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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

最強官庁における能力の欠落

2015年09月27日 | 経済
 日経の清水正人編集委員の新著『財務省と政治』は、税と予算を巡る政策決定過程を濃密に描いた第一級の書と言って良いだろう。情報網を張り巡らし、徹底して根回しを行い、政治日程を組み上げ、ここぞの場面で献策する財務省と、細川内閣以降の揺れ動く政治とのせめぎ合いが、臨場感あふれる筆致で明らかにされていく。

 ただ、政治過程に関する本だから、当然ではあるが、そうして決められた政策が経済にどう影響したかまでは触れられていない。そのため、あたかも景気は自然現象のようなもので、移り行く天気に振り回されつつ、受身で対しているような、そんな印象を持ってしまう。むろん、財政が景気に影響せず、常に緊縮が正義であるのなら、それで構わないわけだが。

………
 本書が描く鳩山政権下での予算編成では、選挙公約で示した政策を、国債発行額44兆円の枠内で実施しようとして、調整に四苦八苦するが、そこへ小沢幹事長が時の氏神よろしく登場し、優先順位をつけた「与党要望」を持ち込んで収めてしまう。この裏に、財務省の存在が強く示唆されている。誠に見事な取り運びであり、「最強官庁」の面目躍如たるところだろう。

 しかし、2010年度は、リーマン・ショック後の経済対策を一気に打ち切った影響で、後半に景気が失速し、5兆円規模の補正予算の編成を余儀なくされる。結果的に、ストップ&ゴーの失敗を演じたわけであり、苦労して公約を圧縮するまでもなかった。こうした顛末を知っていると、調整力を褒めるべきなのか、それとも、需要管理に不案内な政治を翻弄したと難ずるべきなのか、迷ってしまう。

 また、野田政権において、消費増税に関し、いかに欠くべからざる重要な役割を財務省が果たしたかが記されており、これには卓抜たるものがある。しかし、その反面、これによって、一気に3%も増税し、わずか1年半で更に2%上げるという、経済政策としては極めてリスキーな路線が定まることになった。

 案の定、安倍政権において、景気対策のみならず、抵抗する財務省を押し切って法人減税まで実施したにもかかわらず、消費増税は、日本経済をマイナス成長に転落させた。そのため、安倍政権は、総選挙をもって10%への再増税を阻止するが、これがたとえ政権維持の戦略であったにしても、そうしていなければ、今の景気の状態からして、日本経済の息の根は止まるところだった。

………
 確かに、財務省は、絶対的ではないにしろ、強い政治力を持っている。これは、増税や緊縮では大いに役立っているが、日本のためにはなっていない。財政規律が組織の目的だからでは、済まされない問題だろう。かつて、旧陸軍は強大な政治力を誇ったが、「満蒙は日本の生命線」という誤った戦略目標を信奉したために、国を危うくした。これと似た構図ではないか。

 国家論まで行かず、財政の見地からであっても疑問はある。緊縮財政の意義は、金利高騰とインフレの防止にあるとされるが、こうした見地からは、高度成長期における、高金利とインフレの下での均衡財政は「失敗」だったことになり、デフレ経済期で、低金利と物価安定の中における赤字財政は「成功」ということになる。むろん、財政収支だけに注目するなら、失敗と成功の評価は逆転する。

 このように、財政は、増税と緊縮に励めば褒められるというような単純なものでない。金利や物価といったマクロ経済の安定を第一目標としつつ、財政の規模と収支をコントロールしなければならない。仮に、金利や物価は金融政策の領分であり、財政は無関係に行うとするなら、インフレ下の拡張、デフレでの緊縮といった、国民から強い批判や抵抗を受ける政治問題に直面する。そうした中で、財政当局の政治力は、無意味に際立つこととなる。

………
 本来の財政の役割から見れば、今回の消費増税の失敗は明らかである。2014~15年度に、財政収支は大きく改善したものの、経済は2年通しでゼロ成長である。パイを大きくできず、分け前を家計から財政に移しただけでは、経済的に無価値だ。成長の喪失は、財政への信認を危うくしかねず、収支改善だけで喜べるものではない。

