経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

日本は2010年度に何をしたか

2011年06月30日 | 経済
 震災後の新しい日本が模索されているのに、昨年、何をしたかなんて、「今さら、どうして」というところかもしれない。しかし、それではダメなんだな。経済というのは、過去の延長線上にあるものだし、その運営には、何をしてきたかの反省が必要なのだ。

 2010年度当初予算の歳出規模は92.3兆円だった。これは2009年度と比較して10.2兆円も少なかった。他方、2010年度の税収見込みは37.4兆円だったのであるが、一次補正で39.6兆円へ2.2兆円上方修正され、そして、今度の2011年度二次補正において、前年度の決算剰余金という形で、更に2兆円の上方修正がされるようである。

 つまり、2010年度の財政は、10.2兆円の緊縮と4.2兆円の増収によって、GDPで3%近いデフレ圧力を経済にかけたということである。その結果は、どうだったかというと、年度後半における景気失速であり、2四半期連続のマイナス成長であった。政府は、景気の陰りに慌てて、11月末に補正で4.4兆円の歳出増をしたものの、「時、既に遅し」だった。執行には2~3か月かかるからだ。震災の発生は、そんな時だったのである。

 日本には、「財政がどんなにデフレ圧力をかけても景気は悪くならない」と強弁する人がいるが、普通に見て、2010年度の経済運営は失敗だったと言えるだろう。財政再建が急激すぎて、デフレを脱することができなかったからだ。むろん、昨年秋に円高がなければ違っていたという反論もあろうが、多少の外的ショックには耐えられるよう運営するのが基本だ。余裕を持たずに「賭け」に失敗したケースである。

 このケースが問題なのは、世間では、財政が大規模なデフレをかけていたという事実が知られていないことにある。財政当局は、歳出の説明を、前年度補正後ではなく、当初と比較することで、10.2兆円の緊縮が見えないよう「仮装」し、また、税収を意図的に低く見積もることで、4.4兆円もの増収を「隠蔽」したからである。したがって、世間では、なぜ、年度後半にマイナス成長になって、デフレが続いたかの理由が分からずにいる。

 普通の人は、こういう反省に立って、2011年度の経済運営を考えていく。世間では、復興にかかる財政出動で需要が盛り上がるようなイメージがあるが、実際には、2011年度当初予算は、前年度補正後より4.3兆円少なかったので、一次補正の付け替え以外の財源で増加させた2.5兆円分と、今度の二次補正の2兆円で、ようやく、前年度並みになるだけだ。三次補正が遅れれば、財政の景気押し上げ効果はゼロである。

 昨日、5月の鉱工業生産指数が発表されたが、日経は「58年ぶりの高い伸び」などとはやしているのに対して、筆者は、6、7月の生産予測が伸び悩んでいることが非常に気になる。震災による落ち込みからの急回復は結構だが、震災前の水準に戻るだけのことで、そのあたりで停滞するように思えるからだ。要は、震災前のマイナス成長の状態に復旧するということである。こういう状況なのに、増税論議が盛り上がっているのは、財政に無知なるがゆえであろう。反省がなければ、進歩もないのだ。

(今日の日経)
 日立も合流、液晶統合、IPS技術流出を防止。国勢調査・社会保障、現役依存は限界。玄海原発再稼動を佐賀知事容認姿勢。消費増税時期、政府が大幅譲歩。あすから電力使用制限。二重ローンに770億円・2次補正予算。鉱工業生産5月5.7%上昇指数。中国・民間企業の資金確保困難に。ユニバースを子会社化。外食・LED照明導入加速。経済教室・3極通貨制度・河合正弘。

※国内投資には法人減税より産業革新機構の出資が有効ということだ。 ※少子化を放置すれば、こうなるのは目に見えていた。 ※佐賀が皮切りになったか。 ※経済好転の数値を示さないのは、デフレでも増税の証拠。 ※マックはまだ全店には入れないんだね。
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日本に本当に必要な増税論議

2011年06月29日 | 経済
 危機に瀕すると極論に走りやすくなるものだ。一体改革の「何が何でも消費税」は、その典型だろう。両極の他方には、「増税の前にムダ撲滅」のような増税拒絶派もいる。「経済状況に合わせて増税」という現実派が一番弱いというのは、日本にとって不幸な状況である。

 そんな中で、6/28にダイヤモンド・オンラインへ掲載された、中央大の森信茂樹先生の「消費税率はいつから、どのように引き上げるべきか」は、数少ない現実派の論考だろう。先生が現実的なのは、財務官僚時代にハシモトデフレの失敗を経験しているからだと思う。財務省出身の学者には教条派が多い中で、珍しい存在だ。

 先生の主張は、「財政ではなく、経済の視点で引き上げのタイミングを計るべき」というもので、消費税率引き上げの施行時期をあらかじめ法定せず、例えば、政府のデフレ脱却宣言が行われて半年後などとし、実施時期を弾力的にするというものだ。これには、筆者も基本的に賛成である。

 ただし、先生はエコノミストではないので、経済状況の見極めが十分でないように思われる。先生が言われるように、税の転嫁を考えれば、1%刻みの引き上げには問題があり、2%以上の刻みでの実施が必要というのは、分からなくもないが、2%というと、増税額は5兆円で、GDPの1%にも及ぶ。潜在成長率が1%とも言われる中で、日本経済にとって、これは相当の重荷である。

