経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

5/31の日経

2012年05月31日 | 経済
 第一生命研の熊野英生さんの「金融政策は限界? 自然利子率を考える」は、的を射た論考だったね。北野一さんの「収益8%へのこだわり説」にも通じる内容だ。ゼロ金利下の投資抑制を、厚くなったリスクプレミアムに求めるのは、筆者も、まったく同感だ。

 この論考では、どうすれば良いかまでは書かれていないが、それは、本コラムの読者なら、もう分かるだろう。リスクは、需要に対するものなのだから、その安定が大切である。少なくとも、政府が早々に需要を抜くことばかりするようでは、投資は出てこない。

 この6月から、年少扶養控除の廃止によって、年間ベースで5000億円の所得の吸い上げが行われるが、その代わりに、金融緩和で5000億円分の投資増を図るのが、どれほど難しいか。こうした全体を見回した、戦略的な思考が必要なのである。

(今日の日経)
 大飯原発再稼動へ。首相が問責閣僚の交代探る。市場の動揺が企業に波及。円高が加速。欧州委・スペイン財政改善を。EVから家庭に電力、月4400円節約、33万円。鉄道総研が超伝導ケーブル。電ガス一斉値上げ。LED天井灯4割増産。経済教室・次点価格方式・安田洋祐。

※EVからの電力がこれほど経済的とは。※久々におもしろい経済教室だった。
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幸福度は消費で量られる

2012年05月30日 | 経済(主なもの)
 今週のJMMのお題は「成長と幸福の関係」。成長だけが幸福でないと言うと、ポスト近代みたいな雰囲気がするのかもしれないが、現実から目を逸らすことになるだけではないだろうか。今日は、成長よりも、もっとストレートな「消費」という観点で切ってみる。

 1980年から近年までの民間消費の名目値をグラフにすると、おもしろいことが分かる。右肩上がりで増えてきたものが、1997年を境に水平になり、まったく伸びなくなっているのだ。つまり、豊かさが消費で表され、豊かであるほど幸福であるとするなら、日本の国民は、1997年のハシモトデフレ以降、不幸になったということである。

 こうしたグラフ線の屈曲は、通常、構造変化を示すと解釈されるから、学問的に強い関心を呼ぶのが通例だが、何しろ日本では、度外れた緊縮財政でさえ、経済に影響しないという思想が蔓延しているため、ここが転換点だとは思われないようだ。むしろ、大した変化の見られない「バブル崩壊の1991年」が重大な画期とされる。

 確かに、1992年以降、成長率は落ち、GDPは伸びなくなったのだが、中身を見ると、投資の減少と入れ替わるように消費が拡大し、バブル崩壊以降も、国民の幸福度は着実に増してきていた。当時の景気を支えた財政出動は、財政を傾けたと批判されるが、国民の幸福のお役には立っている。

 しかも、国の財政赤字こそ大きいものの、地方や社会保障基金を含めた政府部門全体でみれば、十分に健全な範囲であった。政府部門全体で見ても大きな赤字を出す深刻な状況となったのは、ハシモトデフレで「構造改革」をやってしまって以降の話になる。「財政再建」こそが財政を危機的にした元凶なのである。

 こうしてみると、近年、日本の国民が幸福感をあまり感じられず、経済的なもの以外に幸福を探さなければならなくなったことは、消費を量ることで明確に分かるし、幸福を失った原因が「構造改革」にあり、幸福を取り戻すには「構造改革」の失敗を認識することから始まることも分かるはずだ。

……… 
 ところで、このグラフだが、名目値であることがミソである。実質値であると、これほど明確な屈曲は表れない。すると、「1997年以降も、それなりに豊かになった」という反論も出て来よう。「小泉構造改革は、成長を回復させた」とかね。こういうのは、筆者には、最近の若手に多い、モデルとマクロデータでしか経済を理解しようとしない悪弊だと思うね。

