経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

成長のための負担増

2010年04月20日 | 社会保障
 4月には各経済雑誌で「経済入門特集」が組まれる。春の風物詩というわけだが、週間東洋経済4/24号は「入門」にもかかわらず、なかなか読ませる内容だった。その背景には、慶大の権丈善一先生が居られるようだ。

 出色の出来だったのは、国内編の経済政策の部分。ありきたりの政府批判は影もなく、フィギア&ファクツに基づいて展開される政策論には好感が持てる。米国に並ぶ小さな政府である事実を無視し、更なる小さな政府をはやす日本の現状に心を痛めていただけに、若い人には、ぜひ読んでほしい内容だ。

 内容から窺えるように、編集部は、権丈先生から多くのことを吸収して論を進めている。こういう傾向は以前の「年金特集」から顕著であった。もちろん、内容の充実は、3年前の「格差特集」の頃から見られたことであるから、先生の力添えだけというのでなく、編集部の実力に裏打ちされるものではあろう。

 社会保障の充実は、経済成長に資するものであり、国民生活を安定させる。いたずらに消費税増税と結びつけて、社会保障をおろそかにすることは、国民の大多数を占める中低所得の人々にとって利益にならない。それにもかかわらず、小さな政府が世論になってきたことに政治的不幸があったのだが、権丈先生や東洋経済の努力によって、変化がもたらされつつある。

 ただし、中期的に、社会保障の充実と消費税の増税が必要なことは明らかで、それに向かうことは正しくても、当面の経済運営を安易に考えてはいけない。消費税を上げる際には、物価上昇率2%以上の経済状況と、税率1%の小刻みでの引上げが絶対条件になる。

 権丈先生は、97年のハシモトデフレについて、消費税引上げ前の緊縮財政が大きな理由で、消費税引上げは景気には中立というお考えだが、筆者は、消費税引上げも原因と考えている。むろん、感覚で言っているのではなく、当時の家計調査のデータを見ての判断である。また、東洋経済は、「消費率は安定的」だから、消費税引上げも問題なかろうとするが、これに頼るのは危険だ。

 詳細は日を改めたいが、いずれにしても、消費税を引上げる際には、経済情勢を十分に見極め、上げ幅にも慎重を期さなければならない。安易な引上げで景気を壊す失敗をすれば、それこそ、二度と社会保障の充実はできなくなってしまう。

(今日の日経)
 子ども手当・増額分は金券。財務省チーム改革提言。女性就業率73%に引き上げ目標。エコカー補助延長せず。中国経常黒字、低下でもGDP比6.1%。ヤマト設備投資2年2000億円。田園都市線・早乗りクーポン。
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ガンバレ権丈先生

2010年04月16日 | 社会保障
 本コラムは、「小論」を御覧いたたけば分かるように、公的年金の政策論を主軸にしている。このところ目立ったニュースもなく、少し寂しいものになっていたが、意外な記事に権丈善一慶大教授のお名前があった。これは見逃せない。

 年金政策を語るには、権丈先生のホームページは必読である。年金制度の基礎となる考え方について、平易に、かつ、直截に書かれてある。特に、「政策は、所詮、力が作るのであって正しさが作るのではない」の名文句で知られるように、制度を政治的な所産として扱っているところが優れている。

 権丈先生は、かつて、スウェーデン型のみなし掛け金立て年金を推していた。これを見たときは、「少子化の怖さを分かっていないのか」と残念に思ったものだが、先生の凄いところは、のちに、これに気づいて修正したことである。学者にとって、こういうことはなかなかできないものだ。数理的に無意味なことが既に証明された積立方式への転換論に、未だにしがみついている学者もいるだけに、そう思える。

 日経の記事自体は大したことが書かれていないが、 先生がどういうことを説かれているかは、HPを読んでいれば想像はつく。重要なのは、与党となった民主党の実力者にきちんとした年金の制度論を持つ学者がついたということである。民主党の年金改革案は問題が多く、公約を楯に現実化されるようなことになれば、混乱は避けられないと危惧していただけに、先生の活躍を期待したい。

 むろん、筆者と先生の制度論には違いもある。強引に簡単化すると、先生のものは現行の社会保険方式を改善していく現実路線であるが、筆者は、社会保険方式を基礎にすることは同じでも、少子化の悪影響を受けなくする制度設計を考案し、同時に少子化対策も組み込んでいる。実は、先生が諦めてしまったスウェーデン型を、断念せずに発展させたものなのである。