 消費税の2%引き上げを実施するなら、物価上昇率は2%欲しいところだ。ごく単純化して言うと、消費はGDPの6割の300兆円だから、物価が2%上昇するということは、6兆円ほどの需要過多を示すわけで、このくらいないと、経済は、需要を抜く増税を呑み込めないということだ。物価上昇率2%は、デフレ脱却というより、経済が本格的に成長する段階でないと実現しないだろう。

 この2%刻みに拘るなら、増税と負担減を組み合わせて、ショックを和らげる必要がある。例えば、低所得者層の社会保険料の軽減と組み合わせるとかである。有害な駆け込み需要と反動減を避けるため、住宅や耐久消費財にエコポイントを与えて相殺することも必要となろう。この点、一体改革の「研究報告書」は、こうした策を退けており、異様な「タカ派」ぶりを見せている。

 いずれにせよ、森信先生の主張や、それに対する筆者の反論といったようなものが、本来、経済運営に関する議論として必要なものである。「闇雲増税」でも、「増税拒絶」でもなく、いかに、経済的に整合させ、社会的に円滑に増税をするか、高齢化ために増税は避けらないのだから、ここに知恵を絞らなければならないのだ。

 森信先生は、「成長戦略・規制緩和と併せて、金融政策も総動員し、オールジャパンでデフレ脱却を進める必要がある」とするが、筆者は、これに適正な需要管理も加えたい。日本がデフレから抜けられないのは、日本の財政当局が、国民の目から隠れて、デフレのうちに、大規模な需要を抜く行為を繰り返してきたからである。

 今回の震災でも、大規模な復興予算が投入されると見せかけて、実際は、前年度並みの歳出に抑えており、政治や新聞の無知をいいことに、それを説明しようとしない。森信先生は、ハシモトデフレを真摯に反省しているが、財政当局に反省の文字はないのだ。歳出、税収見通し、そして、社会保障と、政府部門全体の動向をオープンかつトータルに把握し、経済の舵取りはなされなければならない。

(今日の日経)
 米、金融取引の監視強化。北方領土で原油ガス共同開発。新しい日本へ・海外で稼ぎ。社説・外国看護師。原賠支援法、東電以外の負担求めぬ。社会保障の効率化提言・経産省。共通番号を税務申告に活用・大綱案。復興・農漁業の効率化。グアム基地整備に1.9兆円。独中、商談1.2兆円超。中国新幹線特許・日本に警鐘。どこに行く外食・漁業に参入。小売り、2年ぶり増収。放射線、遠隔操作で測定。ウェブ・アプリ早く安く。経済教室・日米エネ対話・ケントカルダー。

※ガスなんてあるのかね。他国を入れさせないことだけを目的に、ダラダラと話しに付き合えば良かろう。 ※韓国に先端技術を流出させないよう、投資補助金で防ぐべき。法人減税で議論している場合ではない。 ※負担を求めないと、原発事故リスクのコストが反映されなくなるよ。 ※経産省は他に課題が山積だろう。 ※番号を統一せずとも、パスワード一括管理のような手法はあるがね。あとは番号利用者にインセンティブだな。 ※漁業権は、外食の例が参考になる。実際的に解決すべき。 ※グアムのカネを持てれば、日米同盟も変えられるのだが。中国で知財が守られると思うのが間違い。

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一番早い税収見込み

2011年06月28日 | 経済
 読者は、5/12に財政当局が「2011年度税収減額補正へ」という情報を流してきたことを覚えているだろうか。これが財政当局の情報操作だということは、5/14のコラムでも指摘したが、今日は、その続きだ。この情報操作は、2010年度の税収の上ブレが隠せなくなったため、それを相殺しようと、流されたものである。しかし、管首相が居座って、小型の二次補正をすることになり、その財源に上ブレ分を充てることにしたため、「工作」は、雲散霧消したというわけである。

 正直、5月中旬の段階では、2011年度税収をうんぬんするなんて、先走り過ぎでしかなかったのだが、実際のところの見通しは、どうなるのか。税収は、消費税や所得税は安定しているので、法人税がどう動くかで決まる。その法人税は、ほとんどが大企業によって担われているから、2011年3月期の業績見通しで想像がつく。

 この業績見通しについては、6/26に日経が上場企業の集計してくれた。それを見ると、「通期は6%の減益」となっている。したがって、法人税も、そんなもんだということになる。2010年度の法人税予算額(補正後)は7.5兆円である。これが1.5兆円上ブレしているので、決算額は9兆円になるだろう。これをベースに6%減なら、2011年度の税収見込みは8.5兆円となる。むろん、法人減税をしなければという前提だが。

 結局、「震災で大打撃」と言われる割には、5000億円程度の減で済みそうなのだ。情報操作に乗せられて、2011年度税収の減額補正なんてしていたら、またまた、現実離れした経済運営をすることになっただろう。日本の財政当局の情報操作の怖さが、よく分かるというものだ。

 もちろん、2011年度は半分も終わっていないから、これから、経済にどんなことが起こるかは分からない。要警戒なのは、復興の遅れよりも、海外経済の動向である。今回の各企業の業績見通しは、復興に関しては堅めだと言われる。筆者の感覚では、海外経済が順調なら、企業収益は前年度並みに伸び、税収も減らずに済むように思われる。

