万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

視界不良な米朝首脳会談-6月12日シンガポール開催

2018年05月11日 10時38分28秒 | 国際政治
非核化検証が課題=「失敗の25年」教訓に―米朝
 注目を集めてきた米朝首脳会談については、6月12日にシンガポールで開催されることが決定されました。通常、首脳クラスの会談では、事前に両国間で裏方による折衝が済んでおり、最後の仕上げとなる象徴的なセレモニーが首脳会談となるのですが、今般の米朝首脳会談については全く以ってその先行きが不透明です。

 この不透明感は、第一に、しばしば指摘されているように、アメリカのトランプ大統領も北朝鮮の金正恩委員長も、共に外交上の慣習的な手続きに従うよりも、即決、即ち、予測不可能な決断を行う傾向にあることに起因しています。特に後者は、国家の全権を掌握している独裁者であり、交渉の場の雰囲気や成り行きによっては、憤慨して交渉の席を蹴る、あるいは逆に、言葉巧みに誘導されて懐柔される、または、威圧されて膝を屈する展開もあり得ます。

第二に、北朝鮮は、相手方を翻弄するためには虚偽の発言や偽情報の流布をも厭わない心理戦を好む点を挙げることができます。昨日も、NHKのニュース9においてポンペオ米国務長官と金委員長との会談の映像が放映されていましたが、その席で、同委員長は、アメリカから“新たな代案”を提示されたと解説されていました。その内容については全く触れられていませんが、あたかもアメリカが従来要求してきたリビア方式とは異なる、何らかの妥協的な案が示されたかの如く、思わせぶりに“新たな代案”の存在を示唆しているのです。アメリカが実際に何らかの新提案を示したのか否か、視聴者はその真偽を知ることはできません。それ故に、この情報に接した人々は、米朝首脳会談においてアメリカが、中朝が主張する“段階的な核放棄”を認めるのではないか、とする懸念を抱くことでしょう(イランへの対応からすればあり得ない…)。

そして、この“新たな代案”についてその真偽を知り得るのは、唯一、アメリカのみです。アメリカは、ポーカー・フェイスを決め込んで、嘘を吐く北朝鮮を泳がせておくのでしょうか、それとも、金委員長の発言は事実であって“新たな提案”を秘密裏に北朝鮮に示したのでしょうか。アメリカから正確なる情報が提供されない限り、国際社会は、米朝首脳会談のその時まで、事の真偽が分からないのです。

 加えて第三として、開催地がシンガポールであることも、不透明感が増す要因です。開催地にシンガポールが選ばれた理由としては、双方が受け入れ可能な中立的な場所を探った結果、消去法として同地が残ったとも説明されております。しかしながら、シンガポールは、米朝両国にとりまして中立的であるように見えながらも、その歴史を辿りますと、イギリスと中国、特に、華僑の影響が極めて強いという特色があります。北朝鮮の急速なる核開発の進展の背景には、両国も絡む何らかの国際ネットワークの存在も窺えますので、表向きは米朝首脳会談であっても、両国のみならず、表舞台には現れない関連する国際勢力が参加している可能性も否定はできません。つまり、利害関係がより複雑になり、結果が見通せなくなるのです。

 かくして米朝首脳会談は視界不良であり、その先行きを現時点で正確に予測することは、相当に困難です。しかしながら、イラン核合意からの離脱を考慮すれば、トランプ大統領が平然とダブルスタンダードを以って同問題の解決を図るとは考えられず、やはり、若干の見返り条件が付く可能性があるにせよ、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’に基づく北朝鮮の核放棄か、交渉決裂かの何れかとなるように思えるのです。

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