goo blog サービス終了のお知らせ 

経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

イノベーターのジレンマの経済学的解明の時間軸

2018年07月29日 | シリーズ経済思想
 新進気鋭の若手の経済書を読むのは、実に楽しいね。イェール大・伊神満准教授の『イノベーターのジレンマの経済学的解明』は、とても読みやすく、構造分析がどんなものかがイメージできる好著だ。世間では、「バカだから失敗した」と一刀両断にする言説が多いが、単に論者の無理解ぶりを公にするに類だったりする。ベスト&ブライテストが誤りを犯すには相応の理由があるはすだ。こうした謙虚さを持ち、データとロジックで緻密な検証を行う。そうでなければ、犠牲に報いることはできない。

………
 著名な経営学者のクリステンセンの『イノベーターのジレンマ』は、「大口顧客の当座の要望に耳を傾けているうちに、技術の波に乗り遅れてしまう」ことを描く。ここから、いくつかの疑問が湧く。なぜ、市場で優位にある既存企業は、「共食い」を恐れて新技術を入れようとしないのか。また、既存企業なら、「共食い」の脅威になる新参企業の新技術を買い取って、独占的利益を守ろうとするのではないか。そして、そもそも既存企業と新参企業では、どちらのイノベーション能力が高いのか。伊神先生は、これらについて、ハードディスク市場を対象に実証していく。

 結論的には、既存企業は、たとえ有能で戦略的で合理的であったとしても、「共食い」がある限り、新参企業ほどイノベーションに本気になれないのであり、この「ジレンマ」を解決して生き延びるためには、何らかの形で「共食い」を容認する必要があるものの、株主の利益に反する可能性があるというものだ。「言われてみれば、そうだろうな」くらいの中身に思えるかもしれないか、データを基に実証し、モデルを組んで反実仮想のシミュレーションまでするところに意味がある。

 さて、この問題を考える場合、いくつか補助線を引くと分かりやすい。まず、価値を企業の存続に置くか、利益に置くかである。次いで、利益は長期で測るか、短期で測るかだ。一つの技術は必ず陳腐化する。こう達観して、ある技術から最大限に利益を引き出すには、どんな戦略を取るかを考える。それは、研究に励んで技術を保持しつつ、新参を十分に牽制できるタイミングで投入を調整するものになる。いわば、先行のソニーが新製品を出したら、すかさず類似品を出す「マネシタ電器」の方式だ。

 そして、通常は、企業を存続させた方が収益期間が永久になるので利益は大きくなるが、短期間に最大限の収益を搾り尽くし、企業を破棄する方法だってある。細く長く利益を得るのと、太く短く利益を取るのと、どちらを選ぶかは価値観の問題だ。永続する社会の観点からは、長期の価値が大きいのが明らかでも、死せる存在である個人の観点では、生きているうちの短期にしか価値がない。枯渇を考えず、いるだけ魚を取る方が、個人には合理的とも言える。コダックのように、多角化の投資を捨て、当座の利益と将来の滅亡を選ぶことにも合理性はあるのだ。

 長期と短期で合理性が変質することは、本コラムが様々に指摘するように、経済の理解においてカギになる概念である。主流派の経済学が現実に合わないのも、無限の人生を無自覚に前提とし、試行可能数を考慮せず、期待値に従うと安易に考えることによる。実際は、「人は死せるがゆえに不合理」であり、十分な収益が期待できる設備投資も、需要に取り返しのつき難い変動リスクがあるとなされない。だから、景気回復には需要の安定が重要であり、少し上向いたところで緊縮財政をするようでは、いつまで経ってもデフレを脱せないことになる。

………
 結局、「イノベーションのジレンマ」とは、長期と短期の相克で、どちらの合理性を選ぶかである。それゆえ、ベスト&ブライテストも、後知恵から「バカ」に見える短期的利益を、必然性を持って選ぶのだ。したがって、社会的見地からは、企業や国のリーダーが在任中だけの最大利益を追わぬよう仕組まなければならない。若者を安使いして結婚できなくし、少子化を起こして労働力を枯渇させるとか、財政再建が最優先で、非正規に育児休業給付も乳幼児保育も与えずに、人口激減を招くとか、どこかの国のように、目先に焦り、持続可能性が視野の外になったら、もう終わりである。