 しかし、自動車各社が示すように、震災よりも、円高の方が減益に大きく響いているのが気になるところだ。今日の日経にもあるように、米国経済は成長が鈍化している。これで、まず起こるのは円高であり、既に、ジリジリと上昇してきている。円高に、どう対応するかが、経済運営上の大きな課題なのだ。これは、阪神大震災の1995年にも悩まされたことだ。

 円高を防ぐには、日米の金利差を調整する必要があるが、米国の金利が低下してくるのに対して、日本の短期金利は既にゼロ近くであり、更に下げるわけには行かない。オーソドックスな手法としては、財政を拡張してインフレ圧力をかけ、実質金利を低下させるとともに、日銀が国債買い入れなどの金融緩和で長期金利を押さえ込むことになろう。

 まあ、簡単に言えば、復興に積極的に取り組むとともに、緊縮や増税は経済の回復を見極めてからするという慎重さがあれば良いということだ。しかるに、財政当局は「復興増税を来年4月から」と言い出す始末だ。本当に能天気としか言いようがない。情報操作は得意でも、経済の動きが見えないのでは、とても日本経済の舵取りはできまい。

(今日の日経)
 首相、退陣3案件成立後、時期は明言せず。循環冷却すぐ中断。米量的緩和相場息切れ、5~6月、世界で株安。公的年金の運用苦戦、池の中の鯨。二重ローン、救済待ちも。日経・CSISバーチャル・シンクタンク。中国・中所得国のワナ。ギリシャ・7割再投資案。米個人消費、5月横ばい。ホンダ・中国で3割賃上げ。外食市場規模は年々縮小の図。フジ、ネット番組ごとにスポンサー。一目均衡・日立の100年・西條都夫。配当利回り、長期金利との差拡大。経済教室・節電・生活変えて・四元正弘。

※急遽作ったプラントがすぐに動くと思ったらいけないだろう。 ※中所得国になれば、成長率は半減する。3割も賃上げになれば、投資は鈍り、成長は減速する。避けられぬことだ。 ※日立の海外での鉄道部門の活躍は、JRが投資を再開したことが基になっている。国内が良くならないと、海外でも強くなれないのだ。※コンテンツのスボンサーをネットで集める時代になるね。
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復興会議に必要な政治学

2011年06月26日 | 経済
 復興構想会議のメンバーには、親しくさせていただいている方も居るので、あまり、批判じみたことは言いたくないのだが、こういう性質の政府会議は、まあ、難しいものだと、そういうことなんだろう。

 政府会議の提言は、必ず総花的で抽象的なものになる。これはメンバーの責任ではなくて、多分野の有識者を集めれば、そうなるのは仕方がない。お役所は、そうなるようメンバーを集めるわけである。その上で、言ってもらいたいことについてのみ、具体的な説明をする。復興会議の場合、それは増税だった。

 例外的な政府会議としては、慶應大の権丈善一先生がメンバーだった社会保障国民会議がある。先生がイニシアチブを取って、議論の方向を決定的付けるような推計値の資料を、お役所に作らせて出させる展開になった。これは、いくつかの要素が重なった珍しいケースであり、普通は、こうした鋭利で豪胆な方は、メンバーに選ばれない。

 復興会議で増税を提言するなら、本来、被害状況を着実に算定した上で、復興費を賄う中期的な財政計画を作らなければならない。しかし、そういう基本動作のできるメンバーは、居なかった。あえて選ばれなかったということだ。もしかすると、財政当局の流す情報に飼い慣らされないような「豪の者」は、日本には居ないのかもしれないがね。

 6/24の「誠実な経済運営」を見てもらえば分かるが、今回の震災への財政的対応には、何の難しさもない。巷では「震災負担で財政破綻」の本が店頭を賑わしているが、きちんと計数を踏まえれば、どうと言うことはないのである。むしろ、増税を煽るのに、数字の隠蔽・仮装が必要になる始末なのだ。

 震災の被害額の推計については、会議の直前、ようやく、16.9兆円という政府の二次推計が出された。議論の大前提となる数字がこんなに遅れるなんて、意図的なものを思わざるを得ない。その内容は、16~25兆円とした一次推計から、大幅に下方修正したもので、下限に近い数字だった。

 本コラムでは、被災地の積み上げの数値を基に、震災から1か月の4/15の段階で、10~15兆円という試算をし、政府の一次推計は過大と批判している。また、政投銀東北支店がマクロ的手法で16.4兆円という数字を出していることも紹介した(5/4)。筆者や民間でも、これくらいできるのだから、政府の推計の遅さは不自然だ。

 しかも、二次推計の16.9兆円でさえ、膨らませている可能性がある。この推計は、阪神大震災の場合と比較して、建築物等の被害額が大きいのが特徴だが、警察発表の全壊・半壊の数字は、阪神のときと大差なく、この点に齟齬がある。ここからは想像だが、広範囲に渡った一部損壊を大きく積み増したのではないか。一部損壊は、公でなく私で対応するのが基本だから、ここが膨らんでも財政需要には結びつかない。

 実は、復興会議提言の「資料11」には、阪神の例が掲げられている。被害額9.9兆円に対して、国の負担は6.1兆円だ。この比率を当てはめれば、政府の二次推計の16.9兆円をベースにしても、10.4兆円にしかならない。しかも、一次補正で既に4兆円が確保され、二次補正は、税収上ブレ分などを元に2兆円が用意できるとされる。

