経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

ちょっと気になる社会保障と経済政策

2016年02月28日 | 社会保障
 論が立つ人ほど、大きな間違いを犯しがちで、「日本の年金制度は給付を子世代の保険料で賄う賦課方式。その子世代は少子化で減少。よって年金制度は崩壊の運命」といった論法を振り回し、世の中に誤解と不安を広げてしまう。そして、「積立方式に転換し、お金を貯めて子世代に頼らないようにすべきだ」と畳み掛ける。制度や経緯を軽視する経済学者には、困ったものである。

 そのあたりの事情を赤裸々に綴ったのが、このほど、慶應義塾の権丈善一教授が著した『ちょっと気になる社会保障』である。権丈教授は、隘路に迷い込みそうだった日本の年金改革を、正道に引き戻すのに大きな役割を果たされた。社会保障を学ぶ人に限らず、経済を通じて国民生活を改善したいという志を持つのであれば、ぜひ、書店の福祉のコーナーまで足を伸ばし、手に取ってもらいたい一冊だ。(へのへのもへじが目印)

………
 論理が完璧でも、誤謬に陥ってしまうのは、論理は、切れ味が良くても、情報量が少なく、現実性を欠きやすいからである。「学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し」であって、多様な知見を集めることなしに、優れた政策は作れない。とは言え、論理に頼る人は、現実は違うよと諭しても、論理に悖ると反発するだけなので、今回は、論理を追いながら、問題の所在を示していきたい。

 まず、思うべきは、時間軸の問題だ。今の出生率のままだと、子世代は親世代の7/10になり、子世代は10/7倍の負担をしないといけなくなる。しかし、支えるまでには1世代分、約30年の時間がある。その間、経済力が1.43倍になっていれば、問題は矮小化される。毎年、1.25%ほど成長していけば、30年後の経済力は、それより大きくなる。抜本改革を叫ぶよりも、成長を考えるべきだろう。

 ところが、そんなことを言うと、経済学者からは、「積立方式にして貯蓄を増やせば、成長は加速する」なんて意見が出てくる。貯蓄増が投資増につながり、高成長になるとナイーブに考えるようだ。しかし、日本は、これで大失敗した経験を持つ。1980年代後半から90年代前半にかけて、年金積立金の大規模な造成をしたために、消費不足に苦しみ、財政赤字を出して、公共事業で補うはめとなった。加えて、輸出に頼ろうと、円安狙いで行過ぎた金融緩和をやり、バブルを招いてしまう。無闇な貯蓄は、経済に歪みをもたらす。これが現実だ。

 そもそも、少子化に備えて、貯蓄を増強することには矛盾がある。少子化で人手を減らしてしまうと、いくらお金があっても、サービスを増やせなくなる。供給力が伴わなければ、人件費が高騰し、せっかくの貯蓄も価格の上昇で実質的に失われる。このように、お金だけでなく、実体で経済を眺めるのが、権丈教授も強調するアウトプット・セントラルの考え方である。東日本大震災では、巨額の予算を用意して、復興事業を進めようとしたが、人手不足で執行不能に陥った。将来、同様のことが起こり得る。

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 実は、筆者は、現在の130兆円もの年金積立金の取り崩しさえ難しいのではないかと心配している。2017年度に保険料率の引き上げが完了すると、いよいよ本格的な取り崩しの時代に入る。そうすると、需要が超過ぎみになり、インフレ率が上昇し、これを抑制するのに、消費増税が必要になってくる。当然、財政は黒字へと向かう。ちょうど、過去の「大失敗」とは、逆のことが起こる。ミクロのように、貯金を使って消費を増やせるわけではない。

 肝に銘じたいのは、マクロでは、貯蓄は債権債務の関係でしかないことだ。すなわち、次世代に、札束を渡しても意味はなく、引き継げるのは実体経済である。豊かさは、誰が債権を持つかより、供給力で決まる。したがって、少子化を緩和し、教育を施して、人的資本を増強するとともに、設備投資を進め、研究開発を展げて、物的資本を積み上げることが必要である。それがファーストであり、極端なことを言えば、それができるのなら、積立金や財政赤字がどうなろうと関係ない。

