経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

政治が合理主義でなくなったとき

2021年05月09日 | 社会保障
 政治学の理論は、現実を的確に要約し、将来の見通しをつけるのに有用だ。宮本太郎先生の『貧困・介護・育児の政治』は、社会保障が拡充される過程を、「例外状況の社会民主主義」、「磁力としての新自由主義」、「日常的現実の保守主義」の三つの主張のせめぎ合いで分析して見せる。俗に言うと、財源論に阻まれて、例外状況でしか望みがなく、日常の忍耐を是認しがちというところか。デフレと少子化を脱するには再分配が必要と考える本コラムの立場からすると、明るい未来がなさそうなのが悲しい。

………
 それにしても、社会保障の拡充は、どうして、ここまで人気がないのか。大衆の利益になる政策なのだから、大きな勢力になっておかしくないはずだ。理由の一つは、日本は失業率が低く、非正規で低賃金であるにせよ、働けなくはないからである。つまり、ギリギリの自助の余地があり、社会保障が必須ではない。むろん、そんな待遇では、結婚もおぼつかないから、少子化に陥り、国の持続可能性を失っているわけである。

 もう一つは、逆進性の強い消費税と社会保険料に財源を限るからである。保障より手元のカネを惜しむのは人情で、「景気を良くしてくれたら十分」となってしまう。「保障と財源はセット」と言われると真っ当に聞こえるかもしれないが、これには、「成長に伴う自然増収は、すべて財政再建に充てる」という隠された策略がある。それは、財政再建を進める立場からも決して自明ではない。

 実は、日本がデフレから脱せないのは、景気回復期に自然増収を全部吸い上げ、成長加速の勢いにブレーキをかけるからである。緊縮の速度を半分に緩め、社会保障の拡充という形で家計に還元し、成長を保ちつつ、段階的に財政再建を進める方策は、十分にリーズナブルである。裏返せば、例外状況でしか社会保障が拡充されないのは、需要を管理する成長戦略が欠けていて、財源セット論の呪縛を破れないからだ。

 例えば、2009年からの民主党政権は妙に緊縮的であった。財源を気にせず、自民党政権のリーマンショック対策と入れ替え、子ども手当などの公約を実現すれば良いものを、一気に切って景気を失速させつつ、消費増税に抱きついて参院選に敗れ、あげく、公約にない日本経済の自殺計画のような消費税倍増を決めてしまう。経済運営への無知を通り越して、財政タカ派もよいところである。

 逆に、2013年以降の安倍政権は、金融緩和と財政出動を大規模に行い、急速に景気を回復させ、長期政権の礎を築く人気を得た。もし、2014年の消費増税をパスしていたら、物価2%目標もクリアし、デフレ脱却に成功していたかもしれない。その後は、増税先送りで総選挙に勝ち、「新3本の矢」で再分配に舵を切る。失地回復のため、例外状況が出現したからだろう。教育無償化も小池旋風への恐怖が生んだ例外と言える。

………
 ワクチン普及後のポストコロナにおいて、しばらくはGoToで景気が支えられても、やがて、その剥落と税収増でブレーキがかかり、デフレと少子化の日常が戻ってくるだろう。成長を阻害しないよう、ブレーキを緩めるには、今更、公共事業や業界支援でもないので、自然増収のある程度を再分配で還元する必要がある。社民主義の皆様は、いかに成長戦略に結びつけられるかを考えたら良いと思う。

 また、新自由主義の人達には、金融緩和と緊縮財政の組合せによる資産高騰で儲けようとするのは、いい加減にしろと言いたいね。もはや、実体経済の限度を超えている。そして、保守主義の方々は、高度成長の限界に挑み、インフレを恐れずに税収を還元して、人手不足と賃金の底上げにより、皆婚の平等社会を築いた美しき伝統の成功譚を思い起こしてほしい。どんな主義であっても、見失ってならないのは、経済的な合理主義である。


(今日までの日経)
 GAFA課税 15%どまり。社説・出生急減の克服へ若者の将来不安を拭え。官邸 休業継続、寝耳に水。緊急事態 6都府県に拡大。感染経路 変異型で多様に。法人減税 効果に懐疑論。

コメント

5/6の日経

2021年05月06日 | 今日の日経
 東京の感染確認数は、この2日の少なさで、増加傾向が止まった形になったが、休日要因による可能性が高い。北海道や愛知は、それでも増加傾向を保つ。また、大都市の周辺の県での増加が拡がっているようにも見える。一方、宮城、沖縄は、なんとか抑え込みに成功しているようだ。緊急事態宣言の延長は不可避の情勢だが、大型商業施設を閉めさせ、マスク会食は許すという対策を続けるのかが焦点である。

(図)



