経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

合理的な政治行動

2010年07月31日 | 経済
 合理的な行動を取るならば、大連立になる。参議院選挙は3年に一度しかなく、しかも、現状では、民主、自民とも1回の選挙では単独過半数を制するのは困難とされる。従って、ねじれは6年続く。こうした誰もリーダーシップを発揮できない状況を解消するには、衆議院の定数を改正し、いずれかが容易に3分の2を獲得できるようにするしかない。それには、大連立が必要になる。

 衆議院の比例代表を80削減して、小選挙区300、比例代表100にした場合、得票率45%なら、比例代表で45取れるから、3分の2の267に達するには、あと222である。これは小選挙区の74%であるから、これだけ確保することは、過去の総選挙の結果から見て、そう難しくはない。

 こうなると、日本の政治体制は、衆院で3分の2を制した政党がリーダーシップを発揮し、参議院がそれを牽制するという形が「常態」となる。むろん、与党の参議院の勢力次第で、リーダーシップの強さは変化する。これは、二院制を定めた憲法の趣旨に合っていると言えなくもない。

 一方、参議院であるが、定数を慣行に従って衆議院の半分の200とすると、1度の選挙では100人が選出されるので、これは人口125万人に1人ということである。そうすると、都道府県選挙区に割り振られている73を引くと、比例代表は27になる。これは現在より21の削減になる。

 なお、この際だから、一票の格差を是正するために比例代表を廃止して、人口の大きい都道府県に配分すると、東京都はブラス5、大阪府、神奈川県はプラス4などとなり、格差を3倍以内にすることが可能になる。これを見ると、いかに大都市における一票が軽いものになっているかが分かるだろう。

 衆議院の定数削減が行われ、3分の2が常態の体制が確立すると、「参議院の小選挙区化もあり得る」というテコを通じ、憲法の改正も現実的なものになる。これはパンドラの箱かもしれないが、ついに日本は、国家の骨格(コンスティテューション)を自ら決める力を身に着けるに至るだろう。

(今日の日経)
 米成長2.4%に鈍化、ドル安加速。参院議長、定数削減案年内にも。6月の鉱工業生産4か月ぶりマイナス。英、景気に応じ資本規制。韓台パネル大手7-9期の業績に一服感。エコカー補助延長せず。RO膜を海外生産。学テ・沖縄全科目で平均下回る。日経B・国会定数削減はパンドラの箱、ねじれ突破の起爆力・清水真人。
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福祉国家は経済合理性の結果

2010年07月30日 | 社会保障
 今日の湯元健治さんの経済教室は、スウェーデンの本質をよく捉えていると思う。スウェーデン経済が不調だった当時、日本のトップエリートは、「社会保障を充実させるとああなる」と揶揄していたものだが、スウェーデンが不断の努力で福祉国家を磨き上げると、口をつぐむようになった。恥ずかしいことである。 

 開いてしまった彼我の差には、つくづく嘆息させられる。強い経済を失ってしまった今、日本はどんな社会制度を誇れるというのだろうか。輸出を起点に内需を拡大して成長を確保する「高度成長モデル」は、世界史に残る傑作だが、内需より財政再建を優先する道を選択して、自ら捨ててしまった。

 国家の役割は、科学技術や教育といった長期的な投資、失業や出産といった人生の危地で不利な選択をしないための給付といったものであり、企業が短期的な利益を優先せざるを得ないために生ずる不合理を補完することにある。これらは政治的な再分配ではなく、経済合理性に基づくものである。

 スウェーデンは、ある意味、福祉を充実させているのではなく、経済合理性を徹底させているのである。日本の高度成長も、需要リスクのために過少になりがちな設備投資を引き出す方法を確立したもので、経済合理性を発揮させる政策である。彼我の違いは、自分が何をしているかを認識できていたかどうかにある。

