経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

7/31の日経

2013年07月31日 | 今日の日経
 昨日の話を少し補足しよう。成長率で言えば、1997年度は0.1%、1998年度は-1.5%なのだが、内需だけだと、その寄与度は-0.9、-1.7である。つまり、外需がなければもっと打撃は大きく、外需に助けられていたということ。

 来年度の成長率の予測は、第一生命が0.4%、ニッセイが0.0%であり、外需の寄与度を第一生命は0.8、ニッセイは0.7と置いている。これだけの助けがあっての成長率だから、もし、外需が横バイで、内需だけなら、成長率は-0.4%、-0.7になる。

 筆者が「一つ間違えばマイナス成長に転落するような経済運営は論外」とするのは、こんなわけである。中国は成長率の低下が続いていて、何が起こってもおかしくない。黒田総裁は「リスクは海外経済」とするが、リスクの蓋然性と起こった時の破壊力を、とくと考えてみたら良い。

………
 古い筆者は、1997年のハシモトデフレの衝撃を肌で知っているが、若手はなかなか実感できないと思う。せめて、当時の寄与度の数字(4(1) 実質連鎖・年度)をじっくり見たら良い。先ほど、内需だけだと成長率は-0.9%になるという話をしたが、この中には0.4の在庫投資も含まれている。

 要するに「売れ残り」で内需がかさ上げされているわけで、商品の売れなさぶりは、もっと酷かったということだ。民間住宅の-1.0も恐ろしい数字で、前年度は0.6だったから、駆け込み需要の反動というには、あまりに大きい。しかも、翌年度も-0.5と続いた。市場が壊れたような感じだよ。

 当時の話は、鈴木淑夫先生がリアルタイムで書いていたコレの「月例景気見通し・1997年11月」を読んでほしい。消費の低迷が続き、在庫が急増、生産調整に追い込まれ、雇用も悪化したことが良く分かるから。大型金融破綻が起こる前の経済指標で、景気後退とゼロ成長は確実な情勢になっていた。

 鈴木先生は、緊縮財政による景気悪化を見て、金融危機に発展すると「予言」までしていたものだ。だから、今頃になって、「増税は関係ない、金融危機が不況をもたらした」という、因果を逆にする説を聞かされると不思議な気がするよ。

(今日の日経)
 米大統領が来春に訪日。トヨタ、国内20万台上積み。失業率3.9%に改善、円安が雇用を押し上げ。4-6月期3.5%成長予測・民間調査機関。株価で円動く底流。経済教室・企業の価格設定行動・渡辺努。
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新たな経済見通しと1996,97年の落差

2013年07月30日 | 経済
 政府の経済見通しは、実質成長率が2013年度の2.8%から、消費増税の2014年度には1.0%に落ちるというものだ。予想どおり、強気だね。第一生命は2.9%から0.4%だし、ニッセイは2.6%から0.0%だから、随分、落差が少ない。消費増税はGDP比で1.5%も家計所得を抜くわけだから、所得が減ってもあまり消費は減らないと想定したのではないか。

 日経によれば、消費増税のほか、10兆円超の緊急経済対策の効果が弱まる影響と、年金支給額の引き下げも勘案したようだから、これは評価できる。しかし、これらの大きさは、GDP比で前者は1.0%、後者は0.2%くらいだから、下押し圧力は消費増税と合わせると2.7%にもなる。それなのに、政府の見通しは1.8%しか落ちない。筆者には、第一生命やニッセイの見通しが現実的に思えるが、いかがだろうか。

 ところで、前回の消費増税の際はどうだったか。成長率は、1996年度の2.7%が1997年度には0.1%へ落ちた。家計消費は1995年度2.3%、1996年度2.5%と推移していたが、1997年度には-1.0%へと急減した。寄与度では、1997年度の+1.3から1997年度の-0.6へと1.9も下がっている。推移を見れば、駆け込みと反動より、所得減の影響が大きいと言うべきだろう。