(今日の日経)
 異常気象、暮らし揺らす 酷暑・豪雨が襲った7月。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

7/28の日経

2018年07月28日 | 今日の日経
 金曜に7月の東京CPIが公表された。サービス価格の推移からすると、今年に入ってデフレから脱出しているのは明らかだが、足下での加速感もない。生鮮及びエネ除く総合の季節調整値も、4-6月期は小休止であり、7月に少し上げたにとどまる。悪くはないものの、停滞感は拭えない。6,7月は、ボーナス増からの消費を期待していたが、豪雨災害が大きかったこともあって、その影響が少し心配だね。

(図)



(今日までの日経)
 研究開発費、企業の4割「最高」 車関連けん引。最低賃金3年連続3%増。猛暑、世界的な現象。高収益、家計へ波及弱く 現預金35%増、人件費3%増。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

7/21の日経

2018年07月21日 | 今日の日経
 今週は、6月貿易統計と5月全産業指数が公表された。輸出には伸び悩みが感じられる。4-6月期は輸入が低下しているので、GDPは押し上げるとは思うが、景気の牽引役とは言えない状況だ。建設業活動指数は、2か月連続の増で底入れ。あとは、製造業を中心に好調な機械受注どおり、設備投資が盛んになってくれればと思う。消費は、5月が振るわなかったので、6月にどれだけ戻せるかだ。6月の消費者態度と景気ウォッチャーは、まずまずの動きなのでね。

(図)



(今日までの日経)
 日本勢、国際M&Aの主役。世帯所得伸び率24年ぶり・国民生活基礎調査。中国、債務削減が重荷。「何があったか」知るために・大林尚。

※「事実解明と責任追求は矛盾する」という知恵を日本人が身に着けるのはいつかな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

緊縮速報・再建を確かにするのに増税はない

2018年07月15日 | 経済(主なもの)
 7/9に新たな「中長期の経済財政に関する試算」がオープンになり、日経は基礎的財政収支の赤字解消は平成27年度と報じた。「わずかでも黒字になる」という意味で間違いではないが、平成26年度にはゼロになるのだから、目標到達の見通しが1年早まったと表現する方が実態を表しているように思う。2017年度の国の税収の上ブレによって、収支のグラフが上方へシフトしたことが重要なわけだから。

………
 「中長期」を見る上で最も注意すべきは、足下の税収で目標到達の年度が動く点にある。これは、足下の税収をベースに、将来の税収を計算していくからである。したがって、ベースの税収が現実的か否かのチェックが欠かせない。国の税収を見ると、2017年度の実績が58.8兆円に対し、2018年度の見込みが当初予算額どおりの59.1兆円でしかないことに気づく。その差は、わずか0.3兆円、0.5%増にとどまるという、不自然な設定だ。

 そこで、2018年度の税収を現実的なものにするため、法人税を企業業績見通し並みの8.0%で伸ばし、所得税は名目成長率の1.7%で、消費税は名目消費の伸び率の2.3%で、その他は物価上昇率の0.7%で拡大するという、在り来たりな設定をすると、3.2%増の60.6兆円になる。企業業績が高いと、所得税はもっと伸びるので、比較的、堅い予想になるが、それでも、今回の「中長期」より更に上方へシフトする。 

 同じことは、地方税についても言える。2017年度の決算見込額は42.2兆円と、前年度比1.2%増と、国税の5.9%増よりかなり低い。大きな理由は、所得や収益の伸びの反映が1年遅れになるためだ。したがって、2018年度の税収は、国の2017年度の伸びからして、大いに期待できる。とは言え、それでは話が複雑になるので、国税と同様の在り来たりな設定で計算することにしよう。この場合の2018年度の予想は2.8%増の43.4兆円となる。

 以上のような現実的な設定にして「中長期」を書き足すと図の緑線のようになる。一目で分かるように、2025年度には、めでたく目標到達てある。自然体で、こうだから、歳出削減の努力を加えれば、到達は更に2年前倒しできるだろう。そうなると、2025年度の到達でも良いのなら、敢えて消費純増税をしなくて済む。財政再建が真の目的なら、景気失速のリスクがある増税は見送るのが最善という答えにしかならない。