 国民の「豊かになっていない」という実感を、むやみに否定せず、どのあたりにあるのかをマジメに考えるべきではないだろうか。そこで取り出すのは、消費者物価指数である。名目で消費は伸びていないのだから、実質の豊かさの源は物価が安くなったことにある。実は、これを見ると、品目でのバラつきが非常に大きいことが分かる。

 ハシモトデフレ前と最近を比較して、大きく下落したのは、教養娯楽品や家庭用品である。端的にいうと、パソコンは超高性能になったのに安くなり、100円ショップで雑貨は何でも買えるようになったということである。逆に言えば、それ以外は、あまり安くなっていないということであり、実質値で消費が増えたと言っても、生活全般が豊かになったと感じられないのは、当然ではないだろうか。

 実質値の豊かさの源は輸入財であり、国内で生み出されるものは、全然、豊かになっていない。1997年以降、景気が回復しだすと、さっそくに緊縮財政で所得を吸い上げ、内需を抑圧してきた結果がこれである。そして、同じことを、今また繰り返そうとしている。幸福度は消費で量るべきだ。なぜなら、それは現実を見せてくれるからである。

(今日の日経)
 いすゞがミャンマー進出。社説・原発の選択肢ごとに得失示せ。内需は想定より強め・山口副総裁。出先機関改革進まず。ASEAN国防相会議・東南アの軍拡歯止め探る。丸紅かガビロン買収。パナ・小さい本社で再起。関電・節電電力を入札で購入。夏の果物が上昇、新興国の需要増。経済教室・ものづくり・遠藤功。

※日経の主張は正論。しかし、曖昧にすることが政府の狙いなのだろう。※山口さんも、そうなのか。※改革自体に無理があるのでは。※これに日本が行けないとはね。※集中と分散を繰り返すことにになったか。
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5/28の日経

2012年05月28日 | 経済
 ※再生エネに「異業種参入」というニュースを聞くとバブルを思ってしまう。慣れない企業でも採算が取れると踏むのは異常な事態だ。商売が甘くはないのは、競合がいるからで、固定価格での買い取りは、競争がない市場なのだ。これでは参入規制も避けられなくなる。「自由で健全な市場経済」を掲げる日経は批判して然るべきだろう。

 ※日経は、解雇しにくいことがデフレの犯人というわけかい。リーマン後に非正規が大量に切られたけど、不足だったのかね。米国で物価上昇が見られるのは、日本で言えば、まだ1997年以前の段階だから。ハシモトデフレ並みに「財政の崖」をやらかせば、同じことになる。日本のデフレは、需要が輸出頼みで、少し良くなると緊縮に走って円高にし、回復を潰しているだけのこと。

(今日の日経)
 再生エネに異業種参入。ギリシャ銀の資本不足1兆円。社説・重み増す太平洋諸国との絆。エコノ・需要不足がデフレの犯人?。核心・二院制のあり方・土谷英夫。エイサー・開発の外部依存が弱点に。選択と集中のウソ・大西康之。経済教室・ものづくり再生・延岡健太郎。

※太平洋諸国の最大の価値は文化。政治や経済や軍事で覇を競うのではなく、文化に共感することで、深い絆が生まれる。カバには慣れないがね。※二院制の問題は、3/20の「日本に合った選挙制度の構築」に書いたとおり。憲法改正なしに解決できる。※集中してから選択なんだよ、本当は。
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ケインズ政策の内実

2012年05月26日 | 経済(主なもの)
 WSJの5/24社説「ケインズ先生、日本ではあなたの理論は効果ありませんでした」なんだが、反ケインズの人たちは、数字を見ないで批判しがちなように思える。一方、ケインズ派にも、「100兆円の財政出動で一挙に解決」といった荒っぽいことを言う人もいたりするがね。金融政策が万能でないように、ケインズ政策にも限界はある。内実を見ることが大切だ。

 リーマンショックの後、日本でも大規模な経済対策が取られた。それでも、未だショック前水準を取り戻してないから、「効果なし」と言うべきだろうか。それでは、あまりに粗雑だろう。ここで数字を確かめておこう。実質成長率は、2008年度が-3.7%、2009年度が-2.0%であった。その原因は、この2年間の寄与度の単純計で、設備投資が-2.8、輸出が-3.5、民間住宅が-0.7も落ち込んだからだった。

