経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

金融政策に訪れる世代を超えた転機

2023年03月26日 | 経済
 ゼロ金利にしたのは1999年2月だから、今年で25年目に入ったことになる。植田日銀の課題は、とりあえず、YCCやマイナス金利をどう始末するかだが、金利のある普通の経済に、どうやって戻していくが本来的な課題である。外的要因とはいえ、消費者物価は、第二次オイルショック後から41年ぶりの上昇となり、春闘の賃上げも、デフレ前の1994年以来29年ぶりの高さになりそうで、世代を超えた転機が訪れているのかも知れない。

………
 今年の春闘を見るにつれ、なぜ、今年になって賃上げができるようになったのかと、改めて思わざるを得ない。経営者の観点に立つと、やはり、売上げが伸びたからだろう。理由がコスト高の転嫁であろうと、売上げが伸びないことには、怖くて賃金を増やせない。利益還元も言われるが、ちょっとしたことで利益は消えるので、ボーナスなら良いが、賃上げをするには売上げが必要だ。

 逆に、売上げを確保できているということは、人手も確保しないと維持できない。それには、賃金で世間相場に劣るわけにもいかない。当たり前と言えば、当たり前だが、当たり前のことが無理だったのが、名目成長率がゼロ、すなわち、国内の売上げが伸びないデフレ経済だった。そして、名目成長率がゼロの経済では、金利だってゼロにせざるを得ない。そこが変わろうとしている。

 そもそも、ゼロ金利になったのは、1997年のハシモトデフレで需要ショックを与え、経済を総崩れにした際の対応策だった。異例の金融緩和も緊縮財政の下では無力だ。裏返せば、緊縮によって需要が盛り上がる局面で抑制していけば、いつまでもゼロ金利を続けることができる。こうした金融緩和と緊縮財政の組合せをしていたからこそ、ゼロ金利と名目ゼロ成長が続いたとも言える。
 
 ここからの脱出は、輸出が伸び、設備投資が出て、消費が増し、賃金が上がるという波及が加速しないといけない。実は、名目においてではあるが、そうなりつつある。あとは、財政が、これでひと安心とばかりに、退いてしまわなければ良い。いつもなら、コロナ後の補正予算の剥落で緊縮になるところだが、物価高対策、防衛予算増、少子化対策が採られ、パターンが崩れるかもしれない状況だ。

(図)


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 そこで、金融政策である。物価は上がった、賃金も上がる。あとは、財政がどのくらい波及にブレーキをかけるかを計量しつつ、YCC、マイナス金利のやめ時を探って、ゼロ金利から脱しなければならない。公示地価が15年ぶりの上昇になっていて、油断はできない。そして、ここに来て、米欧で金融不安が起こり、円高に振れて、舵取りは難しくなった。

 チャンスがあったのに、黒田総裁が後始末をしないで退任するのは残念だった。過去には、利上げが必要だったのに、ブラックマンデーがあって遅れたなんてこともあった。上手く舵取りをすると、事は起こらず、手腕を褒められたりはしないもの。アベノミクスでバブルにならなかったのは、緊縮をしてくれたからだが、今度はどうか。


(今日までの日経)
 日本の賃金「時給」は増加。米の中小銀、預金流出最大の15兆円。政策頼みの物価高 抑制策なければ4.3%。円上昇、一時129円台 米欧銀行不安で。増える非正規、日本が突出。「生涯子供なし」私が感じた壁 両立困難・奨学金返済…。公示地価15年ぶり上昇率 全国平均1.6%。物価高支援、累計15兆円。

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3/22の日経は等しからざるを憂う

2023年03月22日 | 今日の日経
 今日の日経の社説は、「年収の壁対策は「第3号」見直しが本筋」として、助成によって壁を階段に変えることには反対のようだ。経済合理性があり、企業経営にもメリットがあるのに、狭い公平性に拘るのは、日経らしくない。単身者との公平性に拘るなら、単身者にも拡げれば良い話で、対象は意外に少なく、専業主婦への助成の7割程でできる。

 日経は、「少額でも働いて収入を得たら、それに応じた保険料を納める。これが本来の社会保険の姿」とするが、生活に困るほどの低所得でも、社会保険料と消費税で4割も取り上げる今の制度に無理がある。それゆえ、欧米には定額還付の税制が設けられているのに、日本では放置されたままだ。

