経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

未来の財・サービスは、今、消費できない

2019年09月29日 | シリーズ経済思想
 未来に収穫するコメを、今、食べるなんて、不可能なことくらい、誰でも分かる。ところが、財政学者は、「国の借金は将来世代の負担になる」と軽く言ってくれるんだよね。今の世代が財政赤字を出して消費を増やしたら、将来世代が消費する分が減ってしまうのだろうか。もし、それが本当なら、申し訳なく思うし、緊縮もしたくなるけれど、そもそも、不可能なことを、上手いこと言って誤魔化しているような怪しさがある。

………
 実は、国の借金が将来世代の消費を減らす場合というのは、非常に限られている。それをあたかも、いつもそうであるかのように語るのは、ウソになる。これは、マクロ経済の知識がないと分からないことだから、一般の人はコロリと騙されてしまう。最も分かりやすい例は、外国から借金をする場合だ。特に、外貨建ての場合は苛烈で、将来世代は、飢餓輸出をしてでも外貨を獲得し、借金を返さなければならなくなる。

 しかし、日本は世界一の債権国であり、そんな心配は無用である。外国人の持つ国債は1割程で、しかも、円建てだから、究極のところ、「お札を刷る」だけで返済できる。その際、日本の供給力が満杯であれば、一定のインフレが進むことで実質的負担は生じるが、供給力に余裕があると、外需に恵まれて景気が良くなるなんてことさえあり得る。外国からの借金の例は、現実味がなく、考えるだけムダである。

 それでは、国債を国内で消化した場合はどうか。国内の供給力に余裕がある場合だと、今の時点での供給が増えるだけのことだ。現世代が生産し、現世代が消費するのであり、将来世代の消費は関係ない。ダイムマシンがあるわけじゃないのだから、未来に生産されるものを、今、持ってきて消費できないのは当たり前の話である。そして、最後に残るのが、供給力に余裕のない場合だ。

 この場合には、財政赤字の拡大によって生じた消費の圧力によって、投資が押し出されてしまい、投資の縮小によって将来の供給力が低下することで、将来世代の消費できる量が少なくなってしまう。確かに、この場合に限っては、「国の借金は将来世代の負担」になる。だが、今は、そんな状況なのか。消費は弱々しく、物価が上がるどころか、足下で鈍っている有様だ。金融は超低金利で緩み切り、投資が困難な状況には、ほど遠い。

 結局、「国の借金は将来世代の負担」と言うためには、今、供給力が逼迫していることも、併せて論証しなければならない。そこに言及しないのでは、素人を言い包めるだけのレトリックと批判されても仕方あるまい。財政学者は、主流派経済学の利益最大化の行動原理に基づき、いつでも供給力はフルに使われているとみなし、財政赤字は常に投資を減らすと暗黙のうちの前提にして、現実を見ようとしないのである。

(図)


………
 それでは、財政赤字を膨らませることの不都合とは何か。将来世代の内部での貧富を拡大することだ。財政赤字を増やすと、多くの場合、消費に導かれて投資が盛んになり、むしろ、供給力は高まって、将来、社会全体で消費できる量は増える。ただし、それを分ける将来世代の中では、国債を相続した富める者と、遺産とは縁のない貧しい者が生じる。つまり、生じるのは、将来と今の世代間の不公平ではなく、将来世代の内での不平等である。

 財政赤字は、格差という社会的な「負担」を残し、これを是正する難しい政治課題を将来世代に押し付ける。突き詰めると、貧しくて平等な社会か、豊かで格差ある社会か、どちらかの選択になる。どちらかとなれば、将来世代は、貧しさに耐えざるを得ないより、政治的な解決の道がある格差の方を望むのではないか。少なくとも、将来世代が、今の我々のような知恵なき衆生とは限るまい。

 財政学者が、供給力の余裕の有無に関係なく、ひたすら財政赤字の削減を叫ぶようでは、なされる投資もなされなくなり、却って将来世代が得られる消費が少なくなる皮肉な結果になる。緊縮して少子化を放置するのと、赤字を出してでも将来世代を増やすのでは、後者の方が成長に有利で、生産も消費も増えるのは明らかだろう。財政赤字の可否は、供給力への影響を考えなければ、判断できないものだ。