………
 これほどの大ショックにどう対したか。同じく寄与度は、政府消費が+0.4、公的資本が+0.2である。なお、民間消費は-0.4であった。まあ、焼け石に水と言うか、下支えの効果が期待できる程度ではないだろうか。もし、ケインズ政策に、マイナス成長を押しとどめるほどの威力を求めるなら、恐ろしいほどの規模になるし、それは執行不能の大きさだろう。

 ちなみに、民間消費の寄与度の推移を見ると、2008年度に-1.1と落ち込んだ後、2009年度+0.7、2010年度0.9、2011年度0.7である。設備投資の戻りが弱かったにもかかわらず、2000年代では高めの伸びとなった。筆者には、下支えの効果は、まずまずだったと見るが、いかがかな。それとも、ムダな財政出動などせず、もっと落ち込むべきだったのかね。

 逆に、ケインズ派からすれば、もっと公共事業を積むべきだったという評価もあるかもしれない。公的資本の寄与度は、2008年度-0.3、2009年度+0.5、2010年度-0.3、2011年度+0.2とジクザクになっているからだ。ただし、これは、執行上の限界もあったように思う。リーマン対策は、地方で基金に積まれたままになっていたし、現下の復興費も、執行が滞っている状況にある。

 その昔、「公共事業はムダだから、代わりに中高生の全員にパソコンを配ってはどうか」という珍説があったが、兆円単位でパソコンを供給するのは無理だし、できたとしても、需要の急増急減によって業界を壊してしまう。企業で購買を担当されている方なら御存知だろうが、個人と違いマクロでは、カネさえ出せば供給を受けられるというものではない。

……… 
 ケインズ政策で大事なことは、途中で抜かないことである。ケインズ政策の真価は、底を作ることだからだ。1930年代の大恐慌の教訓は、財政まで赤字から逃げると、文字通り、経済の底が抜けるデフレスパイラルに陥ることだった。そこまで極端でなくても、ちょっと良くなったところで財政再建に走り、二番底をつけるのは、いまだに繰り返される悪手である。「ケインズ理論に効果なし」といった過小評価が陥る罠と言えよう。

 古い読者は御承知のように、本コラムは、2010年前半に、子ども手当叩きに対し、「そんなことをしても、景気対策で復活させるハメになる」とか、エコカー補助金などのリーマン対策を十分な移行措置も取らずに打ち切るべきでないとか、強く批判したが、案の定、年度後半に景気は失速してしまった。丁寧にしておけば、V字回復も望めたのに、悔やまれる経済運営だった。

 昨日の経済教室で日経センターの愛宕伸康さんは、「企業は売り上げが振れるほど、設備投資を削減する」と指摘しているが、ケインズ政策のポイントは、需要の底を作り、安定させることである。これが企業のリスク感を癒し、成長への期待を与え、設備投資を呼び覚ますのである。即効を求めてもいけないし、忍耐強さも欠かせない。ケインズ政策の内実とは、このようなものなのだ。

………
 先日も書いたように、現在の日本経済の回復の動きは、政策効果ばかりではなく、生産の回復に伴う所得の向上による消費の伸びがベースになっている。本当は、これを盛り立てるような経済運営が望まれるところだが、ケインズ政策の内実を知らない財政当局は、年少控除廃止や年金給付削減などの、時宜をわきまえない「逆ケインズ政策」に熱心だ。

 欧州にしても、南欧における財政再建で、マイナス成長を呼ぶようではやり過ぎである。ドイツの長期金利の異様な低さは、ドイツが欧州のために、需要を下支えしたり、投資をしたりすべきことを示している。米国について言えば、忍耐を重ねて、何とか緩い回復へと持ち込んだのに、共和党は、これを壊すような「財政の崖」を用意しようとしている。