 むろん、積立金が十分にあったり、財政赤字が穏当な方が望ましいのは言うまでもない。巨額の公的債務というのは、財やサービスに対する「請求権」の偏在を示し、大きくなるほどコントロールは難しくなる。また、「請求権」の整理=資産の再分配は、政治的に極めて面倒である。できれば、次世代に面倒はかけたくないが、人的・物的資本の蓄積を犠牲にしてまでするほどのものではない。また、より高い供給力を持っておくことが面倒の解決を容易にもする。

 現在、人的投資は明らかに不足しており、逆にお金は有り余っている。ならば、将来、インフレで目減りしかねない年金積立金を取り崩してでも、乳幼児への給付を拡大したり、非正規への適用拡大に必要な保険料の軽減に充てたりすべきである。それが少子化を緩和し、非正規の能力を高め、将来の供給力を強める。万一、積立金の消耗で終わったとしても、それで低めの年金になるのは、支援を受けた世代であるから、諦めもつくというものだ。

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 さて、今回の権丈教授の御著書では、終始、うなずきながら、あるいは、ニヤリとしながら、読ませていただいたが、一点だけ、意見を異にするところがある。それは、「財政赤字は世代間の不公平になる」という下りである。アウトプット・セントラルの考え方を敷衍すれば、年金積立金の増強が虚しいなら、公的債務の削減もまた同じと言い得る。一般政府で括れば、それらは一つのものである。

 財政赤字が不公平になるとすれば、現状がクラウディング・アウトを起こしていて、必要な投資がなされていないとか、経常赤字を招いて、対外純資産を減らしているとかの場合に限られるのではないか。逆に、緊縮財政が与える需要リスクで、人的・物的投資が萎縮して、成長が妨げられているなら、財政赤字の縮小は、むしろ、不公平を増大させる。まあ、そんな小難しい話を初学者向けの本で展開しても、財政赤字も平気だと早合点させたり、戸惑いを与えたりするだけなのだがね。

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 アウトプット・セントラルの考え方を使えば、「世代間の不公平」とは言っても、将来、生産されるものを、今、消費しているわけでないことは、すぐに分かる。それは、タイムマシンでもなければ無理だ。本当に将来を損なう行為は、少子化で人口を減らしたり、労働力を使い切らないままムダにしている「設備投資の乏しさ」であって、財政赤字や政府消費の多寡ではない。巨額の公的債務は、緩やかなインフレの中で徐々に解消するほかない。愚かなのは、財政赤字の抑制を最優先にして、緊縮財政で投資不足を起こすことである。

 考えてみてほしい。公的債務は少ないが、人口減で弱体化した社会と、公的債務の始末に難渋しつつも、生産力は保持している社会と、どちらが良いか。将来において、前者は解決不能だが、後者には、まだ希望がある。「政策は、所詮、力が作るのであって、正しさではない」としても、「正しさ」さえ、出来上がっていないように思う。どうすれば良いかは、「基本内容」に記したつもりだが、所詮、老いぼれが作るものであって、正しい未来を考案するのは、若い皆さん方である。


(昨日・今日の日経)
 三菱商事が事業再編1000億円基金。大機・経済対策は勤労税額控除で・ミスト。G20・経済減速阻止へ協調、緩和頼み厳しさ。自社株買い最高へ。ITで格差を埋めろ。

※税制のプロであるミストさんが130万円の壁も一気に解決できると断言するのだから、何とか実現したいね。第一生命の柵山順子さんは、新しいレポート(2/26)で、「壁」のためにパートは時給の上昇に合わせる形で労働時間を短縮しているという鋭い分析をしている。こうした社会的損失の放置が将来の経済力を小さくしているんだよ。
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2/26の日経

2016年02月26日 | 今日の日経
 科学のおもしろさは発見にある。定説と異なるデータを見つけ、それをも説明できるように理論を拡張する。そこから得られる新たな知見が社会を改善するのにも役立つなら、これほど結構なことはない。金融政策は等しいのに、製造業と非製造業では、なぜ、効き方が違うのか。もしかしたら、需要が大きな影響を与えているのではないか。先日、示した機械受注の図から、そういう問題意識をもってもらえたらと思う。

 むろん、データはよく検討しなければならない。例えば、製造業の2015年5月頃は、実質輸出が減っているのに、機械受注が増えているのは矛盾しないか。そこで、業種別データまで降りて、たまたま鉄鋼業に超大型受注があったことを確かめれば、仮説はまだ捨てたものではないとなる。むしろ、仮説が偶発事象を見つけてくれたことに、有用性を感じる。