 昨日の経済教室の高山憲之先生の控除新設案も、数理的には定額還付と同じなので、制度改革の方向は同じである。どうしても公平性に拘るなら、助成を任意とし、受けた場合、その分は年金を増やさないとする方がマシである。こうすれば、財源も必要ないが、資金循環でも分かるように年金の財政は黒字だし、アベノミクスでの含み益も大きい。

 次回の年金の財政検証で、少子化による代替率の低下に対応して、勤労者皆保険が必要になるのは必定で、その際には、低所得者への助成が不可欠になる。少子化を緩和するためにも皆保険による非正規問題の解決がいる。視野の広い政策判断が必要であって、「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」では、賢くない緊縮になる。

(図)



(今日までの日経)
 UBS、クレディを救済買収。「小中学校の給食費、無償に」自民・茂木氏。高度IT人材、日中の給与差拡大。保険料徴収に控除新設 一案・高山憲之。大卒採用、来春21%増。満額ラッシュの裏側、大幅賃上げ「恐怖に近い」。衰退する日本の中間層(7) 難しくなる住宅資産形成。

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緊縮速報・2022年はGDP比+0.8%の緊縮

2023年03月19日 | 経済(主なもの)
 10-12月期の資金循環統計が公表され、一般政府の資金過不足は、4四半期移動合計のGDP比で-5.1%となり、2022年の前年比は+0.8%の改善と、財政再建は着実に進んでいる。10-12月期の財政収支は、前期より赤字が拡大したが、2022年度第2次補正予算が前年より1か月早く成立したことがあると考えられ、その反動もあり、次の1-3月期にどこまで緊縮が進むか注目される。

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 2022年の資金過不足については、他の部門は、家計がGDP比3.9%と、前年より-2.4%の大幅な低下となり、コロナ禍での異常な状態からGDP比2%台半ばの正常化へかなり近づいた。非金融民間法人は、前年より-1.0%低下してGDP比0.8%となり、従前より低めの水準となった。海外は、前年より+1.0%上昇してGDP比-1.7%となり、貿易赤字が大きく膨らんでいる割には、資金不足は改善傾向にある。

 今後の一般政府の見通しだが、国の一般会計の税収は、1月までの累計の前年同月比が+9.7%と好調で、特に、法人税が+27.9%にもなっている。ただし、3月上旬に公表された証券2社の企業業績見通しは、2022年度の経常利益の前年比が+6.8%と、12月時点での+10.0%から下方修正されており、このままゴールできるかは微妙な情勢となっている。他方、2023年度の企業業績見通しは、逆に+5.4%へ上方修正されている。

 いずれにせよ、補正予算が剥落すれば、2025年度には、基礎的財政収支の赤字は解消されそうなので、少子化対策の財源を考える上では、それ以降の黒字の活用まで見通す必要があろう。むろん、黒字をどんどん拡大するのも一つの在り方だが、間違いなく財政再建の優先度は下がるので、当面は、補正予算で少子化対策の財源を確保しつつ、後に黒字で切り替える戦略で構わないはずだ。

(図)


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 その少子化対策については、月内にたたき台がまとめられる。焦点は「年収の壁」で、適用拡大の対象事業者への助成の拡大で取りあえず対応し、後に制度改正とするようだ。日経は、社会保険料の軽減は不公平とするが、そもそも、低所得者からも社会保険料と消費税で年収の半分を取り上げる現行制度に無理がある。人頭税だけが平等な制度というわけではあるまい。欧米のような定額還付の制度導入は必須である。

 確かに、専業主婦だけを救うのでは不公平だが、すべての低所得者を救うように拡げても、0.5兆円が1.1兆円になるだけだ。保険料軽減を通じて勤労者皆保険が実現すれば、少子化の設定が厳しくなっても、年金の所得代替率を確保できるというメリットがあり、経済・財政上でも極めて合理的な選択である。また、国民は、いかなる場面でも「働き損」にならない制度を求めているのであって、損は誤解だと主張しても始まらない。もっと視野の広い議論をすべきである。


(今日までの日経)
 首相、育休時「手取り10割に」。米「預金危機」封じ込め 大手11行、中堅銀行を資金支援。「年収の壁」 誤解を解く。パート賃上げ、5.9%で最高。製造業、8割が満額回答。首相「最低賃金、今年1000円に」。クレディ・スイス株が急落 中銀に支援要請。低所得世帯に3万円。「年収の壁」解消へ助成 厚労省検討、保険料肩代わり。