 先生は、医療を含めた社会保障を維持していくためには、消費税増税は必要なものとしている。これには筆者も同感である。ただし、そのタイミングは、景気と社会保障基金の収支を見極めて行う必要がある。このあたりは、社会保障ではなく、経済政策を専門とする者の仕事ということになろうか。 

(今日の日経)
 国際航空券、共同仕入れ。米議会不満公然と・グアム移転の遅れ警戒。政と官の接触、予算と連動、例外は野党と陳情。社説・心配な中国の不動産バブル。板硝子・再び外国人社長。菅財務相・増税し財政出動・振り付け権丈善一慶大教授。加工用米1年で1割下落。経済教室・中銀の資産拡大に誤解・翁邦雄。自宅、心地よい狭さに。国会図書館ウェブ蔵書。
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デフレ圧力と金融政策

2010年04月15日 | 経済
 デフレもインフレも、需要の不均衡で起こる現象である。つまり、需要が少なく、供給が多いと物価は下がり、逆であれば、物価は上がる。こうした下降や上昇の継続的な動きを指すものである。

 今日の経済教室は、東大の伊藤隆敏先生で、中央銀行のインフレ目標の話である。望ましい物価上昇率は「2%」ということだが、これを日本に当てはめると、遥かに遠い目標に思えてしまう。

 歴史的に振りかえってみると、GDPデフレーターが2%を超えていたのは、20年前のバブルの頃まで遡らなければならない。1980年以降の成長率とデフレーターの関係を見ると、おそらく、5%程度の実質成長率がないと、そこまでインフレは加速しないということになる。デフレーター1%でも、実質成長率は3%は必要であろう。

 結局、現在の日本にとって、物価上昇率2%は当面の目標として高すぎるのであり、そこまで到達するのに、どのくらいの時間軸を置くのかを考えざるを得ない。それは2年から3年以上は必要ではないだろうか。

 むしろ、気になるには、金融政策より、財政政策である。少なくとも、日銀は金融緩和の姿勢を保っているが、財政は前年度予算より10兆円も少ない。いかに絶対的な赤字が大きくとも、前年より少なければ、デフレ圧力がかかってしまう。

 しかも、景気回復に伴って、企業収益は急回復しており、法人税などの税収が予想よりも膨らむことも考えられる。結構なことではあるが、これも財政が資金を吸い上げることなので、デフレ圧力になる。

 金融政策の「次の手」を考えるとは、日銀が金融緩和をさらに進め、こうした財政政策のデフレ圧力をも引き受けるということなのだろうか。金融政策と財政政策は、経済政策の両輪である。筆者には、懸念すべきところが間違っているように思える。

 他方、財政政策の現状維持を求めるなら、日銀は、国債の買入れなどの手段によって、長期金利の急上昇を招かない役割も果たさなければならない。金融政策の現実的な政策目標は、本当は、そこにあるのではないだろうか。

(今日の日経)
 小売り、収益下げ止まり感。新高齢者医療制度・公費対象、75歳以上軸に。電気自動車を仏で5万台受注。印、産業集積進むASEANへ依存。パソコン3Dに対応・アスース。経済教室・日銀、長期の物価予測を・伊藤隆敏。
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経済戦略は誰が作れるのか

2010年04月14日 | 経済
 経済同友会と日本経団連は、相次いで「成長戦略」を公表したが、果たして戦略と言えるのか。格好よく「戦略」と名づけただけで、政権への要望書であり、希望の事項を羅列しただけと割り切れば良いのかもしれないが、それでは、誰が、日本の経済戦略を作れるというのだろう。

 会社の経営会議の場に、「経営戦略」を出す場合、何を、どのくらい、いつまでに達成するかという内容は必須だ。販売先50社、総額10億円増を2年で達成といった具合である。むろん、それに乗せられる新たな商品や販売手法のアイデアも欠かせない。逆に、販売増に結びつきそうな諸々の事項を、量的な説明もなしに何十並べたりしたら、担当はクビだろう。 

 どうして、会社でしていることを、日本のためにしてくれないのだろうか。政策には、専門知識や情報が要るから無理なのか。しかし、官庁と大新聞を別にすれば、それだけのマンパワーがあるのは、日本では、経済団体とその構成企業だけであろう。大学や学者は個人プレーであり、政策の「量的な」内容を推計するには限界がある。