 これらは、一応、国債の増発なしに賄われている。したがって、残りの4兆円を復興債で賄うにしても、その分なら、大した増税はいらないことになる。あえて1/60という国債償還の一般原則を採らず、10年分割という「短期」で償還するにしても、4000億円にしかならないのである。これは、2011年度に予定してた法人減税の純減分にも満たない。

 そんなわけで、何と「資料11」では、根拠があやふやな、一専門委員の試算を、わざわざ大きく掲げて、復興・復旧のための国費14.4~20.0兆円としている。こうでもしないと、増税が必要という感じがしないからであろう。これって、もう「隠蔽・仮装」の領域ではないだろうか。これを見て、増税が必要と誤解するにしても、そう思う国民が悪いというのかね。

 ちなみに、ムーディーズは、過大な政府の一次推計の被害額を根拠にして、国債の格付けを引き下げている。二次推計で被害額は大幅に下方修正されたのだから、格付けは、戻してくれるのかな。まあ、格付け会社なんて、頼りにならんものだと言われれば、それまでだが、増税のために、日本の財政当局が、ここまでするとは、普通、思わないだろう。筆者のようなひねくれ者でなければね。

 復興会議の議長は、著名な政治学者の五百旗頭真先生である。先生には、震災と言う悲惨な事態に際しても、増税のためなら、不誠実な行動も厭わない人達の問題性を衝いて欲しかった。経済や財政は不案内でも、政治過程については御専門のはず。日本の政治がダメなのは、お役人が操作する情報を、政治も、新聞も、有識者も、そして、格付け会社も、見抜けないからなのだよ。

(今日の日経)
 企業業績下期に急回復、通期は6%減益。構想会議、復興へ臨時増税提言、土地買い上げには否定的。風見鶏・小さくなる政治。復興増税来年にも。けいざい読解・ユーロ人の物語。原発賠償支援法案・国の責任どこまで。中国有力企業の賃上げ加速。有機EL技術が韓国に集積。読書・最初の刑事。平泉も世界遺産。
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バーナンキ議長の悩みへの共感

2011年06月25日 | 経済(主なもの)
 FRBのバーナンキ議長は大恐慌の研究でも知られ、昨年秋にQE2を始めたときには、中央銀行の役割について自信を持っていたように思う。それから9か月が経ち、結局、インフレ率の上昇と引き換えに得たのは、鈍い成長でしかなかった。これでは、沈鬱な気持ちにもなろう。経済運営を担う者は、こういう壁に必ず直面するものだ。

 この悩みを端的に言うなら、「金融を緩和したのに、なぜ設備投資は出てこない」となる。経済成長を果たすには、設備投資を高める必要があるのだが、これがコントロールできない。むろん、経済学の教科書には、低金利にすれば高まると書いてあるわけだが、そう答えて良いのは学生まで。ストレートにそうならない辛さを知っているのが、プロと言える。

 バーナンキ議長の戦略は、一部では成功を収めた。それは、輸出部門の好調さだ。QE2によって、ドル安が進み、新興国の経済が過熱して、輸出が拡大した。当然、輸出部門は、設備投資も行っている。今日の日経は、「米企業、二極化進む」とし、「大企業、新興国けん引で積極姿勢」とあるのは、その表れである。

 通常、金融緩和は、ストレートには設備投資を刺激せず、輸出と住宅投資という二つのルートを通じて間接的に促進される。輸出や住宅投資の拡大で所得が増加し、それが消費需要を呼んで、内需関連の設備投資が出てくる。こういう順番である。これに財政出動が加わって、景気の浮揚は図られるのだ。

 米国の景気回復が鈍いのは、ある意味、理由は簡単だ。住宅投資は、サブプライム・バブルの後遺症で、低迷を続けており、設備投資の促進は、「片肺飛行」になっているのである。また、これを補完する財政出動も、減税と軍事費という不効率な手段が選ばれたために、規模の割には、雇用拡大に結びついてない。

 まあ、日本はと言うと、輸出が伸びると、すぐに緊縮財政を取って、内需への波及をカットしてしまうし、低金利政策に長く依存したために、住宅投資の先食いが甚だしく、いわば、「両肺」が潰れている状態だ。だからデフレになっているわけで、政策どおりの経済パフォーマンスということになる。

 バーナンキ議長の悩みが深いのは、QE2によって資源価格が高騰し、物価上昇が早くも国内に波及してきたことである。ガソリン価格が上昇すれば、低所得層を中心に消費が停滞するのはやむを得ない。日本人は、消費税増税で価格を上昇させても、消費に悪影響はないとするようだから、信じられぬ現象かもしれないが。

 しかも、QE2は新興国の経済を過熱させてしまった。各国によるインフレ抑制のための引き締め政策によって、新興国の需要、米国にとっては輸出だが、これが萎みかねないところまできている。特に、中国は、既に不動産バブルが弾けているようであり、いつ成長が失速してもおかしくない状況だ。このままでは、米国は、「片肺」の輸出まで失いかねない。

 経済学では、金融緩和は、時間の経過につれ、インフレを加速させて、無効化してしまうという議論がなされる。おそらく、バーナンキ議長は、この原理が、あまりに早く表れたことに、悔しさをかみしめているのではないか。結局のところ、頼りとする金融政策の無力さを証明することになるからだ。

