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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

パートへの社会保険適用と負担軽減

2010年04月10日 | 社会保障
パートへの社会保険適用と負担軽減
(2010.4.9未定稿)

はじめに
 パートへの社会保険適用は、安倍内閣で試みられたが、中途半端な内容だったために潰えてしまい、今では議論にも上らなくなっている。しかし、この問題は、所得再配分の上でも、経済効率の上でも最大の構造問題であり続けている。その抜本改革について構想したものが本稿である。

【130万円の壁】
 最低賃金は、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように定められている。その全国加重平均は703円(2009年)であるから、1日8時間、1月に22日働くとすると、年収は149万円となる。最低賃金は、一部の地域では、生活保護水準をも下回っているのが現状である。

 こうした最低限の収入であるにもかかわらず、これに対する健康保険と厚生年金の保険料の本人負担は18.5万円にもなる。これとは別に、使用者は同額を負担しなければならないから、労使合わせての保険料は年収の約25%という大きさに達する。しかも、年収130万円を超えると、これがいきなり掛かってくる。

【雇用の歪み】
 これでは、雇用に歪みが生じない方がおかしい。パートは働く時間を抑えて130万円を超えないようにするし、使用者も長く働かせないようにするだろう。つまり、フルタイムにはせず、社会保険にも入れず、要は「正社員」にしないことになる。使用者としては、8時間の正社員を雇うよりも、4時間のパート2人を雇う方が合理的だ。1人でも多くの正社員が望まれる中で、こういう行動を促す制度があってよいものだろうか。

 パートの側から見ると、働く時間をセーブできるほど余裕のある家計ならば良いが、夫の収入が低迷し、少しでも多く稼ぎたい主婦には、大変な迷惑になる。この制度は低所得の世帯ほど辛いものなのだ。どうしても稼ぎたければ、パートを掛け持ちするしかない。これはパートにとっても、使用者にとっても不合理で不効率なことである。

【深まる矛盾】
 こういう状況の下で、最も悲惨なのは、母子家庭である。パートの掛け持ちで長時間働いた上に、夫の社会保険にも入れないから、使用者負担がなくて割高な、国民健保と国民年金に入らざるを得ない。国民年金には低所得者を対象とする保険料の減免措置があるが、これを受けると、半分にされた基礎年金しかもらえなくなる。年金を支える次世代を育てているにもかかわらず、こうなる制度は、おかしくないか。

 しかも、健保や年金の保険料率は、年々上がっているから、社会保険が適用される際の「壁」は、ますます厚くなっていく。不合理は深まる一方だ。今後、高齢化が進むにつれ、労働力は貴重になってくるし、社会保険を支える人数は少しでも増やさねばならない。こうした能力の発揮を潰してしまうような制度は許されないはずだ。これは日本経済の成長を阻害する最大・最悪の構造問題である。

【社会保険の適用】
 では、どうやって、解決するのか。基本は、すべての賃金労働者に健康保険と厚生年金を適用することである。その上で、現在、適用外になっている人には、賦課される保険料と同額の反対給付(使用者分を含む)を行い、実質的な負担をゼロにする。

 また、適用が始まる年収130万円から、大卒初任給程度の年収300万円までは、これも反対給付を使って、実質的な保険料負担が徐々に上がるように改める。この場合、130万円までの負担はゼロ、150万円では4分の1、200万円では3分の2、250万円では5分の4になる。

【年収130万円までの負担】
 問題は、反対給付をするための財源である。まず、年収130万円までを負担ゼロにする費用であるが、概ね2兆円が必要にある。これについては、所得税の給与所得控除の縮小もしくは税率の引上げによる増税を考える。ただし、負担がストレートに増えるわけではない。

 例えば、所得税の増税によって、2兆円の財源を捻出した場合、2兆円が社会保険の会計に繰り入れられるようになると、その分、社会保険の会計が楽になるので、保険料率を引き下げることができる。つまり、所得税は上がっても、社会保険料は下がるので、負担は相殺されるわけである。

 もちろん、人によってデコボコがあったり、制度間のやりくりで違いがでたりするが、大きくは負担が変わらない。これは、現在も負担なしに社会保険給付を受けている主婦パートが多くを占めているからである。

 細かい点を言うと、主婦の年金は、基礎年金だけだったものが、報酬比例分が上乗せになる。その一方、夫の報酬比例分は減ることになる。また、真に負担が軽くなるのは、母子家庭のように、パートで働いて国保や国年に入っていた人達である。そうした人達を賃金労働者全体で支えることになる(この中には母子家庭の元の夫も含まれている)。

【年収300万円までの負担】
 次に、年収130万円~300万円の場合の保険料逓増に必要な財源であるが、これも概ね2兆円が必要である。これについては、新たな負担軽減措置になるので、増税の見合いで保険料を下げることができない。そういう意味で負担は増えることになる。ただし、相殺されて負担が変わらない世帯もある。

 すなわち、財源捻出のために夫の所得税が重くなっても、保険料軽減によって妻のパート収入が増えて、差し引き変わらない場合である。その他は、夫や妻の収入が少ないほど世帯収入はプラスになり、多いほどマイナスになる。低所得世帯への再配分であるから、すべての世帯の総計はプラマイ・ゼロになる。みんなの負担が重くなる単なる増税とは異なる。

おわりに
 この問題の検討は、健保、年金、税制を跨ぐため、広範な知識が必要であり、更なる研究が必要だと感じている。また、本稿では「反対給付」と簡単に触れているだけだが、これは「負の所得税」と言われる先端的な制度にもつながる。検討課題は多いが、今後も内容を改善してゆくつもりである。

(今日の日経)
 こもるなニッポン・加藤嘉一。社説・負けない税制。政府日銀が定期協議・日銀は円高、長期金利に対応すべき熊野英生。三井科学コメ種子増産。割安住宅、需要が拡大。鋼材や木材、相次ぎ上昇。最低生活費未満230万世帯。

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