 しかも、日本の財政当局は、2014年度の成長率を1.4%と予想したが、結果は-0.9%と大きな開きがあった。2015年度についても、1.5%の予想であるが、1%を割るのではないか。特に、強気だった消費と設備投資が乖離しそうである。これでは、政権からの信用はガタ落ちであろう。言いなりにしていたら、景気を悪くし、国民の支持を失うと思われてしまう。 

 アベノミクスの「新三本の矢」では、明らかに、政治で分配政策を仕切ろうとしている。ただ、財政当局に需要管理の能力が欠落しているとは言え、政治が代わってできるのかは未知数である。ことによると、緊縮とは逆向きの失敗をしないとも限らない。日本では、金利上昇時の対策が疎かなままにあることを踏まえれば、不安は拭えない。

 終章において、清水さんは、安倍流の政治主導で受身に回る財務省の姿を活写している。増税や緊縮をまとめ上げる政治力は凄いのかもしれないが、本来の財政運営の能力を欠き、失態をさらしたのであるから、それも仕方あるまい。苦境の中、広報や人づくりに励むのも結構だが、まず、なすべきは、組織の戦略目標を、増税や緊縮から需要管理へ切り替えることではなかろうか。


(今日の日経)
 MRJに1000億円投資・政投銀。消費税という怪物・清水正人。読書・ニッポンの貧困。
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9/25の日経

2015年09月25日 | 今日の日経
 「新三本の矢」は、手段を表していないから、「矢」ではなく、「的」だね。目標を掲げることは簡単で、誰でもできるが、大切なのは「どうすれば」である。それには、何がネックになっているかを見抜くことが必要だ。そして、ネックに集中して取り組み、適当なパッケージでもって自分や世間をごまかさないことだよ。

 それにしても、日本にまとわりついて離れなかった「財政」と「改革」が目標になっていないことは、政治史的に見て大きな変化だと思う。経済のサブシステムに過ぎない財政が、経済に優先する課題とされたり、改革が自己目的化するという、日本特有の奇態から、ようやく脱したと言えるだろう。

 名目とは言え、GDPを600兆円へ100兆円増やすとした意味は大きい。基礎年金の1/2国庫負担が10兆円ということを踏まえれば、例え負担が2倍になろうと、軽く賄える。「改革」より「成長」が、いかに重要かが分かろう。「財政」を優先して「成長」を捨てることの愚かさを知らねばなるまい。

 消費増税については従来の見解どおりだが、合理的思考の持ち主なら、マイナス成長に転落させた失敗を、もう一度、繰り返そうとはならないはずだ。10%消費税の前提条件の軽減税率が難しいなら、2017年度は9%にとどめれば良いだけのこと。一気の増税が無理なことを早く悟ってもらいたいね。


(今日の日経)
 出生率1.8へ子育て支援、介護離職ゼロめざす、2020年へ新三本の矢。10年債の取引成立せず、国債不足が強まる。
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子供の貧困対策は未来への投資

2015年09月20日 | 社会保障
 「子どもの貧困」が言われたと思ったら、今度は「下流老人」が話題である。日本経済は、1997年以来、名目GDPを増やせていないのだから、そこかしこで貧困が炸裂するのも当然だ。特に、若者や女性を直撃したから、打ち続く少子化で人口崩壊も避けられない事態に至っている。企業は日本をあきらめ、海外に活路を見出すまでになった。

 こうなった原因は、あまりに稚拙な経済運営にある。1997年の消費増税などの大規模な緊縮財政でデフレに転落させて以来、景気が回復しかけると、緊縮財政で芽を摘むことを繰り返してきた。アベノミクスの円安株高で勢いに乗った2013年、消費増税でマイナス成長に暗転した2014年、停滞の続く2015年は、「いつものパターン」である。

 成長の範囲内で再建を進める「穏健な財政」に変えるだけで、日本経済は着実に成長する。緩やかでも成長するようになれば、企業も国内に目を向け、設備にも人材にも投資するようになり、貧困も徐々に癒されよう。それは出生率を押し上げ、社会保障を安定させ、財政負担も楽にする。しかし、「緊縮策という病」は、日本に取り憑いて離れないのである。