 例えば、同友会は、成長戦略の一つとして、法人税率の引下げを掲げるが、それで、どのくらい設備投資が増え、いくら経済成長が高まるかが分からないと説得的ではない。同様に、消費税を上げて国民の安心感が高まれば、どの程度、消費が増えるというのだろうか。

 同友会は、消費税増と保険料減をセットにする構想を明らかにしているが、それでも経済にショックを与えるだけに、それで得られるものを明確にする必要があろう。なお、年金の安定は、そうした危険を犯さなくても可能なことは、本コラムの「小論」に示してあるとおりである。

 また、同友会、経団連ともに、足元の経済政策をどうするかに言及しないのは問題がある。そこから中期的な戦略へのつながりが見えないのだ。例えば、10年度予算は、09年度補正後より10兆円も少なく、1兆円の予備費も使途が決まっていない。カギになるのは、10から12年度にかけて、民需がいくら増えるかを置いて、政府がどれだけ増減できるかである。

 つまり、成長率2%で、年々10兆円の民需が出るとして、政府は、どの程度、財政を縮小してもよいかである。これに社会保障基金と地方を含め、拡大と縮小の要因がどのくらいあるかを見極めなければならない。その先に、戦略が対象にしている、税財政、社会保障の一体改革はあるのである。

(今日の日経)
 中国海軍、沖縄近海に。日・EU、EPA困難に。経済3団体・民主の成長戦略に提言。先進国株式市場投資マネー回帰、中印引き締め観測で。米住宅市場、政府頼み、新規着工数年低迷。マンション底入れの兆し。電子部品・品薄でも設備投資慎重。
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増税と規制強化で成長を

2010年04月13日 | 経済
 法人税を減税すると、企業は国内の設備投資に使ってくれ、消費税を増税すると、国民は将来を安心して消費を増やし始める。これが日本の政策思想なのだが、倒錯しているように見える。実際には、企業は内需が低迷する中では設備投資をしないし、国民は値段が上がれば消費を減らそうとするだろう。消費税増税と法人税減税の組み合わせは、97~98年に実験して失敗したのだから、別の戦略を考えてはどうか。

 法人税減税の財源は、国債で賄うこともできなくはないが、金利の上昇要因になる。そうなると、設備投資にはマイナスに働く。いわば、国が資金を借りて、企業に渡すようなもので、すべてが設備投資に使われるわけではないから効率も悪い。

 しかも、現在は、法人税収の落ち込みが国債発行の最大の拡大要因になっている。将来の法人税が見込めなくする改革をしてしまうと、金利急騰のリスクもある。マーケットは、成長力の強化より、財政悪化の危険を、よりリアリティのあるものと評価するだろう。 

 「法人税が高いなら、日本から堂々と出ていく」という経営者もいるようだが、様々な恩典に誘われて中国に進出した企業は、当局から利益を絞り取られるような目に会っている。儲けているなら出せるはずと、付け込むのが世の常であり、政治力を持たない外国企業の立場は弱い。今は良くても、それが続くとは限らない。法人税は、日本の透明で安定した社会や制度の利用料でもある。

 本当に成長戦略を考えるなら、内需を呼び起こすことを起点にしなければならない。企業や財政を中心に考えてはいけない。例えば、年間の住宅着工は80万戸あるのだから、100万円の環境装備を上乗せできれば、8000億円の内需になる。環境税を課し、省エネ規制を掛け、低利融資を用意すれば、導けないことではない。

 根強い実需があって、エネルギー価格の上昇傾向は続いている。いずれ、環境装備は、政策の後押しがなくても割りに合うものになり、経済厚生を高めることになろう。本来の「設備投資」とは、そのようなものではないか。むろん、電池などの日本の産業の競争力を最先端に保つ効果もある。

 こうして見ると、投資促進「増税」と規制強化で、経済は成長することになる。粗っぽいイデオロギーでなく、リアリティのある戦略を考えるべきなのだ。今は、エコポイントなどのアドホックな政策を体系化して戦略にするチャンスなのである。