 実は、1996年は内需が強かった年であり、寄与度は成長率を上回る2.9もあった。家計消費1.3、住宅投資0.6、設備投資0.7といった具合である。外需については、輸出は増えていたものの、それ以上に輸入が伸び、寄与度は-0.3で、成長率を下げる方に働いた。これだけ内需が強くても、2%の消費増税には耐えられなかったのである。

 ちなみに、1997年度の景気失速は、アジア通貨危機のせいにする人がいるが、1997年の輸出は8.7%も伸びていて、外需の寄与度は+1.0もあった。もし、これがなければ、ゼロ成長どころか、1%のマイナス成長に転落していたはずだ。また、大型金融破綻の貸し渋りを景気失速の理由にする人もいるわけだが、1997年度の設備投資の寄与度は+0.8で、成長を押し上げている。設備投資が落ち込むのは1998年度になってからのことだ。

 結局、1996年度は、強い内需が成長を支えた年であり、しかも、前年に阪神大震災の復旧事業があった関係で、公共事業は成長の足を引っ張る側にあった。それに引きかえ、今年度は、内需が弱く、設備投資はこれから、公共事業に補ってもらい、外需に助けられる状況だ。そこへ前回の1.5倍の消費増税である。これがいかに冒険か分かろうというものだ。

(今日の日経)
 賃金水準65歳まで維持・ヤマト運輸。実質1%成長に減速、来年度、消費増税が前提・政府見通し。新興国減速が企業に影。リスクは海外経済・日銀総裁。国債保有、ほぼ半減・三井住友銀。少子化克服へ一般社会税。経済教室・国会至上主義・野中尚人。
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7/29の日経

2013年07月29日 | 今日の日経

(今日の日経)
 個人投資の受け皿拡大。消費増税巡り官房長官。住宅ローン減税は高収入ほど恩恵。社会保障改革の工程表を今年度中に・諮問会議。下北半島はなぜ隆起・滝順一。英低金利の長期化宣言へ。経済教室・与党の結束・待鳥聡史。経済学の実験で身近に。

※既に駆け込みは起こっていて今更のようにも思う。※諮問会議は15年度半減に拘るが、時期で縛るのはどうか。それより税収を精査すべき。今年度の企業収益見通しは25%増なのに、税収の弾力性は1.1かね。※滝さん、良いコラムです。
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前例踏襲における傲岸と無能

2013年07月28日 | 経済
 反省のないところに進歩はない。日本の財政当局は失敗を認めない人たちなので、同じ過ちを繰り返す。既存予算を一律10%カットにしておいて、特別枠だの補正予算だので無闇な歳出を許してきた。そんな戦略の下、法務省は刑務所の職業訓練用の重機を復興予算で買い、趣旨から外れる使い方だと世間から批判を受けた。それでは、どうやって必要な機材を用意するのか、受刑者をただ閉じ込めておけば良いのか。

 ダメな戦略は戦術でカバーしきれない。戦略を立てた偉い人たちは責任を問われることもなく、泣きを見るのはいつも現場だ。まあ、どこにでもある風景ではあるが、リーダーがどれだけ自省できるかで組織の盛衰は決まる。失敗を認めないにしても、修正しようとする動きがあるなら、まだ評価もできよう。それがないと、傲岸なだけでなく、無能なのかと思えてしまう。

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 今日の日経によれば、2014年度の概算要求基準は、昨年の前例を踏襲するようである。一般の人は「そんなものだろう」と思うだろうが、これは驚きだ。一律カット方式は民主党政権が始めたもので、弊害も目立っていたから、かつての自民党方式に戻るものと考えていた。自民党方式とは、小泉政権下で確立したもので、既存予算に3%カットを課した上で、2割増しの新規要求を認めるものだった。