(図)



………
 「中長期」は足下の税収に左右されるのに、税収の更新が遅い。早く実態をつかむためには、「中長期」に頼らず、四半期で出る日銀・資金循環統計で資金過不足を見るのが良い。それが図の黄線である。2018年度以降は、2015年7-9月期~18年1-3月期のトレンドの延長だ。「中長期」には、経済成長率の想定が高過ぎるなどの批判があるが、こちらは実績の延長であり、年当たりでGDP比0.6%弱の改善ペースとなっている。

 資金過不足は、利払いが含まれる分、基礎的財政収支よりも低く出る。国と地方の「純」利払いは、およそGDP比で1.5%程だから、順調に行けば、2020年度頃には、財政再建の目標に到達する勘定だ。それも消費純増税を前提とせずにである。過去3年のように、補正後の歳出規模を膨らませず、成長に伴う税収増のすべてを財政再建に充てる形を保てば、国民生活は豊かにならないにしても、十分に可能なことである。

 また、国・地方の財政とは別に、国民は社会保険の緊縮にも直面している。2015年度以降の4年間で、厚生年金の保険料は予算ベースで5.7兆円も増加しており、他方、給付増は2.3兆円にとどまるから、差し引き3.4兆円も締まっている。あれもこれも緊縮では、消費が低迷しない方がおかしい。そして、消費純増税というのは、税・保険料の自然増収に、更に負担を上乗せしようというものなのである。もし、自然増収を経済に還元していれば、「経済再生ケース」の実質2%超の成長なんて軽く実現できる。

………
 「中長期」のような現実の反映が遅いもので財政に不安を覚え、社会保険料を視野の外に置いて消費の低迷を嘆く。経済運営に限らず、状況を的確に把握し、総体的に理解するというのは、対応の基本ではないだろうか。増税を少子化に使うと言っても、非正規の女性が育児休業給付も乳幼児保育も受けられない状況は放ったらかし、量的に足りていて既に保育の恩恵を受けている人の無償化に注力する。何だか、この国は的が外れている。なぜなのかね。財政難も、少子化も、本当は心配しておらず、別の目的のダシでしかないのか。


(今日までの日経)
 働く女性の割合最高 非正規3割就業調整。ヤマト黒字 値上げが浸透。米、追加関税22兆円。人口減最大37万人。夏ボーナス4.2%増。小売・外食 急失速 節約志向、値上げで客離れ。外国人249万人。機械販売5月最高。基礎的財政収支、25年度も2.4兆円赤字 解消は27年度。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アベノミクス・設備投資への景気の潮目

2018年07月08日 | 経済(主なもの)
 景気の二つの起動力のうち、建設投資は昨年10月から停滞し、輸出は1月から伸び悩み始めた。成長が10-12月期に減速し、1-3月期に後退した背景には、これがある。したがって、足下では成長の「地力」が試されている状態だ。すなわち、全体的な需給関係の中で、どのくらい設備投資が盛んになるかが焦点となる。経済運営の方は、相変わらず、「ボーっと生きてんじゃねえよ!」とチコちゃんに叱ってもらいたくなる有様だが、民間には良い兆しも見られ、このまま無事に顕現してくれないものかと思っている。

………
 5月の鉱工業生産は前月比-0.2となり、6,7月の予測も+0.4,+0.8と穏やかなもので、昨年までの勢いはない。日銀・実質輸出を3か月後方移動平均で見ると、1月以来、その水準を超えておらず、鉱工業の予測からすると、今後も増しては行こうが、緩やかなものとなるだろう。すなわち、1月まで果たしてきた景気の牽引役を期待してはいけないということだ。そして、もう一つの起動力である建設も、多くは望めない。

