経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

世界経済史から見た日本の成長と停滞の理由

2021年03月07日 | シリーズ経済思想
 この国が落ちぶれていることは分かっていたが、「日本と技術フロンティア国のギャップが1990年代以降のように著しく拡大するのは、鎖国の江戸時代末、太平洋戦争敗北の前後に次いで3回目」と、歴史上の大失敗に位置づけられるのは、この間を生きてきた者にとって、やるせないものがある。深尾京司先生の『世界経済史から見た日本の成長と停滞』の終章の一節だ。いわば、「第三の挫折」である。ハシモトデフレ以来の失われた歳月は、衰退の時代として画されるに至った。

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 停滞の主因として、深尾先生は、労働生産性の上昇率の低下を挙げる。単なる人口や労働時間の減少だけでは説明がつかない。これは、実質賃金率が多くの国で大幅に上昇した中で、わずかしか上昇しなかったことに映し出される。そして、輸出競争力のために賃金率を切り詰める「窮乏化」からの脱出を目指すべきとする。

 なぜ、労働生産性の上昇率は低下したのか。深尾先生は、高度成長期や安定成長期には他の先進国より高かった資本装備率とTFPの上昇が停滞したからだとした上で、TFPは、2005-15年には、米仏英に比べて高かったのに、資本サービス投入の増加が著しく低かったとしている。

 さらに、長期的な資本蓄積の減速には、利潤率の低下があるにせよ、2000年代は、利潤率がやや回復しても低迷が続くという「謎」があり、資本蓄積が停滞した理由として、金融緩和の余地の少なさ、円高、海外移転、配当性向の高まり、従業員や組織への投資の停滞、労働集約産業の拡大などを挙げる。

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 さて、1997年にハシモトデフレで大規模な需要ショックを与えて以来、日本の設備投資の動向は、極めてシンプルになった。輸出が増えれば伸び、減れば縮む、それだけである。それまでの「輸出を起点に内需の拡大に反応する形」が見られなくなった。輸出で景気が回復しだすと、すぐさま緊縮で消費を抑圧するのだから、当然の成り行きだ。

 これでは、足下で収益が回復しても、設備投資をしようとは思わなくなる。消費が抑圧されると、物価は低迷し、金融緩和が実現できる。金融緩和の下で円キャリーが起こり、時折、弾けて超円高になって、製造業は海外移転を進める。国内投資ができないから、配当性向を高め、従業員や組織に投資せず、安い非正規を使ってばかりとなる。

 私は、正統派の経済学者とは違い、需要動向が設備投資に決定的影響を与えると見るオールド・ケインジアンなので、正直、「謎」というほどではない。脱出方法としても、法人減税や規制緩和といった利潤率に係る産業政策に期待せず、景気の回復局面で消費が十分に加速するまで緊縮を我慢するだけで済むと考えている。

(図)


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 産業別の生産性も、自動車のような輸出が柱の産業は海外の需要に恵まれて高くなり、緊縮で抑圧される国内消費を相手にする産業が低くなるのは、致し方ない。生産性を上げるための高賃金は、強い内需の下で、労働需給が締まってないと実現しない。2000年代以降の日本経済の構造変化の特徴は、GDPに占める輸出比率の高まりである。裏返せば、内需を抑圧してきたということだ。つまり、政策どおりに落ちぶれたわけである。


(今日までの日経)
 米、月内に1人15万円を追加給付。株や住宅価格 警戒水準 迫るバブルの足音。新規感染、増加に転じる。社説・出生激減。緊急事態、再延長を決定。米軍がアジアに対中ミサイル網。英、半世紀ぶり法人増税 世界の減税競争に転機。

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3/3の日経

2021年03月03日 | 今日の日経
 1月の労働力統計は、雇用者が前月比+10万人と堅調だった。失業率も-0.1%の2.9%に低下した。ただし、1月の緊急事態宣言の影響で、休業者の前年同月比が12月の+16万人から1月の+50万人に増加している。また、新規求人倍率は、前月比-0.08の2.03倍だった。こちらは、前月の増加の反動もあり、状況としては横バイにある。求人数の前年同月比は、前月より改善した。前年のウラが出た面もあるが、建設、製造、医療福祉は上向いている。

(図)
 


(今日までの日経)
 戻る利益 戻らぬ投資 車や機械けん引/企業の現預金最高 10~12月法人統計。女性の実質失業103万人 非正規の苦境一段と。緑の世界と黒い日本。

