日経の社説が少し変化したような気がする。金融政策万能論の立場で、ひたすら日銀に金融緩和を求めるのではなく、金融政策の限界を踏まえて、広い意味での需要管理政策を求めるようになっている。そして、世界的な思潮から遅れ、相変わらず金融政策万能論を唱える政治に対し、クギを刺す形になった。
少し引用すると、「企業は低金利で資金を調達できても設備投資に慎重だ。個人は雇用や社会保障の先行き不安からお金を使わない。『金融政策だけで需給をつくり出すのには限界がある』という日銀総裁の見方は現時点で正しい」となっている。この文の後で日経の言う政策は中身の薄いものだが、一歩前進だろう。
日経の言う、医療分野などの規制緩和で引き出せる需要はタカが知れているし、法人課税を軽減すれば、「慎重な」企業は設備はしない一方、将来の急増が期待できる税収を失うことで長期金利を高くしかねない。また、消費税を上げたからといって、社会保障に安心して消費が増えるというものでもない。政府が日経の言うとおりの策をまとめても、失望させるだけだろう。
では、どうすれば良いのか。第一の策は、0~2歳の乳幼児に、月額8万円の「子ども手当」を給付することである。必要な財源は約2.5兆円だ。母親が3人集まれば24万円になるから、保母1人を雇うことができる。これで保育分野の需要は爆発的に増える。今の子ども手当のような「薄撒き」では、こうした効果は期待できない。
子ども手当の集中給付によって、少子化も大きく改善する。少子化の最大の原因は、乳幼児期の保育が不足し、仕事と両立できないことにあるからだ。少子化が緩和されれば、消費税を上げずとも、年金を始めとする社会保障は安定する。もし、若者の希望をすべて満たす出生率1.75まで戻るなら、「払った分を確実に給付する」年金制度にすることもできる。
また、社会保険をパートなどの非正規労働者に全面適用し、セーフティーネットからこぼれる人を一掃する。その際、保険料相当額を国が反対給付することで実質的な負担増はなしとする。2兆円の財源が必要だが、それは保険会計に入り、その分保険料を下げられるので、負担が大きく増えるわけではない。新たな負担は「こぼれていた人」の分だけにとどまる。
併せて、年収130~300万円の人の社会保険料については、徐々に保険料率が高まるように改め、「130万円の壁」を撤廃する。これで労働供給のネックが解消され、潜在成長率が高まることになる。非正規から正規への移行も容易になり、様々な差別や不合理をなくすことができるだろう。必要な財源は2兆円である。
財源については、10年度予算は、前年度より10兆円少ないから、これらを新たに実施する余地は十分にある。その上で、成長率と物価上昇率が一定以上になったら、自動的に消費税率を1%ずつ上げる仕組みを制度化し、財政赤字への無用な不安を解消する。
以上のようなものが、本物の需要管理政策である。ポイントは経済政策と社会保障をインテグレートすることにある。本コラムが目指す、レファレンスにすべき最先端の政策とは、こういうものだ。日経の編集委員の皆さんには、陳腐で効果の不明な政策に囚われず、社会の木鐸としての役割を果たして欲しいと思う。
少し引用すると、「企業は低金利で資金を調達できても設備投資に慎重だ。個人は雇用や社会保障の先行き不安からお金を使わない。『金融政策だけで需給をつくり出すのには限界がある』という日銀総裁の見方は現時点で正しい」となっている。この文の後で日経の言う政策は中身の薄いものだが、一歩前進だろう。
日経の言う、医療分野などの規制緩和で引き出せる需要はタカが知れているし、法人課税を軽減すれば、「慎重な」企業は設備はしない一方、将来の急増が期待できる税収を失うことで長期金利を高くしかねない。また、消費税を上げたからといって、社会保障に安心して消費が増えるというものでもない。政府が日経の言うとおりの策をまとめても、失望させるだけだろう。
では、どうすれば良いのか。第一の策は、0~2歳の乳幼児に、月額8万円の「子ども手当」を給付することである。必要な財源は約2.5兆円だ。母親が3人集まれば24万円になるから、保母1人を雇うことができる。これで保育分野の需要は爆発的に増える。今の子ども手当のような「薄撒き」では、こうした効果は期待できない。
子ども手当の集中給付によって、少子化も大きく改善する。少子化の最大の原因は、乳幼児期の保育が不足し、仕事と両立できないことにあるからだ。少子化が緩和されれば、消費税を上げずとも、年金を始めとする社会保障は安定する。もし、若者の希望をすべて満たす出生率1.75まで戻るなら、「払った分を確実に給付する」年金制度にすることもできる。
また、社会保険をパートなどの非正規労働者に全面適用し、セーフティーネットからこぼれる人を一掃する。その際、保険料相当額を国が反対給付することで実質的な負担増はなしとする。2兆円の財源が必要だが、それは保険会計に入り、その分保険料を下げられるので、負担が大きく増えるわけではない。新たな負担は「こぼれていた人」の分だけにとどまる。
併せて、年収130~300万円の人の社会保険料については、徐々に保険料率が高まるように改め、「130万円の壁」を撤廃する。これで労働供給のネックが解消され、潜在成長率が高まることになる。非正規から正規への移行も容易になり、様々な差別や不合理をなくすことができるだろう。必要な財源は2兆円である。
財源については、10年度予算は、前年度より10兆円少ないから、これらを新たに実施する余地は十分にある。その上で、成長率と物価上昇率が一定以上になったら、自動的に消費税率を1%ずつ上げる仕組みを制度化し、財政赤字への無用な不安を解消する。
以上のようなものが、本物の需要管理政策である。ポイントは経済政策と社会保障をインテグレートすることにある。本コラムが目指す、レファレンスにすべき最先端の政策とは、こういうものだ。日経の編集委員の皆さんには、陳腐で効果の不明な政策に囚われず、社会の木鐸としての役割を果たして欲しいと思う。