………
 日経ビジネスの中川雅之記者は、本誌とオンライン(NBO)で「2000万人の貧困」という特集を組み、反響も大きく、『ニッポンの貧困』の出版も実現した。日経が貧困を取り上げたこと自体も注目を集めたようである。社会問題は、様々な要因が絡むので、何が原因で、どうすれば良いかは、簡単に答えが出ないものだ。しかし、貧困は、「様々な」で済ましておくわけにはいかない重大な問題である。  

 それを端的に示せば、前節のとおりとなる。中川記者は、「必要なのは慈善より投資」と主張するが、企業が正社員採用という「投資」をしなくなったのは、政府が「摘芽型財政」で需要リスクを加え続けてきたからである。投資がリスク次第であることは、今回の消費増税で、低金利と企業減税の下、課税対象でない設備投資でも反動減が起こり、そこから回復と停滞という経過をたどったことからも明らかだろう。

 社会問題の解決には、マクロとミクロの双方の対策が要る。失業には雇用増大と労働移動の両面が欠かせず、職業訓練だけで解決できないのと同じである。特に、日本では、130万円の壁があり、職業訓練によって、仕事を得させるだけでなく、非正規から抜け出させなければ、貧困脱出にならないという関門が待つ。

 母子世帯の母は、子供の面倒を見る必要があるため、「残業が当然」の正社員であることも苦しい。130万円の壁があるために、8時間労働の正社員という程よいポストがほとんどなく、パートか長時間かの選択を迫られ、非正規と正規の間を行き来することも叶わないという不自由な立場に置かれている。

………
 貧困対策には、安定的な経済運営、税・保険料の制度改革といったマクロの対策とともに、ミクロの対策を丁寧に積み上げて行くことも必要だ。その第一に挙げられるのは、貧困の連鎖を断ち切る、子供への学習支援である。具体的な取り組みは、NBOの『脱・貧困、足立区で始まった挑戦』(3/25)でも紹介されているところだ。

 貧困ゆえに学習環境に恵まれず、学力が十分でなく、全日制高校に進学できなかったり、進学してもドロップアウトしたりでは、良い仕事に就くのは難しくなる。NBOの『日本社会の「前提」が崩れ、貧困が生まれている』(9/4)で、阿部彩先生が指摘するように、生活保護から脱して、非正規で働ければ、約7000万円の社会的便益になり、正規なら、約1億円になるのだから、学習支援で卒業が勝ち取れるとしたら、安いものだろう。

 学習支援には、様々なタイプがある。一つのパターンは、就学奨励員が貧困家庭を回って、進学の相談に乗り、中三を中心に学習支援への参加を促すとともに、集まった子供に、退職教員などの学習指導員が、週に1,2回、個別に勉強を教えるものである。費用は、支援内容にもよるが、1人当たり25~30万円かかる。(参照:三菱総研『生活困窮世帯の子どもの学習支援事業』2015年3月)

 「お高く」感じられるかもしれないが、貧困家庭では、生活に追われて将来への希望を持ちがたく、宣伝すれば集まるというものではない。勉強が遅れ気味の子供には、個別指導が欠かせないこともある。本当は、中三の時だけでなく、それまでに学習習慣を身に付けさせておくことが大切だし、加えて、高校進学後のフォローも非常に重要だが、そこまで手が回っていないのが現状だ。

 この関係の厚労省の2015年度予算は19億円、地方負担分を含めた総事業費は38億円に過ぎない。子供の貧困率(収入122万円以下の世帯の児童)は16.3%であり、人数では約330万人、1学年当たりで約18万人もいる。つまり、ニッポンの貧しい子たちへの「投資」は、中三の時に1人当たり2万円ちょっとということだ。仮に、1人25万円が必要であるとすると、対象者の8%の1.5万人分だけしか用意されていないことになる。

 もし、対象者全員に行き渡らせるとすると、国費で200億円程の追加が必要になる。数兆円規模の景気対策の補正予算からすれば、限られた大きさである。稚拙な経済運営で需要を締め過ぎ、ゼロ成長に慌てて還元しようというのだから、貧困を蔓延させた罪滅ぼしに、せめて、貧しい子たちの未来を閉ざさぬよう、「投資」をしてはどうか。これこそ、将来の税収増と社会保障の負担減につながる、活きたカネの使い途に思える。