 今の世代が将来世代のためにできることは、財政赤字によって膨らんだ購買力の偏在を管理しやすいよう、利子配当課税や相続税を強化したりして、格差を是正できる制度を準備しておくことてあり、今、消費増税をして、成長を阻害することではない。消費増税については、一定の物価上昇が生じたら、小刻みに上げる制度を用意しておけば十分である。それで財政赤字の弊害は防げるからだ。

………
 国民は、「財政赤字は子供達の負担」と言われたって、「低賃金で結婚さえできないのに」と感じるだけで、むしろ、そうした実感の方が現実を正しく映している。賃金も、消費も、物価も低迷する中で、緊縮を渇望し、大層な理屈を並べる人々には、ぜひ、こんな素朴な質問をしてほしい。「あなたは、未来のお米を、どうやって、今、食べるつもりなのですか?」、「今、自分たちが消費し過ぎているから、未来のための投資ができないわけですか?」と。


(今日までの日経)
 鋼材・紙、在庫だぶつく 外需・内需に停滞リスク。工作機械受注が急減速 今年3割減見通し、リーマン危機以来。AI翻訳、医療・法律で先行 深層学習で早まる進化。

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9/26の日経

2019年09月26日 | 今日の日経
 今週は、これといった統計がないので、全産業指数を取り上げよう。注目点は、建設業の動向だ。設備投資は堅調とは言っても、製造業は減退していて、支えるのは、非製造業、とりわけ建設投資だからである。しかし、7月の様子を見ると、一時的な減退からの反動増に過ぎず、それも抜けてきたように見える。住宅建設は、増税後の軟調が避けられず、支えるのは公共事業だけとなる。その公共も、増税前にかなり推進力を使ってしまった。さて、輸出に頼れぬ中、消費を増税で潰して、この国は、何で成長するつもりなのか。答は、成長するつもりがないということなのだろうね。地球温暖化には貢献できるかもしれないが。

(図)



(今日までの日経)
 貿易協定締結で合意 日米首脳、共同声明に署名。消費増税実現後の課題(上)「10%超」も早めに小刻みに・井堀利宏。貿易と投資、同時減速 米中摩擦、製造業に影。幼保無償化の論点(下)幼児教育の質向上が急務・中室牧子。気候行動サミット 16歳活動家グレタさん「失敗したら許さない」。

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緊縮速報・4-6月期は年金で緊縮

2019年09月23日 | 経済(主なもの)
 4-6月期の一般政府の収支は、資金循環統計における資金過不足の4期移動平均で見ると、赤字のGDP比が前期より0.2%縮小して-1.8%となり、再び-2%を切る水準となった。もはや、財政再建に焦る必要はなくなっており、景気が減速し、世界経済が不穏な中で、敢えてするような状況ではない。しかし、経済が消費増税に耐えられるかどうかで実施が判断される有様で、成長に最善を尽くすより財政赤字の削減を優先する異常さが常識化し、状況に応じて経済を運営するという当たり前のことができなくなっている。

………
 金曜に公表された4-6月期の日銀・資金循環統計では、資金過不足の前年同期比が、中央政府で+0.4兆円、地方政府で-0.6兆円、公的年金で+1.4兆円となり、一般政府の4期移動平均のGDP比は、前期より若干の改善という結果であった。この1年、一般政府の「赤字」は-2%を切るレベルに定着しており、当然ながら、名目成長率が2%弱あれば、公債残高のGDP比も安定することになる。これで財政再建に焦るなど、バカげている。

 資金過不足とは、「誰かの借金は、誰かの貯蓄」を意味するから、政府が借金を減らすなら、民間が貯蓄を減らすウラハラの動きをしなければならない。具体的には、企業が投資を増やしたり、海外が輸入を増やしたりすることが必要で、それらが厳しい現下において、どうやってバランスを取るつもりなのか。政府の借金しか考えない視野狭窄になっているから、結局は、国民生活を苦しくさせて、家計の貯蓄をもぎ取るようなことに陥る。

