この国が落ちぶれていることは分かっていたが、「日本と技術フロンティア国のギャップが1990年代以降のように著しく拡大するのは、鎖国の江戸時代末、太平洋戦争敗北の前後に次いで3回目」と、歴史上の大失敗に位置づけられるのは、この間を生きてきた者にとって、やるせないものがある。深尾京司先生の『世界経済史から見た日本の成長と停滞』の終章の一節だ。いわば、「第三の挫折」である。ハシモトデフレ以来の失われた歳月は、衰退の時代として画されるに至った。
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停滞の主因として、深尾先生は、労働生産性の上昇率の低下を挙げる。単なる人口や労働時間の減少だけでは説明がつかない。これは、実質賃金率が多くの国で大幅に上昇した中で、わずかしか上昇しなかったことに映し出される。そして、輸出競争力のために賃金率を切り詰める「窮乏化」からの脱出を目指すべきとする。
なぜ、労働生産性の上昇率は低下したのか。深尾先生は、高度成長期や安定成長期には他の先進国より高かった資本装備率とTFPの上昇が停滞したからだとした上で、TFPは、2005-15年には、米仏英に比べて高かったのに、資本サービス投入の増加が著しく低かったとしている。
さらに、長期的な資本蓄積の減速には、利潤率の低下があるにせよ、2000年代は、利潤率がやや回復しても低迷が続くという「謎」があり、資本蓄積が停滞した理由として、金融緩和の余地の少なさ、円高、海外移転、配当性向の高まり、従業員や組織への投資の停滞、労働集約産業の拡大などを挙げる。
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さて、1997年にハシモトデフレで大規模な需要ショックを与えて以来、日本の設備投資の動向は、極めてシンプルになった。輸出が増えれば伸び、減れば縮む、それだけである。それまでの「輸出を起点に内需の拡大に反応する形」が見られなくなった。輸出で景気が回復しだすと、すぐさま緊縮で消費を抑圧するのだから、当然の成り行きだ。
これでは、足下で収益が回復しても、設備投資をしようとは思わなくなる。消費が抑圧されると、物価は低迷し、金融緩和が実現できる。金融緩和の下で円キャリーが起こり、時折、弾けて超円高になって、製造業は海外移転を進める。国内投資ができないから、配当性向を高め、従業員や組織に投資せず、安い非正規を使ってばかりとなる。
私は、正統派の経済学者とは違い、需要動向が設備投資に決定的影響を与えると見るオールド・ケインジアンなので、正直、「謎」というほどではない。脱出方法としても、法人減税や規制緩和といった利潤率に係る産業政策に期待せず、景気の回復局面で消費が十分に加速するまで緊縮を我慢するだけで済むと考えている。
(図)
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産業別の生産性も、自動車のような輸出が柱の産業は海外の需要に恵まれて高くなり、緊縮で抑圧される国内消費を相手にする産業が低くなるのは、致し方ない。生産性を上げるための高賃金は、強い内需の下で、労働需給が締まってないと実現しない。2000年代以降の日本経済の構造変化の特徴は、GDPに占める輸出比率の高まりである。裏返せば、内需を抑圧してきたということだ。つまり、政策どおりに落ちぶれたわけである。
(今日までの日経)
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