………
 成長を無視した緊縮財政は、需要リスクを企業に与えて、設備や人材に対する投資不足という不合理を生み出す。また、目先の財政収支を少しでも良くしようとするあまり、少子化を放置し、必要な教育を怠ってしまうのは、長期的に国を衰亡させ、将来の経済力を捨てるに等しい。こうした長期的な合理性に反する政策に固執するとすれば、もはや「病」としか言いようがあるまい。子供の貧困対策は、温情ではなく、理性に基づく政策である。今、我々は、未来の日本人に試されているのだ。



(今日の日経)
 ゼロエネ住宅一斉販売。安保法成立、首相が国連総会で説明。


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9/16の日経

2015年09月16日 | 今日の日経
 景気指標の中で、唯一、希望を与えていた機械受注(除く船電)だったが、6、.7月と連続で低下してしまい、他の指標同様、反動減からの回復が終わって停滞に入るというパターンになったようだ。一般的に機械受注は先行指標だが、需要の停滞の後を追う形である。結局、金融緩和や法人減税をしたところで、緊縮財政で需要を抜かれていては、独行できないという、当たり前の成り行きだろう。

 こうしたことからすれば、政府から賃上げや設備投資を求められても、経済界も困るだろうね。まあ、緊縮財政と法人減税の組み合わせは、みずから望んだことだから、同情に値しないが。他方、政府も、賃上げや設備投資に使われなかった一部は、法人税や配当所得税として収得しているわけだから、それを溜め込んだまま、相手に求めるのもどうかと思う。そして、少子化対策の財源については、溜め込んだ者どうしが、互いに「使え」と言い争う有様だ。なんとも見苦しい。

(図) 民需(除く船電) : 内閣府 機械受注統計



(今日の日経)
 与党が軽減税率を再検討、還付案も並行で。財務相「案出しただけ」。経済界に憂いの第2ステージ、政府が賃上げ・設備投資迫る。

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アベノミクスは豹変できるか

2015年09月13日 | 経済
 アベノミクスの不振の理由は明らかで、2014年度は、8.1兆円もの一気の消費増税をしたことであり、2015年度は、引き続き、8兆円規模の緊縮財政をしているためである。今年度の緊縮は、あまり意識されないが、補正予算で公債減額を0.8兆円、本予算で4.4兆円、地方財政で1.2兆円、厚生年金で収支改善1.6兆円をしたことを忘れてはいけない。加えて、国の税収だけで、3.2兆円の上ブレが予想される。原油安メリットがなければ、停滞では済まなかっただろう。

 緊縮財政が敷かれていることは、政府の「中長期の経済財政の試算」でも明らかにされている。2015年度は、財政収支がGDP比で1.4%、約7兆円改善すると記されている。むろん、これには、年金収支や税収上ブレは含まれない。これだけ吸い上げれば、日本経済の成長力は年率1.6%くらいのものだから、「緊縮財政は景気に影響しない」という信念の持ち主以外は、素直に納得できると思う。少なくとも、悪天候やマインドを持ち出すより説得力があるのではないか。

………
 基本的な需要管理もできない日本の財政当局であるが、4-6月期に続き、7-9月期までゼロ成長に陥りかねない事態に至り、少し焦りもあるようだ。9/11の経済財政諮問会議では、2016年度予算の質の向上とともに、子育て支援・少子化対策の強化がうたわれ、「アベノミクスの成果(税収増等)を一部還元することも検討すべき」となった。つまりは、これを目玉に補正予算を組むことを示唆したと考えられる。

 締め過ぎておいて還元とは、苦笑させられるが、悪いことではない。ただ、初めから「総合パッケージ」と銘打つように、総花的でインパクトに欠ける。子育てや少子化は、毎年、大臣が代わるたびに対策が作られている感もあり、「またか」というところだ。安倍政権は、安保法制で人気を落としている。池田勇人のように、チェンジオブペースができる、本質を突く政策が求められる。

