経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

イシ(タマ)ノミクス・パーシャルで良い経済政策を

2024年11月03日 | 基本内容
 この国に足りないのは財源ではなく理想だというのは、本コラムの年来の主張だ。思いつきで経済政策が採られ、趣旨は悪くないが、的を外してばかりいる。非正規の育児休業給付を外して少子化対策をしてみたり、若い低所得者に恩恵の薄い所得税の控除を大幅に引き上げようとしたりである。広くバラ撒いてウケを狙いたい浅ましさが透け、深い思いが足らず、本当に必要な改革を国民に届けられないでいる。

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 今回の総選挙で、「手取りを増やす」を掲げ、若者の支持を得た国民党の躍進には、驚かされた。石破総理には、勝ちたければ、地方創生の枠組で低取得の若者への再分配をすべしと勧めていたわけだが、ここまで威力があるとは思わなかった。政治資金問題は然ることながら、物価高の中、賃上げでも負担増で可処分所得が上がらないことへの憤懣がいかに強いかを示している。

 しかし、同じ減税なら、所得控除より税額控除の方が効果的であり、キシノミクスの定額減税がマシだったことになる。一番良いのは、国民民主党が副次的な公約にしている給付つき税額控除である。「壁」の問題も、そもそも、所得税は「壁」でなく、まったく控除のない社会保険料が「壁」になっている。こういう問題をクリアできる定額給付制度を、とっくに英米は導入していて。日本は、政策が貧困なまま、改革が遅れている。

 どうすれば良いかは、「1.8兆円の再分配による少子化の緩和と非正規の解放」で書いたとおりで、社会保険料の負担に連動させて、「給付つき税額控除」を行うものだ。低所得者にも比例負担を課す現状の無理を直すことが必要であり、結婚を難しくしている要因を除いて、財政の改善まで期待できる。理想がぼんやりしているから、政策が合理的にならず、的外れになってしまう。

 もっとも、看板公約だから、この3年の物価上昇に合わせて、8%程の部分的な所得控除の引き上げはあっても良いかもしれない。しかし、7.6兆円もの減税はやり過ぎだし、もっと減税をするなら、真っ当な給付つき税額控除を組み込むべきである。財務省も、野放図になるのを防ぎ、後始末もつくよう、制度設計の知恵を出してほしい。国民民主党にしても、部分的な公約の実現の方が次の参院選への期待をつなぐことになろう。

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(図)


 9月の指標が出て、7-9月期GDPは、若干のプラス成長にとどまり、もしかするとマイナスもある。消費が伸びず、設備投資はマイナスになりそうだ。ただし、消費は名目では伸びていて、物価高が足を引っ張っている。それには円安の是正が必要だが、政治は日銀の作戦を邪魔している。円安で輸出を増やせる状況でなく、円高になった方が建設資材が下がって投資を増やす方向に働くくらいである。こちらも、思いつきで口出しをしてはいかんよ。


(今日までの日経)
 固定資産税収増、自治体9割。資材、値上がりゼロ 鉄鋼や木材急ブレーキ。日銀、利上げシナリオ堅持。改革本丸は社会保険料 壁で働き控え。トラック輸送力落ちず 「24年問題」対応。はがれた若者の自民支持。「年収の壁」178万円なら、国・地方7.6兆円税収減。昨年度法人所得、過去最高98兆円。

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10/30の日経

2024年10月30日 | 今日の日経
 9月の労働力調査は、就業者が前月比-9万人の6782万人だった。女性は3094万人と過去最高を更新したのだが、男性は-13万人で横ばい傾向が続き、コロナ前のピーク時とは50万人ほど差がある。人手不足とされるが、製造業や建設業の求人は少なく、男性の雇用が拡大していない。失業率も、女性は2.1%となって、コロナ前の水準を回復したと言える一方、男性は、今一歩及ばない。このあたりが改善されると、景気拡大も本物となるのだが。

(図)



(今日までの日経)
 自公、国民民主と「103万円の壁」協議の方針 経済対策巡り。衆院選、自公過半数割れ 与野党が政権枠組み探る。国民民主、若者支持つかむ。

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繁栄と停滞を分かつもの

2024年10月27日 | 経済
 似たような国なのに繁栄と停滞に分かれるのはなぜなのかというのは、ノーベル経済学賞の受賞で話題のように、興味深いテーマである。繁栄と停滞の違いは、経済が成長するかしないかであり、設備投資が高いか低いかの問題である。そこで、制度が問題であり、民主主義体制だから高くなると言ったら、因果が遠く、説得的にならない。ただ、どうすれば成長を高められるかについては、歴史的な結論が見えている。

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 成長を加速するのに投資水準を高めるには、輸出を増やすのが良策だ。高度成長期の日本、アジア四小龍、そして、中国と勝ちパターンは確立されて来た。輸出を増やすには、技術と市場が必要で、それを獲得するのは、なかなか難しい。これをクリアする一つの手段が外資であり、外資が安心して直接投資ができるという制度的環境がカギになる。その意味で、制度は重要なのである。

 鄧小平時代の改革開放の下、経済特区は、それを用意するもので、成長加速の契機となった。そして、習近平時代になると、覇権主義への対抗で、米国が市場を狭めてしまい、外資は自由が脅かされる不安で投資を手控えている。昇龍の勢いだった中国は、ゼロコロナで成長を失った後、再加速できなくなり、既に日本化し、デフレ経済に陥っていると疑われるほど停滞している。