 また、非製造業が2013年春に、急速に伸びたことは、将来に希望を与えてくれる。景気というのは、底入れすると急速に良くなったりする。雇用が上向くと、所得への期待が増し、まだ物価も鈍い中で、消費性向が上がることがある。経営者も、売上が伸び始めると、設備投資をしないことは、ライバルとの競走上、逆にリスクになるので、やおら動き出す。

 そうすると、経済運営は、そうしたチャンスを活かすことが大事になる。反対に、不況も一服とばかり、緊縮財政に走れば、成長加速の芽を摘んでしまう。現実の経済は、正のフィードバックが働くダイナミックなもののようであり、金利が最適を導くとする教科書の調和的で平板なイメージとは、だいぶ様相が異なる。当然、政策も単調では済まない。


(今日の日経)
 シャープの鴻海傘下入り決定。消費増税・首相発言で憶測。上海株急落6%安。
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2/24の日経

2016年02月24日 | 今日の日経
 設備投資を機械受注で見ると、下図のようになる。非製造業(除く船電)と製造業を別にするのがポイントだ。すると、非製造業は消費に連れ、製造業は輸出に従っていることが分かろう。要は、設備投資は需要に沿って動くということで、金融政策で増やせるわけではない。これは、経済学の教科書的説明には反するが、昔からよく知られていたことである。

 筆者は古いので、日銀が異次元緩和をしようと、それ自体で景気を回復させられるとは、まったく思っていなかった。実体経済に影響が及ぶとしたら、円安が輸出を増やすというルートであり、やはり、今回も、そうだ。金融緩和をしても、海外の事情によって、円安にならなかったり、輸出が増えなければ、設備投資は増えず、景気も回復しない。

 また、非製造業が消費に連動していると分かっていれば、いかに異様な金融緩和をしようと、増税で消費を削減していたら、景気回復に、まるで意味がないのは、明らかだろう。財政再建も大切だが、日本の場合、ちょっと景気がよくなると、過激に緊縮をしてしまう。その匙加減をどうするかは、とても難しいことである。

 若い方には、データに親しむことを勧めたい。例えば、2013年に非製造業がいち早く立ち上がっているが、この時は、景気の転換点で、急速な消費回復があった局面だ。2015年5月頃は、製造業と輸出が食い違う動きを見せたが、これは鉄鋼業で、たまたま巨大投資があったせいだ。こうして、設備投資と消費や輸出との関係を突き合わせつつ理解していく。

 こうして見ると、この先の景気も読めてくると思う。輸出は、海外経済の状況から、あまり期待できず、消費も、財政が昨年度以上の緊縮を進めているのだから、なかなか厳しい。本コラムで示していたように、5兆円規模の補正予算を組んでいれば、ここまで困ることはなかったはずだ。金融も、財政も、状況に則して行わねばなるまい。

(図)



(今日の日経)
 厚生年金の加入逃れ阻止、79万社を特定。
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10-12月期GDP・成長なきアベノミクス

2016年02月21日 | 経済
 1年前、経済運営の成否は、成長で評価すべしと書いた(2015/3/1)。その観点から言えば、2015年のアベノミクスは、またも失敗に終わった。なぜなら、下図のように、消費増税の駆け込み前の2013年10-12月期から、まったく成長させられなかったからである。2015暦年の成長率が+0.4と、わずかながらプラスを確保できたのは、前年に消費増税の落ち込みがあったからに過ぎない。日本が世界経済の「敗者」であることは明らかだろう。

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 今回の10-12月期GDPがマイナス成長になったことは、かなりの痛手である。2015年の成長率が下がっただけでなく、出発点が低くなって、悪影響は、2016年の成長率にまで及ぶ。今後、各期が年率1.5%弱の順調な速度で成長を遂げたとしても、2016年の成長率は0.7%にしかならない。決して低いハードルではなく、もし、実現したら、世間は表面的な低さを貶めても、本コラムは「成功」と正当に評価するつもりである。

 顧みれば、アベノミクスは、2013年には1.4%成長を達成し、「成功」を収めている。これは、金融緩和と財政出動がかみ合った効果だ。2013年10-12月期の季節調整値を1年前と比較すると、円安を背景に、輸出は5兆円を取り戻し、政府支出が4兆円増す中で、消費は6兆円伸びた。ところが、翌2014年は、金融緩和と緊縮財政の組み合わせに一変する。10-12月期までに、輸出は9兆円伸びた一方で、消費は増税によって7兆円も減った。