 建設投資の状況は、全産業指数で見る限り、三者三様である。住宅は、昨年6月をピークに減退し、足下でようやく底入れした。公共は、昨年5月まで急増した後、秋から急減するというゴー&ストップをたどり、4月に下げ止まったばかりだ。他方、企業の建設投資は、昨年後半まで停滞していたが、今年に入り増勢を見せている。建設投資全体では、低下傾向が続いてきており、補正予算をケチって前年度より1.1兆円緊縮した「成果」が表れている。

 では、地力となる設備投資は、どんな状況か。まず、月曜に公表された6月短観では、最近の業況判断が、大規模製造業で-3、非製造業で+1という冴えない結果だったものの、設備投資計画については、非常に強いものだった。鉱工業生産においても、資本財(除く輸送機械)の予測は、6月+2.1、7月+0.2という具合だし、企業の建設投資が上向いていることは、既に触れたとおりである。

 設備投資は、まずは、追加的な需要、具体的には輸出・公共・住宅に従うが、需要が全体的に強まって来れば、自律的に増えるようになる。今回の短観でも、設備投資計画の強さの背景には、需給逼迫や人手不足がうかがわれる。そうならないと、設備投資は出て来ないもので、金融緩和やら成長戦略やらでは動かない。人手で済ませられるなら、投資リスクなど負うまでもないからだ。

 他方、5月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前月比+1.7と高い伸びを示した。フレが大きいけれども、1,2月の水準から、明らかに高まっている。昨年秋までの停滞ぶりとは様相が異なり、景気の賃金への波及が見られる。こうなると、労働生産性を高めるために設備投資をせざるを得なくなる。それがまた、景気を加速させて行く。賃金から消費へと拡がっていくのも時間の問題だろう。

(図)



………
 5月の消費指標は、CTIの実質が前月比+0.1となり、4,5月平均は前期比+0.2の水準である。消費活動指数+は、前月の急伸の反動から-1.4だったが、前月の「貯金」で4,5月平均は前期比+0.6となっている。活動指数の前期比の高さは、前期の低下が大きかったことがあるので、消費の判断としては、CTIが示すような緩慢な上昇にとどまっていると見るべきだろう。

 いまや、勤労者世帯は全体の半分でしかないので、財政による再分配はゆるがせにできない。税の自然増収によって財政が締まるのは、ある程度は仕方ないにしても、わざわざ補正予算で1.1兆円も絞った意図は何なのかと、今更ながら思う。まあ、「特に考えもなく」というのが正直なところか。それを誰も叱ってはくれない。


(今日までの日経)
 米中 貿易戦争に。GPIF 株「満腹」。中小賃上げ率20年ぶり高水準。社会保障費ぶれる推計 「25年度の給付額」四半世紀で160兆円減。大企業の人件費、16年ぶり高水準。国の剰余金9000億円。複眼・財政に足りぬ危機感。
※ガスパールさんのIMFが刻めと言うのも聞かず、一気の消費増税をするのだろうな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

緊縮速報・財政再建トラトラトラ

2018年07月01日 | 経済(主なもの)
 6/22に公表された1-3月期の日銀・資金循環によると、財政収支の大幅な好転が見られ、基礎的財政収支の赤字ゼロ目標に、2020年度第4四半期にも到達し得るという劇的な結果であった。「ワレ奇襲ニ成功セリ、トラトラトラ」と打電したくなるほどの緊縮である。こんなことをやられては、好調だったGDPが1-3月期に失速し、マイナス成長となったことも、たまたまではないと思えてくる。 

………
 日経の経済論壇では、財政再建先送りに警鐘が鳴らされているようだが、筆者は、まじめに日本の財政を心配しているので、常に最新状況をチェックしている。そこで、資金循環の資金過不足を4期移動平均で見ると、GDP比-2.8%と9年ぶりの水準に達し、改善のトレンドが年間0.6%弱のペースへ復帰していることが分かる。これを延長すると、2020年第4四半期には-1.0%まで届く。利払費を算入しない基礎収支ならゼロになるレベルだ。

 世間では、再建目標が2025年度に先送りされたとする批判ばかりである。しかし、トレンドで見ると、2021年度で達成する可能性さえ出てきている。それも、10%消費増税なしにだ。こうなると、何のために消費増税をして、需要ショックによる景気失速の危険を犯さなければならないのか分からなくなってくる。目的は財政再建であって、消費増税ではないはずで、手段を目的化してはいけない。