 日本はと言えば、1997年の橋本デフレで成長を失った後、危機の回避で大規模な財政出動を要したために、これ以降、輸出で成長を加速するチャンスを得ながらも、回復期に反動的に急な緊縮をしがちになり、いわば自動でチャンスを潰す構図を作ってしまい、四半世紀に及ぶデフレの停滞をたどることになった。輸出による所得増での消費増、それに向けた投資増という波及を無頓着な緊縮で塞いできたのである。

 熊本での半導体投資の促進策は、経済安保とは銘打っていても、途上国の経済特区に類する外資呼び込み策だ。外資が技術と市場を持ってきてくれるので、まあ成功するとは思う。巨額の補助金を入れれば成功するものではないことは、技術と市場に課題のあった三菱の旅客ジェットで明らかだろう。その点、同じ半導体投資でも、北海道については、不安がある。いずれにせよ、マクロ政策としては、部分的な問題だ。

(図)


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 景気回復期において、マクロ政策をどう運営すべきかは、米国がリーマン後に早々と財政を締めて長期停滞に陥り、コロナ後には積極策でインフレが行き過ぎたほど成長の加速に成功したことで、決着がついた。金融政策については、緩めても締めても、あまり意味がないことまで明らかになっている。経済理論の上では変かもしれないが、現実を歴史に学ぶことも必要だろう。

 総選挙は与党の過半数割れもあるようで、本コラムのイシバノミクスの連載も2か月で終わるかもしれず、補正予算による需要の調節も見通せなくなってきた。もっとも、文藝春秋11月号の霞が関コンフィデンシャルを読むと、非正規の育児休業給付を担ったスーパー官僚の挫折が描かれていて、日本経済に必要な再分配の制度化は、今の政治では期待できない筋合いかもしれない。9月の過去1年間の出生数は73.2万人で、前年同月比で-6.0%、4.6万人も少なく、危機は深まっているのに、選挙戦の争点にすらなっていない。制度は、繁栄と停滞を分けてしまうのにね。


(今日までの日経)
 東南ア、世界分断で漁夫の「利害」。翼の進化の誤解 飛ぶ前から獲得。補助金特需の先見通せず 半導体支援GDP比0.7%。サービス価格上昇鈍く 都区部10月0.8% 。

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10/23の日経

2024年10月23日 | 今日の日経
 7,8月期の建設総合統計を見ると、高水準をキープしている。GDPの公的資本形成は、2023年度はジリジリと後退していたが、4-6月期になって急伸し、7,8月も水準を維持できているようだ。住宅も底入れがうかがえ、企業の建設投資もようやく上向いている。建設投資の比重は小さいとは言え、2023年の成長の停滞は、このあたりにも原因があったのだが、足下では、金利の引き上げにもかかわらず、順調なのである。

(図)



(今日までの日経)
 自治体の基金残高増。深刻な中国経済、治療可能。円下落、一時151円台。九電工の採用、「奨学金」で3割増。企業年金の積み立て最高。中国、矢継ぎ早に金融緩和。

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貧困化から脱出させた政策とは

2024年10月20日 | 経済
 エンゲル係数は伝統的な貧しさの指標なので、それが上昇していると日経に聞かされると、米価の高まりで麦飯を食べる人が増えていたりもするので、いよいよ、この国も衰えが来たと、妙に納得してしまうが、足下では状況が変化していると分かると、見方は変わってくる。若い世代にとっては、麦飯もヘルシーな食事にしか思えないかもしれないし、時代は変わっているのである。

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 実収入に占める非食料消費の比率は、時代を超えて、ほぼ一定であったことが知られている。消費は、個人の選好ではなく、マクロ的に決まることの証左である。ところが、アベノミクスで、大きく低下することになる。円安物価高や負担増による消費の抑制と、輸出拡大による所得の確保を組み合わせた結果である。別段、国民が将来不安を覚えて貯蓄に励んだためではあるまい。消費税率の倍増で社会保障の安心感は増したはずだからね。

 その後、非食料消費率は、コロナ禍によって大きく落ち込み、少し戻して安定するという経過をたどった。そして、2023年は、貯蓄率が安定する中で、非食料消費が低下した反面、輸入物価高の下、食料消費率が上昇して、エンゲル係数も高まることになった。他に充てる消費を減らして食料に使わざるを得なくなったということであり、その意味で貧しくなったと言えるだろう。

 しかし、それも2024年に入って変化を見せている。実収入の増加を背景に、貯蓄率が上がって、非食料消費率が下がり、食料消費率は上昇が止まったのである。エンゲル係数も安定してきている。成長する経済においては、食料消費率が低下し、デフレになって、低下しなくなったというのが時代の移り変わりだったのだが、とりあえず、足下では、なんとか貧困化の状況からは脱したところだ。

(図) 


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 2024年になって、名目の消費は明らかに増している。負担増で可処分所得を抑制し、消費を停滞させた2023年とは局面が変わり、貧困化から脱することにもなった。ところが、そんな成功を導いた政策は認知されず、来年は、またぞろ緊縮に舞い戻るようである。選挙では、誰もが経済を良くすると叫ぶが、どうして足下の状況にできたのか、まったく分かっていない。訳も分からず、気分だけで政策は進む。


(今日までの日経)
 中国細る内需、刺激策後手。技能実習生の来日減少 ベトナムの日本離れ影響。エンゲル係数、42年ぶりの高水準 家計支出の28%に。外食22社、6~8月純利益20%増 値上げと効率化 奏功。欧州中銀、0.25%利下げ。輸出数量、円安でも伸びず4~9月4.3%低下。

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