 日本は、ますます需要無視の方向へ進み、長期的な利益よりも、短期的な利益に血眼になっている。少子化対策をあきらめ、科学技術を仕分けし、成長戦略へと傾斜しようとしている。既に、日本は、国と地方を通じた歳出で、農林水産業費に2.8兆円、商工費に9兆円を使っている。これを更に強めようというわけだ。

 日本は、ハシモトデフレ以来、経済政策の失敗の連続で追い込まれており、余裕を失って目先のことを優先し、長期的な基盤を損ないつつある。いわば、自己破壊の悪循環に陥っている。スウェーデンは、危機に追い込まれても、福祉国家を捨てなかった。福祉国家が持つ経済合理性という本質を見出して乗り越えたのである。国とは何を為すべき存在なのか、日本人は、今一度、問うてみてほしい。

(今日の日経)
 人工衛星官民で輸出まずベトナム。日産黒字、危機前比で倍増。バナソニック環境革新企業。個室型介護施設の最低面積狭める。介護士資格法の施行延期を検討。中国・南シナ海で大規模演習。ロシア財政収支が改善。セントルイス連銀総裁、資金供給拡大なら米国債。イケア値下げニトリに対抗。ソニーなど5社黒字化。経済教室・スウェーデンモデルの本質・湯元健治。普天間騒音、国の賠償2.5倍。
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設備投資率は低いのか

2010年07月29日 | 経済
 消費税を上げ、法人税を下げるという戦略は、単に経団連の要望という以上のポピュラーなものになっている。しかし、これは、成長戦略で何をしたら良いか分からない人たちがワラをもつかもうとする現象である。この戦略がくだらないのは、法人税減税は漏れが多く、安上がりの設備投資減税以上の投資促進効果を説明できないからだ。

 さて、その肝心の設備投資だが、GDPに占める比率は、リーマンショック以前は、歴史的に見ても高水準にあった。むろん、法人税は当時も今も変わらないから、そうした事実は意外に思われるかもしれない。つまり、高い法人税の下でも、高投資は実現できていたということである。経済政策を考える者は、このくらいは押さえておかなければならない。

 設備投資率は、2005年から2008年にかけて15%を超えていた。これはバブル景気直前の1988年頃と同じレベルである。実は、現在の設備投資率13%程度というのも、1980年代前半の水準より高い。これだけの設備投資率があって、デフレにあえぐというのは、不思議に思わないだろうか。 

 タネ明しをすると、1980年代は、住宅投資と公共投資も高水準だったのである。これが中度成長を支えていた。当時も財政赤字は大きかったが、公的年金の黒字が拡大しており、政府部門全体でみれば、比較的健全であった。ある意味、年金保険料を集めて、公共事業を実施していたとも言える。この後、日本経済は黄金期を迎えることになる。

 現在、デフレにあっても、設備投資が歴史的に見て低くない理由としては、もう一つ、外需依存がある。リーマンショック以前は、米中への輸出が絶好調で、これが設備投資をかさ上げしていた。日本経済の外に理由があったわけで、これに持続可能性はなかったことは言うまでもない。

 日本経済の課題は、内需向けの設備投資を拡大し、住宅投資を復活させることにある。それには、消費を大事にすることで設備投資を促すことが必要だ。これに、現在の政策論、すなわち、「消費税上げ、法人税下げ」がいかに逆行しているかは明らかであろう。

 また、電力の買い取り価格の引き上げで、個別配電の規制で進まなかったマンションへの太陽電池の設置がようやく動き出したが、これなど、住宅投資の重要性が認識されていない証拠であろう。国内生産がもっぱらのエコカー減税の打ち切りと言い、日本というのは、必要な政策の逆をするのが、本当に得意である。

(今日の日経)
 三洋とパナ電工を完全子会社化。高速無料化困難に。温暖化対策、先進国で失速。円借款供与までの期間短縮。エコカー補助金再延長意見分かれる。経団連法人税5%下げを要望。対インドネシア投資1.4倍。LG営業益90%減。ルネサス国内でリストラ。バルプの中国引き合い鈍る。ばら積み低迷は中国の輸入減。経済教室・区分所有法の規制緩和を・山崎福寿。
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輸出回復に一服感