 これは、いわば3%の生産性向上を求めた上で、新規施策のアイデアを出させ、予算の新陳代謝を図るものである。むろん、最終的には要求を削り込み、年末までに前年度並みに仕上げるから、予算が膨らむわけではない。年末までに調整する方式なので、予算規模の調整もしやすい。リーマンショックに見舞われた麻生政権では、要求を25%増しまで認めて、更に柔軟性を持たせている。

 今後、補正予算の編成は必至と言われている。税収上ブレで2012年度の剰余金が1.3兆円もあるほか、今年度の税収上ブレも、既に、今年度予算額より前年度決算額が8000億円も上回っており、かなり大きいと予想されるからだ。本当にデフレ脱却を果たしたければ、マネーを政府が堰き止めず、民間経済に還元しなければいけないし、よく言われるように、来春の消費増税の悪影響を緩和するためにも必要だ。

 そうなれば、既存予算は10%カットで締め付ける一方、補正予算はバラマキをすることになる。補正予算の対象となる公共事業や企業支援は、それで構わないかもしれないが、治安、教育、外交といった経済対策に縁の薄い予算には歪みが生じる。これらを無理に補正予算で手当しようとすれば、またも趣旨が違うという批判を招く。この3年の教訓は、単に復興予算の作りが悪かったというだけでは足りぬだろう。

 また、概算要求基準どおりに、社会保障の自然増1兆円を、他の公的サービスの10%カットで賄うのなら、そもそも消費増税はいらぬのではないかという議論を惹起する。消費増税は高齢化で膨らむ社会保障を支えるためと説明して来たのに、結局は借金を減らすのに充てるのかと批判されよう。そして、社会保障や、公共事業と企業支援という、国民受けするものばかりが肥大化し、それ以外の「一隅を照らす」ような公的サービスが究極まで縮小されるとなると、何とも「貧しい政府」が出来上がる。

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 予算管理というのは、まず、経済成長との整合性を考えなければならない。脱デフレを最優先にしているのに、歳出の伸びが成長率より低いとなると、財政は経済の足を引っ張るセクターとなる。要求段階で10%カットするようでは、整合性ある財政に調整する可能性すら摘んでしまう。こうした挙に出るとは、安倍内閣を甘く見て、方針には面従腹背なのか、それとも、予算管理の基本もわきまえず、安易に前例踏襲に走ったのか。

 かつての財政当局の人たちは、阪神大震災の際、応急復旧費と経済対策費を分けて、目的外使用という批判を未然に防いだし、巧妙な自民党方式の概算要求基準を編み出しもした。傲岸さは昔も変わらぬが、知略を感じたものである。もしや、社会保障の自然増を消費増税で賄わない形にしたのは、消費増税の縮減や見送りをする布石なのかね。それなら理解できる。まさか、何も考えずではあるまいな。

(今日の日経)
 スズキ1000億円でインドネシアに新工場。海外旅行が円安で値上げ。歳出上限を示さず、概算要求基準。改正日銀法・大蔵省批判に目先変えよう。マネーが米国株に流入、債券からシフト。日本発の新元素誕生か。 
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消費増税の検証が導く答

2013年07月27日 | 経済
 「消費増税 複数案を検証、上げ幅見極め 首相が指示」か。ようやく、ここまで来たという感じだ。消費増税に際し、経済的インパクトを検証するのは、ごく当然のこと。それをしなかったのは、すれば、無謀な試みであることがあからさまになるからだ。これで、勝負はついたように思う。ただし、3%を2%にしても、まだ悪影響は大きい。1%にできるかどうかが焦点となろう。

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 日経にもあるように、民間調査機関の成長率予測は、いずれもゼロ%台である。もし、米国や中国の経済に変調が起これば、簡単にマイナス成長に転落する。仮に、1997年の景気失速が消費増税のせいでなかったとしても、当時のアジア通貨危機に類することが今度は絶対に起こらないとは、誰も言えまい。一つ間違えば窮地に陥るような政策は議論に値しない。そのくらいの理屈は、日本の財政当局以外には、常識で通じるだろう。