 WSJの社説は「日本の有権者は偽りの期待を持ち続けない決断をする」とする。確かに、日本は、これから、消費税の一気の引き上げという自殺行為的な政策を試みるだろう。しかし、それは、ケインズ政策の結果を「知的な誠実さをもってあらためて考えてみる」ことなしに、粗雑なWSJ好みの共和党的思想だけで舵取りをしようとするからである。

(今日の日経)
 消費税ゼロ海外から配信。中国、景気指標ら黄信号。日米のTPP協議に濃淡。独の物価高は南欧に恩恵・アダム・ポーゼン。集合住宅に再エネ・オリックス電力。大機・不安除去こそ最大の成長戦略・冬至。

※日経もようやく中国の電力消費を取り上げたか。※筆者もポーゼンと同様ということ。公共事業より設備投資補助金を勧めるが。※冬至さんの言うとおりだが、貯蓄をするのは教育費のため。※KitaAlpsさんのコメントに励まされて書いてしまったよ。
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5/25の日経

2012年05月25日 | 経済

(今日の日経)
 GSが日本で再び不動産投資。ミャンマー・日本の技術で火力。シャープ・もう抜かれとるやないか。福井県が再稼動へ圧力。規制庁法案審へ自民容認。サークルKがヤマトに。日本型ATMを中国で。太陽光発電の素材が下落。経済教室・減速も緩やかな成長・愛宕信康。

※GSも目敏いね。※ホンハイの技術も高いのか。※WSJの社説はケインズ批判。これで一本書こうと思ったが、時間がなくてね。
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5/24の日経

2012年05月24日 | 経済
 今日の日経の一面特集は、投資判断の遅れは機会損失としているのだが、これは成長経済での感覚。だから、成長しない日本では手元資金が積み上がる。収益も、そうでね。2012年3月期は小売業の業績が良かったが、震災で需給が引き締まり「バーゲン」を減らせたから。少しの需要増加が利益を増やし、設備投資を変えるということなのだよ。

(今日の日経)
 ギリシャの資本注入1.8兆円。投資判断の遅れは機会損失、企業の手元資金62兆円と過去最高水準。社説・大津波は想定外だったか。日本のLNGは割高。東電のいびつな収益構造。日銀・追加緩和見送りで円高・株安。米中・南太平洋巡り攻防。ミャンマー・電力不足。日本債買い揺るがず。国際商品、一段と下落。経済教室・関志雄。東大・国際化で遅れ。

※原発が科学を歪めたか。力のこもった良い社説だ。※この構造では、マンションの太陽光を邪魔し続けるわけだ。※このタイミングの格下げは欧州とのバランスか。※中国減速もあるね。※気位の高い東大は国際プログラム参加に消極的。
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企業悪玉論を超えて

2012年05月23日 | 経済
 悲劇は悪意のみによって起こるにあらずだ。最近、消費増税を批判し、法人減税に反対するものだから、「共産党みたいよ」と、からかわれたりするのだが、そうではないんだな。別に大企業が悪いというわけではない。投資せずに、内部留保を積み増すには、理由があるということなんだよ。

 今週のJMMで北野一さんは、持論の「企業が高収益の投資に絞るからデフレになる」という説を述べられているが、この謎を解くのは、それほど難しいことではないように思う。北野さんは、米国の「物価上昇率-2.2%」が日本の物価上昇率になっているとして、日米の物価の連動を指摘しているのだが、もし、日本が無茶苦茶な財政出動をしたとしたら、この連動を政策的に断ち切ることは可能だろう。(MF効果も除けると思う)

 逆に言えば、1997年のハシモトデフレで自分でデフレに突っ込み、ゼロ金利となって金融政策という手段を失ってしまった日本が、財政政策の自由まで捨てているなら、米国の経済に連動することになるのは、ある意味、当然である。そうであれば、日米で物価上昇率が連動するのに何の不思議さもない。

