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土佐いく子の教育つれづれ~またあしたね〈50〉

2016年10月20日 | 土佐いく子の教育つれづれ

ぼくもうんどうがしたかった
障がい者スポーツから学ぶ原点

 リオでのオリンピック・パラリンピックが終わった。何が最も違ったのか、いろいろ考えさせられた。お金の使われ方、報道のされ方はもちろんだが、私は負けたときの選手たちの受け止め方、考え方に大きな違いを感じた。オリンピックで負けたときは「国民の期待に応えられなくて申し訳ない」と言う。パラリンピックの選手たちは、確かに悔しいと言うが「スポーツできるのは楽しくて生きがいだ」と笑う。
 
 人間にとって「スポーツとは何なのか」改めて考えさせられている。

///授業の実践を小冊子に///
 今、大阪には、障がい青年が通う学びの場・自立訓練事業を行う施設が、松原(ぽぽろスクエア)、岸和田(シュレオーテ)などにできている。障がい児体育の実践を重ねてきた私の夫は定年後も、この青年の自立支援施設でスポーツの授業に取り組んでいる。

 この度、ここでの5年間の実践を小冊子にまとめることになり、毎日執筆にかかっている。私の問題意識と重なるので、少し紹介させていただく。

◎小冊子「はじめに」より

 この小冊子は「ぽぽろスクエア」と「シュレオーテ」のゲーム・スポーツ実践で作り出されてきたものです。障がいの重・軽にかかわらず、誰もができて楽しめるということを大切に考えてきました。ですから学生の表情を見、声を聞きながら、学生たちと共にいろいろ工夫したゲーム・スポーツが詰まっています。今年は、リオでオリンピック・パラリンピックが行われました。やはりメダルの数、しかも金メダルの優位性が話題になりました。ところで、パラリンピックが世界の障がい者スポーツの祭典として開催され、これまでも障がい者スポーツ大会など障がい者のスポーツが、権利として保障されてきたことに喜びを覚える一方で、障がいの重い人にとっては、まだまだ遠い権利であることを考えさせられています。だからこそ、私たちは、誰もができて楽しめるという視点を何よりも大事にしたいのです。

 この小冊子で紹介したものは、一例です。方法やルール等、どんどん工夫して新しいゲーム・スポーツを考え、作っていきたいです。そして、多くの人に伝え、広げていきましょう。

///誰でもできるよう工夫///
 小冊子に掲載されているゲームやスポーツを少し紹介する。

【ころがし的当てゲーム】
 卓球台またはテーブルを使って、一方のエンドライン上に的(缶、ビン等)を置き、他方のエンドからピン球(盲人卓球用の鈴の入っているもの)をラケット(卓球ラケットでもいいが、30cm×5cm×1cmの板に絵などを描きマイラケットを作るのも楽しい)をころがして打ち、的に当てるゲーム。
 これなどは、老人の介護施設など、どなたでもできて楽しめるゲームだ。

【卓球バレー(ころがし卓球】
 名前の通り、卓球とバレーを合わせたようなスポーツだ。視覚障がい者の卓球からヒントを得て、ネットをピン球2個分くらい上げて、その下をころがしてラリーを行う。バレーボールはコートの中に選手がいるが、これは卓球台の周囲に6人程度が位置につきゲームを行うというもので、現行のルールや方法にとらわれず、それらを自分たちで柔軟に工夫するというのが、面白いし、誰もができるスポーツになるというのが実にいい。

 学生の一人は、こんな感想を寄せている。
「私自身、もともと体育が苦手で、高校のスポーツの単位がギリギリで(5段階中2の評価)、苦手意識が強くありましたが、ぽぽろスクエアに来て、障がいのある方もできるスポーツをみんなで考えてやれて『こんなにスポーツって楽しいものだったんか』と感動しました」

 かつて夫が車イスの筋ジストロフィーの生徒に、運動会の競技は難しいと放送係をしてもらったとき、その子の一言「ぼくもうんどうがしたかった」にショックをうけ、この子にもスポーツをと、あの日から始まった仕事の連続がここにある。

(とさ・いくこ和歌山大学講師)

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