 実は、ありきたりな「総合パッケージ」から、本質は浮かんでくる。問題の根は、一つだからだ。それは、パートや非正規の待遇改善である。政策的には、社会保険料を軽減しつつ、130万円の壁を撤去することが必要になる。例えば、(1)「子ども・子育て支援新制度の量及び質の拡充」は、非正規で働く保育士の待遇改善なしには実現しない。(2)「若者の経済力の向上、ワークライフバランスの実現」は、貧しいのは非正規だし、正規から外れたら終わりだから残業も拒めない。

 (3)の「貧困世帯やひとり親世帯」が苦しいのは、非正規から抜け出せないからであり、(4)の「産休・育休」が取れないのも非正規ゆえで、「婚活」には正社員になることが前提だろう。結局、多くの若者が非正規にくすぶっていては、どれをやっても成果は上がらず、逆に、非正規の社会保険料が軽減され、130万円の壁が取り払われて、正規に近くなれば、おのずと解消される。本質とは、そういうものだ。

………  
 年収が130万円を超えた途端、36万円もの社会保険料がかかってくる「壁」がいかに辛い制度なのかは、母子世帯に端的に表れる。このために、低収入に押し込められているのである。日本の母子世帯は、就業率が81%と高いにもかかわらず、貧困率が高いことで世界的に有名だ。厚労省の平成23年度母子世帯調査によれば、就業者の半分はパート・アルバイト等であり、平均年収は125万円と「壁」に張りついている。

 当事者の声を、内閣府の「子どもの貧困対策の検討会」の資料(2014/5/22-5.3/3)から拾ってみよう。「パートで働いた分だけしか稼げません。厚生年金や社会保険に十分入ってもらえるくらい働いていますが、会社は入ってくれない」、「パートとして働いていますが、会社は残業させたくないようで、月8万円程の収入です」… そして、掛け持ちで働く人も珍しくないのである。

 こうした実情にあるのは、会社が意地悪だからではない。いきなり社会保険料がかかってくるのでは、会社も苦しいのである。このことは、社会保険料の軽減は、中小企業にとって大きな恩恵になることを示している。貧困対策にとどまらない、日本の経済構造を変える産業政策であり、法人減税とは比較にならないほど多くの支持を集めるだろう。

 具体的に、どうすれば良いかは、本コラムでは「ニッポンの理想」という提案をしている。いわば、社会保険料還元型の給付つき税額控除であるから、いま話題となっている消費増税分の食料費を還付する方法を使えば、容易に実現できる。軽減規模は1.6兆円なので、今年度見込まれる税収上ブレの半分程度の大きさに過ぎない。

 そんなにカネは出せんと言うなら、母子世帯の母だけでも救えないか。必要な財源は700~1000億円くらいである。この程度なら、年金財政で呑み込むことも可能だろう。母子世帯は、平均1.58人の子供を育てている。世代間扶養である年金財政上は、1人育てれば十分なのに、それを上回る貢献をしている。国民年金保険料の免除を受けると、老後の年金はわずか3.2万円になる。次世代育成をしているのに報われない。これは理不尽ではないか。

………
 さて、新たな政策をアピールするには、象徴がいる。小泉政権の郵政民営化は、経済上の重要課題ではなかったが、大きな改革を感じさせ、強い国民の支持を得た。反対に、第一次安倍政権は、ワーキングプアという新自由主義下の象徴的な問題で責められ、窮地に立たされた。今こそ、リベンジを果たすときであろう。過去からの豹変が強いコントラストを生み出す。かの池田勇人も「寛容と忍耐」と「低姿勢」から始めた。

 米国の国是が自由と民主主義なら、日本人の身上は、努力と誠実だ。それだけに、懸命に働いても貧困から抜け出せない現実を突きつけられたときは、衝撃を受けたのだ。このことは、裏返せば、「がんばれば、報われる」という政策メッセージが琴線に触れることを意味する。池田勇人は「成長は国民自身の努力によって実現する、政府は努力できる環境と条件を整備する」と訴えた。そそり立つ130万円の壁を放置して、どうやって努力させるつもりなのか、今一度、考えてほしい。