 日経は「増税修正にリスク」と言うが、消費税をやめるのと、緩やかな引上げに変えるのでは意味が違う。まったくしないとなれば、財政規律に不安を与えるかもしれないが、緩やかにするのなら、予定の税収が一時的に減るだけのことだ。1%ずつの引上げにした場合、減収額は4年間で17.5兆円、年当たり4.4兆円だ。これでマーケットの信用を失い、悪い金利上昇が起こるとは考えられない。もし、その程度の財政悪化にも耐えられない状態にあるのなら、現時点で税収や成長の動きに敏感に反応しているはずだ。

 むしろ、一気の消費増税によって、3%近い成長率をゼロ%台に落とす方が遥かに危険である。信用は税率でなく、成長にかかっているからだ。順調に推移すれば、おそらく、2013年度の自然増収は5兆円を超え、2014年度には、リーマンショック前の税収51兆円への回復が視野に入る。これをゼロ%台の成長で捨ててしまっては、かえって財政再建を遅らせることになる。

 また、日経は「小刻みな上げ、企業に事務負担」と言うが、事務負担が嫌で、売上げ減を甘受する経営者がいるだろうか。景気が順調に推移し、儲かっていればこそ、事務負担の費用も捻出できる。ゼロ%台の成長になって、収益を落としてしまえば、事務負担の費用どころではあるまい。値札の交換に至っては、物価が上昇するようになれば、当然必要なことで、それを煩わしく思うのは、デフレ慣れというものだ。

 国際公約うんぬんについては、消費増税と引き換えに、何かを諸外国にしてもらう約束をしたわけではあるまい。諸外国にしてみたら、日本が一気の増税で成長を減速させ、消費を減らすようなことをすれば、世界経済に悪影響を与えるわけで、かえって迷惑な話である。日本国債の外国人保有比率は低いのだから、景気を悪くしてもでも債権価値を保ってほしいということにもなるまい。

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 現在の延長線上の財政運営では、消費税3%分で7.5兆円、経済対策の剥落で5兆円、年金カットで1兆円のデフレ圧力がかかる。もし、来年始めに5兆円規模の経済対策を打ったとしても、財政支出を前年度並みに保つに過ぎず、消費増税分は、丸々デフレ圧力になる。消費増税のショックを和らげるには、10兆円規模が必要であり、こうした増税と濫費を同時にするようなことは愚かしい。他方、消費税を1%にとどめても、今年度の自然増収5兆円で十分に補えるのだから、無理をする必要は何もないのである。

 消費増税の経済的影響を検証するに当たっては、消費税だけに目を奪われず、経済対策の剥落の無視、企業の収益見通しを度外視する過少な税収見積り、地方税増収により交付税を節約できることの隠匿といった、財政当局の常套手段に惑わされないことが肝要だ。現実を正確に把握すれば、もう答えは明らかである。穏健な需要管理をするだけで、経済は成長し、財政は救われる。我々は消費税の奴隷ではない。

(今日の日経)
 消費増税 複数案を検証 上げ幅見極め 首相が指示。解説・消費増税修正にもリスク。
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7/26の日経

2013年07月26日 | 今日の日経

(今日の日経)
 雇用規制を特区で緩和、解雇・残業柔軟に。3大銀は国債2割圧縮、大半は日銀当座に。国保移管5年以内に、徴収は市町村に残す。インドネシア子供大国。甘い日本茶。沖縄から世界に部品配送。長寿日本を更新、女性再び世界一。

※成長する経済では定着率を高めることが必要になる。雇用規制の緩和は成長するつもりがないということだろう。それなら、法人減税などは求めないことだ。成長産業へ人材移動促すというが、最も雇用を増やしているのは医療福祉。こちらは痛みを伴う社会保障改革をしたいらしいし、矛盾だらけだね。
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7/25の日経