 併せて注目しておきたいのは、公的年金の黒字の大きさである。これを「別腹」と思っているから、緊縮し過ぎてしてしまう。中央と地方の財政ばかりを気に病み、公的年金が主体の社会保障基金は埒外にしており、一般政府という全体状況が顧みられない。「中長期の経済財政に関する試算」で、一般政府の収支が2025年度には黒字になることを分かっている人はどれだけいるだろうか。

 厚生年金については、雇用増によって保険料が伸びている状況にある。また、年金水準の底上げを図る観点から、適用拡大も図られる予定である。いずれも望ましいことではあるが、需要管理の上では緊縮の方向になる。バランスを取るためには、中央・地方の財政を緩めなければならない。こうした全体状況の把握抜きで、とにかく財政赤字を減らすというナイーブさでは、成長を阻害し、かえって財政再建を遠のかせるのである。

(図)


………
 ところで、厚生年金の適用拡大をすると、年金財政は大きく好転する。これは、支え手が多くなるだけでなく、企業負担分の保険料が増すためであり、この負担増が最大の問題となる。それを鎮めるために、国が補助を出すとすると、中央政府の赤字は増すが、社会保障基金の黒字が増し、一般政府全体では相殺されて変わりがない。とりあえず、実需には中立であり、影響が出るのは、将来、補助を受けた低所得の人たちが年金を受給する際の話になる。

 この時に、インフレ要因になるかは、需給状況による。何もしない場合と比べて、供給力に変わりがない場合は、それに比して受給権だけが大きくなるので、一定のインフレが進むことを通じて、格差が均されることになる。そして、適用拡大によって労働時間の制約がなくなり、労働供給の拡大に結びつく場合には、供給力が伸びた分だけインフレは抑制されて、全体がより豊かになれる。

 すなわち、新たな加入者への保険料の補助は、格差が均されるか、より豊かになるかのいずれかだから、十分にやる価値はある。ポイントは、供給力が伸びるかだ。単に適用拡大をするだけだと、企業の労働コストが高まり、供給力を下げるおそれもあるから、むしろ、財政赤字を積極的に出してやるべきである。もっとも、こうした供給力を観点とする高度な戦術を説いても、「財政赤字=悪」の観念しかない国には、まったくムダだとは思うが。


(今日までの日経)
 携帯新料金 高止まり 「官製値下げ」道半ば。厚生年金「企業要件撤廃を」 厚労省、有識者検討会が方向性。FRB、景気先行きに迷い 年内追加緩和で二分。福岡・札幌・仙台の伸び顕著 基準地価。
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9/19の日経

2019年09月19日 | 今日の日経
 8月の貿易統計がオープンになり、輸出は底這いの状況だ。焦点は、いつ回復するかではなく、底割れしないかどうかである。そこへ、今朝方の「FRBが0.25%追加利下げ」のニュースである。情勢は不穏さを濃くしているわけだが、消費増税の断行を決めた頃から言われてきたメインシナリオのリスクが現実になっただけで、ある意味、予想どおりの展開だ。そして、予想どおり、景気後退の道をたどることになる。やらずもがなの財政再建に拘泥し、消費は潰すが公共事業で補うから大丈夫だなんて、何をやっているのだろうね、この国は。

(図)



(今日までの日経)
 外需低迷、増税後景気に影 米欧アジア軒並み減 停滞、長引く恐れも。中国勢のプラント輸出、10年で3倍。タブレットレジ、増税控え拡大中。海外勢、日本国債に資金。基礎年金の劣化回避が急務・駒村康平。中国工業生産 更に減速。

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4-6月期GDP2次・景況観を変える下方修正

2019年09月15日 | 経済
 アベノミクスは、最初の1年に財政出動と金融緩和で景気を好転させたものの、2014年の消費増税で成果を失い、異次元緩和第二弾は弊害を残した。その後、消費増税の先送りで小康を保つうち、2016年後半から輸出に恵まれ、景気は上昇に向かい、2018年になって一服、2019年になると減退が始まった。そこへ消費増税となる。今後、景気は一段と悪化し、外需が不調だと更に色濃いものになるだろう。