(9/10の日経)
 外国人在留8年に延長・諮問会議。日経平均急反発1,343円高。消費税還付額レシートに。増税時は給付継続も、システム稼動に時間。本田悦朗・次は所得再分配。

(9/11の日経)
 消費税10%時に2%分還付、財務省案、与党に提示、マイナンバーカード利用、課題多く。

(昨日の日経)
 賢い電子部品に軸足。消費税還付17年4月にこだわらぬ。税率10%死守へ還付案。少子化の総合対策を年内に。

(今日の日経)
 医学部の定員削減。
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9/9の日経

2015年09月09日 | 今日の日経
 昨日の4-6月期GDPの2次速報は上方修正だったが、在庫増によるもので、7-9月期の下押し要因になるだろう。これを受け、7-9月期の予想を、第一生命の新家さんは+0.1%、ニッセイの斎藤さんは+0.2%としている。2015年度の成長率の予想は、両者とも+1.0%である。アベノミクスの成長力は在庫増であり、前年度が-0.9%成長だったのだから、2年通しでゼロ成長という「立派」な成績を残しそうである。

 8月の景気ウォッチャー調査は、季節調整値で、なんとか50を保ったものの、先行きは前月から2.6も落ちて48.5である。輸出の鈍化で製造業が足を引っ張ったが、家計関連が良くない。中国のせいにしてはいかんよ。消費増税の後遺症に加え、円安に伴う春からの値上げが効いているのだろう。また、非正規の増で薄まって、ボーナスも意外に伸びていないようである。

………
 消費税の還付だが、たった4000円のために、マイナンバーを使って消費量を集計する労力をかけるとは信じがたい。年間20万円の食料消費で上限の4000円に到達するのだから、ほとんどの人が上限額になる。落としどころは、「みなし」で全員に一律4000円を還付することになるのではないか。

 人口1億2500万人であるから、かける4000円で、約5000億円である。これを増税月の2017年4月に給付する。つまり、最初の給付は、取った増税の還付ではなく、景気対策として、事実上、前倒しの形で行う。あとは、みなし方式から集計方式への変更は、状況を見てやれば良かろう。こうでもしないと、もろに増税ショックに襲われる。

 意外に重要なのは、年金受給者の扱いだ。消費増税で物価が上がると、物価スライドで年金が引き上げられ、1年後には消費税の負担が補填される。したがって、年金受給者は還付の対象外にされることも十分考えられる。年金受給者は約4000万人いるので、還付の規模は2/3で済むことになる。

 消費増税2%は5.4兆円もある。5000~3400億円程度の軽減策だけでは、今回の景気失速の二の舞になる。しかも、今回は、増税年に海外経済の異変がなく、かつ、原油安という幸運にも恵まれた。それで今の有様である。少しはまじめに考えてほしい。ショックの緩和には、1.6兆円規模の低所得層の社会保険料の軽減策が要る。こうすれば、130万円の壁が取り払われ、成長力も高まる。成長戦略とは、こうするものだ。


(今日の日経)
 消費税還付は世帯で合算、上限1人4000円超。首相再選、麻生・甘利・管氏続投。街角景気50割れ。日経平均は昨年末下回る。中国の輸出の失速鮮明。
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経済学における「重力」の発見

2015年09月07日 | シリーズ経済思想
 理論がないと、データから意味を引き出せないとされる。裏返せば、妙な理論を持ってしまうと、現実を認識できなくなることもある。経済学で言えば、ヒトは利益を最大化するという信念を持っていると、社会的なムダである余資も失業も、この世には存在しないものに思えてくる。あっても、それは調整されるまでの一時的なものだから、論ずるに足らないというわけだ。

 しかし、均衡へ向かわせる力が存在するからと言って、均衡点へ円滑に接近できて、安定的な状態が保たれるとは限らない。この二つは別物である。こうした物理学の観点から、旧時代の理論に留まり続ける経済学を鋭く批判するのが、マーク・ブキャナン著『市場は物理法則で動く』である。副題のとおり、物理学や計測学などの自然科学がもたらした成果を教えてくれる。