 実際、1993年に景気が底入れして以降、日本の景気は輸出に完全にパラレルになった。輸出と設備投資の相関は恐ろしいほどだ。これは、戦後の日本経済の歴史の中では異常な事態である。なぜなら、輸出から内需へと景気が波及していくパターンが通例だからだ。そうならなかったのは、輸出が増えると、財政を緊縮させ、波及を断ち切ることを、わざわざしていたからである。

 輸出に景気を委ねてしまえば、日米の景気は連動するし、輸出型企業がライバルの米国企業の収益率を意識するのも自然だろう。また、それに影響を受けないはずの内需型企業にしても、財政で内需が潰されているのだから、低収益の事業を膨らませて、量で収益を大きくするわけにもいかない。収益を増やすには合理化一辺倒になる。こうして、内部留保は積み上がっていく。

 企業が高収益を目指し、投資を絞っているのは、ミクロ的な志向の集積というより、マクロ政策への適応の結果なのである。したがって、共産党のように、課税によって大企業から内部留保を取り上げれば良いというのではなく、それが投資に向かうような経済環境を作ってやるべきだろう。少なくとも、政府がスキあらば緊縮を狙うような状況では、設備投資、特に低収益のそれは、とても怖くてできないのである。

(今日の日経)
 火力に新燃料・日揮。企業収益復活への条件・さらば体力勝負・買収と撤退、採算を向上。社説・生活保護。国債購入で欧州中銀に圧力。中国減速に市場が警戒。経済教室。防災計画の実効性・井上典之。
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5/22の日経

2012年05月22日 | 経済

(今日の日経)
 電力のピーク時割高広がる。不良債権化の恐れ地銀に官民でファンド。経済復調と節電疲れ。スペインから預金流出の動き。医療材料の内外価格差調査へ。TOPIXが年初来安値。FT・サムスンは中国の消費に懸念。経済教室・緊急時権限を内閣に・佐々木毅。日経・CSIS提言。

※機構やファンドが続出だ。※中国もいよいよだ。※市場往来にグラフが揃わないのは不便。※権限より体制ではないか。災害に慣れている自衛隊や国交省は機能し、経産省はダメだった。復興に必要な技術系OB公務員の期間採用は東京都任せ。国交省の現場は分権で解体されそうなのだが。※金融の提言ばかり。
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成長回復までの忍耐の道程

2012年05月21日 | 経済(主なもの)
 緊縮財政と法人減税の日経が、ロバート・シラー先生を日曜の特集で乗せるとは、時流を無視はできないということだろうか。今回のG8では、緊縮一辺倒が修正されたが、単に政治的な反発でそうなったのではなく、経済政策としての無理さ加減が認識されつつあるのだと思う。まあ、日本では、相変わらずだが。

 シラー先生に「取るべきモデルは日本型」とほめられても、世間的には、「失敗だったのになぜ?」という反応ではないか。ここは、1996年までの日本だと思ったら良い。シラー先生は、大恐慌後の二番底であるルーズベルト不況の例も挙げているから、財政出動でせっかく支えた景気を、無闇な緊縮で潰してしまうことまで意識していると解すべきだろう。

 それにしても、ルーズベルト不況と言い、1997年のハシモトデフレと言い、そして、現在の欧州危機と言い、バブル崩壊のショックに対し、財政出動で立ち向かうところまでは良いが、その後、傷が癒え切らないうちに緊縮財政に走り、努力をムダにしてしまうのは、なぜなのだろう。同じ失敗を繰り返すのは、愚かなように見える。

 その原因は、せっかちに結果を求める政治家と、赤字に焦るばかりの財政当局にあるわけだが、バブルが崩壊した後は、成長の原動力である投資の回復が極めて緩慢なことも背景にある。エリートにとって、我慢を重ねて成長の芽を育てていくのは、なかなかできないことなのだ。そういう意味で、政治における構造的な問題が存在すると言える。

………  
 本コラムで、これまで論じてきたように、高投資にして成長率を向上させるには、並大抵でない忍耐がいる。金融緩和と規制緩和をすれば良いという単純なものではないし、公共事業や政府消費を増やしても、効果は一時的なものにとどまる。政府が需要を安定させたことによってリスクが癒され、徐々に民間投資が出てくるのを、辛抱強く待たなければならない。財政は、民間投資と入れ替わるように、少しずつ退いていく必要がある。