2010年07月27日 | 経済
 日本経済の先行きを予想するのは極めて簡単で、輸出さえ見ておけば良い。景気は、設備投資次第であり、その設備投資は2四半期前の輸出を追う。こういう傾向は、ハシモトデフレが終息した森政権以降、特に著しい。 

 設備投資というのは、教科書とは違い、リスクに強く影響されるので、不況期には、輸出に代表される追加的な需要を追うようになる。追加的な需要は、輸出の他にも、住宅投資や公共事業などがあるが、日本は、これらに無策なので、まったく気にする必要がない。エコノミストにとっては楽であるが、外需の成り行き任せというのは、国民には不幸な話である。

 さて、輸出数量が2か月連続で低下したとなれば、景気は危ういと見なければならない。日経は、米国が底堅いとするが、米国の住宅投資の低迷ぶりをみれば、先行きの停滞は覚悟せねばなるまい。ユーロ安による中国の減速も、これからであろう。

 ドル高局面であること、国債にマネーが集まって長期金利が低下していることを考え合わせれば、予備費の1兆円レベルで結構なので、小規模の景気対策を準備すべきところだ。そんなことは余所に、来年度をデフレ予算にしようと調整に汲々としているのだから、日本のトップエリートは、のん気なものである。

 今日の経済教室は、景気対策と財政再建の「二兎を追う」べしという内容だったが、これだけでは、ほんとんど意味がない。どの程度、バランスさせるかが重要になる。巨額の財政赤字という犠牲を払って、日本経済は今の位置にいる。財政出動+輸出→設備投資→雇用→所得と、ようやく自律的な成長へと移り変わろうとする中、ここで次々に景気対策を打ち切り、早々に財政が撤退して良いのかが問われている。

 これは、財政出動をせよということではない。予備費を使っても、今年度予算の内であるし、来年度予算についても、成長率を下回って経済の足を引っ張るようなものにはすべきでないというだけである。つまり、現状を維持すべきということなのだ。これに耐えられないほど、日本が財政危機にあるとも思われない。

 二兎のバランスについて、杉本先生は、「我が国は中間」とする。前財務次官だけあって、ハッキリは言えないが、日本が輸出先として頼る米国に、一層の財政赤字削減を求めているらしいことからすれば、結論は、日本には現状維持を求めるということだろう。後輩たちに聞かせたいものである。違いますかな?

(今日の日経)
 日米欧、国債にマネー滞留。長寿日本健在、昨年も最高更新。サルは木から・大野伴睦。官房長官、大連立「あり得る」。普天間は来月に決めず、グアム移転でWHは9月予算復活を目指していたが。介護保険2010年度7.9兆円が25年20兆円に。輸出回復に一服感、数量2か月連続低下、中国と欧州低下、米国底堅い。予算特別枠迷走、予備費活用も。韓国、輸出に鈍化懸念。経済教室・二兎を追う選択のみ・杉本和行。
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デフレ克服と財政再建を両立する離れ業

2010年07月26日 | 経済
 今日の経済教室の植田和男先生の見方には、筆者もまったく賛成である。早くから同様の内容をこのコラムに書いていたから、読者の皆さんには、改めて言うまでもないが。ただ、日本に対する分析には若干の違いがある。

 今回の財政緊縮競争で一番危ういのは、日本ではなく、米国であろう。財政赤字が大きいだけでなく、貿易収支も同様の「双子の赤字」の下にあるからだ。貿易黒字の日本とは、ここが異なる。しかも、財政赤字の内容も悪い。海外における軍事費が多く、貴重な財政支出が国外に漏れているからだ。

 安全保障上の必要性を無視して言えば、米国経済にとって、アフガンやイラク、そして、海外基地からの撤退は喫緊の課題である。米国の景気が減速した場合、減税などをしようにもファイナンスに苦慮するおそれがあり、FRBが支援するにしても、かなりのドル安は避けられないだろう。ドル安は、海外での軍事行動を一層困難にもする。