 QE2は、株高を通じて高級品の消費を拡大した。これは、日本には、あまり見られない現象で、多少、羨ましくもあるが、肝心の、株高を通じた投資の促進は、見るべきものがなかった。出てきた投資は、M&Aのマネーゲームである。そこは、日本も同じであり、今日の日経が「日本企業のM&Aが8割増」と伝えるとおりだ。

 日本の法人減税は、管政権の迷走のために、日の目を見そうにないが、もし、実現していたら、M&Aの急増は、槍玉に挙げられていただろう。潤沢な手元流動性が、国内の設備投資でなく、海外企業の買収に充てられていては、日本の成長には役立たない。財界や日経が喧伝する「法人減税で成長」は無意味とは言わないまでも、不効率なバラマキ政策でしかない。

 今後、米国はどうすべきなのか。正直、バブルの傷が癒えるまで耐えるしかない。成長鈍化によって、長期金利は低下し、ドル安が進むだろう。資源インフレも甘受し、更なる実質的なドル安で地道に輸出を伸ばし、それを起点に設備投資の比率を高めていくしかない。

 それと同時に、徴税を強化して教育や医療などに使い、軍事費、特に、海外のそれを削減して、財政赤字と経常赤字を抑えることも必要だろう。何やら、IMFが経常赤字の途上国に下しそうな処方箋ではあるが、それほど道は険しいということである。バーナンキ議長の抱える重荷には心から同情する。

(今日の日経)
 海外中銀、円資産35兆円に。一体改革不発、仙石案不発。 日本企業のM&Aが8割増。商品市場の過熱和らぐ、長期金利も低下。2次補正、地方に1兆円超、予備費8000億円。福島全権民を健康調査。米企業、二極化進む、雇用7割の中小は国内厳しく。ベトナム、インフレ突出。セブン店舗に無線LAN。電気使わず工場ヒンヤリ。前日夕刊・震災の直接被害16.9兆円。
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誠実な経済運営とその責任

2011年06月24日 | 経済(主なもの)
 震災から100日が過ぎた。大きなショックによって、日本は変わるのではないかと考えた人もいたが、相変わらずである。あまりの体たらくを見せられると、それが当たり前のように思えてしまい、在るべき姿がどんなものかすら、分からなくなってくる。本当は、どうすれば良かったのだろう。

 震災後に見せた日本の財政当局の行動は、震災をダシに増税を図るものだった。予想はしていたものの、被害想定を過大に仮装して、財源は隠蔽するという醜さ極まるものであり、この期に及んでも、誠実さはかけらもないのだと、愕然とさせられた。もし、筆者であれば、どうしたか、改めて書こう。

 まず、直ちに、5.3兆円の補正予算を組んだ。2011年度予算は、前年度補正後と比べて、4.3兆円の緊縮予算になっていたから、予備費1兆円と合わせ、中立予算に戻す。これだけでも、阪神大震災の復興予算の1.5倍になる。その中には「基金」なりを設けることで、知事の判断で迅速かつ自由に執行できるようにしただろう。

 財源は、前年度税収の上ブレ分の1.5兆円と2.8兆円の国債増発で賄う。増発と言っても、低金利が続いたことによって、前年度国債費の節約分が3兆円弱あったから、これを流用することとし、マーケットには安心感を与える。もっとも、この程度の増発なら、問題なく消化できる需給状況だったし、日銀は、震災直後に債権買入枠の拡大までしていたが。

 次いで、中期的な財政計画を公表する。2010年度補正後並みの歳出規模を維持するだけで、5年間で総額15兆円の復興費が確保できることを示し、国民に希望を持ってもらう。具体的には、社会保障費の自然増が毎年1兆円あるから、復興費を2011年度5兆円、2012年度4兆円と減らしてゆき、5+4+3+2+1=15兆円となる。

 財政再建に関しては、復興費の金利分と1/60償還分の増税を提案する。今年度は、1.2%+1.7%だから、5兆円に2.9%を乗じて1450億円だ。5年後でも4350億円にしかならない。これなら、予定していた法人税の引き下げの一部を見送るだけで確保できる。たったこれだけで、財政規律は十分に保てるのだ。

 また、現在の税収はリーマンショックのために大きく落ち込んでおり、それ以前の2~3%の成長率に復帰するだけで、10兆円もの増収が見込めることを説明する。加えて、成長率が回復し、デフレから脱すれば、年金のマクロ経済スライドが作動し、社会保障費の抑制まで達成できることも伝える。

 つまり、国民が復興に努力し、元通りにさえ戻せば、消費税がなくても、財政状況は大きく好転させられるということだ。むしろ、破綻を煽って消費税をやったり、国民に隠して緊縮をしたりして、成長の足を引っ張るようなことをしてしまうと、かえって、財政再建を遠のかせる。脅迫や陰謀ではなく、公明正大さこそが、財政には欠かせないのである。

 その上で、消費税増税については、物価上昇率が1%を超えるようになったら、1%刻みで徐々に引き上げることことを提案する。その際には、社会保険料の軽減など低所得者への手当も必要だ。すなわち、成長で所得が増したら、その幾分かを財政に提供してもらい、それによって、無理なくプライマリーバランスを回復させ、次世代へ債務を送ることを防ぐわけである。むろん、物価安定にも役立つことになる。