(今日の日経)
 子ども手当「満額現金」見直し検討。法人税収見通し09年度9.7兆円、08実績18.4、国税5.2、89年度19、06年度14.9、地方09年度4.9、08年度8.4。ポスト京都年内採択困難。ウォン危機前水準に回復。米住宅・新築は苦戦、減税でかさ上げも。NY原油100ドル視界に、根強い米ガソリン需要。
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法人税減税・リアリティの欠如

2010年04月12日 | 経済
 「成長を高めるために、外国に合わせて法人税を低くしよう」という説には、経済学を勉強している者ほど、コロリと引っかかってしまう。学部の頃から、「企業は、投資収益率と金利を比較して設備投資を判断する」と教わるわけだから、収益を高める法人税減税に賛成したくなるのも無理もない。

 しかし、大学を出れば、世の中、理屈どおりにいかないことが分かる。それは他の諸々のことと同じだ。現実には、設備投資は、需要に従ってなされるものであり、収益率は二の次である。これは、設備投資が需要動向というリスクに大きく左右されるからである。会社に入れば、需要が見込めるのかどうか、それを徹底して問い詰められる。

 むろん、筆者も経済学は分かっているので、法人税減税にまったく意味がないとは言わない。それでも、政策学的な見地からは、効果が薄く、弊害が大きいと指摘せざるを得ない。政策学などと言うと、理論派からはお叱りを受けそうだが、「投資判断は収益率の原理で十分」というのなら、経営学はいらなくなるわけで、お隣の学問を否定するようなことをしてはいけないだろう。

 法人税減税で経済成長というのは、減税→設備投資→成長というルートをたどるのだが、これはリアリティに乏しいものだ。まず、法人税を払う具体の企業名を見ると、上位50社には内需型企業が並ぶ。電力会社や電話会社などだ。こうした企業が高い法人税を嫌って海外に逃げ出すとは思われない。また、法人税が下がるからといって、設備投資を積み増すものだろうか。

 他方、自動車や精密機器の輸出型の会社もあるが、これらは法人税が下がれば、設備投資を増やすかもしれないが、投資するなら、内需の低迷する国内ではなく、伸び盛りの海外だろう。海外が成長するだけでは犠牲を払って減税する意味がない。もし、減税するなら、どの程度、設備投資を増やすのか、上位50社にインタビューしてからでも遅くはなかろう。50社だけで法人税の5分の1を占めると考えられ、受益者ははっきりしているのだ。

 ちなみに、申告所得上位50社については、平成16年度を最後に、個人情報保護の観点から、公表されなくなった。有価証券報告書をめくれば、調べられなくはないが、こうした公共的な意味のある情報を作成しないことは理解に苦しむ。

 法人税減税には、その見合いで投資減税などの特別措置は廃止するとの説もあるが、法人税減税の対象企業が拡散することを考えれば、かえって設備投資を落とすことにもなりかねない。これでは何のための減税か分からなくなる。また、見合いを消費税で賄うとすると、こちらの内需の冷却効果が絶大なことは実証済であるから、景気を失速させることになる。

 日経は10日に「負けない税制で企業の活躍を引き出せ」との社説を掲げたが、政治家や官僚、学者ならともかく、企業の近くにある新聞社までがリアリティを見失ってどうするのか。日本の経済政策の形成過程における問題の深刻さを思わざるを得ない。

(今日の日経)
 新聞休刊日
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生産性の向上策と政治家

2010年04月11日 | 経済
 ある政治家から、「経済を成長させるために生産性を向上させたい。特に、国際的に見て生産性の低いサービス業などを引き上げるには、どうすればいいのか?」と聞かれたことがある。正直、これに明快に答えられる経済学者はいないだろう。筆者も、適当にごまかしてしまった。

 むろん、生産性向上に「資する」方法なら、いくらでも挙げられる。低金利、政策融資、規制緩和、投資減税、技術支援等々である。しかし、経済学の現状は、ストレプトマイシン発見前の結核治療のようなものである。特効薬はなく、ただ単に、環境の良いところで静養し、栄養を取って体力をつけていけば、きっと治りますよと言えるだけだ。

 その政治家は、生産性に目をつけるあたり、経済を分かっているほうである。生産性向上には設備投資が必要で、経済学の見地からは、一応、低金利にすれば、引き上げられることになっているが、そんなことを言っても、現在の超低金利の下では説得力ゼロである。経済学は無力だとしか思われないだろう。