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スガノミクス・緊急事態の解除後に向けて

2021年02月28日 | 経済(主なもの)
 このところ、消費が弱まっている。感染拡大の影響はあるにせよ、米国の動きを見るにつけ、「だから仕方がない」で済ませられないように思う。関西圏などで緊急事態が解除され、3/7には全面的な解除もあり得るところまできた。そうして感染が収まってくれば、彼我の違いが明らかになってくることになろう。米国が金利を急騰させずに財政出動で内需拡大に成功するとすれば、それが日本の失敗と裏表になるのは皮肉である。

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 金曜に公表された1月の商業動態小売業は、3か月連続の減少で、前月比-0.5の100.2となった。特に、百貨店などの各種商業や衣料身の回り品の低下が大きく、非常事態宣言に伴う不要不急の外出自粛の影響が出ていると思われる。他方、自動車はプラス、機械器具はマイナスでも水準は悪くない。消費は、10月をピークに減退が続いており、この感じだと1-3月期は-0.5程度のマイナスになってしまうだろう。

 1月の鉱工業生産は、比較的高めの伸びを見せ、前月比+3.9の97.7だった。この水準は、コロナ禍前に近いものだ。2,3月の生産予測を含む1-3月期は前期比+2.5であり、3期連続の増となりそうだ。特に、資本財(除く輸送機械)は、前期比+4.6の高い伸びになると見られる。これに対して、建設財はマイナス、消費財は若干のプラスにとどまる。輸出の好調さと内需の停滞がうかがわれる内容だ。

 建設財の動向に関わる住宅着工は、1月が66,757戸と前月比+2.2%となったものの、前月からの反動増が大きく、10-12月期の水準と比べると、ほぼ横ばいである。持家は上向いているが、貸家の減少傾向が止まらない状況にある。建設投資は、公共が順調に増加しているのに対して、住宅が横ばい、企業が弱く、全体として停滞が続く。国土強靭化による景気対策も減退を押し止める程度である。

(図)


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 緊急事態宣言については、首都圏を除き、2/28までで解除されることが決まった。リバウンドを懸念する声もあるが、北海道のように宣言なしで抑えられている例もあるのだから、行動抑制のリスクコミュニケーション次第である。解除後に「会食」を増やさないことが鍵であり、飲食店の営業時間が21時までに「対策」が緩められたからといって、それまでに会食をしてしまおうと勘違いされないようにする必要がある。 

 言い換えれば、夜間だろうと、既に家庭内でリスクを取っている同居者間や孤食での外食を制限する意味はなく、他方、昼間に二人でお茶するだけでも、マスクを外しつつ会話をすれば、感染してしまう。営業時間を短縮する対策は、自主的に行動を抑制できない人に、物理的に「会食」できなくする手段であって目的ではない。不要不急の外出自粛も、人に会いに出歩くのがリスクでも、電車やバスに乗ったり、買い出ししたりが危いからではなかろう。

 感染の多い若者への「対策」も言われるが、若者とてマスクをしない人はまれだ。年齢で言い立てず、行動に焦点を当て、仲間を大事にするあまり「会食」したくなるのを我慢するよう諭すことが大事だ。「対策」に気を取られがちであるが、目的は特定の行動の抑制であることに立ち帰り、効果的な感染防止の戦略を練らなければならない。また、感染防止のために高齢者施設での検査を重点的にするというのであれば、ワクチン接種も入所者を優先するのが戦略として整合的だろう。

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 コロナ禍では、いち早く回復したモノの消費がここに来て弱まっている。むろん、1月は緊急事態宣言の影響もあるが、経済対策の減退もある。米国の様に、大規模な現金給付の対策を打つどころか、巡り合わせとは言え、消費増税で税収を拡大し、消費と住宅を痛めつけ、対策と言えば、GoToは最も苦しい感染拡大時には縮小せざるを得ない。今後、米国で消費が拡大すれば、米国には不本意だろうが、貿易赤字が増し、日本の輸出が伸び、景気が引き上げられることになる。それは、内需不振で物価の上がらないこの国が、またも超低金利の資金供給源になるということでもある。  


(今日までの日経)
 米、過熱覚悟の経済対策。緊急事態宣言、首都圏除き月末解除決定。日経平均1202円安 世界的な金利上昇に動揺。減る新卒人口、改革迫る。高齢者向けワクチン供給、6月完了。ベトナム、国産ワクチン急ぐ。

