万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝首脳会談はお流れでも悪くはない

2018年05月22日 15時19分58秒 | 国際政治
トランプ米大統領、北朝鮮の出方次第で首脳会談中止も=副大統領
中央朝鮮通信を介して北朝鮮側から米朝首脳会談再考が表明されて以来、同会談の雲行きは怪しくなってまいりました。アメリカ側からも中止を示唆する声が聞こえております。

報道に拠りますと、ペンス米副大統領は、フォックスニュースのインタビューに応える形で、トランプ大統領には、北朝鮮の出方次第では同会談を取りやめる用意がある旨の発言をしたそうです。同副大統領は、アメリカには北朝鮮に対して譲歩するつもりは一切ないとも語っていますので、米朝双方の応酬によって、北朝鮮が期待していた会談中止の脅しによる対米牽制効果はなかったことが証明されたことにもなります。

アメリカが、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’の対北要求を貫く以上、米朝首脳会談については(1)北朝鮮側が全面的にアメリカに屈し、同国の要求通りに核・ミサイル放棄を実行する、(2)両者の主張が平行線を辿り、会談は決裂する、並びに、(3)会談そのものが中止される、の何れかの展開が予測されます。中国、ロシア、韓国、及び、マスメディア等が期待するアメリカが北朝鮮に譲歩する形での‘平和的解決’となる見込みは薄く、米朝首脳会談が開催されたとしても、相当の高い確率で決裂するとなりますと、核兵器を温存させたい北朝鮮は、米朝会談から逃避する可能性も否定はできません。

仮に、北朝鮮が首脳会談の中止をアメリカに申し出る、または、事前にアメリカの要求を拒絶するとしますと、アメリカもこれを承諾することとなりましょう。米朝首脳会談の中止は、北朝鮮にとりましては逃げの一手なのでしょうが、アメリカにとりましては、この選択は決して不利ではないように思えます。その理由は、長期的な世界情勢の変化を予測すれば、北朝鮮に対する制裁を強化する、あるいは、軍事制裁に訴える方が賢明であるかもしれないからです。

目下、追い詰められた北朝鮮は、後ろ盾の役割を求めるべく、中国に対して積極的なアプローチを見せています。北朝鮮側の狙いは、アメリカから譲歩を引き出すための圧力強化にある一方で、中国側には、鉱物利権の獲得を含む北朝鮮の経済支配という戦略があるのでしょう。米朝首脳会談が開催され、仮に上記の(1)の形で合意が成立した場合には、アメリカが北朝鮮を間接的にコントロールする立場を得たとしても、問題が解決した以上、対北制裁は解除せざるを得なくなります。この展開では、北朝鮮は所謂“開国”を余儀なくされますので、中国に対しても門戸が開かれることは想像に難くありません。

以上に述べたように、(2)の展開の場合には然程の違いはないものの、(1)の展開にあって米朝合意が成立した際の中国による漁夫の利を防ぐと共に、北朝鮮の金正恩委員長に対して“体制保障”を約束する必要性もなくなります。対イランと同様に最大級の経済制裁を科す、あるいは、軍事制裁を実行に移せば、アメリカは、より確実に北朝鮮の体制移行において直接的に主導権を発揮できるポジションを獲得できますし、経済、並びに、軍事面において中国を抑止することもできます。北朝鮮に対するアメリカの制裁は、既に国連安保理決議等において正当化されていますので、中国やロシアも反対はできないはずなのです。中国が、その常軌を逸した軍拡によって国際法秩序を脅かしている現状を考慮しますと、米朝首脳会談のお流れは、必ずしも‘悪いニュース’ではないと思うのです。

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