2013年07月25日 | 今日の日経

(今日の日経)
 郵政・アフラック提携、TPP配慮。東南アジアの金融安全網拡大、日本の外貨準備活用。訪日客、年1000万人射程に。ミニ保育所新設、配置規制緩和。ロシア経済停滞。経済教室・病院間連携・宮田裕章。

※自由を目指すTPPが米が占有する権益を守るものだとはね。※年ベースで200万人増、2100億円プラスか。日本人の海外旅行も年ベースで100万人ほど減っている。飛行機代がブランドや外食に回るのだから、国内消費への影響は大きい。円安の思わぬ経済効果だ。※認証を認可にするだけでなく、量も増やしてほしいね。
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7/23の日経

2013年07月23日 | 今日の日経

(今日の日経)
 首相「脱デフレ最優先」。増税延期は危険・実哲也。社説・経済改革断行を。最低賃金賃上げで一致。長期金利2か月ぶり0.8%割れ、リスク資産投資進まず。米雇用増は移民に回る。サムスン防戦、中国勢攻める。スーパー売上げ高2.7%増。経済教室・少額投資・柳川範之。

※消費税を1%に圧縮しても、成長で税収が急増しているのだから、それで悪い金利上昇が起こるわけがない。増税で成長を潰す方がリスクを高めるだろうよ。仮に、毎年1%アップの計画に変更したとして、消費税の予定税収は4年間で17.5兆円減るだけ。1年当たりでは4.4兆円だから、毎年の景気対策を見送るだけで埋め合わせできる。それで財政破綻したりするのかね。景気対策までして、一気の増税の危険を犯すよりマシだと思うが。
※異次元緩和が意図した経路は機能していない。それでも円安株高であるのはFRBのお陰だ。今の好調は自力ではない。※スーパーがこうだと6月の消費はかなり良さそうだ。※クールジャパンを進めたければ、クラウドファンディングの仕組でも作ってあげたらどうか。
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7/22の日経

2013年07月22日 | 今日の日経
 自民党勝利の要因は景気回復だろう。米国景気の回復観測による円安株高の波に上手く乗ることができた。円安によって、海外旅行向けのお金が国内で使われ、外国からの観光客も増して、まず消費が伸びた。住宅投資は、長期金利のコントロール失敗による先高観、消費増税前の駆け込みから好調だ。公共投資は、民主党政権が総選挙の頃に底になる稚拙な財政運営をしたので、参院選前のタイミングで盛り上がってきた。アベノミクスが意図した、資産効果、輸出拡大、投資促進というシナリオとは違うものなのだが、政策は結果だから、景気が回復しさえすれば、それで良い。

 さて、問題は今後だ。最悪を考えると、消費税3%アップを決め、デフレ続行の観測から円高株安になったところへ、米国景気が停滞し出して拍車がかかり、さらに、中国始め新興国の景気も連鎖的に悪化するといったところか。だいたい、悪手を打つと、不運が重なるものだ。こうなると、消費増税の悪影響緩和に経済対策を既に使い切っているから、なす術もなく、消費増税もやめられず、進退窮まる状態となろう。つまり、経済政策に余裕がないために、何か起こると耐え切れなくなるのだ。

 「増税に耐えられるよう景気を持ち上げる」ということが平然と言われているが、世界の動きに影響を受ける景気を思うようにできると考えるとは、不遜に過ぎよう。景気に合わせて増税するのが精一杯であるのに、本末が転倒していても、おかしいと思われないところが日本の不思議さだ。経済政策というのは、意図どおり行かないのが普通で、運に大きく左右される。自らを恃んで策に溺れることなく、謙虚でありたいものだ。

(今日の日経)
 与党圧勝、ネジレ解消。消費増税の環境整備急ぐ。円乱高下の裏にドルの変質。
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ヒトに則した経済の設計