 特に、サービス業は、製造業と違って、輸出需要で設備投資が伸びるとも言えないから、困りものである。サービス業は内需型産業だから、現実には、輸出から景気が回復し、内需が増えると設備投資が増すことになるが、「成長させるために生産性の向上を」と言われているのに、「成長したら生産性が向上する」となり、順序が逆というものである。

 実は、この辺は、結構、重要な問題で、景気が回復すると、全要素生産性が伸びるということとも関わっている。サービス業は、人件費の塊であるから、手待ち時間や客単価が大きく影響する。例えば、飲食店でお客が増え、高いものを注文してくれるようになると、人や資本を増やさなくても、生産性が急速に伸びるわけだ。

 もちろん、サービス業でも、景気と関係なく生産性を伸ばす企業もある。日経ビジネスで紹介されたクリーニングチェーンの喜久屋は、季節物の預かりサービスを考案したことで、季節的な仕事の波を平準化して生産性向上に成功した。こうした例もあるが、マクロ的な政策として用意できるものとは違う。

 日本のサービス業は、米国より生産性が低いと言われたりもするが、それは金融関係のサービス業の大きさの違いである。まさか、米国のようにバブルにすれば、サービス業の生産性が向上しますとも言えないだろう。なかなか、政治の要請に、経済学的に応えるのは難しいものなのである。

(今日の日経)
 ホンダが電動バイク。宿泊・飲食業…供給超過、日銀短観。コニカ、有機EL照明を年度内に実用化。改正労基法が今月施行。読書・年金と子ども手当・高山憲之。新党「たちあがれ日本」発足。
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パートへの社会保険適用と負担軽減

2010年04月10日 | 社会保障
パートへの社会保険適用と負担軽減
(2010.4.9未定稿)

はじめに
 パートへの社会保険適用は、安倍内閣で試みられたが、中途半端な内容だったために潰えてしまい、今では議論にも上らなくなっている。しかし、この問題は、所得再配分の上でも、経済効率の上でも最大の構造問題であり続けている。その抜本改革について構想したものが本稿である。

【130万円の壁】
 最低賃金は、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように定められている。その全国加重平均は703円(2009年)であるから、1日8時間、1月に22日働くとすると、年収は149万円となる。最低賃金は、一部の地域では、生活保護水準をも下回っているのが現状である。

 こうした最低限の収入であるにもかかわらず、これに対する健康保険と厚生年金の保険料の本人負担は18.5万円にもなる。これとは別に、使用者は同額を負担しなければならないから、労使合わせての保険料は年収の約25%という大きさに達する。しかも、年収130万円を超えると、これがいきなり掛かってくる。

【雇用の歪み】
 これでは、雇用に歪みが生じない方がおかしい。パートは働く時間を抑えて130万円を超えないようにするし、使用者も長く働かせないようにするだろう。つまり、フルタイムにはせず、社会保険にも入れず、要は「正社員」にしないことになる。使用者としては、8時間の正社員を雇うよりも、4時間のパート2人を雇う方が合理的だ。1人でも多くの正社員が望まれる中で、こういう行動を促す制度があってよいものだろうか。

 パートの側から見ると、働く時間をセーブできるほど余裕のある家計ならば良いが、夫の収入が低迷し、少しでも多く稼ぎたい主婦には、大変な迷惑になる。この制度は低所得の世帯ほど辛いものなのだ。どうしても稼ぎたければ、パートを掛け持ちするしかない。これはパートにとっても、使用者にとっても不合理で不効率なことである。

【深まる矛盾】
 こういう状況の下で、最も悲惨なのは、母子家庭である。パートの掛け持ちで長時間働いた上に、夫の社会保険にも入れないから、使用者負担がなくて割高な、国民健保と国民年金に入らざるを得ない。国民年金には低所得者を対象とする保険料の減免措置があるが、これを受けると、半分にされた基礎年金しかもらえなくなる。年金を支える次世代を育てているにもかかわらず、こうなる制度は、おかしくないか。

 しかも、健保や年金の保険料率は、年々上がっているから、社会保険が適用される際の「壁」は、ますます厚くなっていく。不合理は深まる一方だ。今後、高齢化が進むにつれ、労働力は貴重になってくるし、社会保険を支える人数は少しでも増やさねばならない。こうした能力の発揮を潰してしまうような制度は許されないはずだ。これは日本経済の成長を阻害する最大・最悪の構造問題である。