………
 GDP4-6月期2次速報の特徴は、景況観を変えざるを得ないような設備投資の下方修正である。1次では、内需は堅調という評価であり、消費は10連休効果による偶発に過ぎないとしても、設備投資は増勢を維持しているというものだった。ところが、2次において、設備投資は、1-3月期で微減、4-6月期で微増の横バイという形に変わった。すなわち、日本経済の成長は、既に止まっているということなのである。

 生産力を増強する設備投資は、経済成長の源泉である。その設備投資は、金融政策でなく、需要を見てなされる。図で分かるように、設備投資と輸出はパラレルであり、輸出に住宅と公共の建設需要を加味したものとも、よく似ている。輸出は、早くも2018年4-6月期にピークを過ぎていたが、設備投資の増勢も10-12月期までということになり、2019年からは伸びていないことが確認された。

 今後、どうなるかと言えば、輸出は、底入れを言うには、まだ早い状況で、貿易統計の8月中下旬の前年同月比は2桁マイナスだ。消費増税後に住宅はまったく期待できず、公共は「躊躇なく」追加されるかもしれないが、それが設備投資を引き出すかは疑問だろう。そして、緩慢ながらも増加してきた消費は、増税で圧殺される予定だ。これでは、設備投資が崩れずに済めば、御の字ではないだろうか。

 現実には、足下の非製造業の設備投資には、消費増税前の駆け込みや、軽減税率とポイント還元に対応するためのシステム投資も含まれると考えられ、増税後に失速する可能性が高い。増税によって、一気に消費が1%程度も減り、民主党政権下並みのレベルまで落ちぶれるだけでなく、製造業に続いて非製造業の設備投資も崩れ、外需が停滞する中で、全面的な景気後退に見舞われる恐れがある。

(図) 


………
 消費は、一進一退の状況にあり、4-6月期では「一進」が強く出た。それでも、アベノミクス開始時の2013年1-3月期を、ようやく上回る程度に過ぎない。この6年間で、輸出と設備投資を伸ばし、財政を大きく改善させたものの、国民生活を豊かにすることには、完全に失敗した。しかも、消費増税という消費を伸び難くする「構造改革」をしたために、明らかにトレンドが低下しており、10%増税となれば、更に半分になるかもしれない。

 そろそろ、どんなに金融緩和をしても、緊縮財政と組み合わせていたら、豊かになれない現実を分かってもらいたい。金融緩和は、自国通貨安で輸出を増やし、金利低下が建設投資を下支えする。しかし、輸出相手国も不況だったり、建設の先食いが過ぎたりして、これらの経路が塞がっていると、直接には設備投資を引き出せないために、何かを「躊躇なく」やったところで、まったく効果が出ない。むしろ、輸入物価高で消費を抑制し、成長の足を引っ張ることになる。

 成長回復のために、難しいことが必要なわけではない。歳出の拡大枠を、高齢化の自然増分の5000億円に限定せず、7000億円程度の新規枠を設け、少子化や非正規の対策を打てば良い。それでも、緩やかに財政再建は進む。日本は緊縮のやり過ぎで、家計への圧迫がえげつなく、成長を阻害し、人口減や貧困化で社会を蝕んでいる。その閉塞感がリフレだの、MMTだのの一点突破型の極論を生む。購買力が不足して、消費と物価と賃金が上向かないのなら、頑なな財政方針の緊縮を緩め、現実に合わすべく柔軟に調整すれば済む話である。


(今日までの日経)
 イエメン武装組織、サウジ石油施設を攻撃 無人機で。欧州中銀、量的緩和を再開 マイナス金利も深掘り。

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9/11の日経

2019年09月11日 | 今日の日経
 8月の景気ウォッチャーは、合計値の前月比が4か月ぶりのプラスになったが、死んだネコも跳ねる程度にとどまる。特に、製造業は、日経も指摘するとおり、前回増税時どころか、大震災以来の低さとなっている。増税前には下がる傾向があるとは言え、単に気分の問題でないことは、雇用関連のコメントに表れており、新規求人数の減退ぶりを裏付けるものだ。非製造業はまだマシだが、製造業の後を追ってくるものなので心配である。状況は深刻さを増している。

