おかあさんのこと
四年 上山 勝美
わたしのお母さんは、少し体が弱いです。
今日のばんでも「頭がくらくらして、天井がまわって目がもうてるわ」と言って、お母さんは寝ころんでいました。
すると、お父さんが「おけしょうとってあげるから、おけしょうとるクリームどのクリームや」と言ったので、お母さんは「そのむらさき色のふたのクリームや」と言いました。
すると、お父さんが、クリームをとって、お母さんの顔にあらっぽくつけて、顔をこすりました。
わたしも、お母さんのほっぺたをこすりました。そして、お母さんは起きました。
そしたら、お父さんがハンカチで顔のクリームをとりました。
お父さんはじょうだんで「今度生まれかわる時は、もっといいお金持ちと結こんしいや」と言いました。
すると、お母さんは、ちょっぴりだけ泣きました。わたしもちょっぴり泣いてしまいました。
◆ ◆ ◆
ほっこりなつかしい昔話のような子どもの作文です。ここには、つつましやかな庶民のくらしがあります。そして、今日という日を精一杯けなげに生きる家族の姿が、目に見えるようです。
「きびしい暮らしで、母さんにも苦労かけるね」
父さんのいたわりに、思わず胸がいっぱいになり涙ぐむお母さんです。
その父と母の姿を見て、思わず涙ぐむ10歳の勝美ちゃん。この子もやさしい娘に成長しました。
初めての家庭訪問の折に、市営住宅の小さな庭に一輪咲いたバラの花を玄関に生けて私を迎えてくださったお母さんです。
「先生お花好きでしょ。今年初めて咲いたバラですよ」
5人兄弟の末っ子に生まれた勝美ちゃん。
「生まれて20日目に『先天性股関節脱臼』と診断され、毎日雨が降っても風が吹いても、寒かろうが暑かろうが、病院へ通い続けたんですよ。ある時なんか1時間以上も寒い廊下で待たされましてね。でも1日も休まず6ヵ月間通い続けました」と話してくださったお母さん。その表情は、苦労など微塵も感じさせない穏やかそのものでした。
■目と目合わせて話を
さて、この家族、親子、兄弟ともによく話をし、やさしい言葉を交わしあっていることに何度もはっとさせられました。
「人間、目と目あわせて話をせにゃ。そしたら通い合いますよ」とはお母さんの言葉です。
こんな話を聞きました。
人間には白目がありますが、食うか食われるかの競走と暴力関係の中に生きているほかの動物には、白目がないらしいのです。白目があると、敵をねらっているのが即座にわかってしまうからだそうです。
暴力関係ではなく、コミュニケーション関係の中で、目と目を合わせて会話をすることで、人間は人間になってきたんだと言います。
なのに、家族が目と目を合わせて、ゆったりと話をする心の余裕も時間も奪われている今日の状況です。
「先生、お父さんぼくらが寝てからいつでも夜中に帰って来るんやで。でも、ドアが開いたらわかるから『おかえり』って言うねん」
いつ首を切られるかわからない不安定な労働条件、毎年下がっていく安い給料。庶民は命を削る思いで汲々と生きています。
こんな子どもらの声や作文を政治家に届けたい!
そして、誰のための何のための政治なのかと問いたい!
近づく参院選を、庶民の明日の生活と子らの未来にあかりがともるものにしたいものです。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)