 つまり、海外での軍事行動の縮小は逃れられない課題であり、それを拒んだとしても、ドル安という市場の圧力によって無理やり実現されるということだ。混乱を来たさないためには、徐々に進めねばならないが、EUの緊縮財政のために、持ち時間は少なくなったと見なければならない。本コラムが経済を主題にしつつも、普天間問題にも言及するのは、こうした背景がある。 

 他方、日本は、財政赤字の規模は大きくても、国内でファイナンスしているだけに、自由度は大きい。また、リバウンドとは言え、この2四半期で4.6%、5.0%成長を達成して勢いがある。これを「保つ」だけ良いのであり、当面、成長速度並みの財政拡大を行うことには何の支障もないはずだ。これを、わざわざ緊縮財政に転換することこそ避けなければならない。

 社会保障が厳しい状況にあるのは、植田先生の指摘するとおりである。しかし、これは中期的課題だ。しかも、頑健な財政を造ることによってではなく、少子化ものものを緩和しなければ、解決がつかない。これについては、財政を悪化させずに大規模な対策を打つ方法を本コラムの「小論」で示している。

 植田先生の言う「デフレ克服と財政再建の両立という離れ業」は、少子化対策を主軸にした需要確保によって十分に可能である。残念ながら、これが見えず、困難を招いた欧州のマネばかりしようとするところに、日本の課題がある。

(今日の日経)
 雇用回復、水面下に兆候、景気の谷で正規増加・鈴木大祐。核心・消費税軸に政策連合を・岡部直明。中国、南へ経済圏拡大・バングラ携帯シェア8割。米韓合同演習、過去最大規模。米物価弱まる、設備稼働率74.1%。井関、粗植法を普及。東大スーパー准教授。トーマツ、ママも専門職。経済教室・赤字削減に拙速の懸念・植田和男。
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コメ政策を考える

2010年07月25日 | 社会保障
 農業経済は専門ではないが、なぜか好きで、古くは佐伯尚美先生、新しくは山下一仁さんの本などを読んだりしている。かつて、日本経済は「豊作だと成長率が高まる時代」もあったから、古い世代には、GDPの1%にまで落ちた今でも、農業は国の大本という幻想が残っているいうことか。それでも生存に食糧は欠かせないことに変わりはない。

 さて、正直に言って、コメ政策を「どうすれば」良いのか、明確なイメージを持てずにいる。それがあるために、もう一つ、スッキリした気分になれない。そんなわけで、今日は論考ということで、御容赦いただきたい。

 コメ政策の目標とすべきものは、国際価格であろう。これが60㎏当たり9,500円。この数字は、短粒種米の輸入を防あつ可能な水準である。現在の価格は14,000円であるから、3割安い水準になる。したがって、今日の日経にあるようなコメ価格の低下は、まだまだ必要ということになる。

 こんなに値下がりして農家は困らないのか。3割値下がりすることによって失われる所得は、およそ6,600億円。これは2010年度の戸別所得補償制度の5,600億円と大きくは違わない。つまり、所得保障のお金を農家に上手に配分できれば、それほど困りはしない。財政負担は大きいものの、コメの価格が下がれば、消費者の利益になるから、差し引きの国民負担は変わらない。

 問題は、生産構造の改善である。一つは生産性を上げること、もう一つは農地を維持することである。前者は、生産者当たりの耕作面積の拡大とイコールである。これは、所得補償を徐々に下げていき、生産性の低い小規模農家の農地の貸し出しを促して、生産者の集約を図ることで実現していかなければならない。

 後者は、コメの消費量を超える水田について、食糧安全保障の観点から、これを維持するものである。現在の減反面積は約76万ha、これを従来は1,800億円の補助金で実現してきたが、もし、ここに自由にコメを作付けするなら、今の14,000円では9,400億円にもなる。

