経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

3/31の日経

2017年03月31日 | 今日の日経
 「こども保険」は保険じゃないという批判もあるようだが、専門家なら、保険になるように知恵を出してはどうだろう。大切なのは、格差社会の中で、どのような理屈にせよ、子供を支援することだと思う。例えば、ちょっとロールズ的なんだけど、貧しい家に生まれるリスクへの保険というのではどうか。保険料は大人になってから払うということで、今すぐ実行しようよ。もっとも、こういう理屈は、政治がやるとなれば、霞が関のお役人がいくらでも作ってくれるだろうがね。

 子供に払わせることに、情けない思いを抱く向きには、子供の頃にタダで保育や教育をしてもらった恩義に報いるという理屈でもって、既に大人になっている人たちにも、幾ばくかの負担をしてもらう方法もある。老親の養育でも、介護でも、プライベートでしていたものを社会保険化してきた歴史があるのだから、子育てもということだ。とにかく、「財源ができないうちは何もせず、人口を崩壊させる」という最悪の選択だけは避けたい。


(今日までの日経)
 人材不足、物価高の余波 ティッシュも。介護職員の月給、9530円増。緊縮だけでは再崩壊・夕張市長。バイトに奨学金・吉野家。
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3/29の日経・こども保険

2017年03月29日 | 今日の日経
 いよいよ「こども保険」が出てきたね。児童手当の事業者負担に上乗せというのが、一番ありそうなパターンだ。従業員も負担するとなると、新たなスキームになるので、説得には時間を要すだろう。これから、医療や介護の保険料も高まる中で、「こども保険も」となるから、0.1%だって簡単ではない。国民のコンセンサスを得るのに時間がかかるうち、人口崩壊に直面とならないことを切に願う。

 すぐに実現したければ、補正予算を児童手当の特会に入れ、補正予算が組めなかった年には特会から融通し、保険料を後で引き上げることで埋め合わせれば良い。こういう約束事を法定することが肝となる。毎年のように税収が上ブレし、使い途に迷ってバラマキを繰り返しているのだから、財政再建の観点からも、ムダのない方法となろう。本来、こういう知恵は、縦割りを超えて、お役所が出してくれないと困るよ。

 財政赤字によって将来世代に「負担」が生じるのは、消費が過大で、十分な投資がなされていない場合である。需要不足で、設備にも人材にも十分な投資がなされていない現状において、「負担と給付はセットだ」と考えるのは、財政しか見ない者の発想だ。むしろ、現状は、十分な人的投資を怠っているために、将来に得るものを少なくしており、将来世代を貧しくすることで「負担」を強いているのである。


(今日の日経)
 教育財源 保険で捻出 自民小委「こども保険」創設提案 社会保険料に0.1%上乗せ。
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歴史に学ぶ資本主義の未来

2017年03月26日 | 経済
 歴史的に金融は悪徳とされてきた。成長なき時代にあっては、利子を払い続けることには無理があり、そうした約束は、身の破滅を呼ぶものだったからだ。乏しさが普通の世界では、分かち合いが倫理であり、強欲は排されねばならない。利益の追求が許されるようになるのは、成長と豊かさが当然になって以降で、近代の割と新しい価値観である。それだけに、成長が失われれば、価値観までが問い直されることになる。

………
 FTの名物コラムニストのジョン・ブレンダー著『金融危機はまた起こる 歴史に学ぶ資本主義』を読み進めるうち、オチが見えるような気がした。やはり、結語は、「資本主義は最悪の経済の仕組みだ。ただし、これまで試されてきたすべての経済の仕組を別にすれば」であった。では、資本主義は、どこがマズいのか。自然発生的であるから、絡み合う現実そのものというところもある。これを切り分けねばならない。

 資本主義の原動力は、事業欲である。お客様を喜ばせ、自社も潤い、世の中を豊かにする。「三方良し」であるから、近代に限った話ではなく、単なる金銭欲とは、分けて考えるべきものだ。事業欲に突き動かされ、世の中に存在する資金と労働力を組み合わせ、余さず使い尽くすのだから、合理性ある効率的な営みである。これが資本主義の美点であり、経済学が擁護するゆえんで、問題は、この力が無効になる場合があることだ。

 人は死すべき存在であり、時間による分散には限度があるため、需要リスクにさらされると、投資の期待値がプラスでも、敢えて捨てるという、不合理な行動を取る。これが不況の本質で、現実の経済は、事業欲と、これを上回りもするリスク回避の力のせめぎ合いになっている。それゆえ、現実の経済は複雑性を持ち、「態」の変化も起こる。相反する二つの物理的な力を措定すれば、経済現象の説明はシンブルで済む。

 ブームも同じ理屈で、需要が調子づいていると、合理性を超える多くの投資をしてしまう。それでブームが加速するうちは報われるものの、いずれ限界に至って、調整に見舞われ、大損失を被る。これが景気変動のメカニズムだ。需要の在り様によって、不合理な力が働かないようにし、事業欲を健全なレベルに保つには、どうしても需要管理が必要となる。資本主義には、自由を補完する「政府」という仕組みが欠かせないのだ。

………
 資本主義には、もう一つ、金銭欲という困ったものがある。緊縮財政を敷いて物価を抑制し、思い切り金融緩和をすれば、資産価格は高騰し、大儲けができる。また、低額の輸入品を増やし、安い労働力として移民を使い、社会保障負担を免れ、資産課税を軽くし、金融取引などの規制緩和をすることでも、同様の効果が得られる。これらでマネーは膨らんでも、供給力には結びついておらす、世の中が大して豊かになるわけではない。

 こうした金銭欲が、バブルの時はともかく、クラッシュが起こってしまうと、怨嗟の的となるのは、至極、当然であろう。政治的な批判は、バブルに役立ったあらゆるものに向かうが、お金を持つ者は政治力も持っており、処方は、更なる金融緩和と、財政による金融の救済になりがちだ。ここで中央銀行や政府の債務が膨張し、その不安から緊縮財政が導き出されたりすると最悪である。金融の不行状は実体経済や社会に及ぶ。

 バブル崩壊後、企業は、どうしても、人材や技術への長期的投資を怠りがちになる。これを財政が補おうとしないと、少子化や子供の貧困などの深刻な社会問題につながる。人的資本の収奪が起こるのである。日本企業は、かつて「人を大事にする経営」で褒めそやされたが、財政再建最優先の下、名目成長=売上増が失われ、人より収益性を尊ぶようになった。成長なき環境では、長期的利益を犠牲にすることもせざるを得ない。

 バブルによって膨張した債務と財政赤字、これを中央銀行に封じ込め、実体経済に根を持たぬものとして、緩やかにインフレと資産課税で溶かしていく。他方、財政による需要安定を図りつつ、腹を括って、人的投資に必要な社会保障にはカネを出す。これが成長によって正当化される資本主義の未来ということになろう。確かに、資本主義は欲にまみれた仕組みだが、その力学を見極めるなら、まだ改善の余地はある。

……… 
(図)



 日本の需要管理は拙劣だが、足元では、輸出が順調に伸びて、無能さをカバーしてくれている。利益を溜めるばかりと批判される企業だが、毎日エコノミスト(3/28)で枩村秀樹さんが指摘するように、人件費や設備投資を決める際に基準となるのは、利益でなくて、売上高だ。これから、名目GDPも上向くであろうし、人手不足による人件費の売上高比率の押し上げも期待できよう。

 今週、面白かったのは、もう一つ、財政再建派の日経ビジネスが電子版(3/21:水野孝彦記者)で、かねて「急ぐべきでない」とするソシエテの会田卓司さんを取り上げたことだ。「将来を過度に不安視することで、設備投資や若者への教育に十分な資金を回さなければ、それ自体が日本の経済力を弱めてしまう。考えてみれば、この『失われた20年』と呼ばれるデフレの時代はその繰り返しだった」とする。正に、そのとおりである。


(今日までの日経)
 アパート融資、異形の膨張16年3.7兆円。景況、全地域で改善 地域経済500調査。保育所、1~2歳受け入れ拡大 0歳児枠縮小へ。
 
 ※0歳児の保育コストは極めて高く、女性が普通に働いたくらいでは、とてもペイできない。枠を縮小する代わり、所得補償や職場復帰を整え、需要を抑えるべきである。
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3/23の日経

2017年03月23日 | 今日の日経
 昨日、1月の全産業指数が公表になり、ようやく、公共工事が底入れした。崖のような状態だったが、断絶を挟み、補正予算の効果が出始めたようだ。企業設備の工事の増加は続いているものの、まだ埋め切れていない。建設の動きは、1月の消費活動指数が前月の落ち込みから戻したのと整合的である。また、2月の輸出は、春節の反動で大きく伸び、前月と均して堅調を保った。こちらも消費を浮揚させることになろう。

(図)



(今日までの日経)
 円一時110円台。保育受け皿 財源課題。住宅地9年ぶり上昇、低金利が支え。地方に波及、都心部は過熱警戒も。国債の応札義務引き上げ。介護職員の月給15%上げ。グローバル企業、税務公表。

※保育所を使わず、現物給付を受けない人には、代わりに現金給付をするというようにしてバランスを取らないと、需要の過熱は収まらないのではないか。むろん、財源は年金で、前倒し給付から、子供を預ける人は保育料を払い、預けない人は自分で使う形になる。
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内需不振? だって緊縮してるもん

2017年03月19日 | 経済
 シムズ理論を巡り、「ちょうど良い放漫財政なんてできるのか」といった議論で賑わっているが、実際、日本が足元で放漫をしているのか、緊縮をしているのかについては、まったく、お留守だ。3/18公表の日銀・資金循環によれば、バブル期以来の財政再建を達成した模様である。これだけ緊縮しているのだから、財政破綻を心配したり、なぜ内需が不振なのかと悩んだりすることもなかろう。タコツボから頭をもたげ、経済の全体を眺めれば、容易に分かることである。

………
 財政再建を声高に叫ぶ人は、財政しか見ていない。知見の出元になっている財政当局は、担当することがすべてだからだ。しかし、政府全体では、社会保障基金、要は公的年金だが、これが黒字を出しているので、赤字幅は、かなり縮小する。10-12月期の資金循環で、一般政府の資金過不足を見ると、年換算額のGDP比は-2.0%である。この水準は、リーマン・ショック直前を超え、おそらく、バブル期以来の改善だろう。

 直近の6四半期は、直線的に並んでいるので、これを延長してみたくなるのが人情だろう。すると、2018年半ばには「黒字」に達することが分かる。世間では、「2020年度に基礎的財政収支の赤字をゼロにする財政再建目標は諦めたのか」という批判が聞かれるが、公的年金を含めた全体で見れば、前倒しで達成できそうな勢いにある。世間的には知られてないが、インフレ期待なんて、起こりようがない実態だ。

 安倍政権は、消費増税の先送りで、財政当局から恨みを買っているらしいが、実際には、財政再建で多大な功績を上げている。それが分からないのは、全体を見ないからである。政府全体で「黒字」になっても、担当の財政が「黒字」でなければ不満というのでは、あまりに低次元だろう。むしろ、本当に心配すべきは、年間7兆円ものペースで緊縮をしたら、内需を低迷させるのではないかということだ。むろん、これは現実のものとなっている。

 加えて、公的年金の黒字がうれしい話かというと、そうでもない。少子化で次世代を減らし続ける一方、カネだけ溜め込んで、何の意味があろう。将来、溜め込んだカネで、痩せ細った現役からモノやサービスを得ようにも、供給力の乏しさのために価格が高まり、虚しく費えるだけである。ミクロの家計の財布を預かるわけではないのだから、為政者は、集めたカネでマクロの国内供給力をいかに培うかまで考えなければならない。

(図)


………
 3/14の日経電子版によると、小泉進次郎議員を始めとする自民党の若手は、「子ども保険」の発想まで行き着いたようだ。しかし、新たに保険料を取って、少子化対策に充てるらしいから、事の本質を悟るまでには、更に時間がかかりそうである。そうこうするうち、人口崩壊を目の当たりにすることになろう。もっとも、そのくらいのショックでも受けないと、人々の観念は改まらないものである。

 雇用保険料率の引き下げに際し、年金保険料に上乗せして事業者から徴収している児童手当の負担を引き上げ、事業所内保育所の整備に充てるということが行われているから、若手議員が「子ども保険」を構想するのは、分かる気はする。ただし、負担増を前提にすると、それを当事者に納得させるのに、大変な時間と労力が要る。少子化対策が時間との競争になっている中で、苦しい戦いを強いられよう。

 実は、負担増は、年金の仕組みを上手く使えば、必ずしも要らないものである。なぜなら、将来、受給する年金の一部を、乳幼児を育てている期間に、前倒しで得られるようにすれば良いからである。月8万円を0~2歳まで得ても、年金の15%程にしか過ぎない。年金の目減り分は、仕事と子育てを両立して働けば、後で取り返すことは十分可能だ。しかも、「乳幼児給付」で待機児童が解消し、少子化が緩めば、年金の目減りすら起こらないかもしれない。

 こうしたマジックが可能なのは、生涯に渡るカネの融通ができないために、人的投資に不効率が生じているからてある。正解は、分かってしまえば、何ということはない。コロンブスの卵である。しかし、「給付には負担が必要」という観念が強いと、生涯に渡る給付のリバランスという新しい観念には、なかなか至らない。観念を変えるより、現実の動きが早いと、悲劇的な結末になる。歴史では、ままあることだ。

………
 負担増ができないうちは、少子化対策をしない、人的投資もしないというのは、経済より財政を、実物よりカネを、無自覚のうちに大事にしている証である。インフレ下ならいざしらず、デフレ下で、頑ななまでにカネに固執するのは、滑稽ですらある。避けたくはあるが、カネに拘って次世代を喪失し、国を衰亡させた数奇な例として、歴史に残ってしまうのではないか。時代の空気を知らない後代の人たちは、財政再建帝国主義が国を狂わせていたくらいにしか、解釈できないに違いない。残念ながら、歴史の繰り返しから、逃れられない情勢にある。


(今日までの日経)
 保護主義に対抗を盛らず・G20。残業規制の適用、運輸と建設猶予。退位の国会提言提示。賃上げ2.06%、昨年と横ばい。「のれん」最大の29兆円。資材値上げ、樹脂は1割高、エネ価格上昇。中国資本規制、海外送金ストップ続出。
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3/17の日経

2017年03月17日 | 今日の日経
 予定どおりFRBが利上げをし、円は一時的な安値が癒される形となった。他方、日銀は現状維持。0%程度とされる長期金利の操作目標については、「海外の金利が上がったからといって国内の金利を引き上げることは考えていない」ということだが、先行きがどうなるか注目だ。佐々木融さんの「同じ方向に進み始めた日米欧の金融政策」(3/17ロイター)は、興味深かったね。


(今日までの日経)
 米は追加利上げ、残された日銀。雇用保険料、来年度から下げ。スティグリッツ教授・消費税は良い税でない。待遇格差 是正に動き 清水建設、一律ベア1万円。小泉進次郎氏が向き合う「日本改造」の壁(e3/14)。
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3/15の日経

2017年03月15日 | 今日の日経
 塩路先生の説明は、とても分かりやすかったね。大機も取り上げているように、シムズ理論を巡る議論は花盛りだが、実際、この国が足元で緊縮をしているのか、拡張をしているのかについては、皆、関心が向かないようだ。日銀・資金循環を見ると、一般政府は2018年の半ばにも「黒字」転換を達成しそうな勢いが続いている。最新の10-12月期の結果が金曜に出るから、どうなっているのか楽しみだ。

 組合員は一気に増やせるものらしい。これも人手不足の反映かな。これで所得分配がなされ、持続的な成長に結びついてほしいところ。日本は消費増税で逆分配をしたわけだから。増税すると将来に安心して消費を増やすという「仮説」が蔓延していたが、貯蓄率は増税を境に急上昇した。物価が上がれば、消費は抑制されるという、ごく常識的な「理論」の方が正しかったのかもしれない。

(今日までの日経)
 非正規2万人組合員に・オリエンタルランド。持続的な成長 所得分配重視を・スティグリッツ氏。貯蓄率15年ぶり高水準。大機・シムズ理論の?。経済教室・転機の財政金融政策・塩路悦朗。フリーランス失業に保険。機械受注、輸出関連堅調。

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10-12月期GDP2次・加速する消費

2017年03月12日 | 経済
 「これは強い」というのが10-12月期GDPの2次速報を見た第一印象だ。名目の家計消費(除く帰属家賃)を見ると、2016年各四半期は、前期比+0.0、+0.1、+0.3、+0.4と推移して、ようやく、消費増税前の平均速度並みになってきた。むろん、実質では、生鮮食品の高騰があって、-0.0にとどまるが、その一方、設備投資は実質の寄与度が+0.3に達し、輸出の+0.2と相まって、在庫減と公共事業減の妨害がなければ、2%成長となる水準だった。円安の調整も含みつつ、極端な金融緩和は直すべき局面に至ったと言えよう。

………
 今週公表の指標での驚きは、1月の日銀・消費活動指数がV字回復を見せたことだ。1月の商業動態の小売業が前月比+0.5だったので、それなりに戻すとは予想していたが、10,11月の水準を超える程とは、思わなかった。ただし、これは実質の話であり、名目では、商業動態並みにとどまる。いかに物価変動の影響が大きく、このところの消費の実態をつかむのが難しいかの証左であろう。

 1月の消費活動+の水準は、前期比+0.5にもなるから、このまま行けば、1-3月期は2%成長が望める。しかし、他の指標は、むしろ停滞気味なので、慎重に見る必要があろう。まず、消費と所得を導く追加的需要は、輸出も建設需要も1月は今一つである。消費動向調査は1,2月とも横バイであり、景気ウォッチャーに至っては、「現状」が1,2月連続で大きく下げ、「先行き」が戻したのが救いという具合だ。

 重要となる内閣府・消費総合指数は遅いので、まだ分からない。そして、残念なことに、家計消費状況調査は、1月に支出総額の項目が廃止となった。調査品目追加後に水準が変動した過去があり、テマヒマの面からもやむを得ないが、GDPの消費を的確に映していただけに残念だ。サンプルの多さと回答の容易さがパフォーマンスにつながっていたと思われるので、費用さえかければ、家計調査の改善は十分可能と言えよう。 

 名目値で見れば、消費が着実に加速してきた背景には、毎月勤労統計で明らかなように、雇用者数の着実な積み上げがある。これを労働時間とかけ合わせたもので見ると、この数カ月は停滞を脱してきた。パート比率の上昇があって、長らく停滞してきた賃金も、名目の現金給与総額では、秋以降、底離れの動きがある。また、雇用者数×実質賃金を、内閣府の総雇用者報酬で見ても、平均水準が更新されている。

(図)



………
 2016年の各期の実質経済成長率は、+0.5、+0.5、+0.3、+0.3と順調に推移している。後半は減速したように見えるが、在庫減が作用しており、悪くない数字だ。2014年の消費増税の打撃が大きく、国民の生活水準は従前の水準を取り戻せず、得られるものの割に多く働かされているため、実感しにくいけれども、経済に勢いはあり、ようやく、労働時間や賃金へと及んできた。実質の消費水準も、3年かかりにせよ、今年半ばには増税前水準を超えるところまで漕ぎ着けられるだろう。

 こうしてみれば、極端な金融緩和を変えるべき局面に来ていると言える。少なくとも、今程の円安は無用だ。次のFMOCでの利上げが確実視される中、日銀は、これに協調し、何らかの金融緩和の直しをすべきである。トランプ大統領の当選以来、円安に振れ、輸入品が値上がりし、今後の消費者物価の押し上げが見込まれるが、こうした物価上昇が実現しても、国民のためにならない。 

 円高に振れれば、多少、輸出には不利になるが、世界経済の拡大による需要要因は確かなのだから、円安で価格要因を追求する必要はないはずだ。米景気の拡大で対米輸出が増える中、円安が進むとしたら、米国との間に余計な貿易摩擦を惹起しかねない。物価目標の早期達成に拘らず、それは何のためなのかを改めて考えるべきだ。そうすれば、答えは、おのずと明らかなように思う。

………
 春闘のベアの動きを見ると、賃上げには多くを期待できないようである。そこからすると、賃金アップに伴う物価高という望ましい姿は、期待薄なのかもしれない。しかし、賃金アップには、もう一つルートがある。それは、サービス残業が削減され、きちんと残業手当が払われる方途である。サービス残業の蔓延は、需給の緩みによる労働者の不利な立場に由来するものだが、状況は変わりつつある。 

 ヤマト運輸は、労働需給の逼迫に直面し、サービス残業是正と残業代支払いをせざる得なくなり、これに伴って料金の値上げに踏み切った。こうした事例を広げる必要がある。政策的には、働き方改革の柱として、サービス残業の撲滅も掲げるべきであろう。これこそが望ましいデフレ脱却の姿だ。デフレ脱却とは、コンビニバイトの女子高生が病欠で罰金を取られるといった不利な状況を動かすということなのである。


(今日までの日経)
日本国債・管理政策の再起動を。元大蔵幹部の悔恨録。スティグリッツ氏を諮問会議に、教育への財政拡大に地ならしか。経済教室・若者支援で停滞打破を・河越正明。消費活動指数3か月ぶり上昇。GDP10-12月期改定値 年1.2%増。街角景気1.2pt低下。

※経済の全体を見ない財政職人の繰り言にしか聞こえない。これを称賛するあたりが日本らしい。奨学金を年金で返済できるようにすれば、財源問題はすぐに解決だ。制度を跨いで全体を見ないから、答が見つからないんだよ。
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3/8の日経

2017年03月08日 | 今日の日経
 労働力=人間の安売りが、ようやくにして収まってきたようだ。ヤマトの値上げは、アマゾンを儲けさせるより、国内の労働者にお金を払おうということになる。三菱UFJが日本国債から米国国債に乗り換えたことが却って損になったとは皮肉だ。金利上昇での損は同じでも、日本国債なら得するのは、日本の政府なり国民になる。その違いには意味があろう。円安は、輸出を加速できなければ、国民は物価高で損をする。どれも、ジャパン・ファーストが過ぎる見方になるかね。

(今日までの日経)
 営業短縮小売りに拡大。社債発行18年ぶり最高。米金利で予行演習、含み損膨張、破綻の悪夢。家計の体感物価、実は上昇。ヤマト、全面値上げ。原料高、波かぶる中小。米銀、再生か暴走か。
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アベノミクス・回復も小休止

2017年03月05日 | 経済(主なもの)
 12月は、住宅投資が衰える中、公共事業が息切れを起こして急落し、これに輸出の低下が重なって、経済活動がつまづく事態となった。1月も、これを引きずるため、今一つの状況にとどまる。需要管理がまったくなっておらず、早めの補正予算をしていなければ、どうなっていたことか。幸い、世界経済の拡大で、輸出は上向いている。運に頼り、成り行き任せという経済運営が、この国の特徴と言えよう。

………
 全産業指数の建設・公共を見ると、7-9月期に119.7であったものが、10月116.7、11月110.8、12月108.3と、月を追って下落している。こんなに急では、とても民間工事で補い切れない。10-12月期の建設業活動指数は、前期比-2.5へと後退した。折悪しく、住宅投資が10月に峠を越え、輸出も、急伸の反動で、12月の低下が大きく、追加的需要は、下図のように崩れてしまった。

 デフレ下で緊縮をするとどうなるか。追加的需要が新たな所得を生み、所得次第で消費は動くので、ストレートに悪影響が及ぶ。12月の消費活動指数+は、それまでの好調さと打って変わり、前月比-1.0と大きく低下した。もし、12月が前月比横バイで済んでいれば、10-12月期は、消費で前期比+0.4を確保し、GDPの年率2%成長も望めたから、誠に惜しい結果であった。

 1月は、日銀・実質輸出が前月比-1.2と引き続き減退しており、鉱工業指数の建設財出荷も前月比-1.8になっている。追加的需要は、前月の傾向を引きずっていると考えられる。消費については、1月の商業動態の小売業が前月比+0.5になったため、消費活動指数も同じくらいの伸びは期待できるが、12月の低下が大き過ぎて、前期比では、-0.2程度のマイナス圏にとどまろう。  

 なお、1月の家計調査は、消費水準指数(除く住居等)が前月比+1.5と、かなり高かったが、前月までの水準が異様に低く、参考にならない。しかも、住居等を除かない値は、-0.9になるといった乱れぶりだ。また、勤労者世帯の消費性向は、昨夏の突然の下落から脱し切れておらず、低い状態にある。夏からの景気回復が及ばぬうちに、秋の生鮮高騰に攪乱されたようであり、サンプルの多い家計消費状況調査の結果を待ちたいところだ。

(図)


………
 今後、世界経済の拡大に連れて、輸出は緩やかに増加することが見込まれる。そこで、製造工業予測調査を見ると、春節明けの2月は+3.5と高いものの、3月は逆に-5.0と、秋の水準に逆戻りする形となっている。ただし、3月の原指数は、前年同月比+1.5、前々年比も+1.4である。高下は季節調整による可能性があり、これから変わり得るものと、心得ておいた方が良いだろう。

 他方、建設需要だが、公共事業は、補正予算の効果が出て、そろそろ下げ止まってほしいところである。住宅投資は、1月の着工増は五輪宿舎建設の特殊要因によるものらしく、今後は良くて現状維持であろう。期待されるのは、企業の建設需要で、昨夏から順調に伸びて来ており、これが補ってくれればと思う。今週、公表された10-12月期の法人企業統計では、製造業、非製造業ともに、設備投資が回復しており、景気の波及がうかがわれる。

 雇用については、男性の失業率が3.1%と最低水準の更新を果たしたものの、就業者数では前月比-1万人、雇用者数は-11万人と足踏みであった。むろん、女性は、着実に伸ばしてきている。新規求人倍率は、除くパートが前月比-0.07の1.83倍、パートが-0.04倍の2.76倍だった。高水準ではあるものの、1月は陰りが見られた。産業別に前年同月を確かめると、除くパートでは、製造業が多かった反面、建設業が少なく、パートでは、卸・小売業が減っている。

 物価は、消費者物価指数「生鮮除く総合」の前年同月比が約1年ぶりにプラスとなった。生鮮の高騰は収まりつつある一方、いよいよ円安と原油高の影響が現れ始め、物価上昇の主役が交代しようとしている。円安は、法人企業統計にみられるように、四半期の最高益をもたらし、年金基金に多大な利益を与えたが、消費の面からはうらめしい。税収を押し上げるので、需要管理は要注意だし、今程の円安は無用に思え、FRBの利上げを契機として、金融政策も見直すべき時期に来ている。

………
 計画どおりなら、4月から10%の消費増税か行われる予定だったのだから、成り行き任せの経済運営も、悪くはない結果にはなっている。2014年の消費増税から3年を経て、ようやく成長が戻ってきた。とは言え、家計消費(除く帰属家賃)は、増税前と比べ5兆円も少ないままにある。内需を大事にせず、金融緩和をして、円安・株高にすれば、景気は良くなるという単純な政策の失敗は明らかであろう。

 円安は、企業収益と税収を膨らませたが、雇用や所得を喚起しなかった。輸出はレートより世界経済次第ということが再確認され、無職世帯が増えた今では、物価高は国民生活にこたえると分かった。本当は、教訓に学びつつ、絶妙な需要管理や金融政策が求められるが、望むべくもない。度外れた緊縮に走らないだけましで、フラつきながら回復の道を歩んでいる。2月は、消費動向調査が横バイ、大手百貨店は堅調、自動車販売は良好だ。年度末の盛り上がりを期待して、今日は筆を置くとしよう。


(今日までの日経)
 値上げの春? 原材料高。世界株 時価最大に迫る。ヤマト、残業1割削減 便利さ追求、限界。「3月米利上げ」急浮上。GDP上方修正の公算 年率1.5%増。公的年金、運用益10兆円 トランプ相場追い風。 国保の赤字 慢性化 医療費膨らみ2843億円。輸出企業、円高に耐性 1ドル=100円でも。

※日経は今日から新紙面。横書きに題字が変わるのは、やはり寂しさもある。スタイル面は広告効果も含めグッドだ。地味な読書欄は土曜へ引っ越し。時代の流れかな。
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