万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ポンペオ米国務長官の“体制保障”は何を意味するのか?

2018年05月14日 14時17分40秒 | 国際政治
非核化で米ポンペオ長官“安全保証与える”
6月12日に予定されている米朝首脳会談まで1カ月を切った今月13日、アメリカのポンペオ米国務長官は、核放棄の見返りとして「金正恩委員長に安全の保証を与える必要がある」とする見解を示したそうです。マスメディアでは、“北朝鮮の体制保障”と解されておりますが、ポンペオ長官の発言には、以下のような様々な解釈が成り立ちます。

 第一の解釈は、マスメディアの表現通り、建国以来今日に至るまで敷かれてきた金一族世襲による独裁体制の維持を保障する、というものです。同独裁体制とは、共産主義と主体思想が入り混じった特異な全体主義体制でもあり、国民の人権や自由は著しく抑圧されています。言い換えますと、アメリカは、北朝鮮に対して非民主的、かつ、強権的な現行の体制に対して変革を求めず、これを容認する方針に転じたこととなります。また、さらに踏み込んだ体制保障を約したとなれば、北朝鮮国民が同体制に反発し、民主化を求めてその打倒に立ち上がった場合に、自由と民主主義の最大の擁護者であったはずのアメリカが介入して民主化運動を鎮圧するという驚愕の事態も想定されます。

 第二に、ポンペオ長官が使用した‘安全’という言葉に注目すれば、アメリカが保障するのは北朝鮮の国家体制そのものではなく、‘米軍による対北先制攻撃は控える’という意味である可能性もあります。この解釈では、暗に朝鮮戦争の終結による米朝国交正常化を示唆したこととなります。朝鮮半島の南北再統一の問題はさて置くとしても、米朝間における敵対関係の終焉と同時に、アメリカによって北朝鮮の安全保障が確約されたこととなります。

 そして第三の解釈は、保障を与える相手として名指しされた‘金正恩委員長’を重視したものです。この場合は、‘核を放棄すれば、金委員長の一身は保証する’という、北朝鮮に対して相当に厳しい意味合いとなります。アメリカは、北朝鮮に対して圧倒的な軍事力を以って核放棄を迫っていますので、ポンペオ長官の発言は、いわば、強行突入を前にして人質犯に対して投降を勧告する‘命が惜しければ、核を放棄せよ’との、警察官のセリフとなりましょう。あるいは、アメリカ政府は、既に金委員長の亡命先を手配しているかもしれません。

 以上に主要な3つの解釈を挙げました、ポンペオ長官の発言は、その意味するところによって、今後の展開について全く違うシナリオを描くことができます。果たしてアメリカは、金委員長に対して何を保障しているのでしょうか。

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コメント (8)
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