(図)



(今日までの日経)
 製造業、景況感冷え込む 8月街角景気調査 約8年ぶり低水準 増税後への懸念一段と。

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影が差す2019年度の税収予想

2019年09月08日 | 経済
 9月になると、最初の大型納税月である7月の結果が判明し、証券各社の企業業績見通しも出るので、当年度の税収予想が立てられるようになる。マクロ管理の基本は、税収の把握からであり、こうした地味な作業なしに、反緊縮もない。今回の結果は、見た目は平凡でも、実質は景気の悪化の影響が色濃くなっている。成長が止まれば、税収は伸びず、財政再建は遠のくが、「増税すればできるんだ」とばかり、遮二無二突進することになる。

………
 税収予想の方法には様々あるが、本コラムでは、単純明快を第一として、前年度決算額をベースに、所得税には名目GDPの伸び率を、法人税には企業業績見通しの経常利益増加率を、消費税には名目GDPの消費の伸び率を、その他の税には消費者物価上昇率を、それぞれ割り当てて合算する方法を採っている。その結果は、61.1兆円であり、国の2019年度の一般会計予算額から消費増税分1.5兆円を差し引いた61.0兆円とほぼ同じである。

 普通なら、予算と変わらなければ問題なしで済ますところだが、日本では、予算の税収額を過少に見積り、緊縮の実態を分からなくすることが常々なされており、予算とほぼ同じということは、景気の悪化に伴って、かなり税収が停滞することを意味する。カギになるのは法人税であり、経常利益の見通しは、野村と日興の平均が2.2%増と、6月時点の6.8%から大きく低下し1/3になってしまっている。

 経常利益の低下の理由は、言うまでもなく、輸出の減退によって、製造業の経常利益がマイナスへ転落するとの予想になっているからである。ここへ消費増税が来る。非製造業は、未だ堅調であるものの、外需が危い中で、内需を圧殺するという経済運営は、非常にリスクが高く、今、やらなくてもと思えてしまう。

 ちなみに、2020年度には、経常利益の見通しは、5.2%増へと回復することになっている。これらを基にして、2020年度の税収予想を立てると、+1.2兆円の自然増収となる。このくらいの伸びが普通であり、消費増税の1%分程度は、年々の自然増収で得られる。焦って増税で上乗せする必要性は乏しい。

………
 当年度の税収予想については、先の方法に加え、7月までの納税実績を組み込むこともできる。7月までの累計額の前年度比は、所得税で-3500億円、法人税で-900億円、消費税で-2200億円となっており、所得税には前年度の特殊要因の反動が含まれるにせよ、全体として停滞感は拭えない。これに移動平均を用いて計算すると、消費増税分を抜いた2019年度の税収予想は60.3兆円と、2018年度の決算額とほぼ同じになる。

 つまり、2019年度は、景気の悪化でまったく税収が伸びないのに、消費増税で強引に増収を図ろうとする構図になる。財政によるビルトインスタビライザーをあえて無効化するような経済運営であり、この国は、本当に緊縮が大好きだ。野村は、企業業績について、予想の下方修正が相次いでいて、8年ぶりの経常減益になることも否定できないとする。今年度の税収が消費増税分より増えなかったという結果にならないことを祈りたい。

(図)



(今日までの日経)
 水没する世界の金利 欧米で「日本化」懸念。「待機児童」無償化が影 2年連続減少も増加の恐れ。物価、増税後も低空飛行 民間予測平均1%届かず。

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9/5の日経

2019年09月05日 | 今日の日経
 4-6月期の法人企業統計が公表されて、GDPの設備投資は下方修正になりそうである。今期の法人企業統計の特徴は、製造業と非製造業で設備投資の動向が分かれたことだ。輸出の低迷を背景として、製造業の設備投資(含むソフト)が前期比-4.3%と大きく減退したのに対し、非製造業は+4.7%と伸びた。興味深いのは、非製造業も、除くソフトは+0.1%に過ぎず、ソフトの伸びにばかり支えられているということである。これが消費増税対応の一時的なものでないことを祈るよ。