 さて、以上の政策は、決して特別のものではなく、ごくスタンダードな、平凡と言って良いようなものである。こうして、経済運営のレファレンスを示すと、現実が、どれほど愚劣であり、生産的でない議論が延々となされているか、鮮やかに理解できると思う。この愚劣さは、政治の無能さだけによるものではない。財政当局の思惑を、もっともらしい政策だと、簡単に騙されてしまう、全国紙や有識者の責任も重いのである。

(今日の日経)
 IEA、石油備蓄を放出。コメ先物が上場へ。世界経済、暗雲晴れず・滝田洋一。車業績、回復ばらつき。生損保、地震保険支払い急ぐ。米の量的緩和終了で円高定着の見方。自然エネ電力、競争で安く、電力輸入増えず。マツダ、極東に工場。ホテル稼働率5割台。大機・消費税増税・カトー。経済教室・節電経済・高橋進

※震災関係で利益は落ちてない、円高要因が大きい。税収が落ちたら、政策の責任だよ。※米景気が減速すれば円高に振れるのは目に見えている。内需を広げておかないと大変なことになる。増税と緊縮が大好きの日本人に言ってもムダかな。 ※原発か、自然エネかでなく、コストを下げることが大事。※カトーさん、もっともだよ。でも、財政当局はデフレでもするつもりだ。
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自然利子率の下の設備投資

2011年06月23日 | 経済
 エコノミストは、それぞれ経済観(モデル)を持っているから、それに反するようなことを言われても、煩わしく感じるだけかもしれないのだがね。今週のJMMの北野一さんの論考を読んで、気になったところがあったので、書くことにした。

 今週のJMMは、日本の財政に関するIMFの見解について意見を問うもので、北野さんの答を楽しみにしていたのだが、すれ違い気味だったように思う。答えは、実質金利が国際的に収束しており、それと比較して、日本は人口減少で自然利子率が高いため、デフレになってしまうというもので、処方箋として、企業の積極的な投資の必要性を指摘している。

 筆者の場合、長期的な経済の動きを見るのに、設備投資のGDP比率を指針としている。前にも書いたと思うが、それは、リーマンショック前の2008年前半には、かなり高まっていて、バブル景気前後の1988年とか、1992年の水準まで達していた。つまり、歴史的に見て、高水準の設備投資がなされていたということだ。

 これは、世間的には意外な事実だと思う。日本は、法人税が高く、規制が強く、FTAも遅れていて、「企業が逃げ出す」と叫ばれているのに、高水準の設備投資がなされていたなんて、おかしくないかと、そう思われるに違いない。しかし、事実なのだ。

 したがって、問題は、高水準の設備投資がなされていたのに、なぜ、デフレだったのかということだ。確かに、法人減税も、規制緩和も、FTAも、それを推進すれば、設備投資の押し上げには役立つだろうが、本質は、そこではない。今日の日経が報じる通りとすれば、産構審は、的外れの議論をしようとしていることになる。

 普通なら、高水準の設備投資がなされれば、デフレは脱しているはずである。ところが、そうならなかったのは、リーマンショックが起こるまで、政府は、緊縮財政を敷いて、需要を吸い上げ、経済にデフレ圧力をかけ続けたためである。もし、これをしていなければ、ショック前にデフレを脱していただろうし、ショックがなければ、足取りは鈍いにしても、デフレを抜けていたかもしれない。まあ、これが筆者の経済観ということになる。

 実は、高水準の設備投資がなされていたと言っても、投資全体のGDP比率で見ると、さほどではない。要は、住宅投資と公共投資の水準が、かつてに比べると低いからである。これらの投資の必要性は人口減によって下がるから、その意味で、自然利子率は「高い」とも言える。ことによると、今後は、貯蓄投資のバランスを取るのに、バブル期並みの「超」高水準の設備投資を目指すことが必要なのかもしれない。

 もちろん、そうした無理をするよりは、デフレを脱するまでは、歳出削減をしたり、増税をしたりするという早まったことは控え、自然増収を待つにとどめて、設備投資の自律的な伸びを見守ることであろう。そうした平凡な経済運営ができないところに、日本経済の本当の病がある。
 
(今日の日経)
 政策空転出口見えず。データセンター関西増強。電力需要想定超えも昨年より1割少なく。社説・日米で対中戦略。3次補正大幅遅れ。原安委2~3年かけて指針改定。政投銀に一線退任の会長。被災金融機関に9月注入。地震保険1兆円突破。原発穴埋めコストの壁。産構審・法人税とTPP。自治で中朝対立か。中国5大電力は燃料高が重荷。中国の消費者物価6月6%台か。がれき焼却、民間始動。東電特損1260億円4~6月。地熱発電増設の動き。ソニーの電子書籍の価格は紙と同水準。経済教室・サプライチェーン・関満博。広告・涼宮ハルヒの驚愕。

※リスクを避けるなら、地震が済んだところでは。 ※3年後の指針に価値があるのかね。 ※不動産バフルが弾けているのに、引き締めは続けないといけない。※やはり、東電の負担は、この程度か。 ※紙と同じにするところに限界がある。※発売を遅らせて、海外同時発売らしいね。コンテンツ保護にはタメが必要。それが難しい業界に問題あり。
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世間の騒ぎと市場の落ち着き