【社会保険の適用】
 では、どうやって、解決するのか。基本は、すべての賃金労働者に健康保険と厚生年金を適用することである。その上で、現在、適用外になっている人には、賦課される保険料と同額の反対給付(使用者分を含む)を行い、実質的な負担をゼロにする。

 また、適用が始まる年収130万円から、大卒初任給程度の年収300万円までは、これも反対給付を使って、実質的な保険料負担が徐々に上がるように改める。この場合、130万円までの負担はゼロ、150万円では4分の1、200万円では3分の2、250万円では5分の4になる。

【年収130万円までの負担】
 問題は、反対給付をするための財源である。まず、年収130万円までを負担ゼロにする費用であるが、概ね2兆円が必要にある。これについては、所得税の給与所得控除の縮小もしくは税率の引上げによる増税を考える。ただし、負担がストレートに増えるわけではない。

 例えば、所得税の増税によって、2兆円の財源を捻出した場合、2兆円が社会保険の会計に繰り入れられるようになると、その分、社会保険の会計が楽になるので、保険料率を引き下げることができる。つまり、所得税は上がっても、社会保険料は下がるので、負担は相殺されるわけである。

 もちろん、人によってデコボコがあったり、制度間のやりくりで違いがでたりするが、大きくは負担が変わらない。これは、現在も負担なしに社会保険給付を受けている主婦パートが多くを占めているからである。

 細かい点を言うと、主婦の年金は、基礎年金だけだったものが、報酬比例分が上乗せになる。その一方、夫の報酬比例分は減ることになる。また、真に負担が軽くなるのは、母子家庭のように、パートで働いて国保や国年に入っていた人達である。そうした人達を賃金労働者全体で支えることになる(この中には母子家庭の元の夫も含まれている)。

【年収300万円までの負担】
 次に、年収130万円~300万円の場合の保険料逓増に必要な財源であるが、これも概ね2兆円が必要である。これについては、新たな負担軽減措置になるので、増税の見合いで保険料を下げることができない。そういう意味で負担は増えることになる。ただし、相殺されて負担が変わらない世帯もある。

 すなわち、財源捻出のために夫の所得税が重くなっても、保険料軽減によって妻のパート収入が増えて、差し引き変わらない場合である。その他は、夫や妻の収入が少ないほど世帯収入はプラスになり、多いほどマイナスになる。低所得世帯への再配分であるから、すべての世帯の総計はプラマイ・ゼロになる。みんなの負担が重くなる単なる増税とは異なる。

おわりに
 この問題の検討は、健保、年金、税制を跨ぐため、広範な知識が必要であり、更なる研究が必要だと感じている。また、本稿では「反対給付」と簡単に触れているだけだが、これは「負の所得税」と言われる先端的な制度にもつながる。検討課題は多いが、今後も内容を改善してゆくつもりである。

(今日の日経)
 こもるなニッポン・加藤嘉一。社説・負けない税制。政府日銀が定期協議・日銀は円高、長期金利に対応すべき熊野英生。三井科学コメ種子増産。割安住宅、需要が拡大。鋼材や木材、相次ぎ上昇。最低生活費未満230万世帯。
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成長するための原動力

2010年04月08日 | 経済
 生産性を上げるために改善を続けるというのは苦しいものだ。改善を試みたからといって、必ず生産性が上がるわけではなく、いくつも試み、失敗もしつつ成功を積み上げていくことなのであり、大変なエネルギーがいる。

 そのエネルギーの源になるのは危機感である。しかも、それは共有されなければならない。「現状でも何とかやっていけるのに、なぜ大変な思いをしなければならないのか」と抵抗する人が少しでもいると、労力は倍加する。

 高度成長期の日本企業が生産性を高めたのは、「自由化」への危機感があったからだ。自由化によって欧米の大企業が日本市場に乗り込んでくるという不安、欧米の輸出市場で生き残るためには品質を上げなければならないという焦り、それらがエネルギーとなっていた。そして、内外の伸びる市場が挑戦の余地を与えてくれていた。

 日本が携帯電話で勝てなかったのは、一言でいえば、日本市場に安住できたからだろう。独自規格で守られていれば、入って来られる不安も、打って出る焦りも必要ない。そうなれば、競争力が身に付かないのもいたしかたない。国内の市場が飽和したところで、成長も衰えることになる。