(図)



(今日までの日経)
 米製造業、3年ぶり「不況」。消費者心理 40歳境に明暗 中高年 財布ひも堅く。製造業の設備投資、2年ぶり前年割れ 4~6月6.9%減。
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アベノミクス・変調から見える消費の低迷

2019年09月01日 | 経済(主なもの)
 天候の異常が当たり前になってしまった日本であるが、今年の7月は雨続きで、消費にも悪影響が及んだようである。とは言え、景気の状況については、「内需堅調、外需不振」という評価が一般的な中で、7月の商業動態・小売業の落ち方は、あまりにも激しく、いくつかの攪乱要因に隠れて、消費の基調が相当に弱まっているのではないかと、疑わせるものだった。これでは、すべてが露呈する10月の消費増税後に不安を抱かざるを得ない。

………
 4-6月期は、消費が思わぬ高い伸びとなったものの、総合指数で内実を眺めれば、4月だけが飛び抜けて高く、5,6月で落ちて元の水準へと戻っている状況だ。そこに、7月の小売業の前月比-2.4という極端な落ち込みである。これからすると、総合指数の7月が横バイで済んだとしても、1-3月期並み水準ということになり、小売業の1/3程の低下ともなれば、4-6月期での積み上げを7-9月期の減少で失ってしまうおそれもある。

 つまり、消費の基調は、一進一退するだけの低迷状態にあるということだ。むろん、9月には消費増税前の駆け込み需要で跳ね上がり、7-9月期の時点で水準が大きく下がることはなかろうが、消費増税後の10-12月期には、1-3月期の水準を1%程下回るといった大きな低下を考えなければならない。これは、2019年内の消費がマイナスになることを意味しており、消費が横バイの基調で増税すれば、そうなるという当然の帰結である。

 8月については、消費者態度指数が前月比-0.7となって、とうとう、2014年の増税当月と並んでしまった。まだ増税の2か月前であり、更なる低下は必至である。単なる増税への不安感と言うには下がり方が早く、消費の基調の弱まりが反映していると見るべきだろう。消費の背景となる雇用は、7月の新規求人倍率が3か月連続での低下となった。特に、製造業の求人数の前年同月のマイナスが続いており、決して気持ちだけの問題ではない。

 他方、鉱工業指数を見ると、7月は前月比+1.3となったものの、4-6月期より0.3低い水準にとどまる。8,9月の生産予測を加えた7,9月期平均の前期比はゼロと、やはり、停滞感は拭えない。資本財(除く輸送機械)も動きが鈍く、同じく前期比は+0.3に過ぎない。消費財に至っては、4-6月期に前期比-0.5であったの続いて、7-9月期の予測が-1.8と低下し、依然として在庫水準も高いという有様だ。

(図)


………
 今日から9月で、消費増税まで1か月となった。新天皇即位に伴う10連休での消費の盛り上がりに意を強くし、7月の小売の落ち込みは悪天のせいと信じるというのが、今の世間の気分ではないか。そうこうしているうち、強いとされてきた雇用も勢いが薄れつつある。輸出があてにならないことは、コンセンサスになっていて、世界経済は厳しさが増しているにも関わらず、危機感が薄いように思われる。

 あえて言えば、鉱工業生産で見る建設財の動向は堅調で、建設投資が景気を支えているという面はあるが、果たして、それは10月の消費増税後も続くのか。既に、民需も公需も伸び切った感があり、ここから更に伸ばすと言っても無理がある。むしろ、民需には駆け込みが紛れていて、前回の増税後のように失速する可能性が強く、そうした兆しは表れている。何によって成長を果たすつもりか考えてはどうだろう。


(今日までの日経)
 対中関税 1930年代並みに 米「第4弾」きょう発動。駆け込み需要、割れる判断 消費増税まで1カ月 政府「目立たず」、日銀は警戒。外需停滞、製造業に影 鉱工業生産、7月1.3%増どまり 新規求人の減少続く。中国不良債権、半年で1割増。

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