 そして、2015年になると、異次元緩和第2弾をしたにも関わらず、輸出は頭打ちとなり、引き続く緊縮財政の下、今10-12月期の消費は1年前より3兆円も少なくなった。興味深いのは、2014~2015の2年間、政府支出は、ほぼ変わらなかったことだ。つまり、消費増税は、まるまる財政赤字の削減に使われ、社会保障などの政府消費の増は、公共事業の減で賄われた形である。

 ちなみに、GDP上の設備投資については、振れはありつつも、2013年は伸長、2014年が停滞、2015年に再び伸長したように見える。機械受注の動向から判断すると、非製造業は内需に連れ、製造業は外需に従ったと思われる。金融緩和は、円安にして、輸出やインバウンドを促したわけであるから、設備投資には、これらを通じて、間接的に効果が及んだと考えるべきだろう。

(図)



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 一口にアベノミクスと言っても、2013年と2014-15両年では、内容も、成否も異なる。金融緩和は一貫していて、輸出の動向からすると、異次元第1弾には効果があったと評価できるが、緊縮財政に変わった後の異次元第2弾は、円株にミニバブルを作っただけに終わり、成長の押し上げには無力だった。むしろ、食料などの輸入物価を釣り上げたことで、消費を冷やした可能性もある。

 近頃、浜田宏一先生は、『2020年 世界経済の勝者と敗者』という、P・クルーグマン教授との対談本を出された。その中で、クルーグマン教授は、更なる金融緩和を求めつつ、消費増税以外は評価すると述べているが、前述の財政支出が止まっていたといった計量的な検証も必要ではなかろうか。8%への消費増税は規定路線で不可避だったとしても、政府支出の増を止めるかどうかは、選択できることだった。 

 対談では、お二人の財政に対する見解には、多少違いが見受けられる。クルーグマン教授は、思い切った出動を求めるのに対し、浜田先生は、円安への期待と原油価格の低下を理由に、「財政支出が重要だとは思えない」としているからだ。おそらく、このようなスタンスがアベノミクスでの財政の転換の背景にあると思われる。日本の財政当局は、こうした監視の甘さを見逃さない。

 もっとも、日本が「三本の矢」の陰で何をしていたか、海外でも知られるようになってきている。こうなると、無条件で円安に理解を求めるのは難しい。「アベノミクスは期待に働きかけるもので、通貨安が狙いではない」という建前を繰り返しても、なかなか通じないだろう。他方、財政支出を拡大しようにも、かなりの政策立案能力が必要であり、官僚任せでは、ごまかされかねない。

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 アベノミクスについては、賛否の双方が政治的に都合の良い数字だけをピックアップし、投げつけ合っているように思える。いまや、3年分のGDPが出揃ったのだから、各期の成長の動向を見ることで、ある程度、客観的に政策の成否を語れるようになっている。図で見て取れるように、野田政権下の2012年は「失敗」、安倍政権下の2013年は「成功」、2014-15両年は「失敗」で構わないのではないか。 

 大事なのは、ここから教訓を引き出すことだ。結果を踏まえ、成功策は容れ、失敗策は排すことで、政策は成長する。この3年間の経験は、景気の回復には、金融緩和も財政出動も両方が必要という平凡なものだった。本当の難しさは、政策のコントロールにある。ひたすらに金融緩和では済まないし、大規模な財政出動には、税や社会保険料の軽減策を準備せざるを得ず、号令一下でできるものではない。

 2/18の経済財政諮問会議では、非正規労働者の待遇改善として、「130万円の壁への対応を含めた被用者保険の適用拡大」が掲げられた。言うまでもなく、負担軽減策と組み合わせることが不可欠だし、適用で制度的な差別を放置していては、同一労働同一賃金も、お題目に終わる。経済運営で「勝者」と「敗者」を分けるのは、いかに現実に即した議論をして、無理のない政策を編み出せるかである。


(今日の日経)
 不動産融資26年ぶり最高、緩和マネー動く。投機筋が円買い拡大。
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2/19の日経

2016年02月19日 | 今日の日経
 10-12月期GDPは-3%になってもおかしくないと見ていたから、-1.4%で済んだことは、やれやれという感じである。読み違えは、設備投資にあり、前期に続き、鉱工業指数の資本財出荷(除く輸送機械)と逆向きになった。これで動向を占うのは、早くて簡便なのだが、二度も逆だと、たまたまと思わず、鉱工業指数の速報後の統計もさらって、状況を点検しないといけない。