 これが国際価格の9,500円まで下がると6,400億円になる。輸出できれば財政負担はゼロで済むが、そうもいくまい。すべてを国内の飼料(2,000円)として処理をすると、5,100億円になる。結局、長期的には、生産性の向上を経て、所得補償から飼料補償へと変化を遂げることになる。こういう見取り図を持って、コメ政策を見ていくことが必要であろう。

(今日の日経)
 格安航空向けターミナル成田に。3メガ銀危機前水準に。欧州銀行資産査定、合格水準ギリギリに10行ひしめく。年金は現実的な案を厚労相に注文。天候異変、小麦価格が高騰。4代目マーチ久々ヒット。コメ値下がり止まらず、消費拡大は短命。チンパンジーのレオは闘病中も落ち込んだりしない。読書・非才!、「中東」の考え方。 
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すべての道は道路に通ず

2010年07月24日 | 経済
 お役人に言わせると、「高齢化に対応するには、老人ホームへの道路が必要。CO2削減には、渋滞解消のための道路が必要」だそうで、まあ、要すれば、道路づくりは、すべての解決策になるので予算は削れないということらしい。そんな道路予算も、昨年の政権交代で大幅に減らされたが、予算には、どんな理由だって付けられることは知っておいた方が良い。

 来年度の概算要求基準は、一律1割削減の代わりに、成長戦略などの特別枠を与えるようである。これに対し、今年度予算で公共事業を2割近く削る成果を上げた前原国交大臣が反発するのは健全な反応だ。ところが、お役人は「特別枠もあるのに」と困惑しているらしい。どういうことか。

 おそらく、公共事業を1割削減しても、「道路は成長に必要」という理由をつけ、特別枠で措置してやるから、差し引き変わらないと、こういうことが可能だと言いたいのだろう。こうした手法は、自民党政権下では常套的なものであったから、驚くようなカラクリではない。削減は名目だけで、結果は大して変わらないことになる。 

 ただし、これは「ごまかし」というだけでなく、弊害も大きい。成長戦略には関連付けられないが、大切な国の仕事もあるからだ。例えば、ただでさえ犯罪増加で満杯の刑務所の予算はどうするのか。民間委託による効率化も始まっているが、削減は容易な話ではない。また、文化財保護とかは、観光振興にでも関連づけて予算を維持するのだろうか。とても危うい気がする。はたまた、防衛や警察関係の予算は、1割減らして大丈夫なものなのか。

 他方、農林水産業のGDP上の付加価値額は、5.8兆円ほどしかなのに、国と地方を通じた農林水産業費は2.8兆円もある。産業政策として成り立っていないことは明らかで、すぐには無理でも、財政依存からの脱却は不可避と言えよう。しかるに、農業個別所得補償はマニフェスト事項なので1割削減の対象外である。

 子ども手当や農業所得補償は、メリットが国民には分かりやすい施策である。他方、「仕分け」で見られたように、科学技術のようなメリットが専門家にしか分からないものは、冷遇されることになった。1割削減でも、社会を支える「縁の下」のものが不利なことは目に見えている。本来、民間で努力すべき成長に国が肩入れするようになり、国が為すべき社会基盤の維持は困難になっている。それが今の日本の姿である。

(今日の日経)
 成長戦略、歳出削り財源。沖縄海兵隊14年の移転困難、グアムのインフラ遅れ。後期高齢者廃止で新医療制度。負の遺産が成長阻害・経財白書。中国が南シナ海でASEANけん制。印35ドルのパソコン。台湾鴻海が値上げ交渉へ。ヤマダ出店投資3分の1。外食、太陽光で省エネ10年で回収。
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異例な不確かさの正体

2010年07月23日 | 経済
「異例な不確かさ」か。流行語になりそうな気がする。昨日のコラムでは、金利の引き下げから景気回復への経路、すなわち、それは住宅投資と輸出が媒介していることを説明したが、現在の米国経済が置かれている状況は、これで読み解くことができる。

