万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝首脳会談中止-北朝鮮の核実験場閉鎖がテストだったのでは?

2018年05月25日 11時09分33秒 | 国際政治
北朝鮮 核実験場爆破作業 外国メディアが撮影の映像公開
本日早朝、6月12日に予定されていた米朝首脳会談は、トランプ米大統領の決断により中止となった、とするニュースが飛び込んできました。将来に開催に含みを持たせてはいるものの、会談を前にした事前交渉において、両者が決裂したことは疑い得ないことです。

 同大統領は、中止の理由として、アメリカに対して核で脅すなど、「北朝鮮が最近の声明で示した凄まじい怒りとむき出しの敵意を受けて、会談は不適切だと感じた」と説明しております。また、米高官の談に依りますと、北朝鮮は、相次いで約束を反故にしたとも語っています。度重なる北朝鮮側の不誠実な態度が中止決断に繋がったのでしょうが、先の北朝鮮による豊渓里の核施場閉鎖の一部始終も、この決断の要因となったのではないかと推測するのです。

 アメリカが北朝鮮に対して強く求めてきたのは、あくまでも、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’です。しかしながら、この要求に対して北朝鮮が応じたのは、‘不完全、検証不可能かつ可逆的な核廃棄(Incomplete, Unverifiable, and Reversible Dismantlement: IURD)’であったのですから、アメリカが失望しても無理はありません。北朝鮮の国営メディアの朝鮮中央通信も、今般の核実験場の閉鎖について「核実験中止を透明性あるものだと保証するために核実験場を完全に廃棄する儀式を行った」との声明を発表しておりますので、北朝鮮側は、‘完全’、‘検証可能’、‘不可逆性’の三つの要件は満たしていると主張しているのでしょう。少なくとも核実験場の廃棄については、‘これ以上の廃棄措置をとることには応じない’とする、アメリカに対する強い拒絶の意思表示とも読み取れます。

 専門家に依りますと、北朝鮮の主張は‘まやかし’に過ぎず、爆破されたのは南北西の坑道入口の三か所のみであり、一回目の実験に使用された東側の坑道はそのまま残されているそうです(破壊された地上の施設も‘空き家’かもれない)。つまり、今般の措置は、“完全”でもなければ“不可逆性”もありません。また、北朝鮮は、外国メディアの取材受入を以って‘検証可能’と見なしていますが、国際社会では、この用語は、中立・公正な国際機関であるIAEA等による査察の無条件受け入れを意味します。従って、自己中心主義国家である北朝鮮の主観的判断、並びに、恣意的解釈による‘3要件の充足’は、国際基準に適っていないことは言うに及びません。

 今般の豊渓里核実験場の閉鎖北朝鮮の基本的な思考回路が徹底した自己中心という意味において異常であり、あらゆる案件に対して同様の態度が予測されるならば、たとえ日朝首脳会談が開かれたとしても、そこで成立した合意は、無意味どころか、将来的には、イラン核合意のように事態をさらに悪化させる展開を予測させます。トランプ米大統領は、今般、北朝鮮が示した‘具体的行動’の内容を注意深く観察したテスト結果として、米朝首脳会談の中止を決断したのではないかと推測するのです。

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コメント (2)
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