 まず、設備投資の半分を占める機械機器に関しては、鉱工業出荷内訳表では、国内向けは前期比は若干の減であり、総供給表の輸入も前期比が減だ。したがって、国内への供給が逆になっているわけではない。また、輸送機械については、鉱工業指数における資本財の輸送機械はマイナスであり、輸送用も同様だ。(ただし、消費財の輸送機械はプラス)  ひとまず、機械機器に齟齬はないようだ。

 建物等への設備投資に関しては、全産業活動指数の建設・民間企業設備(非住宅+土木)を見ると、ここは11月までの数字になるが、微増にとどまる。他方、ソフトウェアなどへの設備投資に関しては、特定サービス産業動態によると、情報サービス業の季節調整済指数は前期比+1.8だったので、設備投資でのウェイトは1/8程とは言え、若干のプラス寄与だろう。

 以上を踏まえると、設備投資は、鉱工業指数の資本財出荷(除く輸送機械)の前期比-0.9よりは落ちていないのは確かとしても、GDPのように前期比+1.4で、寄与度が0.2あることには意外感がある。いずれにせよ、これから、法人企業統計や個人企業経済調査の結果が判明し、GDPも2次速報で修正されていくので、その過程でズレの在りかがもう少し明らかになってくるだろう。

 一方、2/17に12月機械受注が公表され、製造業と非製造業で食い違う結果だった。非製造業は底入れをうかがわせるのに対し、製造業は、海外経済の影響か、下げ止まっていない。こうした様相だと、輸出型大企業の影響が映りやすい鉱工業指数で設備投資を占うのは、ますます難しい。今後の景気回復の転機は、原油安の恩恵によって非製造業がどのくらい伸びるかに注目したい。当然、中小企業の動向も重要になる。

 そんな中、第一生命の柵山順子さんの『ようやく実を結ぶ原油安 ~期待される中小企業の設備投資 』(2/16)は、タイムリーな内容だった。2015年は原油関連の輸入金額は9.4兆円も減り、2016年も5兆円程度の減少が予想されるとした上で、中小企業の利益状況が改善し、設備投資が伸びていると指摘する。着想の優れた内容で、柵山さんのレポートは、いつも興味深いね。唯一の不満は、3か月とあけず、もっと書いてほしいということだけだよ。


(今日の日経)
 風力増強で原発10基分。素材デフレで打撃、1月輸出12.9%減。諮問会議・消費喚起求める。
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2/16の日経

2016年02月16日 | 今日の日経
 10-12月期GDPは-1.4%と、筆者の予想ほど下がらずに済んだ。それでも、消費の落ち込みは激しく、除く帰属家賃が前期比-1.1にもなっている。民間消費の水準は305兆円と、消費増税直後を下回り、4年前の2011年10-12月期並みである。政府は「ファンダメンタルズは良好」とするが、それは金融経済の乱調に対して言うセリフであって、実体経済たるGDPに使うものではあるまい。

 「潜在成長率が0%台前半だから、しばしばマイナス成長になるのも仕方ない」とする向きもあるが、そうだとしても、2%も低いわけで、軽く扱えるレベルではない。今回の落ち込みは、消費増税に続く緊縮財政の下、公共投資が減退し、住宅投資が息切れした中で起きた。雇用や賃金も秋以降は明らかに減速しており、消費が締まるのも自然な成り行きである。頼りの企業収益も円高株安で低下は免れまい。

 予想外だったのは設備投資で、またも鉱工業指数とは逆の結果だった。ただし、ロイターによれば、マイナンバー対応や金融機関のシステム投資などが押し上げたようであり、一時的ではないか、注意が必要だ。そもそも、消費が失速しているのに、設備投資が独行するとは考え難く、更新や省力化の投資にもなりがちである。今回のGDPは、与野党を問わず、まじめに心配しなければならない結果である。


(今日の日経)
 ブラジル高炉2気休止。日経平均急反発1069円上昇。上場企業3月通期の経常増益2%に。

※KitaAlpsさん、お手数をおかけします。財政の説明は、なかなか大変です。
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異次元緩和Ⅱの結果が出た今