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2/26の日経

2021年02月26日 | 今日の日経
 東京の感染確認数は順調に減り、1週間平均は280人まで低下した。一時的に減り方が鈍っていたが、再び、一週間25%減のペースを取り戻した。どうも、祝日があると1週間から10日後に増えるように思える。緊急事態宣言の期限も近くなってきているが、休日に増えがちな会食の機会をいかに増やさないかがリバウンドを防ぐカギになろう。

(図)



(今日までの日経)
 全市町村配布4月中に ワクチン。ドイツ製造業が急回復。出生数、最小の87万人、婚姻、70年ぶり減少率。米景気回復、DXが寄与。世界裂く「K字」の傷。緩む自粛効果 ランチ客急増、緊急事態宣言前上回る。
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GDP10-12月期1次・コロナだけでない消費の弱さ

2021年02月21日 | 経済
 10-12月期の実質成長率は、年率で12.7%の高成長となり、コロナ禍前の2019年10-12月期と比較して99%の水準まで回復した。コロナ禍が完全に収まっていない中で、ここまで回復できたのだから、やれやれというところである。問題は、消費増税前の7-9月期と比較すると97%の回復でしかないことだ。つまり、日本経済には、コロナ禍より消費増税の打撃が重いのである。これが課題とも思われてないところに、病の深刻さはある。

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 今回の10-12月期の家計消費(除く帰属家賃)は、コロナ禍前の2019年10-12月期と比較すると7.6兆円少ない。そして、消費増税前となる、もう1期前の7-9月期とは17.3兆円もの差が開く。要するに、コロナ禍より消費増税の打撃が大きいということだ。他方、今回は、政府消費の増加も特徴であり、コロナ禍前より5.3兆円多いのは、GoToなどのコロナ対策が取られたためである。同様に公共投資も1.3兆円のプラスだ。

 こうして見れば、コロナ禍に対しては、ショックを埋めるべく、相応の対策がなされていることが分かる。しかし、その分、消費増税の打撃に対しては、何もしてないに等しいことにもなる。コロナ禍に気を取られてしまって、その実、何に苦しんでいるのかが紛れているのだ。もし、コロナ禍がなかったなら、増税後、低迷が続く消費に関して、怨嗟の声が渦巻いていただろう。

 図で分かるように、日本経済は、消費増税をするたび、増加トレンドが寝てしまっている。10%消費増税の後は、コロナ禍のために傾向が分からないが、一層、増加トレンドが衰えて、平常でも、ほとんど増えない状況に陥っていると思われる。これに対抗するには、社会保険料還元型の定額給付制度を整備しなければならないが、制度がなくて困ったコロナ禍の経験を活かすことなく、ITだ、グリーンだと、設備投資を伸ばす産業政策に血道を上げている。

(図) 


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 今回のGDPの特徴は、前期比二桁の輸出の大きな伸びである。それでも、水準としては、2019年10-12月期の94%にとどまり、更なる回復の余地がある。実際、1月の日銀・実質輸出は、前月比+3.7と上昇し、115.8という水準は、これまで最高だった2018年1月を上回る。そして、輸出と連動性の高い設備投資は、その水準が2019年10-12月期の97%と、輸出以上に好調である。これには、公共投資の増加も影響していよう。

 設備投資の先行きを占う機械受注は、10-12月期の民需(除く船電)が前期比+16.8%と高い伸びになった。水準としても、製造業だけでなく、非製造業も概ねコロナ禍前を取り戻すところにきている。12月の建設総合指数を見る限り、企業の建設投資は未だジリ貧状態だが、住宅投資は、消費増税による下降局面をようやく脱し、徐々に増えてきている。この面でも設備投資は進むだろう。

 今後、足下の1-3月期については、輸出が回復し、設備投資が好調なのであるから、普通なら、景気は上昇するという判断になる。残念ながら、コロナへの1月の緊急事態宣言により、飲食や宿泊に強い抑制がかかって、消費が下押しされる。しかも、10-12月期に政府消費を押し上げたGoToが執行不能になっている。産業支援ばかりを発想し、所得再分配を忌避する咎めがここにも現れる。


(今日までの日経)
 長期金利0.1%に上昇 2年3か月ぶり。海外勢、景気敏感の日本株に。コロナ下でインフレの芽 需要回復、供給追いつかず。コロナワクチン接種、首都圏の病院で開始。

※先週は、地震の影響で休載したものです。お気づかいただき、ありがとう。

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