相手方を探し出すことができるからです。
  
 もっとも、同システムでは、ニーズの情報をネット上に公開するだけでは不十分です。何故ならば、如何なるネット上のニーズ情報も、それを探し出す技術がなければ、浮遊物のように、ネット上を漂う誰にも利用されない情報の一つに過ぎないからです。この点に注目しますと、双方が、広大なネットの海にあって自らが必要としている対象を的確に見つけ出すためには、検索技術が必要不可欠なのです。このように考えますと、ネット・マッチング・システムとは、相互の条件付けによる検索を通してニーズを一致させるシステムと言えましょう。

 分散ネットワーク型の同システムでは、利用者の相互的なニーズの一致を目的として設計されているため、システムのメンテナンスや不正利用、虚偽情報のチェック等、あるいは、外部からのサーバー攻撃や情報盗取からシステムを防御する管理・維持機関を必要とはしても、組織全体の意思決定を行なったり、個々のマッチングに介入するような機関は要りません。利用者が、相互に直接にコンタクトをとり、交渉を行なうためのシステムですので、介在者を要さないのです。このことは、制度設計に際しては、独立性が確保されるべきことを意味しており、同システムの運営は、基本的には参加者達の自立性に委ねられるのです。

 また、多くの人々が安心して同システムを利用するためには、利用者間でトラブルや紛争等が発生した場合の解決手段を予め設けておく必要もあります。利用者の誰もが被害や損害の申し立てを行なうことができ、必要とあれば中立・公平な機関が調査を実施し、かつ、最終的な解決手続きとして司法制度と連結させれば、利用者も安心しますし、システムとしての信頼性も高まるからです。中には不法行為や犯罪もありましょうから、警察、検察、並びに裁判所を解決メカニズムに組み込むことも一案となりましょう(経費は国の予算から)。警察も関わるともなれば、犯罪者が同システムを悪用して詐欺を働こうとしたり、反社会的組織が自らのニーズを満たすために‘仕事’やメンバー探しに利用したりしようとは考えないはずです。

 多数の中小の一般事業者を傘下におさめ、高額の仲介料を要求する悪徳事業者やブラック企業まがいのネット事業者が横行している現状を考慮しましても(‘鵜飼いシステム’?)、ネットを利用したマッチング・システムについては、より安全で信頼性が高く、しかも救済措置も備えた高いオープンな制度設計が必要なように思えます。政府ではなくとも、○○事業者団体と言った同業者団体が、全ての同業者に開かれたシステムとして構築するという案もあり得るはずです。こうした方法ですと、サービス業であれば、検索条件に自宅との距離を加えれば、ご近所の○○屋さん’も生き残り、地方経済や地域コミュニティーも活性化するという副次的な効果も期待できましょう(中間マージンがないので価格も低下し、消費者にも恩恵が・・・)。

 経済発展の基盤が相互的なニーズの一致にある以上、公的マッチング・システムは、就職・求人のみならず、あらゆる分野において応用できるかもしれません。テクノロジーは、人類を豊かにするためにこそ活かされるべきであり、政治や経済において活用するに際しては、制度設計にこそ最新の注意を払う必要がありましょう。デジタル全体主義やIT大手による独占が懸念されている今日、技術の善用は、全ての分野に共通する人類が真剣に取り組むべき課題であると思うのです。

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