2016年02月14日 | 経済
 株安円高を嘆くことはあるまい。異次元緩和第2弾前に戻って、株価収益率や購買力平価から見て無理のないレベルになっただけである。思うべきは、消費増税のショックを補うべく、あるいは、再増税を促すがごとく、実施された異次元緩和Ⅱに、どれほどの効果があったかである。直後の1-3月期GDPこそ、在庫増で+1.1と急伸したが、その後は成長できなくなり、民間消費に至っては、食料価格の上昇もあって、むしろ、減退している。

 つまり、ミニバブルを作っただけで、実体経済には無効だったと評すべきであろう。結果を素直に眺めれば、今後、何をなすべきかは明らかだ。1/17に記したように、バーナンキは、米国の回復について、「財政政策がほかより制限が緩かったから」としている。経済政策の優劣は、既に決した。今後は、欧州と日本が早く学び取り、舵を切り替えられるかで、世界経済の行方は左右されよう。

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 その欧州だが、田中素香先生の『ユーロ危機とギリシャ反乱』は、なかなか濃い内容の新書だった。これからユーロを考える際の基本になるのではないか。特に、終章「ユーロの行方」は楽しませてもらった。傍からは崩壊すると言われるユーロへの域内での高い支持、機軸通貨のドルが圧倒的な中でのユーロと元の支え合いの始まり、そして、南北欧州の分断を克服するために資金移転をどうするのかなど、興味は尽きない。

 ギリシャの運命は、日本の沖縄経験と重なるように思える。米国は、利用価値の減った沖縄を、復帰という形で放り出し、基地の大量失業を押し付けた。受け取った日本は、公共事業で開発を進めるが、所得格差を埋めるのに苦労することになる。30年かけて、墓参の地からリゾートへと変貌を遂げ、いまや、コールセンターに加え、インバウンドや国際物流を取り入れ、最下位グループの県に追いつけるところまできた。

 東欧と違ってドイツ製造業の後背地とはなり難いギリシャが、基盤整備を進め、再び観光地として輝けるかは、田中先生が指摘されるように、ユーロ圏が債権者の論理を捨て、連帯へと変われるかによる。それは、支援の枠組を作るだけでも容易ではなかろうし、できたにしても、時間を要しよう。また、沖縄経験からして、歓迎されるだけではない複雑な感情も伴うように思われる。

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 田中先生の今回の著書では、緊縮財政に対する憂慮の念が強まったように感じる。ドイツの好調さも、しょせんはユーロ安の下での輸出需要に頼ったものであり、表立って言うことのない黒田日銀の狙いとするものと軌を一にする。緊縮財政を手控えた米国に対し、日欧が自国通貨安をしかけ、需要を獲得しようと躍起になっている。

 米国とすれば、ようやく、ゼロ金利から脱し、ある程度の資産価格の低下も覚悟しつつ正常化を図り、財政も赤字を拡大しているのに、妙なドル高で成長の足を引っ張られては、全体戦略が破綻しかねない。それで米国の景気が揺らぐと、元々弱まっていた資産価格は、更に下落し、今度は、体力をすり減らしている欧州の金融システムにストレスをかけることになる。

 要は、日欧の緊縮財政に、節度が求められるのだ。欧州については、シリアなどからの難民の急増を契機として、財政拡大への機運が見受けられる。問題は、日本であり、先進国で唯一、長期金利がゼロやマイナスに突っ込むほどのマネーの緩みぶりなのに、緊縮財政を更に強める路線を頑なに貫こうとしている。これでは、国際協調で円高を止めるのは難しい。

 日本では、補正予算が景気を浮揚させることになっているが、表面上、前回補正並みに整えてあるだけで、実際に需要に結びつくものは、4000億円ほど小さくされている。日銀への4500億円もの財源の溜め込み、地方財政へ移すだけの3000億円増のカウントといったテクニックが駆使されており、悟られぬ形でアベノミクスの命脈を絶とうとする財政当局の執念には恐ろしさを覚える。

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 一昨日、すなわち、GDPが公表される1営業日前に、12月の消費総合指数が出され、10-12月期は105.9と前期比-0.7となった。この具合では、週明けのGDPは相当厳しいだろう。2015年の消費総合指数は、上昇しては、それ以上に落ち込むことを繰り返しでおり、10-12月期は、消費増税直後とさして変わらない水準になっている。

(図)



 消費が伸びなければ、物価上昇が加速しないのも当然だ。異次元緩和Ⅱの成果は、週明け、数字となって明らかとなる。しかし、国会では、野党も大勢は財政規律を求めているようであり、慣行上、政府は、本予算が成立する3月末まで、緊縮財政の変更を口にできない。本当は、円株がオーバーシュートしないうちに対応策を打ち出して、国益のため、民心を安んじられたら良いのであるが。