(今日までの日経)
 子ども最少、1493万人 4月時点、40年連続で減少。北海道、まん延防止要請へ 地方でも変異型猛威。秋入学で幼~高一貫教育 玉川学園。

コメント

スガノミクス・景気改善の中のマイナス成長

2021年05月02日 | 経済(主なもの)
 1-3月期のGDPは、実質年率でマイナス5%もの落ち込みになりそうだ。この1年の激しいGDPの動きに慣れて、もう驚きはなくなっているかもしれないけれど。一方、景気動向指数は「改善」という状況にある。これは、国内が無策で、いち早く立ち直った海外に助けられている跛行性にある。まあ、運が良いと言うべきか、いつものことと達観すべきか、いずれにせよ、その場しのぎの日本である。

………
 3月の鉱工業生産は、前月比+2.1で97.7と消費増税後コロナ禍前並みになり、1-3月期でも前期比+2.8と順調に回復している。その上、4,5月の生産予測は極めて高く、前期比+7.2の104.0が見込まれており、こうなると消費増税前水準の回復となる。財別では、資本財(除く輸送機械)が異様なほど高く、1-3月期の前期比+5.0に続き、4,5月平均は+28.2にもなる。3月の生産の後ずれと、海外における生産の回復の強さに伴うものである。 

 加えて、建設財の4,5月が+8.5の97.9となったのも心強い。長らく低迷したが、ようやく、消費増税後並みに戻ってきた。尻上がりの5月の水準は99.7で、ここまで伸びると消費増税前のレベルである。消費増税で痛めつけられた住宅着工は、1-3月期に3か月連続の増加となり、ここで底入れを果たした感がある。むろん、2018年頃のレベルとは大きな差があり、9割以下の低水準にとどまる。

 こうした状況から、1-3月期GDPの設備投資は、前期比+1.0%くらいを確保できたと見ている。うちわけは、機械設備(除く輸送機械)が前期以上に伸び、輸送機械と建設投資は、若干のマイナス寄与といったところだ。また、GDPの住宅は、底入れかから増加に転じたと思われる。景気の大本の輸出は1-3月期も順調であり、その波及がある設備投資が回復し、住宅投資も底入れとなれば、普通なら、景気は良好となるのだが、問題は官民の消費だ。

(図)


………
 1-3月期GDPの家計消費は、前期比-2%前後の厳しいものになろう。新型コロナで制約のあるサービスの低迷はいたしかたないにせよ、モノの消費も、商業動態・小売業からすると、しょせん、消費増税後の水準でしかない。コロナ禍で消費増税が施行され、それを緩和する施策の期限が過ぎていくという、無策を通り越して、逆行するような形となった。本来なら消費を抑圧する構造の改善が必要である。

 そして、今期の大幅なマイナス成長は、政府消費の減少も一因だ。GoToキャンペーンができなくなったためだが、コロナが拡がって苦境になると、逆に経済対策が縮小してしまうという情けなさである。もっとも、10%消費増税の際に、定額給付を押しのけ軽減税率を通した人のせいで、米国のように直接給付をしようにも制度的インフラがない。また、コロナ禍で景気を支えていた公共事業も、今期は小休止で、若干のマイナスになる見通しだ。

 他方、米国のバイデン政権は、プラス成長の中で、3度目の家計への直接給付に踏み切り、一気に成長軌道に乗せようとしている。ちょっと景気が良くなると緊縮をかけ、デフレ軌道から一向に抜け脱せない日本と異なり、オバマ政権1期の反省を活かし、スタートダッシュをかけるものとされる。再分配によって子育てや教育を充実させようとする構想も、少子化に苦しむ日本にこそ切実なものである。

………
 非常事態宣言をかけ、大型商業施設を閉めさせ、マスク会食は許すという、標的の行為が曖昧な対策に乗り出した。こんなリスク・コミュニケーションでは、若者がマスクをしているからと言って出歩くのも無理はない。この対策は、宣言の期限の5/11以降も続くのだろうか。おそらく、すぐ先の方針すら定まってないように思う。まして、経済の先々の構想なんて望むべくもない。何かにつけて、この国のパブリックセクターは劣化していると、つくづく思う昨今である。


(今日までの日経)
 ワクチン、消費を再起動。患者より経営の民間病院。空き37万床でも逼迫。苦境、女性・非正規に集中。成長ペース、先進国で明暗 米は6.4%増。東京の新規感染1000人超。 GW初日、人出抑制鈍く。

コメント

4/28の日経

2021年04月29日 | 今日の日経
 3月の商業動態・小売業は、前月比+1.2の104.4と高めの伸びを見せ、1-3月期が前期比+0.4の102.2となった。消費増税後コロナ前のピークが2020年1月の102.2だったから、モノの消費については、コロナ禍を克服している。特に、自動車、機械器具の水準が高く、消費増税の駆け込み期並みである。衣服は3月に大きく伸びたものの、コロナ前にはまだ差がある。感染予防の制約の中で、消費は健闘している。

