経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費税無罪論とマインド

2010年04月30日 | 経済
 権丈善一先生のHPを見ると、昔なつかしい説が出ている。1997年のハシモトデフレの際の「金融不安による消費冷却説」を、記者のメールを引用する形で新たに掲載しておられた。この説は、不況の本格化の時期とアジア通貨危機後の金融危機の時期とが重なったために、当時、盛んに言われたものだ。緊縮財政を正当化する財政当局の弁明にもなっていた。

 正直言って、消費の動きについて、消費者マインドを持ち出すと、何でも説明できてしまう。筆者は、こういう説明を戒める赤羽隆夫先生の「経済学は心理学にあらず」という言葉が好きである。消費税の無罪論を根拠づけるにしても、別のものを使った方が良いのではないか。

 実は、10年も前になるが、金融不安が本当に消費を冷やしたか、家計調査で検証してみたことがある。具体的には、拓銀破綻で強い不安に見舞われたはずの北海道と、全国の消費の動きを比較してみた。結果は、全国や他の地域が落ち込んでいるのに、北海道はやや増えているという「意外」なものだった。おそらく、北海道は、景気回復が遅れていて、実収入が増えていなかったため、増税前の消費増も、増税後の消費減も、共に小さかったということなのだろう。

 前にも書いたように、ハシモトデフレは、消費税増税以外の緊縮財政を行っているので、要因を分離することは難しく、もしかすれば、消費税だけは無罪なのかもしれない。ただし、少なくとも、それをGDPデータのみで判断するのは適当でないと思う。例えば、鈴木淑夫氏のHPの月例景気見通しの1997年分を見てもらい、消費関連のミクロ統計の動きを見れば、消費税の影響がないとは、なかなか思えなくなるはずだ。

 さて、世間では、消費税の是非が言われる段階にとどまっているから、消費税増税に不安はないと主唱するのは正しいことだと思う。しかし、実際に、消費税を引き上げることになれば、どういう過程で行うかが問題になる。そこは、「景気が回復したら」という曖昧なことを許さず、経済状況の数値目標で縛れば、着実に実施させることができる。

 社会保障を充実させるには、かなり大きな財源がいる。それを考えれば、消費税は一気に上げたくなるが、焦ってはいけない。成長を確保しなければ、社会保障も財政再建もない。消費税無罪論を展開するより、景気を見極め1%ずつ引き上げるという、リスクの少ない穏健な政策の方が広く支持されるのではないか。

(今日の日経)
 日米安保・イラン、核先制不使用。ミャンマー首相新政党を結成。米ゼロ金利維持、雇用消費を上方修正。アジア7.1%成長IMF見通し上方修正。経済教室・不動産バブルの前兆・井手多加子。
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