万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカのイラン核合意離脱が北朝鮮に与える影響とは?

2018年05月08日 15時28分25秒 | 国際政治
トランプ米大統領、イラン核合意巡る決定を8日発表
 トランプ米大統領のイラン核合意に関する決断を明日に控え、メディア等では、仮に同大統領が合意枠組から離脱した場合に北朝鮮に与える影響について取り沙汰されております。大半の予測はマイナス影響なのですが、果たしてこの予測は当たるのでしょうか。

 マイナス影響論の根拠は、タフな交渉にあって譲歩を重ねつつ、ようやく合意に漕ぎ着けたとしても、後から一方的に離脱されるのであれば、北朝鮮は、もはやアメリカという国を信用せず、交渉のテーブルに就こうとはしないであろう、というものです。つまり、イラン核合意からの離脱が米朝首脳会談を前にした悪しき前例となり、同会談を御破算にしかねないことを懸念しているのです。“合意の成立”のみを評価基準とするならば、こうした悲観的な見解も理解に難くはありません。

 しかしながら、評価基準を北朝鮮の“核放棄”に据えるとしますと、上記の見方は変わってきます。何故ならば、オバマ前政権が成立させた米・イラン核合意こそ、“イランの核放棄”を約束していないからです。同合意は、核開発の停止しか意味せず、2025年に設定されている期限が切れば、イランが核開発を再開させることは十分に予測されます。北朝鮮の核・ミサイル問題のケースでは、六か国協議の場を設けながら、結局は北朝鮮が途中で一方的に離脱し、核保有を宣言するに至りましたが、イラン核合意とは、まさにこれと同様の道を歩む可能性が極めて高いと言わざるを得ないのです。この経緯に照らせば、イラン核合意の悪しき前例こそ、北朝鮮による六か国協議からの離脱であったはずです。しかしながら、実際には、この前例を無視して“合意の成立”のみを優先させたため、中途半端な妥協によってイランに核開発の余地を残してしまいました。

 以上から想定し得ることは、仮に、トランプ米大統領がイラン核合意から離脱を決断した場合、北朝鮮は、イラン方式はもはや通用しない現実を思い知ることとなります。つまり、北朝鮮は、リビア式の“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”か、あるいは、最終的には軍事制裁に至る会談決裂による制裁強化か、の二つに一つを選ばざるを得ない状況に追い込まれるのです。北朝鮮の核放棄という最終目的からしますと、合意からの離脱は北朝鮮に対する強力なる圧力となり、プラスの効果として評価されましょう。

 あるいは、トランプ大統領は、合意内容を修正すべく、イランとの再協議を公表するかもしれませんが、少なくとも、最初のイラン核合意の内容をそのまま維持するとは思えません。そして、アメリカの合意離脱を最も恐れているのは、もはや交渉に頼るしかなくなった北朝鮮なのではないかと推測するのです。一方的な‘離脱’行為をこれまで散々繰り返してきたのは北朝鮮ですので、皮肉な因果応報と言わざるを得ないのです。

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