 他方、税収に目を転じると、日経によれば、2017年度の国の税収は、前年度比+3.3兆円の58.8兆円に急増したようだ。『中長期の経済財政に関する試算』の出発点が上がるので、自然体なら、2027年度に目標に到達するとされていたものが、2024年度には届く形となろう。もちろん、自然体に歳出改革を施せば、更に2年早い2022年度には目標に至る。2025年度に目標を置くなら、消費増税は無用でしかない。

 ちなみに、2017年度は、法人税が+16.2%の12.0兆円と、証券各社の企業業績見通しの経常利益増加率をやや上回る伸びとなり、所得税は+7.3%と名目成長率を大きく超え、消費税は+1.6%と民間消費の増加率並み、その他の税は+1.0%と物価上昇率より高めだった。そして、2018年度の国の税収について、これら基準となる増加率を基に計算すると、60.7兆円と見込まれる。法人税がリーマン前と比べて2兆円少ないにもかかわらず、過去最高の1990年度の60.1兆円を超えることは確実だ。

(図)



………
 日銀はネット通販が物価を押し下げているとするレポートを出したが、物価の鈍さは、消費量そのものにあると思える。帰属家賃を除く家計消費は、実質で237.6兆円でしかなく、2年半も前の2015年7-9月期の消費増税後のピーク時と変わらず、消費増税前より4.5兆円も少ない。これだけ消費が乏しければ、需給には緩みがあると見るべきで、物価が上がらないのも当たり前でしかなく、それ以外の理由を探す方が却って不自然だろう。 

 その消費を支える雇用者報酬は、2015年7-9月期に実質で253.6兆円だったものが、現在は267.7兆円と14兆円増えてはいる。しかし、この間、中央政府+地方政府の資金過不足は、7.3兆円も改善しており、これだけデフレ圧力をかかれば、消費が弱いことにもうなづける。やたらな円安で輸入物価を高騰させるといった不幸でも招かない限り、金融緩和での物価目標と緊縮財政は矛盾する。

 アベノミクスは、国民の生活を豊かにはせず、国民をより多く働かせ、輸出を中心に経済を拡大し、財政収支を大きく改善させた。金融緩和に緊縮財政を組み合わせればこうなる。財政収支をGDP比で0.6%弱ずつ改善してきたことは、ある意味、消費税を毎年1%上げていたのと同じである。10%消費増税とは、これへの上乗せとなる。生活の向上と財政の改善がトレードオフにあることを認識した上で、サジ加減を論ずべきであろう。

………
 今年の『骨太の方針』では、2040年度に社会保障給付費が70兆円増えて190兆円になるという、ビックリするような数字が示されたが、これは名目値であり、実質なら過去10年間に経験した増加ペースと変わらない程度でしかない。これについては、上智大の中里透先生がニッセイ基礎研に『190兆円の社会保障費をどうとらえるか』(6/25)というレポートを寄せておられる。先々の負担を過大に心配させ、緊縮への焦りをあおるようなことは禁物だ。

 むしろ、焦るべきは、中里先生も指摘するように、少子化に伴う現役世代の縮小によって、医療介護などのサービスに供給制約が生じることだ。問題はカネではなく実物にある。非正規への育児休業給付の実現などで出生率を改善し、次世代への人的投資を拡大しなければならない。帳尻合わせの緊縮で人的投資をケチれば、カネはあっても買うサービスがないという無残な未来になる。緊縮の緒戦の勝利は、人口激減の敗戦へとつながっている。


(今日までの日経)
 基幹3税全て増加 17年度決算3.3兆円多く、税外収入も6500億円増。経済論壇・財政再建先送りに警鐘。制約なき官邸主導・中北浩爾。ローソン、ネット宅配撤退。フリーランスに人事総務部。上場企業 実質無借金、6割に迫る。日本の製造業 為替の壁破る。債権市場、波静かなる理由。

※7/31 本コラムの「生活を豊かにせず」は、GDPの実質の家計消費(除く帰属家賃)の低迷(5年間で+1%程)を文学的に表現したものです。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする