経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

10/27の日経

2011年10月27日 | 経済
 旅行のため、1週間ほど休載します。

(今日の日経)
 欧州銀の自己資本9%に。円、連日の最高値。ヘッジファンドは介入を待ち構え。新日鉄、経常益2割減、景気減速や円高進行で。消費税上げ12月具体案。サイバー攻撃政府機関標的。人口縮む日本、膨らむ世界。TPPで農業戸別補償3兆円増。LGの営業赤字21億円。セブン・学校給食に参入。経済教室・国債通過へ市場の厚みを・篠原尚之。大学院修士論文不要に。

※企業収益が落ちて来た。震災より円高が理由。緊縮財政をして、円高にし、税収を落とすか。日本の財政当局は何がしたいのかね。苦し紛れに介入して、ヘッジファンドでも喜ばすか。消費税の具体案を決める12月には、世界経済はもっと悪くなっている。引き上げは2~3年後だといっても、こんな景気で何を議論してるんだという雰囲気になるだろうね。※セブンはやるね。これからは「給食化社会」になるよ。
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円高保険でも作ったら

2011年10月26日 | 経済
 久々に良い記事だったね。とは言っても、本紙朝刊ではなく、電子版ビジネスリーダー面の「日本に居座る投機筋、超円高は終わらない」(小栗太記者)である。要すれば、日本の財政当局の見えみえの為替介入が投機筋にいいように利用され、円の買い持ちポジションに居座られたために、円高が持続しているという内容だ。

 本コラムでも、介入は投機筋に買い場を与えるだけと批判していたが、それが裏付けられた形だ。国費を投じる介入の効率の悪さを示している。おまけに、本コラムは、介入があったら、輸出企業などの実需家は買うべしと説いていたが、戻りが悪かったこともあり、買いそびれたところが多かったようだ。

 こうなったら、政府が輸出企業と相対で為替取引をしてはどうか。もちろん、政府には差損が発生することになるが、介入の場合とて同じである。企業への補助金というのが露骨だと言うなら、一定以上に円高になった場合の保険という体裁にし、多少の保険料を取ることにすれば良かろう。

 むろん、こうした対策をしたところで、円高そのものがなくなるわけではない。日本でデフレが進むほど、実質金利は高まり、円高へと向かう。こうした構図を打破するには、国内需要を増やす努力をしなければならない。今日の日経によれば、日本の財政当局は、教員や地方公務員の給与を7200億円カットするつもりらしく、逆に円高を押し進めたいようだ。

 日銀は、展望リポートを下方修正するほどだから、デフレへの危機感はあるのだろう。明日の金融政策決定会合で、追加緩和策が議論され、50兆円の資産買い入れ枠を1割ほど拡大するようだ。その効果もさることながら、政府と日銀が逆向きである以上、円高が是正され難いことは容易に予想できる。

 今日の日経は、ボッコーニ大の先生の「基礎的財政収支は黒字、輸出は世界8位、家計貯蓄率も高水準で、イタリアはギリシャと違う」という言を引いている。イタリア国債の金利やCDSの高まりはファンダメンタルズでは説明し難く、投資家の行き過ぎた不安を反映しているように思う。その不安は、ECBが支えないかもしれないという不安である。

 経済では、不安が不安を呼んで、マーケットが不合理な反応を示す場合がある。マーケットが常に正しいわけではない。その時に、安心を提供し、不合理を正すのが、政府なり、中央銀行なりの役割である。欧州は、そこに弱点があるのだから、混乱を見せるのは、ある意味、仕方のないところがある。

 日本には、当然、そうした問題はない。日銀は、買い入れ枠の拡大で、「国債を支える」と言っているわけだが、財政当局は、それに応じて、財政を緩和しようという気はさらさらない。反対に、次から次へと、デフレを強めるような情報を流しては、足を引っ張り続けている。これでは、投機筋も円を手放す気にはならないだろう。

 日本は、イタリアよりも財政赤字のGDP比率は高いかもしれないが、中央銀行のバックアップという、経済運営の自由度を持っている。行き過ぎた円高は、財政がソブリンリスクを取れば、是正が可能である。政府が、そのリスクから逃げてしまえば、代わりに苦しむのは、企業になる。不合理の発生は、取るべきリスクを、取るべき者が、取らないことで生じるものなのだ。

(今日の日経)
 円最高値75円73銭、日銀、追加緩和を検討。ECB国債購入に反対。タイ洪水企業収益に影。米住宅販売4か月連続減。ギリシャ債務削減60%に引き上げ論。社説・普天間の固定を避ける道を。発電コストで事故を考慮。公立小中教職員の給与下げで1200億円削減、地方公務員6000億円カット。TPP効果試算・GDP2.7兆円増加。保険料免除を産休中も。中国、引き締め修正示唆。ボッコーニ大教授・ギリシャと違う。ワタミ一転最高益。新興国経済の課題・大野健一。
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コラムの価値は平凡さ

2011年10月25日 | 経済
 このコラムの価値は、ごく平凡な経済運営を主張していることにある。裏返せば、日本の経済運営は異様だということだ。財政に関する情報操作もひどい。例えば、2010年度に14兆円もの緊縮財政を試みていたのであり、財政再建に迫られているとは言え、常識で考えても、急激に過ぎるだろう。公明正大にできないのも当然だ。

 今後の経済運営にしても、本コラムは消費税増税には賛成している。ただし、駆け込み需要とその反動というショックを避ける工夫をせよとか、増税に耐えられるだけの十分な成長率や物価上昇率の下で行えとしているだけである。こうしたことは、通常は、当たり前すぎて議論にもならない。

 今の財政当局が「研究報告書」なるもので目指しているのは、消費税は景気に影響しないので、「景気とは関係なく、一気に引き上げろ」というものである。ショックを避ける工夫も、金融緩和をすれば良いという程度であり、低所得者への対応策もない。どうして、ここまで強引にしようとするのか、まったく理解不能である。

 結局、リスク評価の違いなのだろう。彼らは、「一気に増税しなければ、財政が破綻する」という焦燥感に取り憑かれていて、増税による景気失速のリスクは、まったく目に入らないのではないか。こちらは、「一気の増税のリスクを犯さねばならぬほど、財政破綻は差し迫ったものではない」という評価なのだ。

 おそらく、彼らの焦りは視野の狭さにあるように思う。「国の借金は、GDPの200%にもなり、世界でも最悪」といったものが典型で、その一点張りである。最悪だから、最も過激な財政再建をしないといけないというわけなのだろう。むろん、これだけで財政リスクが計れるはずもない。今日の日経で重圧が報じられているイタリアは日本よりも良好なのだ。

 KitaAlpsさんがコメントしてくれているが、1997年のハシモトデフレの評価にしても、さまざまな指標を見れば、財政に原因がないとは、とても思えないはずだ。例えば、鈴木淑夫先生のHPにある、1997年当時に書かれた「月例景気見通し」の指標分析を読めば、景気失速の動きがつぶさに分かる。当時を経験してない者が「誤解」だと切って捨てられるようなものではない。

 もっとも、景気失速は、同時になされた、公共事業削減、定率減税廃止、医療保険引き上げが原因であり、消費税だけは無罪なのかもしれない。仮に、そうだとしても、財政需要の管理をしないで経済運営をした事実に変わりはない。過去を反省していないのだから、同じ事をする可能性は高いのだ。

 今日の日経のラインナップを眺めると、世界経済が減速に向かっていることが分かる。日本のように、内需を抜く計画を熱心に議論している場合ではない。実際には、執行に難があって、すぐには需要にならない復興費に、やたらと予算を積み上げたり、世界経済の需要が萎み始めているのに、輸出企業むけの円高対策をしてみたりといった具合だ。

 もし、日本が、財政需要を把握して安定させるという、ごく平凡な経済運営をするようになったら、本コラムの価値はなくなってしまうだろう。「何を当たり前のことを、毎日書いているんだ」と言われるだけである。そうならないのが、悲しいところだ。

(今日の日経)
 世界の株売買急減、しぼむマネー実体経済に影。トヨタが国内で生産調整。欧州包括策、国債購入規模に不安。輸出足踏み懸念、アジア向け鈍る。イタリアに重圧、基礎的財政収支は黒字。国際貨物の動き鈍化、欧州不安が波及。DRAM弱含み。LNG下落。東鉄値下げ。
 社説・TPPへの誤解なくそう。米の雇用法案は困難、景気の足かせ。米自動車大手、国内で大型投資、ドル安で再開。米太陽電池メーカーの挫折。ASEANをRORO船で支援。生保も手放す超長期債、銀行が買い越し。被災地にエコ型下水道。韓国ウォンなど買い戻し。経済教室・雇用拡大こそ格差解消策・ジョン・マーチィン。

※オバマ政権はクリントン政権に似てきたね。輸出に活路を見出そうとして、プレッシャーをかけているのだろう。日本がTPPを断ってきたら、円高や通商摩擦の攻撃を仕掛けるだけのこと。だから、不利を承知で加わろうとしているのだろう。政府もバカではない。
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輸出モデルから再分配モデル

2011年10月24日 | 経済
 薄氷を踏む思いというのは、欧州経済のようなものを言うんだろうね。どこかの金融機関の破綻から、いつ金融不安が起こっても不思議でない状態だ。それが些細な政治的躊躇から勃発することは、1997年の日本や2008年の米国の例でも明らかである。これを免れたとしても、金融収縮と緊縮財政によって、成長が減速することは避けられまい。

 問題は、欧州の市場に頼っている国々である。中国は、輸出の減速がはっきり出ており、来年にかけて、成長率の8%割れさえ予想されている。とは言え、新興国の経済は「若く」、大きく落ち込むことはあるまいというのが、一般的な見立てである。今日の日経の「核心」で、クルーグマンの言を引く形で、土谷さんも、そう述べている。

 果たして、そうなのか。日本経済が若かった高度成長期には、金融政策は、よく効くと言われた。金融を緩和さえすれば、設備投資が戻り、成長は再開するものだと。しかし、例外もあった。昭和40年不況と呼ばれるもので、金融緩和に転じたのに、すぐには設備投資が戻らなかったのである。

 その要因は二つあった。財政赤字に驚いて緊縮財政を取ったことと、輸出環境が悪かったことである。結局、この不況は、戦後初の赤字国債の発行による財政の転換と輸出の好転で脱することができたのだが、ポイントは、経済が若くても、金融緩和だけではダメで、呼び水となる追加的な需要が欠かせないということである。

 筆者は、日本の高度成長期に金融緩和が効いたのは、世界貿易が伸びていて、輸出を伸ばそうと思えば可能だった環境にあったことが大きいと考えている。たまたま、それが欠けていた昭和40年は不調に陥ったわけだ。設備投資を引き出すのに、目の前の需要が鍵だとする「どうすれば経済学」の見方は、こんなところでも活きてくる。

 今の中国で、いったん設備投資が減速してしまうとどうなるか。筆者は、大きく落ち込むだけでなく、復活も難しいと考える。なぜなら、設備投資を引き出すための外需も期待できないし、金利感応性が高い住宅はバブル状態にあり、公共事業も伸びきっているからである。つまり、物価が低下して金融緩和が可能になっても、「呼び水」がない。

 同様の事情は、インドやブラジルなど他の新興国でも、大なり小なり言えることだ。こうしてみると、欧州から始まる不況は、世界経済を予想以上に深刻なものにしてしまう可能性がある。そもそも、この2000年代の好調ぶりは、欧米の過剰な消費が外需となり、新興国が輸出を起点に高成長の波に乗ったものであることを忘れてはならないだろう。

 この10年に多くの新興国が離陸を果たしたが、その内実は様々である。本当の離陸は、輸出増→ 設備投資→ 所得増→ 消費増となって、自律的な成長を実現することである。その際、消費増を犠牲にすれば、一層の高成長は果たせるものの、外需に頼るという危険性を孕むことになる。その点で、中国や韓国は危うい存在と言える。

 外需に頼れなくなったときに、所得再分配の手法で浮上を図れるかどうか。今日の日経でスティグリッツが言っているような格差是正が、成長にまで結びつくかは、正直に言って分からない。「どうすれば経済学」の理論上も正しいとは思えても、所得再分配の具体策によって、どの程度の追加的需要に結びつくは異なるからだ。

 今日の経済教室は、東大の白波瀬佐和子先生だったが、要すれば、中間層の現役世代への再分配が薄く、雇用の悪化によって、その問題が顕在化してきたということだろう。処方箋としては、高齢層への再分配の削減より、成長によるパイの拡大を強調している。そうなると、政策的には、かなり高度なテクニックが必要になる。まあ、基本内容の「雪白の翼」でも参考にしてほしい。

 「欧米がダメでも、新興国があるさ」と安易に考えていると、思わぬ事態となろう。日本には、無意識に新興国に頼る気持ちがあるのではないか。新興国もダメなことが分かってから、慌てて内需創出の再分配を考えるという展開だろうか。財政再建一辺倒で、内需を管理するという考え方さえ持たない国に、再分配の在り方を説いても、ほど遠いところではあるが。

(今日の日経)
 大卒内定4年ぶり回復、製造業けん引。厚生年金保険料の上限上げ。社説・若者のため年金受給者も応分の痛みを。EU、市場にらみ綱渡り。年金改革は高所得者頼み、揺らぐ「負担に応じた給付」。世界の忍び寄る高齢化。核心・30年代とどこが違うのか・土谷英夫。スティグリッツ・政策の偏りデモ招く。中国の対東南アジア貿易額が日本抜く。経済教室・縮む中間層・白波瀬佐和子。英語で授業の拡大難しく。
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三次補正の内在的評価

2011年10月23日 | 経済
 本コラムの性質からすると、三次補正の分析を書くべきところだろうが、正直言って、面白くないんだよ。こんないい加減なもので、よく増税を受け入れるものだと思いつつ、日本だからねぇとあきらめる。そんな感じだ。悪巧みでもよいから、知恵や工夫がないと、分析の意欲が湧いてこないんだな。

 震災という有事に際して、どのような財政運営をすべきだったかについては、6/24に「誠実な財政運営」というタイトルで代案を示している。4か月も前のことである。有事のときこそ、事務方は最高のテクニックを見せるべきなのである。ところが、増税の野心があったために、迷走することになった。

 その増税も、わずかな所得税の定率増税を取っただけである。法人減税の凍結くらいは、こんな大仕掛けをせずともできたことだろう。予定していた相続税の増税については、いつの間にか、ほったらかしだ。おまけに、財政当局の「自主財源」であるたばこ税を差し出さざるを得なくなった。まあ、JT株放出と引き換えなら良いという判断かもしれぬが。

 結局、政治的な騒動と、遅延による被災地の犠牲を代償として得たものは、わずかばかりの増税であり、しかも、増税狙いで大型の復興費を組んだ副作用は大きかった。中身が震災と関係の薄いものまで入って水膨れした上に、被災各県からは、全壊1戸当たりで1億円を超えるような途方もない復興費の要求が届くようなったのである。

 これは、被災県が吹っかけているわけではない。通常の事業と復興の事業の境目がつかなくなっているからである。例えば、三陸縦貫自動車道がある。筆者も、これは復興に欠かせないものだと考えているが、震災がなくとも、長期的には完成していたものだ。つまり、復興事業には、新規の追加ではなく、前倒しで実施されるものが多いということなのである。こうした通常でもしていた事業が復興事業としてカウントされれば、費用が大きく膨らむのは当然だろう。

 やや専門的になるが、学校や病院・福祉施設にしても、津波で破壊されたのは残存価値の部分にすぎない。従って、今後、一斉に再建すれば、数十年は建替え費用が不要になるという利点も生じる。復興事業は膨らむものの、震災前に予定されていた通常事業の必要性は大きく減るということだ。復興費を別枠で積み上げることには、こうした難しさがある。

 だからこそ、阪神大震災の際には、補正予算は、当初の救助や応急復旧のためのものに限り、本格的な復興費については、毎年の予算編成の中で確保することにした。もちろん、当時は公共事業費も多かったし、消費増税が2年後に決まっていたという事情もあるにせよ、今回も同様にできなかったわけではない。

 このように、財政当局の内在的な評価基準、すなわち、適正なマクロ経済運営という観点から離れて、単に「支出を抑え、税を増やす」という観点からしても、三次補正の対応は稚拙であったと断ぜざるを得ない。派手な政治的な工作から、事務方トップが「大物」とか、「影の総理」とか言われているようだが、週刊誌に書かれたりと、本来の黒子が目立つこと自体、失敗を表しているように思える。「誠実な財政運営」をしていれば、自然な対応として認識されるだけで、作り手を意識されることはなかったろう。

 外交の世界では、「真に優れた外交官は歴史に名を残さない」とされる。なぜなら、コンフリクト(諍い)が起こる前に予防してしまうからである。名を残すのは、関係の悪化を防げずに周知のものとなり、修復への調整で目立った働きをしてしまった外交官である。事務方の匿名性の意味を良く示す格言ではないか。

 三次補正が成立する頃には、被災地は雪である。寒さに震え、こんな時期にもなって、ようやく予算なのかという光景が目に浮かぶ。復興費は国民の厚意であるはずなのに、大幅な遅延に加えて、増税に対する庶民の不満、膨らむ復興費への疑念といったものを引き起こしてしまった。野心的な財政運営の責任は重い。

(今日の日経)
 銀行資本増強を最大10兆円、独仏歩み寄り。半導体事業を縮小1000人削減・パナ。起業が割りに合わない国。診療できる看護師を創設13年度メド。TPP・足踏み続けば迫る孤立。FX・米の2機種を軸に。風見鶏・ロシアの対中戦略・秋田浩之。米が年内にイラク完全撤収。中外・プーチン皇帝。中国に勝つパソコン生産。読書・河内源氏、IBM奇跡のワトソンプロジェクト。

※対応を躊躇して一つ金融機関を潰すだけで、一気にパニックになりかねない。危地は続く。※緊縮財政による円高は、こうして企業をダメにしていく。起業が少ないのもデフレが理由。※医師不足の緩和と効率化に必要だ。日経も混合診療より、こちらを推してほしい。※反TPPが盛んだが、拒否する選択肢を日本は持っているのか。※FXでは選択肢を持っていない。F35だろうが、別途、ユーロファイター数機を輸入するなどして、カードとして持ち続けなければならない。そういう芸当が日本にできるかな。英には対中武器輸出規制の協力もしてもらわないといけないしね。※秋田さんは、相変わらず読ませる。これで書きたかったな。
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デフレ円高と企業経営

2011年10月22日 | 経済
 今日の日経一面トップは、「円最高値75円78銭」である。日本が週末に入ってからであり、瞬間最高値というところだろう。既に、今朝の時点で76円台に戻っている。それでも、輸出企業は、ここまでの円高で、かなりの打撃を被っており、気が気ではなかろう。しかし、これは自業自得なのだから、甘んじて受けなければならない。

 日本の経済界は、財政再建が大好きである。賛成と引き換えに、財政当局から法人減税の飴玉をもらえるからだ。8/21に詳しく書いたように、緊縮財政をすれば、デフレになり、デフレになれば、円高になる。そうなると飴玉どころの話ではないのだが、経済界は、こうしたマクロ経済のメカニズムに無知なので、「とにかく円高を何とかしてくれ」と叫ぶだけなのである。

 財政当局にとっては、円高によって経済界が財政再建の陣営から離反し、内需拡大を求めるようになることが怖い。それゆえ、円高対策には積極的で、経済界の悲鳴には敏感に反応する。むろん、対策とは言っても、需要を拡大する以外の、あまり効果のないものに限ってということになるが。

 昨日は、三次補正の閣議決定がなされると同時に、「円高への総合対応策」も決定された。普通なら、財政も拡大するし、円高対策も加わるわけだから、円安に振れてもおかしくないのだが、ここで円買いを仕掛けるあたり、投機筋も洒落たことをする。もっとも、ロイターなどが伝えるように、日銀は、10月の展望リポートで、2013年度の物価上昇率でも0%台半ばとするようであり、復興需要でデフレ脱出とは、誰も思っていない。

 三次補正は、額ばかりが大きいが、すぐに需要に結びつくような中身ではない。成立する頃には、被災地は冬である。公共事業関係の予算を積まれても、消化に3年はかかるのでないか。本コラムの9/17を見てもらえば分かるが、2012年度予算と連結すれば、復興需要どころか、財政デフレの様相すら呈しかねない。きちんと数字を把握している人にとって、日銀の見方は当然とも言えるものだ。

 経済界には、早く目を覚ましてもらいたい。わずかの法人減税の飴玉くらいでは、割に合わんのではないか。今日の日経では、パナソニックがテレビ事業を縮小することを報じているが、そもそもは、サムスンなどとの設備投資競争に敗れた反省から、逆襲を期しての思い切った大規模投資だった。いま流行の「選択と集中」である。

 ところが、急激な緊縮財政で内需を抜かれた上、十分な経過措置なしにエコポイントを打ち切られてしまう。駆け込み需要では、タマ不足で商機を逃し、反動減では、価格下落に苦しむ展開になった。その上、緊縮財政によるデフレで円高に見舞われては、出口がない。デフレ財政をする国での設備投資はリスクが高く、そんな経済運営とは無縁の中韓台の企業との競争に適うわけがない。経営ではなく、経済の問題なのである。

 こんな有様では、リスクを取って積極的に設備投資を国内でしようとする経営者は絶滅してしまう。政府の円高対策で、ドル資金を融通してもらえるというなら、国内でなく、海外で投資をしようということになるだろう。立地補助金や雇用助成金をもらったとしても、国内に需要が乏しく、海外市場を円高で塞がれるようでは、どうやって投資を回収するのか。これでは、日本の成長力は衰えていくばかりである。

(今日の日経)
 円最高値75円78銭。テレビ消耗戦に見えぬ勝者。太陽電池の生産見直し・円高背景。ミャンマーに新規ODA。社会保障改革、給付抑制の大物先送りへ。三次補正案12.1兆円。ヘッジファンド1.6兆円流出。欧米銀行に信用リスク・SDS高止まり。ギリシャ再建、緊縮では困難・アルゼンチン元経財相。TPP推進論が米で拡大。コンビニ節電へ地中熱。資源国通貨の下落一服。鉄鉱石、供給過剰で下落。
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我々はすべて消費増税論者である

2011年10月21日 | 経済
 お上に逆らうようなことを書くと、「大衆迎合の放漫主義」のようなレッテルを張られがちだが、多少なりとも経済に通じていれば、高齢化に伴う社会保障費の増加に対応して、長期的に消費増税が必要なことを否定する者は、ほとんど居るまい。

 問題は、どうやって上げるかである。もちろん、政治や国民をいかに丸め込むかという政治的な話ではなくて、経済に悪影響を与えずに上げるための工夫である。あるいは、悪影響が出ないような景気の状況はどの程度かという配慮でも良い。もし、日本経済がインフレ気味であれば、増税は好影響さえ与えるだろう。

 1997年のハシモトデフレの反省点を上げれば、住宅投資の駆け込みと反動減が経済を大きく揺さぶったことがある。対応策としては、住宅への消費課税の減免をしないまでも、課税時期をずらしたり、住宅エコポイントを与えて相殺し、それを徐々に削減するといった工夫が必要である。それは、クルマなどの耐久財にも応用できる。

 低所得者が消費を減らさないための工夫も必要だ。消費税増税の前後でマクロ的に消費は減らなかったなどと主張するだけでなく、消費を減らすしかない低所得者のために、社会保険料を増税時に軽減するなど、ウォームハートの部分が欠かせないように思う。そうした工夫が、結局は増税を成功させるのである。(基本内容の「雪白の翼」を参照)

 景気の状況についても、消費税は1%で2.5兆円も所得を吸い上げてしまうのだから、ある程度の物価上昇率が必要である。デフレでも増税などというのは、およそ考えられないことだ。そうした状況で増税をすれば、増税の負担が帰着するのは、最も弱い者になるので、中小零細企業が転嫁できずに引っ被るという悲惨な事態になる。

 しかるに、財政当局は、昨日のコラムで指摘した中間報告などで見られるように、いろいろと理屈を並べては、工夫も、配慮もなく、時期を決め打ちして、一気の増税をするということばかりである。もう、こうなると狂気の沙汰である。経済の理論とか、実証とかいう以前の、一般常識で考えても、おかしな行動である。

 あたかも、消費増税に工夫や配慮を求める者は、財政再建への抵抗勢力であり、理屈で煙に巻いて蹴飛ばせば十分といった雰囲気さえ感じられる。「消費増税は景気失速の主因ではない」と突っ張ったところで、「一因であるのは否定できないのだから、工夫や配慮をする慎重さが必要ではないの?」という常識論にすら答えられまい。

 もはや、消費税は是か非かという入口論は十分である。どうやって、経済的に無理のない形で上げるかに知恵を結集すべきである。「2015年から7%にする」という財政当局の政治的方針を正当化するためだけに、経済学の知見が都合よく集められている現状は、まことに憂慮にたえない。

 「このままでは財政破綻」と叫んで無闇な増税を行うのは、「このままではジリ貧」と叫んで真珠湾攻撃を敢行した、かつてのメンタリティと変わるところがない。不安に耐え、粘り強く努力をしておれば、情勢の変化によって悲劇は避けられたかもしれない。大事なのは、条件付賛成論にも耳を貸し、焦りと孤立感から極論に走らないことである。もはや、「我々はすべて消費増税論者」なのだから。

(今日の日経)
 復興財源法案の成立強まる、公明が評価。カダフィ大佐死亡。パナ・太陽電池増産を撤回。デジカメ発売延期・タイ洪水で。独1%成長に鈍化。パナ・落日のテレビ事業。農地集約で平均面積5年で10倍。ポスト京都の合意困難に。欧州・波乱含みの資産圧縮。ホンダが国内10万台増。経済教室・ユーロ問題・庄司克宏。

※パナの選択と集中の結果がこれか。経営より経済の問題だ。※ロイターは緩慢な金融危機が進行中とするが、同感だね。※ブルームバーグによれば、三次補正の市中増発は1兆円の由。前倒し発行で、当局は拡張財政でも市場に影響ないことを知っていたわけだ。そんなものなのよ。
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情報操作で日本が行き着く先

2011年10月20日 | 経済(主なもの)
 内閣府の「経済社会構造に関する有識者会議」というところから、「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」という、何とも覚えにくい名称の報告書が出された。内容は、要するに、「成長しても、財政は改善されないので、消費税増税しかない」という趣旨のものだ。世論をそこへ持っていこうとする、情報操作のための政治的文書である。

 報告書をまとめた座長の岩田一政先生は、学識も豊かだし、人当たりも柔らかで、そんなことをする「悪人」とは思えないのだが、どうやって、財政当局は、こういう文書を作ったのか。情報操作の、なかなかのテクニックが使われているので、それを読み取るだけで、とても勉強になると思う。インテリジェンスに興味がある人にとってはね。

 その秘密は、報告書ポイントの「はじめに」にある。成長すれば、どの程度の税収増が見込めるかは、経済的にも、政治的にも非常に関心を集める問題だ。その推計方法には様々な手法があるのだが、報告書は「税収弾性値」で推計するとしている。実は、報告書の「本編」にある会議メンバーのコメントからうかがわれるように、この手法では、まともなモノは出てこないのである。

 むろん、財政当局は、それを承知で、学識者に「発注」をしている。おそらく、「今後の税収予測をしてほしい」という発注なら、学識者は別の手法を採用して、精度の高いものを導き出しただろう。しかし、「税収弾性値を推計してくれ」と言われれば、こういう内容の報告書にせざるを得ないのである。

 学識者の本音が分かる本編の「コメント」部分を読めば、2000年代に入って、税収弾性値は揺れ動いており、基礎データとなる名目成長率もゼロ近傍にあって不安定なことが触れられている。統計を扱っている者なら、誰でも分かるように、こうしたものを頼りに、政策や経営の判断をしてはならない。

 税収予測については、財政当局は隠蔽しておきたいことがある。それは、2007年度に14.7兆円もあった法人税の税収が、リーマンショックの影響で、2009年度の6.4兆円まで、一気に8.3兆円も減ってしまったことである。常識で考えても、ショックから立ち直り、企業収益が戻れば、税収がV字で伸びることは容易に予測できる。

 これは、消費増税を果たしたい財政当局にとっては、非常に都合の悪い事実である。大幅な自然増収が見込めるとなれば、増税の機運が薄れてしまう。本当は、自然増収が見込めるときに、増税や緊縮をするのは、二重に需要ショックを与えることになりかねないので、危険ですらあるのだが。財政当局は、どうしても、これをやりたいようだ。

 実際、2010年度には自然増収と緊縮のダブルパンチになって、年度後半はマイナス成長に沈んだ。決算ベースで見れば、前年度から2.8兆円もの自然増収が発生している。その点で、報告書では、2010年度の自然増収の実態が分からないよう、マクロ経済モデルの構築を学識者に発注することで、GDP統計の年報が出ている2009年度までのデータしか扱えないように仕向けてある。

 言わずもがなだが、時系列データの分析では、直近のデータが何より貴重なことは、イロハだろう。それを敢えてネグるのだから、あきれてしまう。読者の皆さんは、直近のデータが抜けている予測レポートを信用したりするかね。こんなものを部下や院生が持ってきたら、筆者なら叱りつけているところだ。

 前にも書いたが、お役所の報告書の「概要版」の鵜呑みは禁物だ。時間がなくても、本編まで目を通す必要がある。今回の報告書の巻末の学識者のコメントを読むと、いろいろと留保が書かれている。本編まで目を通されてしまうと、ボロが出てしまうのだが、こういうものでも付けなければ、学識者が名前を貸すのに納得してくれなかったのだろう。

 ボロついでに、一つ指摘しておくと、概要版には、税収の実績値と税制改正がなかったと仮定した場合の推計値のグラフが載っている。これからは、ハシモトデフレで消費税を上げ、法人税を下げたことが、税収に大穴をあけたことが読み取れる。1998年以降、「ワニの口」が大きく開いているのだ。

 こうしてみると、当局流の無用な「財政再建」をしていなければ、財政再建が達成されていたわけである。日本の財政当局は、本当に財政再建をする気があるのだろうか。財政再建そっちのけで、消費増税が自己目的化している観がある。この消費増税と法人減税の抱き合わせは、決して偶然ではない。経済界の支持を得るために必須のことがらである。

 今後、2014年の春頃に消費増税が予想されているが、法人税の復興増税の臨時期間が終わり、2015年度に法人減税がなされるのは、経済界に消費税への賛成をさせるための「人質」だ。もし、消費増税の際に、景気が今一つの状況であれば、ハシモトデフレの二の舞になり、日本の経済と財政に再起不能の打撃を与えるだろう。

 ちなみに、報告書を出した会議の「経済と社会保障の中間報告への整理」では、要するに、「景気回復がハッキリする前で、多少景気が悪いような状況でも、消費増税を敢行すべし」という趣旨のことが書いてある。日本の財政当局は、何を望んでいるのだろう。そして、国民をどこに連れて行こうとしているのだろうか。

(今日の日経)
 アマゾンが日本で電子書籍。たばこ増税容認へ・公明。タイ洪水で首都に避難準備要請。海外企業、日本で資金調達。南欧国債が再び不安定。日韓が通貨融通枠5倍に。景気震災前に届かず、回復の勢い弱く。景気の山2008年2月で確定。一括交付金は政令市に限定。復旧復興事業の地方負担ゼロ。タイ利下げ見送り。中国の鈍る消費で小売り外資リストラ。コマツ・設計図は一枚。LED照明の中国集中を分散。大機・BRICsに+I・手毬。経済教室・ノーベル経済学賞・伊藤隆敏。

※韓国には金利を上げてもらわないと。そのくらいの要求を当局はしたのかね。※本コラムでは、補正の実態を見抜いて、最初から指摘していた。予測的中でも、うれしくもない。分権も現実化したね。※手毬さんに賛成。※経済教室も良いネタだったが、予告してたしね。
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冷静で穏健な議論の基礎

2011年10月19日 | 経済
 今日の経済教室のタイトルは「増税と併せ量的緩和を」なのだが、本文の内容とズレがあるように感じられる。こういうことが時々あるのは、タイトルやポイントは編集の方で付けているためだろうか。編集の志向性が滲んでいるように思える。

 筆者なりに、本多祐三先生の論旨をまとめると、復興増税などの財政面からの負のショックをできるだけ小さくしつつ、復興需要の表れに際し、金融緩和をすることで、デフレ脱却を図ろうとするものであろう。タイトルから受ける、「増税しても量的緩和をすれば良い」という印象とは異なるものだ。

 本多先生の論旨には、筆者も賛成である。筆者の場合、量的緩和の景気浮揚の効果は限定的だと考えているが、程度の差に過ぎない。仮に、復興需要が出てきて、長期金利が上昇し始めたときに、量的緩和によって抑制をするなら、それは景気回復を促進し、デフレ脱却にも効果があろう。問題は、本当に復興需要が出てくるかである。

 日本の財政当局は、補正予算で財政出動をしていると見せかけて、実はしていないというトリックをかけてくる。そのため、十分な監視が必要である。先日、KitaAlpsさんが指摘していた「カラ積み」の問題だ。これは、昨日の会計検査院の指摘に関する報道で、はしなくも証明された形だ。

 世間的には、一次と二次の補正で大規模な復興費が実施された印象があろうが、昨年度予算の補正後の規模と比べると、まだ小さく、現時点では「緊縮財政」の状態にある。三次補正にしても、東電賠償の保証費のように、直ちに需要にならないものがあり、復興需要を期待するのは早計だ。

 しかも、財政当局の増税と絡めた仕掛けによって、三次補正は遅れにおくれ、成立しても、被災地の東北は、既に冬に入り、公共事業の執行は困難となる。何とも酷い事態である。その一方、地方自治体の震災関係の補正予算1兆円や、損害保険の1.2兆円の支払いなどによる復興需要があるにしても、動向は慎重に見極めなければならない。

 それにしても、本多先生のような冷静で穏健な判断ができず、デフレでも増税という論者が目立つのは、なぜ、なのだろうか。「増税しても、景気には無関係」という主張は構わないが、政策論としては、リスクがないとは言い切れなければ、悪影響を小さくするように工夫するのは当然ではないか。

 すなわち、緩やかな増税なり、景気に応じた増税では、金利急騰といった財政破綻のリスクが大きいという主張をしてもらって、それが一気の増税による景気失速のリスクを上回るとしてもらわないと納得しかねる。例えば、今日の本多先生の論考に反対なら、緩やかな増税では、日銀が金融緩和を行っても、長期金利の急騰が抑えられないとかね。

 この三日間の経済教室の議論を見るにつけ、日本の経済運営の課題は、財政需要の動向が正確に認識されていないことにあると思う。財政当局は、敢えて、説明をせずに不知を放置している。2010年度の財政運営の実態を知れば、月曜の池尾先生も考えが変わるかもしれないし、火曜の宇南山先生も緊縮財政の悪影響に気づくかもしれない。今日の本多先生も、復興需要を当然視しているようなところが心配である。問題の根源は、ここなのだ。

 さて、こうした財政当局の情報操作ぶりについては、本コラムは、たびたび指摘してきた。先日も、「成長しても財政は改善しない」という趣旨の報告書が内閣府から出されたが、これも、その一つである。こういうもので、「成長より増税」という機運を醸そうとしているのだろう。紙幅もないので、そのトリックを暴くのは明日にしようかね。

(今日の日経)
 地震保険の補償を拡大、部分損壊の支払い増額も、保険料は引き上げ。農地集約へ売却奨励金。コマツ増益幅縮小。復興債償還20年を提案。奮発消費が世相を映す。円高対策へ専門組織。積算か逆算か、東電7000億円支援。中国、9.1%成長に減速。輸出は減速で12年度には5%、成長率は8%割れ・汪涛。対ミャンマーに米が軟化。欧州銀資本20兆円不足。しまむら、生産国で検品仕分け。経済教室・増税と併せ量的緩和を・本多祐三。

※奮発消費は円高が原因ではないか。昔のシーマ減少だよ。歳がバレるね。※面倒だから、実需向けに「円高保険」でも作ったらどうか。介入するより安上がりになるだろう。※UBSの汪涛さんの見通しは傾聴に値する。
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総合的な判断の下の経済学

2011年10月18日 | 経済
 今日の経済教室の宇南山卓先生は、まだ30代かね。お若いのだな。1997年のハシモトデフレの時は、まだ学生さんか。当時を統計データでしか知らない人に、「消費税が景気を後退させたとみなされたのは、いわば誤解によるものだ」と言われてもねえ。デフレでも消費税と主張する人を、どう説得したら良いのかなあ。途方に暮れるよ。

 宇南山先生の主張の趣旨は、消費税導入時には、駆け込み需要とその反動で大きく変化するものの、それを乗り越えた後の所得効果は小さく、家計消費も半年ほどで元に戻っているから、消費税増税の景気に対する影響は軽微だとするものだ。しかし、筆者は、反対に、この二つがあるからこそ、消費税増税は危険だと判断する。おそらく、多くの経営者も、そう思うのではないだろうか。

 実は、1997年当時、多くの経営者は、宇南山先生と同じように考えていた。駆け込み需要があって、いったん、その反動で落ち込むものの、回復してくるから大丈夫だろうと。ところが、消費税の引上げ以降、予想外に在庫が積み上がり、慌てて生産調整に動くことになった。これが起こった時点で、景気の失速は確定だった。

 前にも、このコラムで書いたのだが、「消費税増税で、駆け込みと反動があっても、均せば前と大きく変わらないから平気でしょう」と言うのは、企業にとって、「予め多めに酸素を吸わせるから、しばらく息をしなくても平気でしょう」と言われるようなものだ。半年も息をしなければ、窒息死してしまう。

 消費税増税の危険性は、この駆け込みと反動のショックの大きさ自体にある。リーマン・ショックの際の輸出にしても、在庫調整のためにV字回復することは容易に予想できたが、企業経営が受けた打撃は大きかった。昨年のエコカー補助金や今年の地デジのような小さなものでも、駆け込みと反動への対応に、大変な苦労を強いられている。

 ちなみに、消費税増税の影響は小さいとする論者の1人である上智大の中里透先生も、ショックを緩和するために、住宅への課税の軽減を提案したりしている。因果への論争はあるにしても、消費税増税の時に不況に転落したのは事実なのだから、考えられる危険を避けるため、対応を考えることは、政策論として欠かせないであろう。

 設備投資というのは臆病なものであり、経済運営においては、ショックは禁物だ。これを避けるべく、増税は段階的に行ったり、経済対策の終了に経過措置を設けるというのは、セオリーである。まあ、こんなことを宇南山先生に言ったところで、単なる経験則だと、切って捨てられるだけかもしれんがね。

 さて、宇南山先生のもう一つの論拠である、半年たてば消費は戻るというものだが、1997年の家計消費の動向の見方には、一つ落とし穴がある。経済教室のグラフを見れば分かるように、戻ったと言っても、8月に、ちょっと水面下から出ただけである。これだけで戻ったのかと言えるのかという感じはする。また、12月の落ち込みもびどいが、これは、消費税でなく、大型金融破綻の影響と主張されるのかな。

 当時の状況を言えば、前年までに景気は目に見えて回復してきていた。成長率は1995年度に2.3%、1996年度に2.9%である。このトレンドからすれば、半年で消費が元に戻ったくらいではとても足りない。企業にとっては、前年度水準から伸びているくらいでなければ、消費に急ブレーキがかかっているという感覚なのである。

 実際、家計所得の伸びを勘案すれば、もっと消費は伸びていなければおかしい。数字以上に、消費の低迷ぶりは深刻なのだ。企業にしてみれば、従業員の給料を増やしたのに、消費はさっぱり付いて来ない形になっている。これが在庫急増の正体である。大型金融破綻にしても、景気悪化が背景になっており、消費税増税と切り離すことはできないだろう。

 筆者は、経済学においては、総合的な判断が欠かせないと考えている。「消費税が原因というのは誤解」と切って捨てるのではなく、なぜ、当時の人々がそうした実感を持ったのかを考えるべきであろう。「なぜ」を繰り返し、多元的な情報を交差させ、歴史解釈的に読み取っていくことが必要なのではないだろうか。

(今日の日経)
 タイ供給停滞が世界に波及。ドコモ営業益200億円増。東電が支援機構に7000億円要請へ。対米協調へ進展演出・普天間とTPP。経済対策で設立の基金2兆円を使い残し。冷温停止は年内に工程表改定。特別交付税で復興基金1996億円。インフレで財政再建困難・内閣府会議報告。FT・米で学資ローン滞納急増。米軍事有事対応に懸念の声。経済教室・消費増税、景気に影響軽微・宇南山卓。

※経済対策の「カラ積み」の実態が出たね。財政当局は支出に難しい条件を付けて意図的に余らせているのだろう。また埋蔵金の出現だ。※特別交付税は良いが、補正予算でウラ負担をなくすと、将来の交付税を余らすことになる。それでも増税かね。※内閣府のこの報告書も酷い情報操作だね。後日、書くとするか。

※kitaalpsさん、サポートありがとう。こういう財政運営の実態が分かる良いグラフを多くの人に見てもらいたいものだね。
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