 今世紀の世界経済の問題は、需要という成長の鍵になる大切な「公共財」を、バブルという形でしか供給できなかったところにある。米国のバブルが需要を生み、中国の設備投資を起動させ、その需要がドイツや新興国を成長させた。今は、その逆回転が起こっている。少なくとも、それぞれが内需を用意すべきであって、自国の財政だけはキレイにしようと、他国の需要ばかり狙うのは論外なのだ。


(今日の日経)
 株下落は日中で鮮明、日本株の4割が異次元緩和前水準に。FT・新興国危機は米バブルから。
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弾けた黒田バブル

2016年02月11日 | 経済
 バブルは弾けてみて分かる。昨日の日経平均は一時15,500円を割り、異次元緩和第2弾前の水準に戻った。結果として、金融緩和によるバブルだったわけだ。2014年10月末のハロウィン緩和から、順調に経済が成長していれば、実体が株価に追いついていたかもしれないが、週明けに公表される10-12月期GDPは、2015年度の8兆円の緊縮財政もあり、2015年1-3月期の529兆円を下回るだろう。金融緩和と緊縮財政の組み合わせはバブルを作る。

 一方、ドル円は、115円と書こうと思ったら、朝方に113円台前半まで来ている。2014年10月は111円台だったから、幾ばくかは効果が残っている。もっとも、円安による輸入品の値上がりは、消費の増大で物価が高まるのとは逆に、国民生活の水準を低下させてきた。脱デフレは、物価が上がりさえすれば良いというものではない。円安が設備投資や雇用・賃金の増加に結びつかないと意味がない。

 月曜には12月毎勤が公表されたが、季節調整済指数で見ると、現金給与総額は、8月以来、まったく伸びなくなった。10-12月期平均の前期比は、7月が高かった反動もあり、-0.7と落ちている。常用雇用は、鈍りつつも、前期比+0.4を確保したものの、結局、常用雇用×給与総額は、前期比-0.4となった。これでは、10-12月期の消費が低迷し、GDPがマイナス成長に陥るのも仕方ないだろう。

 また、1月の景気ウォッチャーは、現状の季節調整値が48.5と、前月より2.0低下して50を割った。先行きも同様に49.4と、1.7の低下だった。分野別でも、軒並み50を下回っており、雇用関連だけが50以上を維持している。こうしたことから、景気の10--12月期の不調ぶりは、年明け以降も続いていると見るべきであろう。あとは、最後の砦である雇用が持ちこたえられるかである。


(今日の日経)
 米利上げペース減速示唆。日経平均1年3か月ぶり安値、円高一時113円台。長期金利・ゼロ%挟み乱高下。経済教室・新自由主義的政策の是正必要・Sルシュバリエ。

追記 : やれやれ、NYは113円台で終わったが、シドニーは112円台になっているじゃないか。1/2の予言がこんなに早く当たってしまうとは残念だよ。正確に見通せていても、この国のお役に立ててないのでは虚しいね。
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無限ループのデフレ日本

2016年02月07日 | 経済
 先週金曜日に発動された日銀の「三次元緩和」だったが、円・株ともに元の水準へと戻り、「三日限緩和」に終わった。この水準で固定化する働きを見せるかは、これから、マーケットが教えてくれる。他方、10-12月期GDPのマイナス成長が確実視される中で、企業収益にも陰りが出てきた。これは税収にも響いて、緊縮欲を刺激しよう。金融緩和による回復、緊縮財政での失速、そして、更なる金融緩和の催促という、無限ループに終わりは見えない。

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 昨日の日経は、「上場企業が増益を確保 今期は内需が下支え」と伝えていて、前向きな感じを出しているが、3か月前は「上場企業16年3月期は8%増益」(11/7)だったから、今回の「3%弱の増益」とは開きがある。原因は、「10~12月の3か月でみると経常利益は前年同期比で5%減」となったためである。内需企業が牽引しているとは言え、マイナス成長になっていなければ、恩恵はもっと大きかったはずだ。