 こうした経済政策を取っていると、長引く財政赤字に対して批判が集まるのは必至である。小さな政府を求める声も勢いづくし、設備投資を強引に引き上げようと、法人減税の大合唱が起こったり、極端な金融政策を欲しがったりする。地道な経済政策に励むのは、存外、難しいものなのである。

 本当は、財政出動で成長が上向き、法人税収が増えだしたら、それを設備投資減税に充てるなどして、更に成長を加速させたいところである。さすがに、そこまで徹底できなくても、財政再建は自然増収で我慢し、十分に成長率を高めてから、物価上昇を抑えるようにして、徐々に消費増税を進めることにしたいものだ。

 もっと現実的な方法としては、財政出動に輸出を組み合わせるものがある。これで財政にかかる負担を軽減する。この戦略のポイントは、時期を選び、好機を逃さないことだが、往々にして、輸出に任せにして財政を抜こうとする動きが出てくるので、これに抗う必要がある。それができずに、回復を弱いものにしたのが、小泉政権期の日本だった。

 昨日の日経では、好調とされるドイツでも、今一つ振るわないとしているが、これは、物価上昇を嫌って、ユーロ安による輸出増の好機に乗じようとする気概が乏しいためである。この好機を活かし、内需を伸ばさないと、豊かさを均霑させ、非正規労働を減らすところまで行かない。ドイツは、リスクを取って、もっと欧州を引っ張ることが望まれる。

 また、昨日の日経では、滝田さんが昭和40年の福田財政を紹介していたが、この時は、高度成長期には珍しく、金融緩和をしても景気が戻らないという現象が起こった。それは、緩和局面でいつも見られる輸出の伸びが遅れたからである。この時は、財政出動によって景気が起動され、これを輸出が加速させる形となった。大型のいざなぎ景気は、こうしてスタートしている。

 成長率を高めるとは、このように忍耐や果断が求められるもので、巧まずして実現されてきたに過ぎない。いまだ経済政策の議論は、成長は金融緩和と規制緩和で確保できるはずとか、公共事業を増やせば良いといった原初的なレベルだ。現在では、金本位制でなければ、通貨価値は守られないとする者はいないが、財政赤字は、デフレにあってさえ、裁量的に使うことに強い抵抗がある。経済上の専門的見地から需要がコントロールされる時代が来るには、まだ長い時間が必要なようである。(金環日食の朝に記す)

(昨日の日経)
 G8・緊縮一辺倒を修正。がん病院に中核拠点。風見鶏・日本格下げ・秋田浩之。夏だけ再稼動・橋下大阪市長。経済読解・失業多い男性・小竹洋之。厨房・事務所も全店LED。時論・世界危機の処方箋は日本型・Rシラー。中外・働き手急減・実哲也。赤字国債の解かれた封印・滝田洋一。地球回覧・独経済、誰がための奇跡・下田英一郎。読書・法と経済で読み解く雇用の世界。

※数字を見てるのが良いね、小竹さん。※少子化は緩やかな自殺だよ。そのくらいの危機感が必要。5~6年で毎年50万人減まで進み、100万人減にまで加速する。高度人材で埋めるといったレベルで済む甘い話ではない。数字を見てほしいものだ。※書評も良いね。

(今日の日経)
 ギリシャ残留綱引き。シャープ・座して死を待つより。高齢インフラに取捨選択。核心・ポピュリズムよさらば・芹沢洋一。台湾、和平協定には慎重。電熱販売・伊藤忠。工場再建・国の補助金追い風。経済教室・負担増は国への信頼から・鶴光太郎。

※巨額投資でつまずくのがサムスンでなくシャープとは。※芹沢さんの説だと反ポピュリズムとは消費増税みたいだね。成長より財政だから、信を失っているだけでは。
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日本の成長力をどう見るか