2011年06月22日 | 経済
 今日の日経は、「マーケット・ウォッチャー」で、震災以降の長期金利の動きをレポートしてくれた。世間では、消費税増税をしなければ、長期金利が跳ね上がり、財政破綻になるなどと、おどろおどろしいことが叫ばれているが、プロの世界である債券市場は、なんとまあ、落ち着いたものであることか。

 簡単に推移を追うと、震災直後、金利は1.3%から1.2%まで急落したが、4月上旬には1.3%を超えるところまで戻した。この頃、震災被害は16~25兆円に上るとされ、大規模な復興予算が必要だと言われた割には、この程度である。実は、この1.3%を超える水準とは、リーマンショック後に「野放図」な財政出動を行っていた頃が、そのくらいであった。

 つまり、10兆円といった巨額の財政出動を行った場合における、覚悟しなければならない高金利は、世間の想像とは、随分、違うものなのだ。数字で見せられると、来年春にも消費税を上げなければ、大変なことになるとは、誰も思わないのではないか。少なくとも、成長の回復を確認するのを待って増税するだけの時間的余裕はあるはずだ。

 さて、4月に戻した長期金利だが、その後、補正予算の具体化に連れて更に上がると思いきや、逆に急落してしまう。5月には、1.15%を割り、それから今日まで約2か月間、この低水準をうろついている。その理由は、米国の景気が減速するという不安が出てきたためだ。改めて言うまでもないが、長期金利は、日本の財政赤字の状況以上に、国際的な金利動向に強く影響されるのだ。

 日経の記事の中で、バークレイズの森田長太郎さんは、「国内の景気回復と世界経済の減速の間で綱引きをすれば、金利低下圧力の方が強い」とする。むろん、筆者も同様の見方だ。記事は、海外が減速すれば、1%割れもあるとしており、秋に大規模な三次補正を組む頃、金利は大台を割っているという「奇妙」なことが起こるかもしれない。

 海外が減速するということは、輸出が鈍って復興も遅れるということだから、内需で支える必要性が強まって、復興増税や緊縮をしている場合ではなくなってしまう。そもそも、復興予算には、ごまかしがあり、前年度補正後と比較すれば、財政は、ほとんどプラスになっていないのだから、なおさらだ。

 世間や政治は、財政破綻だ、増税だと大騒ぎだが、プロの世界である債券市場は、落ち着き払ったものである。むしろ、日本経済が力強く復興するとは思っていないのだなと思うと、ちょっと寂しくなるくらいである。

(今日の日経)
 国会70日延長へ、3次補正は新体制で。日米安保委・普天間14年正式断念。社説・年金医療の効率化なしに消費増税なし。公取委・BHPとリオの審査公表。復興債発行で国債計画見直し。量的緩和終了確認へFOMC。三陸の水産・冷食の復旧遠く。国債利回り、海外減速なら低下も。経済教室・サプライチェーン・山田日登志。

※日経の社説はワンパターンだね。社会保障費は自然増で毎年1兆円増えるのだから、効率化しても、増税は避けられない。入院日数を減らすには、人手が必要だから、かえって負担増になるかもしれないよ。
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デフレでも消費税の人達

2011年06月21日 | 経済
 常識を見失ってはいけない。「消費税を上げるなら、デフレ脱出の後」。それだけのことだ。政府・与党は、2015年度までに消費税10%という方針を決めようとして、「経済状況の好転を前提に実施」という妥協案を示したが、「その基準を数字で明確にすべき」と反論されて、決定には至らなかったようだ。

 これは、もっともなことだろう。今は、震災のショックを受け、経済が落ち込んでいるから、水準は低くても、底を打っただけで、方向は上を向くことになる。それだけで「好転」とされてしまうと、デフレ下で増税と言うことになりかねない。民主党の政治家も、さすがに騙されなかったようだ。

 日本の財政当局がしようとしているのは、デフレ下の増税である。しかも、1%ずつの刻みで緩やかに上げるつもりもなければ、増税の弊害を和らげる措置も一切取るつもりがない。政策としては、経済状況との整合性を無視した極めて愚劣なものである。本来、財政再建はインフレを避けるためのものなのだが、それ自体が自己目的化している。

 デフレ下の増税は、先日、IMFも提言している。消費税増税を2012年から始めて、2017年までの6年で15%まで引き上げるという急進的なものだ。今どき、国際機関の提言だからといって、有り難がる人はいないと思うが、日本の財務省出身者が副専務理事なのだから、財政当局と、そっくりの主張になるのも当然だろう。このタイミングで出してくる政治的感覚は大したものだが、中身はお粗末だ。

 そのIMFだが、日本の経済見通しについては、2011年は、-0.7%成長、2012年は、2.9%成長としている。2012年だけなら、高成長に見えなくもないが、均せば、1.1%の低成長にしかならないわけで、当然ながら、物価上昇率は、両年ともゼロ近傍である。こんなときに、消費税増税を始めようというのである。もっとも、「IMFの見通しは、景気の遅行指数」と揶揄されるから、今後、上げるつもりかもしれない。それなら、ぜひ、消費税増税を組み込んでも、物価上昇率がプラスになるという力強い見通しを示してもらいたいものだ。

 筆者は、消費税増税そのものに反対しているわけではない。それは長期的に必要なものである。ただし、経済と整合性をもって上げなければならない。増税の方針を決めるなら、「2013年以降、物価上昇率1%以上を前提として、1%ずつ引き上げる」で十分だろう。復興の進捗がどうなるか分からない段階で、どうして、過激な財政再建に走ろうとするのか、理解できない。いやいや、むしろ、復興の勢いは弱いと見て、デフレでも押し通せるよう、今のうちに決めておこうという魂胆かもね。

