万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

韓国船籍‘瀬取り’事件-北朝鮮の戦争準備か?

2018年05月13日 15時56分25秒 | 国際政治
 先月下旬に開催された南北首脳会談では、‘平和の到来’が効果的に演出され、内外にあたかも朝鮮半島から危機が去ったかのような印象を与えました。しかしながら、その実態は、演出ほどには単純ではなく、南北融和は別の意味で波乱含みのように思えます。

 報道に拠りますと、南北首脳会談の直後に当たる時期に、東シナ海において日本国の海上自衛隊艦艇が韓国籍のタンカーが北朝鮮籍タンカーに接近している現場を発見したため、日本国政府は、韓国政府に対して調査を求めたそうです。現場での‘瀬取り’行為は未遂に終わったと見られますが(もっとも、水面下におけるタンカーの喫水の観察によるので確実ではない…)、未遂であれ、当然に、対北制裁を定める国連安保理決議に違反行為に当たります。

 北朝鮮に対しては、全面禁輸にまで踏み込まなかったものの、主として中国から輸入される原油や石油製品の輸入について量的な上限が定められています。同輸入枠の設定に際しては、おそらく、戦争遂行不可能であり、かつ、人道的な配慮から北朝鮮の国民生活に必要最低限な程度とする判断が働いたのでしょう。となりますと、北朝鮮が経済制裁を掻い潜る密輸に訴えてでも輸入上限を越える量の原油や石油製品を求めているとすれば、それは、特別の使用目的があるものと推測されます。そしてそれはやはり、米朝会談決裂に備えた戦争準備と考えざるを得ないのです。

 瀬取り未遂の現場が東シナ海であることと、南北両国の動きを考え合わせますと、過剰にプロデュースされた南北融和のムードとは裏腹に、国際社会には不穏な空気が漂っていることが分かります。今般の事件では、日本国の海上自衛隊艦艇が発見しましたが、北朝鮮は、中国の人民解放軍や海警局も活動する東シナ海であれば、‘瀬取り’の発覚を回避できると踏んでいたのでしょう。現場の海域から、中国が北朝鮮の‘瀬取り’を黙認している実態が窺えるのです。
 
 そして、韓国政府による自国船籍タンカーに対する‘瀬取り’の取締りが不徹底であった事実もまた、深刻なリスクを提起しております。何故ならば、同韓国船籍タンカーは韓国内に帰港しており、民間船舶とはいえ、韓国政府が厳重に自国船籍の石油タンカーの管理を実施していれば、あり得ない出来事であるからです(仮に、韓国政府の黙認ではなくとも、民間事業者が‘瀬取り’計画を実行できるほど、韓国国内には北朝鮮系の組織が根を張っている…)。このことは、‘南北融和’の裏の姿とは、韓国による北朝鮮に対する軍事支援、即ち、利敵行為になりかねないという忌々しき事態を示唆します。事の重大さを韓国政府がどの程度理解しているかは分かりませんが(韓国政府は、米朝会談が必ず合意に至ると信じているのでしょうか…)、仮に、米朝会談が決裂し、アメリカによる軍事制裁が発動されるに至った場合、米韓同盟が正常に機能するとも思えません。

 韓国籍船舶‘瀬取り’事件の発覚は、6月12日に予定されている米朝会談の如何によっては、南北融和が、実のところ、米韓同盟の動揺と朝鮮半島全域における中国の影響力の拡大、即ち、中朝vs.米韓から中韓朝vs.米国の構図への移行の前触れであった可能性を示唆しています。米朝会談の行方には不透明感が漂っており、日本国政府も、あらゆる事態に適切に対応し得るよう、同事件については徹底的な情報分析を行うべきではないかと思うのです。

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