 低金利にしても、それが直接、設備投資を呼び覚ますのではなく、住宅投資が刺激され、輸出が拡大されることで、追加的な需要が創出され、これによってリスクが癒されて、ようやく、設備投資が引き出されることになる。

 現在の米国は、減税の期限切れで住宅投資が失速し、ユーロ安と中国の景気回復の一服感で輸出への不透明感が出ている。その上、財政赤字が大きいために財政出動というわけにもいかない。つまり、設備投資を引き出すために必要な、追加的需要を生み出すための手段がすべて失われている。

 これが「異例な不確かさ」の正体である。本コラムが、欧州の財政再建への路線転換にすぐさま懸念を示したり、米国の住宅統計を注視したりしているのは、このためである。いまや、心配が現実のものとなろうとしている。

 バブル崩壊後の政策対応は、辛抱強さが必要である。ただでさえ、バブル期の過剰な消費や投資が積み重なっており、財政出動を行っても、消費水準を維持するのが精一杯になる。これを設備投資が適正水準に戻るまで、3年も続けなければならない。

 よくある失敗は、財政赤字の不安に耐え切れず、財政出動を途中でやめてしまうことである。これをすると、景気は逆戻りし、それまでの努力もムダにすることになる。これは、マクロ経済政策が始まった大恐慌以来、何度も繰り返されたものである。

 今、米国にアドバイスするとしたら、せめて現在の財政出動を維持することであり、他方で景気回復後の財政再建のスケジュールを明確化することであろう。これで市場の信任を維持しつつ、当面の財政出動を続けることになる。長期金利は低下しており、その余地はあるはずだ。

 むろん、同じことは日本にも言える。来年度予算を、緊縮的な枠組みの中で、成長的な中身にするというのは、戦術は正しくても、戦略が間違っている。米国が失敗する可能性も念頭に置き、日本がサバイブすることを考えなければならない。

(今日の日経)
 コンテナ船アフリカ航路増強。政権・大連立の幻影。社説・異例な不確かさ。日米の長期金利低水準。郵政、民営化後3年間で9400億円納税。中国、中東欧向けインフラ投資。ドバイ再浮上うかがう。米インドネシアが特殊部隊の軍事交流再開。経済教室・国際債権市場の整備急げ・犬飼重仁。
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需要の「焼畑」作戦

2010年07月22日 | 経済
 景気動向は設備投資そのものと言っても良いので、経済政策の焦点は、これをいかに動かすかになる。金利や法人税で動かせると考えるのは、教科書しか知らない人のそれで、現実には追加的な需要に左右される。これは需要動向のリスクが遥かに大きな影響力を持っているためである。

 通常、金利を低下させると、通貨安になって輸出が伸び、住宅投資が上向いて、追加的な需要が生まれる。これが設備投資を引き出し、それ自身が創る需要と相まって、やがて自律的な成長へと回復する。ここまで来れば、もう政策的に需要を追加する必要はなくなる。

 このとき、やってはいけない政策は、自律的な成長に回復する前に、緊縮財政へと向かい、需要を抜いてしまうことである。実は、この時点では、まだ輸出が伸び、住宅が上向いているから、緊縮財政を取っても大丈夫に見えてしまう。ところが、輸出や住宅の増加は、需要の先食いであるので、いずれ失速する。ここで緊縮財政が効いて、景気は低迷へ逆戻りである。

 これが日本の「失われた20年」の失敗のメカニズムである。この失敗を繰り返すことによって、金利はほぼゼロ%という下げられないところまで至り、住宅投資は食い尽くして、通常の経済政策の手段を喪失してしまった。

 ところが、今回の経済危機では、エコポイント、エコカー減税という新たな需要確保策に成功した。住宅が金利に感応的なのは、自分が住むという需要が明らかで、投資に需要リスクがないためだ。エコの二策も、低金利代わりのインセンティブを与えることで、自分が将来も使う耐久消費財への「投資」を呼び覚ましたものと言える。