………
 ブキャナンは、第1章の概説と、第2章の経済学史の概観の後、第3章で、ソネンシャインの証明を引き、アロー=ドブリュー型の経済の一般均衡は安定均衡ではないとし、これが発見された当時の経済学者に与えた衝撃に言及する。さらに、市場の安定性が研究対象にされないという経済学の側面こそが注目点だとする。

 理論的に安定でないなら、実際はどうか。安定を担う裁定取引の雄のLTCMは、奇しくも不確実性の理論が出された1年後に、破綻してしまう。また、市場は情報のみによって動かされているのではない証拠として、ニュースと関係のない事象の後の乱高下の方が長引くというプショーらの研究を示す。

 そして、第4章では、市場のベキ乗則に触れ、自己相関を強調する。すなわち、効率的市場仮説ではゼロであるはずの「予測可能性」が、ディンらの研究によって、市場変動の量については存在することが示され、こうした過去がその先に影響を及ぼす「記憶」は、エネルギーの流れや絶え間ない競争などが存在する「非平衡系」の自然科学において共通するものと位置づける。

 続いて、第5章では、ゲーム理論のナッシュ均衡を取り上げ、ガーラとファーマーのシミュレーションによれば、戦略がわずかしかなければ、学習アルゴリズムは均衡に達するものの、50ともなると挙動は安定しないとする。ナッシュ均衡の存在証明は、到達の可能性を示すだけで、高次元ゲームではカオスを示し、将来的な展開は本質的に予測不能になる。

………
 第6章は、アーサーの市場モデルの成果を紹介し、そこでは、トレーダーの予測は行き来して、合理的な均衡に収束せず、暴落のような突発的な変動が起こりやすいとする。現在では、改良により、実際の市場の価格変動と区別できないほどの再現も可能らしい。また、マイノリティーゲームを発展させた張=シャレーの研究では、市場には二つの異なる種類の挙動があり、突然切り替わる傾向が突き止められたとしている。

 第7章以下では、市場の効率性と安定性のジレンマが課題となる。要は、効率的であるほど、破綻や崩壊の可能性は高まるということだ。ターナーらのモデルでは、レバレッジを高めるせめぎあいが起こり、価格のボラティリティは着実に減少する一方、変動はファットテールに近づき、暴落が起こりやすくなる。

 そして、第8章は、市場の瞬時の激しい変動であるフラッシュ・クラッシュを解き明かす。この背景には、コンピューターによる超高速のアルゴリズム取引がある。ネットワークの広がりにより、爆発的な正のフィードバックが生じるようになり、大きな変動の頻度は40年前の4倍になったとしつつ、ネットワーク社会の危険性を明らかにする。

 第9章においては、ミクロ的基礎付けをひととおり批判した上で、物理学者のプライスらの発見を提示する。市場の弱気や強気のモメンタムの向きの転換には普遍的パターンがあり、これは、多くの人はトレンドに従っていて、幾人かの警戒して取った行動が伝播することで逆方向のトレンドが始まるためである。要は、一人ひとりの合理性に基礎があるのではないことを意味する。

 最後の第10章で、ブキャナンは、経済学やファイナンス論では、可能なことや起こりそうなことを予測するだけでも有益であり、それは大規模シミュレーションで検証可能だとする。そして、ダイナミクスを自然のシステムについて考える中で、皮相的な前提を乗り越えてきたのであり、これは経済学も同じで、その時期にあるのだとして、締め括っている。

………
 ブキャナンの主張のさわりは以上であるが、物理学の手法によって得られたデータ解析の結果を受け入れ、現実によく当てはまるシミュレーションモデルを尊重することは、ある意味、当たり前である。もし、それができなければ、経済学は、もはや科学とは呼べず、宗教とは言わないまでも、政治哲学の一種になってしまうだろう。たとえ、それが一般均衡、利益最大化、合理的期待といった奥義を捨てることになるとしても。

 こうして、経済学が物理学の手法に支配されると、学問としての存在価値が失われるように感じられるかもしれないが、そうではあるまい。物理学者のファインマンが否定するところの「なぜ、そうなっているか」を考究すれば良いのである。意図を聞けない物質とは異なり、人間を観察対象にしているのだから、それは可能だろう。