2012年05月20日 | 経済(主なもの)
 潜在成長率の算出手法には様々のものがあるが、どうしても過去のトレンドに引きずられる。この10年は、リーマンショック、東日本大震災と災難続きだったために、日本のそれは、著しく低いものになりがちだ。もう少し、回復期の今の状況に適った見方はできないものか、今日は、そんなことを考えてみた。

 経済というのは、輸出などの外挿的な需要から、設備投資増→ 所得増→ 消費増と波及して、成長率を高めていくものである。この事実は、景気回復期=成長加速期において、投資率が上がり、消費率が下がることで確認できる。1955年以来、日本のGDP統計では、その昇降が超長期で繰り返されている。ケインズが言うように長期的に消費率が下がるわけではないし、カルドアの言うような資本産出比率(≒投資率)一定が見られるわけでもない。

 さて、経済ショックの後は、どうしても設備投資が不安定になるため、こうした設備投資を起点した考え方を取ることができなくなる。ショックによる設備稼働率の低下後は、それが徐々に戻るに従い、所得が引き上げられ、消費が伸びていくという流れにならざるを得ないからだ。

 それでは、ショック後の消費は、どのくらいの勢いだったのか。リーマンショック後、民間消費を実質季節調整系列の寄与度で見ると、2009年4-6期を起点に4四半期を均して0.6であった。また、震災後は、2011年4-6期から平均0.5だった。つまり、消費には、成長率を2%強ほど押し上げる力があるということである。

 一方、その消費増にマッチする設備投資は、寄与度で言えば、0.1強といったところだろう。また、政府消費は常に0.1程度で安定している。公共投資と住宅投資は、あまり期待せずに0.0にしておこう。そして、純輸出は緩やかに伸びると見て0.1とする。そうすると、民間消費0.5+設備投資0.1+政府消費0.1+公共・住宅0.0+純輸出0.1=0.8と言う計算になる。結局、年率3.2%程度の成長力ということになる。

 まあ、これが筆者のレファレンスというわけだ。これを基準に、今回の4.1%成長のGDP速報を眺めるなら、民間消費の0.7は、エコカー補助金で持ち上げられていると分かるし、公共投資の0.3や在庫投資の0.4は上ブレ、設備投資の-0.5は下ブレと判断がつく。そして、こうした要素を除いても、消費の底力から3%成長は十分に望めるのであり、この消費を大事にすることが、成長にとっていかに重要かが明らかになる。

 残念ながら、現実に取られている経済政策は、消費への攻撃である。消費の多い子供のいる世帯の年少扶養控除を廃止し、消費を下支えしているとされる高齢者世帯の年金カットをする。むろん、それは「公平」の観点から必要かもしれぬが、今すべきことなのか。他方、GDPは、ようやく震災前水準を取り戻したところであり、デフレギャップも大きいのだから、各種の投資促進策を打ち出しても、なかなか効かないことは目に見えている。

 今後、経済運営でカギになるのは、消費の回復による需要増加の刺激を、着実な設備投資へと結びつけることである。復興が一巡すれば、成長は必ずしも弱るものではなく、回復のモメンタムが成長期待をもたらし、ショック前の水準を超えても、なお成長が続くことになる。復興から成長は、古くは、戦災復興から高度成長の例が、新しくは、阪神大震災からハシモトデフレ前の回復の例があるというものだ。

 なるほど、公平確保や財政再建は、お望みのことなのかもしれぬが、それなら、不況が長引くと言って嘆かないことだ。成長と経済より、公平と財政を優先すれば、それは当然の帰結であって、むしろ、願いどおりと喜ぶべきであろう。まさか、何も分からずに、「改革」の言葉に酔い、気分だけでやっているなんてことはあるまいね。

(昨日の日経)
 逃避マネーは円・国債に、欧州不安高まる。新興国向け家電鋼板。官民ファンドの新会社。社会保険料の通税感は薄く。イラン原油決済に日銀口座。中国税収伸び1/3に。電子書籍市場は漫画がリード。

※金曜のコラムが気に入らず、リライトしてみた。
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