 さて、新型コロナの感染確認数は、大阪がようやく横ばいとなり、東京が速度は鈍りつつも増加が止まらない。緊急事態宣言が出され、人流を減らす作戦が取られたが、昨夏は人流が減らなくとも、飲食店の営業規制で収束しているので、人流は間接的指標と考えられる。本質がいかに会食を減らすかにあるなら、「4人以下、20時まで、マスクを脱着しつつ、アルコール抜きならOK」として、「会食を控えて」としない理由が分からない。

 作戦により、大手百貨店では、物販は閉め、食堂は開くという対応になったが、買い物が会食より危険なのだろうか。東京では、感染は20代に多く男性が多いが、意外に性差が少なく、多人数の飲み会だけでなく、少人数の食事での感染も疑われる。変異株の感染力が強いとなれば、職場では、テレワークは無論、お昼の孤食黙食の徹底、来客へのお茶無用、マスクなし会話厳禁、マスクでも会話は15分内など、行為に着目して予防を図りたいものだ。

(図) 



(今日までの日経)
 米の富裕層増税、10年で160兆円 バイデン政権が格差是正に新構想、子育て・教育に支援策。60年超原発、再稼働へ。「子ども庁」へ政府3案。病床の使用率、10府県50%超。緊急事態初日の繁華街、人出3~4割減。経済教室・消費回復へ賃金デフレ脱却。

※米国は景気回復期の後押しと子育て・教育の支援か。日本がしないといけないことだね。

コメント

続少子化論・結婚をあきらめさせる社会とは

2021年04月25日 | 社会保障
 2030年には男性の3割、女性の2割が非婚となる。その背景には、未婚男性が妻により仕事も家事も求め、未婚女性も男性に学歴・職業・経済力を求める傾向が高まっており、強い結婚意欲を持つ未婚者は減る傾向に変化してきたことがある。結婚へのハードルが高まっているのだ。松田茂樹先生の新著『[続]少子化論』は、非婚化の原因をデータに基づいて丁寧に分析し、具体的な政策提言をしている。

 男性の非婚化については、雇用の問題があり、無職や非正規のみならず、年収300万円以下の正規でも結婚が難しい。一方、女性については、非正規の結婚難は、経済力ではなく、出会いの少なさによるとする。非正規の職場には経済力ある男性が少ないためだ。他方、仕事と子育ての両立が困難だからという説に関しては、非正規の女性の結婚の出現率が低いことから否定的である。また、仕事重視の価値観は、男女とも結婚に強い影響を与える。

 ここから導かれる少子化対策は、若者の雇用の改善だ。経済力をつけるとともに、出会いの機会も用意されることになる。他方、仕事重視で結婚をしない自由も認めざるを得ない。そうなると、結婚を望む人には、望まない人の分も含めて、次世代を残してもらえるようにしなければ、少子化を克服して社会を持続可能にすることができない。ここからは、多子世帯やひとり親世帯への手厚い支援が必要とされる。

………
 日本の少子化対策は、両立支援を重点としてきたが、十分な成果を上げることができないでいる。そこでは、非正規の女性の希望をかなえようという観点が乏しかった。それは、非正規では、育児休業給付も、乳幼児保育も利用しがたい現実に端的に現れている。少子化対策と言いながら、女性が働くことに価値を見出しても、女性の子育てそのものの社会的価値を十分に認めてこなかったためである。

 例えば、年金の負担を衡平なものにするためには、子供のない人には2倍の保険料を払ってもらわなければならない。なぜなら、通常の保険料は親の扶養に充てられ、本人が老後に受け取る年金は、子育てという投資で担保されるからだ。子供を持たないのなら、2倍の保険料で子供の代わりに貯蓄をしておかなければ、次世代に負担をかけてしまう。子育てには、普通に思われているより遥かに大きな社会的価値がある。

 したがって、非正規の女性が仕事をやめて乳幼児の子育てをする場合でも、十分な給付を受けられ、生活の心配なく乗り切れるようにするくらいは当然ではないか。デフレ経済によって、生活を保障できるだけの経済力を持つ若い男性が減ったのだから、制度が補完しなければ、両立以外を望む女性の選択の自由は確保されず、少子化は進むことになる。最近、「こども庁」が議論されているようだが、そこに非正規の女性の観点はあるのだろうか。(具体策は「財源なしで大規模な乳幼児給付を行う方法」を参照)

………
 社人研の出生動向基本調査では、調査を追うごとに、女性の予定ライフコースで「非婚就業コース」が増大している。これを理想とする女性がほとんど増えていないにもかかわらずである。「結局、結婚できずに働き続けるのだろう」という女性のあきらめの気持ちが表れているように思える。そして、理想のコースは、専業主婦+再就職コースが過半数であり続けている。少子化で衰亡の道を歩む日本は、結婚をあきらめさせる社会でもある。最新の第16回調査は今年の実施だ。この傾向は更に明らかとなろう。


(今日までの日経)
 緊急事態を適用 4都府県に まん延防止地域も拡大。日本、温暖化ガス13年度比46%減 2030年目標。米は増税前に徴税強化を。

コメント