 今週は、サイバー攻撃で4日間もHPの閲覧ができなかったものの、12月税収がオープンになった。これを反映させた2015年度の税収予想のメンテは、軽く済むと思っていたのだが、企業収益がこの有様である。法人税収の大幅な改定をせざるを得ず、下表のとおり、予想方法を変えて、やり直すことにした。結果は、58.4兆円と、0.4兆円の下方修正である。補正予算からの上ブレは2.0兆円となる。

 これまで、法人税は、証券各社の企業業績見通しに基づき、二桁増としていたが、対前年度決算比+6.4%である補正後の予算額を、そのまま採用することにした。したがって、法人税の上ブレはゼロになり、予想を引き下げる最大要因となった。なお、3月初めに、証券各社の新たな見通しが発表されるので、これを踏まえつつ、再度、検討するつもりである。

 また、所得税については、12月までのトレンドを5月税収まで伸ばす方法とした。補正からの上ブレは0.5兆円弱であるが、株価下落を踏まえると、資産所得からの目減りも頭に入れておく必要があろう。他方、消費税は好調さが続いており、増税前の2014年度の1.69倍になると予想している。上ブレは1.2兆円に及び、1%当たりは2.9兆円で、2000億円余計に収税できる勘定だ。

 金融緩和による税収増は脆いものであり、円・株の動向に左右される。本来は、内外の資産からの所得が好調なうちに、金融緩和の効果を所得増から消費へと波及させ、物価を高めて、税収を堅実なものにしていくのが在るべき姿だ。しかし、そうなる前に、国民の生活水準を下げてでも、早々に税で吸い上げてしまうから、いつまでたっても、不安定さから抜け出せず、「もっと財源を」となるのである。 

(表)



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 振り返れば、1997年に消費増税でデフレに転落して以来、金融緩和で小康を得ては、緊縮財政で成果を食いつくし、内需を育てないまま、効果が切れて苦しくなると、更にクスリの量を増やすことを繰り返してきた。何度、失敗しても、消費需要が超過して、物価が上がるようになるまで、すなわち、デフレを脱するまで、緊縮で需要を抜いてはいけないことに気がづかない。いつも、脱デフレは、目前のままに終わる。

 同じ光景ばかり見せられると、まるで無限ループの中で生きているようにさえ思える。これから、海外からの経済ショックで景気が瓦解し、一層の金融緩和に加え、財政出動も余儀なくされると、今回のループは完成し、次のサイクルへと入る。ただし、企業は海外市場へ逃げ、少子化や貧困化がはびこり、日本の経済と社会の劣化だけは、直線的に病状のステージを上げている。

 次の不況への備えとして、ウルフさんは「ヘリコプター・マネー」なんて酔狂な名を付けているが、非正規に差別なく被用者保険を適用する一方、低所得者の保険料を軽減してやれば、現実的にできることだ。しかも、リフレで名目賃金が上がれば、軽減に要する財源は徐々に減り、いきなり抜かれたりもない。結局のところ、このループから解脱するには、緊縮欲に勝る、虐げられた人々への愛が必要なのだと思うね。


(今日の日経)
 非正規賃金上がりやすく、熟練度を反映。フクシマは想定外か・滝順一。FT・次の不況に備えはあるか・Mウルフ。
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2/5の日経

2016年02月05日 | 今日の日経
 財務省ホームページがようやく復活した。今週はダメかと思ったよ。さて、今日の大機小機では、追分さんが「非正規」を取り上げていた。提案の内容は、非正規の正規化、正社員の長時間労働是正や多様な働き方の容認というものだ。むろん、筆者も、それらには賛成だが、なぜ、被用者保険の適用差別は、課題として認識されないのだろうか。

 企業は余計な保険料は払いたくないし、パートでも扶養を受ける主婦はありがた迷惑だ。能力を活かせない矛盾に苦しんでいるのは、結婚のできない若者や母子家庭の母であって、多数派ではなく、声を上げる余裕すらない。企業や主婦は、能力を押し込める方が有利になる古びた制度に安住し、社会的な生産性を低下させている。

 少子化は、当事者と、その周囲の企業や政府が、既存の社会の在り方の中で、合理的と思う選択によって発生した。むろん、少子化という長期的な絶滅の道に合理性は存在しない。適応でなく、制度の転換を図らなければならなかった。非正規による人的資源の劣化も同じであろう。手遅れにでもならないと、枠組に係る問題性は認識されがたいのである。

(今日の日経)
 シャープは鴻海が買収へ。マイナス金利・逃げ水の円安効果。大機・「非正規」という言葉を変えよう・追分。
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