万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮への見返りは不要なのでは?-対北支援の悪しき先入観

2018年05月12日 15時36分33秒 | 国際政治
報道に拠りますと、米朝首脳会談を控え、ポンペオ米国務長官は、北朝鮮が早期に非核化のための具体的な行動を採れば、経済支援を行う用意がある旨の発言をしたそうです。果たして、国際法や国連安保理決議を無視して秘かに核開発を行った北朝鮮に対して、見返りを与える必要はあるのでしょうか。

 北朝鮮への見返り提供は、犯罪者に対して武器を置くことを条件に報償を与えるに等しくなりますので、社会倫理に反することは言うまでもありません。同国の核開発とは人類を人質にとった犯罪とも言えますので、北朝鮮にとりましては、半ばその目的を達成したことになります。おそらく、同国にとっての核開発計画とは、保有に成功すれば軍事的優位と脅迫の手段を手に入れ、放棄すれば見返りとして巨額の資金を引き出せますので、どちらに転んでも自国が‘得’をする国家戦略であったのでしょう。

 こうした北朝鮮の狡猾さを考えますと、迂闊に見返りを与えることは、国際社会において深刻なモラル・ハザードをもたらしかねません。北朝鮮のみならず、他の諸国も同国の策略を模倣する可能性を否定できないからです。放棄に対する見返り目当ての、‘核兵器の拡散’ならぬ‘核開発計画の拡散’も国際社会が怖れるべき事態です。

 そして、ここで考えるべきは、北朝鮮に対する経済支援を当然のことと見なす先入観です。その先入観とは、(1)同国は、目下、国民の大半が飢えに苦しみ、経済が停滞した最貧国である、(2)日朝国交正常化に際して、日本国は北朝鮮に対して巨額の経済支援をすべきである、(3)朝鮮半島の南北再統一のためには、対北支援が必要である、といったものです。これらの先入観が存在する故に、国際社会は経済支援を当然視し、北朝鮮もまた、核問題を梃子にこれらのポケットから最大限の資金を獲得ようと画策していると推測されるのです。

 しかしながら、以上の諸点の何れもが国際法上の根拠があるわけではありません。(1)については、長期に亘り、統制経済を敷いてきた北朝鮮の自己責任であって国際社会に支援義務があるわけではありませんし、(2)についても、冷戦期にあって韓国支援のために締結された日韓請求権協定を先例と見なすとすれば、今日とは状況も政治的意味合いも異なっています。また、(3)に関しては、ドイツの再統一の事例に従えば、第一義的な支援責任は韓国にあります。しかも、それが国家犯罪の見返りとなれば、国際法秩序を揺るがしかねないモラル・ハザードであることは既に述べました。

 しかも、一説によれば、欧州諸国や中国等の対北融和政策の背景には、北朝鮮に埋蔵されているウランを始めとした豊富な鉱物資源があります。イランに対する経済支援が話題とならないように、仮に北朝鮮が、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を以って核を放棄し、経済制裁が解除された場合には、同国は、鉱物資源の輸出を以って自力で経済開発を行うべきです。見返りとしての北朝鮮への経済支援は、米中対立が先鋭化している中、‘敵に塩を送る’結果となりかねないのですから、この案は見送る方が賢明であると思うのです。

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コメント (8)
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