 その際、重要なのは、利益を求める「力」とは反対向きの、限られた人生において大損害を受けるリスクを避けるために敢えて小さい利益を捨てるという「第二の力」を発見することである。二つの力がせめぎあうことが複雑な挙動をもたらすのであり、現象の理解と理論の応用が高まるはずである。第二の力は、保険などで日常的に目にするものだが、リンゴが落ちることを知っていることが、重力を理解しているのとは違うことと同様である。

………
 経済物理学の短所は、ビッグデータがないと本領を発揮できないところにある。したがって、金融についてはともかく、人々が一番知りたい景気や雇用を解析するには距離がある。本コラムでは、鉱工業生産指数で設備投資を解析して見せたことがあるが、マクロデータは良くて月次である。対数順位分布であることは確認できても、時系列で新たなデータを入手するだけでは、それがベキ分布に発展するのかは、可能性を指摘するにとどまる。ベキ分布であれば、平均も分散もないので、合理的期待は成り立たないとなるのだが。

 他方、「第二の力」を発見できれば、政策的な知見は広がる。緊縮財政をやめて、需要を安定させれば、リスクは薄れ、「第二の力」は働かず、従来から経済学が蓄積してきたシンプルな知見が活きる。相対性理論は物理学を拡張したが、ニュートン力学が役立たなくなったわけではない。適用範囲をわきまえれば、十分に有用だ。あとは、そのような現実が見えない人たちが経済の舵取りをしていることが課題になる。

 昨日の日経が報じるように、消費増税のショックで成長が折れてしまったのに、再増税では、ショックをやわらげる軽減税率を年度末になってからの還付で対処しようとしている。日本のエリートは、経験に学ぶことさえできないらしく、「増税は成長に影響しない」という理論が現実を見えなくしているようだ。物理学の手法も取り入れ、真実を明らかにするのは、経済学の重要な役割であるが、物理学とは違って、現実をより良く変えるという役割もある。これもまた存在意義であろう。


(昨日の日経)
 酒除く食品を消費税軽減、所得別に還付金。米雇用は17万人に鈍化。7月毎勤・賃金上昇は中小弱く。東北復興、初動の重み。鶏肉に需要シフト。

(今日の日経)
 新産業創世紀1。中間配当が最高の3.7兆円。

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9/2の日経

2015年09月02日 | 今日の日経
 昨日の法人企業統計で、経常利益の増加率が前年同期比で+23.8%というのには、強い印象を受けたよ。消費押上げを期待された原油安メリットは、企業に帰着したのだろう。普通なら、高収益は設備投資の加速に結びつくが、今回はどうか。相関があるのは、需要の強さが媒介しているからで、今回は、増税のために消費が弱い中でのタナボタである。

 値上げができて、収益が確保できても、需要増の勢いがないと、賃金を上げて人材を確保しようとまではならない。確かに、労働需給は引き締まっているが、公定価格に縛られて低賃金で集めようとする医療・福祉関係との競合なら、切迫感は薄くなる。やはり、緊縮財政の下では好循環は回りがたい。

 そうした中、第一生命の柵山順子さんの『好調な労働市場と低調な消費』(9/1)は、良いレポートだったね。 雇用者数は増えても、パートの中でも短時間化が進んでおり、労働投入量は増えていないとするものだ。処方箋は、長く働くと不利になる各種制度の改革である。結局は、社会保険料還元型の給付つき税額控除を使うことで、各種制度の改革を円滑に進めるところへ行き着くと思う。


(今日の日経)
 中国が人民元売り規制。日本株下落が再び加速。野菜の高値続く。新車販売8か月連続減。
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9/1の日経

2015年09月01日 | 今日の日経
 昨日の鉱工業生産からすると、日経で新家さんが指摘するように、7-9月期は小幅減産になりそうだ。2期連続のマイナスということになる。そうした中で、消費財の在庫が減少したのは、良い知らせ。ここから、極めて緩慢に消費財の生産と出荷が増えて行くことになろう。そして、上向いて来るのは、来年になってからかな。1997年のときと同じ展開になるね。同じことをしたのだから、当然ではある。

(今日の日経)
 課税逃れ特許移転にも網。生産に強まる減速感、鉱工業生産7月0.6%減。
コメント (1)
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