(今日の日経)
 自動車・期間従業員の採用再開。国債スパコン世界一を奪還。税と社会保障の成案決定先送り。電力会社、取引所から調達、自家発電稼働率高める。2プラス2、共通戦略目標を全面刷新へ。月例・先行きには警戒感。ギリシャ支援綱渡り。一目均衡・財務省とFRBの出来レース。経済教室・サプライチェーン・新宅純二郎。

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海外からの処方箋の思い込み

2011年06月20日 | 経済
 ロゴフさんの「米、危機前回復に4年半」という説は納得できるね。日本の場合、バブル経済のピークだった1991年から数えると、景気回復を見せた1996年まで5年かかっている。また、現下の米経済の減速について、これが標準としているが、これは、QE2以降の勢いを出来すぎとしてきた本コラムの認識と共通だ。

 今の米国について、ロゴフさんは、住宅市場と公・民の過剰債務への対処には、年3~4%の物価上昇が望ましいとする。筆者も同意見だ。高めの物価上昇が過剰債務を癒すために欠かせない。こうした考え方と逆なのはECBであり、物価抑制を優先し、利上げを試みて、ギリシャなどの債務問題を深刻化させている。EU全体の物価上昇が少なければ、その分、ギリシャへは賃金などへの強いデフレ圧力がかかりる。それは耐え難いものだ。

 日本に関するコメントもあるが、長期的な見方を示したにとどまる。詳しい状況は分からないのだろう。労働力人口の減少が問題とするが、今は高失業率である。来年度の採用計画が久しぶりの2ケタ増になり、回復の見通しがついたにすぎない。また、政府債務は10年持たないと言われても、当面の舵取りを聞かせてもらわないと意味がない。

 今日の経済教室は、R・クーパーさんと浜田先生だったが、相変わらずの金融政策万能論である。日本は巨額の財政赤字を出しているのだから、財政では、インフレ圧力がかかっていると思い込んでいるのではないか。現実には、2010年度に10兆円もの財政デフレをかけている。これでは金融緩和もあったものではない。こういう情報は、日本の財政当局はダンマリを決め込むので、よくよく注意が必要だし、外国人には知りがたいものである。

 両氏の処方箋は、国際的に金融緩和を進めれば、通貨安競争も中和されて有益だとする。しかし、日本はゼロ金利なのだから、円は取り残されかねない。そうならないためには、財政も拡張し、物価上昇率を高める必要もある。この意味でも、財政への監視は欠かせない。むろん、見るべきは、財政赤字の大きさではなく、変化の大きさである。

 両氏は、復興増税は「傷を負った子供に重荷を背負わせるもの」とするが、実際には、こうした度外れたことを平然とする可能性が高い。金融緩和を強調するのは構わないが、それをすれば、デフレ財政も平気だと思われがちであり、これが問題になる。IMFもそうだが、海外からの処方箋は金融政策に偏る傾向がある。彼らも、震災対策の一次補正後でも、まだデフレ財政にあるとは、思ってもいないだろう。

 財政が前年度に比べて、デフレ圧力をかけているのか、インフレ圧力をかけているのか、日本の財政当局は一切説明しない。説明がなければ、新聞も報道しないし、それによって、一般の有識者も無知なままだ。まして、海外では知る由もない。他方、金融政策は、情報が極めてオープンであり、評価やアドバイスが集まる。「経済学者は、カギをなくしても、明かりで照らされた場所しか探さない」と言われるが、そんなものなのである。

 さて、今日は、パナソニックの今期見通しが掲載されたが、各社とも震災による減益は思ったほどではない。感覚的だが、税収が落ちるとしても5000億円といったところだろうか。税収減によるインフレ効果はほとんどないと見る。他方、長期金利は落ち着いているので、今年度も2010年度と同様、国債費を2~3兆円は節約できるだろう。何しろ、2010年度より8000億円も国債費を積み込んでいるしね。まあ、こういうことが分からないと、日本経済の処方箋なんて書けないんだよ。本当は。

(今日の日経)
 大卒採用13.7%増、団塊退職に対応。パナソ減益1割前後。社説・インドネシアとの戦略関係。エコノ・先進国にも物価上昇圧力、資源・素材+中国。米、危機前回復に4年半・ケネスロゴフ。核心・引きこもるな日本・土谷英夫。ミャンマー開発、日本に期待。カーニー試算・発電コスト48%増。太陽光発電・数年でグリッドパリティー。社内保育園で英語教育。景気指標・IMFのデフレ処方箋。経済教室・復興時のマクロ政策・Rクーパー・浜田宏一。

※採用には震災の影響はないようだね。 ※こんなにコスト増になるかね。「安い」原発の電力を使う国は限られる。他は火力で賄っているわけだから、日本が火力に移行すると電力価格が海外より割高になるというのは解せないな。 ※パリティーの見通しがあるのだから、家庭用電力は再生エネルギーですべて賄うのを戦略とすべき。戦略の割り当てが大事だ。 ※環境税も良いんだが、環境消費税なり、電気消費税として、消費税と同様、輸出企業に還付する仕組みが必要。
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