 むろん、これも需要の先食いであるから、一時的である。需要を確保するためには、徐々にインセンティブを拡大していく必要があるが、そこまで行かなくても、せめて現状のインセンティブを続けないと、大きく需要を失うことになる。

 2010年度予算は、前年度よりGDP比で2%も小さく、経済が自律成長する前なのに、既に緊縮に向っている。緊縮しておいて、景気が怪しくなると、慌てて追加刺激策に戻る。要は、同じ失敗を繰り返しているわけだ。これでは、耐久消費財も食い尽くされて、住宅同様の「焼畑」になるだけである。日本のトップエリートって、本当に懲りないんだなあ。 

(今日の日経)
 企業・電池ベンシーチャーは元ソニー、日本電産は車載モーター開発。1人当たり医療費、国保は健保の1.7倍。ソマリア沖外国艦に給油検討。猛暑夏商戦に活気。米韓初の4閣僚会議。7月月例で経財相が追加刺激策に言及。国の自治体融資を厳格審査。30ナノ台サムスン量産。BPベトナム権益取得に印公社名乗り。航空機需要回復鮮明に。大機・国際標準の獣医学。経済教室・競り下げの効果・神取道宏。
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行政のムダは不況にある

2010年07月21日 | 経済
 政府は2011年度予算の方針を決定したが、前年度以下、つまり、経済成長の伸びを下回るデフレ予算にすることにした。経済成長を下回るということは、経済全体からみればブレーキ役を果たすわけだから、デフレ予算なのである。物価上昇率がゼロに近い見通しで、こういうことをしても、誰も不審に思わない。こうした経済感覚のなさこそが日本経済の低迷の本当の原因のように思う。

 日本は、財政支出の削減に汲々としており、ムダ削減の対象は科学技術にも及び、少子化対策も絵に描いた餅になりつつある。もはや、将来への投資を考えることができない状態になり、国の縮小均衡へと向かっている。目先のカネを削り、デフレを長引かせ、将来を潰していく。正直、見るに忍びない。

 本当の行政のムダは、不況の中にある。例えば、生活保護費は、ハシモトデフレの1997年以降、1兆円以上急増している。生活保護費の負担は、地方自治体の悩みの種だ。増加には高齢化の要因もあるが、急増以前は公的年金の充実で高齢者の生活保護は横ばいであったことを考えると、不況の影響も大きいと言わざるを得ない。

 景気を回復させ、生活保護費を減らすことこそ、本当の行政のムダ削減になる。こうしたムダ削減に反対する者などいないだろう。実は、不況による行政のムダは他にも多い。景気が回復すれば、雇用対策や企業対策の予算を減らせるのはもちろんだが、節約は警察関係にまで及ぶ。

 不況に伴って犯罪も増加しているからだ。所持金に困ってスーパーで食べ物を万引きといったニュースは珍しくもない。今や刑務所も満杯状態で増設が必要になっている。景気が回復すれば犯罪も減り、警察官や刑務所を増やさずに済む。民間の防犯コストも減る。これもまた反対する者は居るまい。

 景気回復は、すべてを癒すことになる。逆に、景気回復ができなければ、爪に火を灯すような予算の節約も、すぐに吹き飛んでしまう。景気との関係をまったく考えず、財政を節約一本で考えることこそ、社会的な巨大なムダを作り出してしまうのである。

(今日の日経)
 航空燃料税下げ。東レ開発は中国の研究者、日本の造船会社のITに遅れ、中韓は研究者招く。元サラリーマンの妻の未納多数。粗鋼減産、中国の買い一服。中国、エネルギー消費世界一に。米住宅着工6月5%減。米電子書籍市場拡大。ドラッグストア介護施設との併設相次ぐ。特売情報、独自端末で配信。いすゞ国内も販売回復。経済教室・IT潮流・田中辰雄。
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