 同じ「元公社」でも、国内市場が縮小することが明らかだった日本たばこ産業(JT)は、海外企業の買収に打って出て成功を収めた。正直に言って、元官営企業がM&Aでで成功できるのかと危ぶんでいたが、まったく脱帽である。これも危機感のなせる業なのだろう。

 今の中韓を見ていると、かつての日本と同じなのだろうと思う。成長への期待と危機感が交じり合った熱気がある。そして、内需が抑えつけられている日本市場というハンデを背負い、海外だけに期待をかける日本企業の苦しさも分かる。国内で力をつけて、海外に打って出るという勝ちパターンは失って久しい。

 今でも日本製品は高品質と言われるが、それを確立したのは高度成長を潜り抜けてからだ。それまでは、「安かろう、悪かろう」が日本製品の代名詞だった。高品質は、決して日本の文化や風土によるものではない。改善や挑戦を続ける苦しい営みが滞れば、失ってしまうものなのだ。 

 そうなる前に、内需を安定させて、苦しさを少しでも緩めてやりたいものだが、いまの経済政策を見ていると、とても希望が持てない。成長は、改善と挑戦から生まれ、それを助けることなしには、財政再建もあり得ないのだが。

(今日の日経)
 こもるなニッポン・ものづくり+α。政府税調・法人税財源、租特すべて廃止でも8000億円。最低保障年金・民主公約。日銀総資産、国債13.7%増73兆円。経済教室・医療を産業化。EVカーシェア開始。
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財政天動説と出口戦略

2010年04月07日 | 経済
 経済が回復してからでなければ、財政再建はできない。こんな常識的なことに日本が気づくのは、いつの日なのだろうか。今日の日経は、政府検討会が論点整理をしたと伝えているが、これを見ると、日本は本当に「財政天動説」の国だと思えてしまう。

 論点整理では、潜在成長率1%を前提にし、税制抜本改革を指摘する。しかし、実質成長が1%なら、物価上昇率はゼロに近いだろう。つまり、需要超過がほとんどないわけで、これでは消費税の増税は不可能である。矛盾に思わないのだろうか。

 1%成長は、額で言えば5兆円、消費税1%は2.5兆円である。成長の半分を税で取り上げては、経済に与える影響が大き過ぎる。増税なら、消費税を0.1%単位で上げることを考えるか、環境税や相続税など需要に影響の少ないものを検討すべきであろう。戦略が過去の焼き直しの単調なものになっていないだろうか。

 安倍政権時の回復局面ですら、定率減税廃止と4兆円の国債減額は内需に響き、景気を停滞させて政権崩壊の背景となった。経済危機からの出口にある今は、慎重を期さなければならない。財政の都合で経済は回ってはくれない。経済に合わせて財政は運営しなければならないのだ。

 日経は「悪い金利上昇」を懸念するが、記事の中で指摘する足元の事実は日米金利差の拡大であり、懸念と事実がずれてしまっている。足元を見ずに、長期の懸念に先走るのは危険である。出口へ先走っての失敗は、ハシモトデフレと安倍政権で繰り返しているではないか。もう学んでも良いはずだ。

 早大の若田部先生は、「危機の経済政策」(日本評論社)の中で、米国CEA委員長のクリスティーナ・ローマーの説を引き、「財政政策が無効と結論してはならない…経済刺激策の性急な削減には注意すべき」としている。私は需要管理をより重視しているけれども、この本は、読みやすく、過去の経済政策をバランスよく的確にまとめている。こうした基本的な事実認識をベースにした議論が日本には必要である。

 若田部先生は、現在の経済危機の懸念の一つとして、「早すぎる出口戦略」の失敗が繰り返されない保証はないとする。出口が見えてきた今、若田部先生もあとがきで触れているように、歴史に学ぶことで用心深くなり、未来を良くするように行動したいものである。

(今日の日経)
 HV部品共通化トラックと乗用車、日野11年投入。米、核使用を限定・新戦略公表、新型巡航ミサイル開発、トマホーク廃棄。医療や介護・雇用支える。米投資家リスク回帰。パナTV事業黒字に。エリーパワー工場稼動。エルピーダ先行。大機・潜在成長率は3~4%。米粉は小麦の2.5~3倍。飼料用米トウモロコシの2倍。経済教室・川淵孝一。
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