2013年07月21日 | 経済
 「道徳性は希望的な考えではなくて、生物学的作用であり、自然選択の過酷で長い試練に耐えた生存戦略なのだ」とは、なかなかの主張ではないか。神経経済学者、ポール・ザック先生の『経済は「競争」では繁栄しない』の一節である。原題は「親愛と繁栄の根源 徳をもたらす脳内分子オキシトシン」といったところか。オキシトシンが左右する経済的行動から社会の在り様までを描いた壮快なる一書だ。

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 人類の歩みの中でほとんどを占める狩猟採集生活に適した行動が取れるよう、ヒトの生理的な反応システムは形成されてきた。その中には、生き抜くために不可欠だった、仲間との信頼と協力の関係を結ぶ機能も含まれる。脳内ホルモンの一つであるオキシトシンは、他人から信頼を受けると分泌され、信頼で返そうとする情動を促す。そうした心地良さを伴う相互作用が自然に道徳的とも言える行動を導く。

 むろん、現代社会は狩猟採集の経済にはない。もしかすれば、互恵より利己の方がモノやサービスをより多く作り出すために有利かもしれない。そうであったとしても、それはヒトの生理には反していて、少なくとも、幸福感を得ることは難しい。ある程度、モノやサービスが満たされるなら、何のための経済であるかに立ち返り、ヒトに則した経済への設計も考えるべきであろう。

 オキシトシンとは反対に、攻撃性を促すテストステロンの役割に関する解釈も興味深かった。逸脱者やタダ乗りを罰する機能を果たすことで、協力を強め、実入りの多いものにする作用があるとしている。両者のバランスが適応能力を高めているのだ。このバランスが大事であり、全体の利益のつもりで罰したい気持ちが行過ぎると、福祉に対する無用な攻撃につながるようにも思える。  

 それにしても、この本は経済学なのかな。行動生理学や神経心理学に近いのかもしれない。少なくとも、合理的=利己的な経済人を基礎に置き、その数理的展開がすべてとする学問でないことは確かだ。実験経済学や行動経済学としては見事であり、信頼ゲームによって、脳の器質障害さえ推察できるほどだ。意外な事実を解明する価値ある内容となっている。

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 経済学の目的が、より多くのモノやサービスを生むシステムの構築にあるとすれば、最大限に自由な利己の発揮を目指すアプローチもあろう。しかし、それはストレスフルなだけでなく、能力の発揮には、かえって効率が悪いとする見方も多い。己利のみならず、他利にも役立つ実感が個人や組織の意欲を高めるからである。

 また、己利の最大化は、短期的な利益に過ぎず、長くは続かない収奪だったりもする。若い労働力を使い捨てにすれば、いずれ人的資源が枯渇するように、利益を最大化しているように見えて、将来を犠牲にしているだけの場合がある。信頼や共感は、それを判別する指針たり得よう。経済行為はモノやサービスを得る手段だから、その質を問わないと言うのではなく、行為そのものにも幸福は求めるべきだろう。

 本コラムでは、「どうすれば経済学」と称して、リスクにさらされた場合、ヒトは敢えて機会利益を捨てるという不合理な行動に出ることを前提にしている。これは利益の最大化よりも危険を減らして生き延びることを優先してきたヒトの生存戦略に由来するものだ。ヒトの生理的反応を理解せずに、経済の設計や運営をするのは無理がある。合わせるべきは、ヒトよりむしろ経済なのである。

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 ハグにはオキシトシンを増やす効用があるということで、ザック先生は研究室を訪れた人とハグをするのをモットーにしているらしい。日本の若者を途上国に送り、ホームステイなどをさせると、「自分の何かが変わった」といったことを話してくれる。受け入れた家族と抱き合って別れを惜しんだ思い出などを聞かされるにつけ、身につけたのは知識だけではなく、人間への情愛と未来への確信だろうと思う。そして、それを形にするようなリーダーへと成長してほしいものだ。

(今日の日経)
 米緩和縮小の混乱を抑制・G20。参院選きょう投開票。
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