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3/15の日経

2023年03月15日 | 今日の日経
 浜田宏一先生は、東京新聞(3/14)で、「賃金上がらず、予想外」とされているのだが、現金給与総額も鈍いながら上がったし、雇用者報酬も増えている。上がらなかったのは、実質可処分所得であり、アベノミクス下の負担増によるものだ。所得が上がらなければ、消費は増えず、物価も上がらないのは当然だろう。失敗してもなお、需要管理が疎かだったというところに行かないのは、なぜなのかね。 

(図)



(今日までの日経)
 政府剰余金、日銀が底上げ。テック・金融、負の共振 FRB、緊急融資枠。預金、1日で2割強流出。「世界の50社」、消える日本。湾岸産油国、流入46兆円。

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10-12月GDP2次・住宅・公共の構成比は過去最低

2023年03月12日 | 経済
 10-12月期GDPの2次速報では、実質の前期比が+0.2%から+0.0%へ下方修正された。消費の前期比が+0.5%から+0.3%に下げられたのが主な要因である。これで、2022年の四半期の推移は、-0.5%、+1.2%、-0.3%、+0.0%と弱々しいものとなり、年間の成長率は、+1.0%にとどまった。実額では545.8兆円であり、ピークだった2018年の554.8兆円とは、まだ約9兆円の差がある。コロナ前の水準は超えても、消費増税前への回復は、2年以上かかりそうだ。

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 最後のサプライズもなく、黒田日銀総裁は10年の任期を終える。正直、YCCの後始末をしてほしかったね。やはり、金融緩和で物価を上げられると、本気で信じていたのだと思わざるを得ない。ポール・ボルカーのように、マネタリストを隠れ蓑にして、金融政策に利用するといったものではなかったようだ。官僚出身なら、そうした狡猾さがあるのではと期待していた。

 筆者は、オールドケインジアンなので、はなから「ひもで押す」金融緩和に意味はないと思っていたけれど、どれだけ円安に持っていけるかは別問題だ。黒田総裁の就任時は、米国の金融緩和が一服して、円安に向う地合いにあったにせよ、ドル円は狙いどおり動かせるものでもないから、結果として、円高を是正し、輸出を復活させ、景気を回復させたのは、立派な功績である。

 残念ながら、その後の消費増税でダメにしてしまうが、筆者のようにネガティブだったのは少数派で、大方は輸出の牽引力で超えられると見ていた。実際、1997年のようなデフレスパイラルに至らなかったのは、輸出の下支えがあったからだ。また、景気回復を潰したことで、白川総裁が心配していたようなバブルの膨張もなく、資産価格の上昇も適度なところで収まったとも言える。

 リフレは無意味だったというのは、そのとおりでも、では、どうしたらの答も必要であろう。それがないと、また、さまようことになりかねない。そこで、日銀の権能でもなく、公言もはばかられるが、金融政策は、為替レートの安定に割り当てるべきだろう。通貨、そして、物価の安定のためには、ドル円の安定もまた必要だ。ゆえに、円安が行き過ぎる局面では、YCCをやめるで良いわけである。

(図)


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 2022年の実質GDPの構成比の変化を見てみると、設備投資は16.3%で前年からは+0.1でほぼ横ばい。2018年のピークからは下がり気味である。ただし、水準は、バブル期は別として、平時としては低いわけではない。投資項目として低いのは、住宅投資の3.9%、公共投資の4.9%だ。実は、どちらも、過去最低を記録した。設備投資の促進も結構だが、成長のためには、これらを疎かにしてはいけない。

 成長を加速するとは、投資率を上げるということである。それには、金融緩和だけをすれば良いわけではなく、輸出が伸びるタイミングを捕らえつつ、財政を使って、他の需要項目へも波及させ、その後に退くという金融と財政を統合した戦略が必要だ。財政を使いたくない、一刻も早く退きたいという傾向が金融政策に無理をかけ、ついには、金利がなくなったということなのである。


(今日までの日経)
 インフレが問う貯金神話。欧州金利、14年ぶり高水準。米国産LNG、世界の3割に。半導体、メモリー不況鮮明。中国・「結果オーライ」の再エネ振興。仏振興策10年「ユニコーン」日本の4倍。


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