経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費率の安定性とその解釈

2010年04月22日 | 経済
 東洋経済の今週号「成長のための負担増」は良い内容だ。それだけに、問題のある箇所については指摘をしておきたい。それは「公的負担が増えても、家計消費は減らない」とするものだ。消費率は安定しているから、消費税を増税しても問題はないとする趣旨だが、これは危険である。

 なぜなら、この安定性は、何らかの理由で消費が減ると、需要の減少に応じて設備投資も減り、消費の割合は元に戻るというメカニズムが働くことによるからである。つまり、割合が元に戻るという意味で安定はしているものの、消費も設備投資も共に減った結果であって、経済は悲惨な状況に変化するわけである。したがって、消費率の安定性があるから、増税しても大丈夫とはならないのだ。

 教科書的な経済学では、消費が減ると、金利が下がり、設備投資が増えることで、経済全体が縮小することなく、新たな均衡に移行する。その代わり、消費の割合は変化することになる。現実の経済において、消費の割合がほとんど変わらないということは、金利による貯蓄と投資の調整機能が十分に働いていないことを示している。現実の経済は、需要によって決まるというケインズ的なものだ。

 消費率の安定として編集部が引いている「非食料費支出比率」の安定は、赤羽隆夫先生が見つけたもので、伊東光晴先生も高く評価する重要な事実である。その面白さは、東洋経済刊の「日本経済探偵術」をご覧いただければと思う。ただ、これに一つ加えるとするなら、非常に安定しているように見える「比率」も、中期的な景気変動に従い、わずかな昇降を繰り返しているということである。むろん、好況時に下がり、不況時に上がる。経済にとっては、この微妙な変動が重要になる。

 さて、随分とデータや理論について述べたが、ジャーナリストは、それらに頼り過ぎてはいけない。時論で時代状況を読み込むのも、ジャーナリストの大切な仕事である。消費税引き上げ当時の「東洋経済・論争」(1997年3月号)の鈴木淑夫さんの論考「橋本政権の5つの改革は失敗する」(鈴木氏のHPに掲載されている)を読めば、ハシモトデフレは事前に予想され、そのとおりに展開したことが分かる。

 時評を含む多様な情報を総合すれば、データや理論からいくつも引き出される結論の中から、現実離れしたものを避けることができる。それをしてこそ、「学問の実生活への応用」を説いた石橋湛山の末裔であろう。

(今日の日経)
 保育所の利用用件撤廃と指定制を検討、財源は一括交付金。誰もがソフト開発者。財務省租特減収額を提出。GDP5年で7割増めざすインドネシア。原料高再び市況産業に新日鉄。経済教室・八代尚宏。
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