未来に収穫するコメを、今、食べるなんて、不可能なことくらい、誰でも分かる。ところが、財政学者は、「国の借金は将来世代の負担になる」と軽く言ってくれるんだよね。今の世代が財政赤字を出して消費を増やしたら、将来世代が消費する分が減ってしまうのだろうか。もし、それが本当なら、申し訳なく思うし、緊縮もしたくなるけれど、そもそも、不可能なことを、上手いこと言って誤魔化しているような怪しさがある。
………
実は、国の借金が将来世代の消費を減らす場合というのは、非常に限られている。それをあたかも、いつもそうであるかのように語るのは、ウソになる。これは、マクロ経済の知識がないと分からないことだから、一般の人はコロリと騙されてしまう。最も分かりやすい例は、外国から借金をする場合だ。特に、外貨建ての場合は苛烈で、将来世代は、飢餓輸出をしてでも外貨を獲得し、借金を返さなければならなくなる。
しかし、日本は世界一の債権国であり、そんな心配は無用である。外国人の持つ国債は1割程で、しかも、円建てだから、究極のところ、「お札を刷る」だけで返済できる。その際、日本の供給力が満杯であれば、一定のインフレが進むことで実質的負担は生じるが、供給力に余裕があると、外需に恵まれて景気が良くなるなんてことさえあり得る。外国からの借金の例は、現実味がなく、考えるだけムダである。
それでは、国債を国内で消化した場合はどうか。国内の供給力に余裕がある場合だと、今の時点での供給が増えるだけのことだ。現世代が生産し、現世代が消費するのであり、将来世代の消費は関係ない。ダイムマシンがあるわけじゃないのだから、未来に生産されるものを、今、持ってきて消費できないのは当たり前の話である。そして、最後に残るのが、供給力に余裕のない場合だ。
この場合には、財政赤字の拡大によって生じた消費の圧力によって、投資が押し出されてしまい、投資の縮小によって将来の供給力が低下することで、将来世代の消費できる量が少なくなってしまう。確かに、この場合に限っては、「国の借金は将来世代の負担」になる。だが、今は、そんな状況なのか。消費は弱々しく、物価が上がるどころか、足下で鈍っている有様だ。金融は超低金利で緩み切り、投資が困難な状況には、ほど遠い。
結局、「国の借金は将来世代の負担」と言うためには、今、供給力が逼迫していることも、併せて論証しなければならない。そこに言及しないのでは、素人を言い包めるだけのレトリックと批判されても仕方あるまい。財政学者は、主流派経済学の利益最大化の行動原理に基づき、いつでも供給力はフルに使われているとみなし、財政赤字は常に投資を減らすと暗黙のうちの前提にして、現実を見ようとしないのである。
(図)
………
それでは、財政赤字を膨らませることの不都合とは何か。将来世代の内部での貧富を拡大することだ。財政赤字を増やすと、多くの場合、消費に導かれて投資が盛んになり、むしろ、供給力は高まって、将来、社会全体で消費できる量は増える。ただし、それを分ける将来世代の中では、国債を相続した富める者と、遺産とは縁のない貧しい者が生じる。つまり、生じるのは、将来と今の世代間の不公平ではなく、将来世代の内での不平等である。
財政赤字は、格差という社会的な「負担」を残し、これを是正する難しい政治課題を将来世代に押し付ける。突き詰めると、貧しくて平等な社会か、豊かで格差ある社会か、どちらかの選択になる。どちらかとなれば、将来世代は、貧しさに耐えざるを得ないより、政治的な解決の道がある格差の方を望むのではないか。少なくとも、将来世代が、今の我々のような知恵なき衆生とは限るまい。
財政学者が、供給力の余裕の有無に関係なく、ひたすら財政赤字の削減を叫ぶようでは、なされる投資もなされなくなり、却って将来世代が得られる消費が少なくなる皮肉な結果になる。緊縮して少子化を放置するのと、赤字を出してでも将来世代を増やすのでは、後者の方が成長に有利で、生産も消費も増えるのは明らかだろう。財政赤字の可否は、供給力への影響を考えなければ、判断できないものだ。
今の世代が将来世代のためにできることは、財政赤字によって膨らんだ購買力の偏在を管理しやすいよう、利子配当課税や相続税を強化したりして、格差を是正できる制度を準備しておくことてあり、今、消費増税をして、成長を阻害することではない。消費増税については、一定の物価上昇が生じたら、小刻みに上げる制度を用意しておけば十分である。それで財政赤字の弊害は防げるからだ。
………
国民は、「財政赤字は子供達の負担」と言われたって、「低賃金で結婚さえできないのに」と感じるだけで、むしろ、そうした実感の方が現実を正しく映している。賃金も、消費も、物価も低迷する中で、緊縮を渇望し、大層な理屈を並べる人々には、ぜひ、こんな素朴な質問をしてほしい。「あなたは、未来のお米を、どうやって、今、食べるつもりなのですか?」、「今、自分たちが消費し過ぎているから、未来のための投資ができないわけですか?」と。
(今日までの日経)
鋼材・紙、在庫だぶつく 外需・内需に停滞リスク。工作機械受注が急減速 今年3割減見通し、リーマン危機以来。AI翻訳、医療・法律で先行 深層学習で早まる進化。
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実は、国の借金が将来世代の消費を減らす場合というのは、非常に限られている。それをあたかも、いつもそうであるかのように語るのは、ウソになる。これは、マクロ経済の知識がないと分からないことだから、一般の人はコロリと騙されてしまう。最も分かりやすい例は、外国から借金をする場合だ。特に、外貨建ての場合は苛烈で、将来世代は、飢餓輸出をしてでも外貨を獲得し、借金を返さなければならなくなる。
しかし、日本は世界一の債権国であり、そんな心配は無用である。外国人の持つ国債は1割程で、しかも、円建てだから、究極のところ、「お札を刷る」だけで返済できる。その際、日本の供給力が満杯であれば、一定のインフレが進むことで実質的負担は生じるが、供給力に余裕があると、外需に恵まれて景気が良くなるなんてことさえあり得る。外国からの借金の例は、現実味がなく、考えるだけムダである。
それでは、国債を国内で消化した場合はどうか。国内の供給力に余裕がある場合だと、今の時点での供給が増えるだけのことだ。現世代が生産し、現世代が消費するのであり、将来世代の消費は関係ない。ダイムマシンがあるわけじゃないのだから、未来に生産されるものを、今、持ってきて消費できないのは当たり前の話である。そして、最後に残るのが、供給力に余裕のない場合だ。
この場合には、財政赤字の拡大によって生じた消費の圧力によって、投資が押し出されてしまい、投資の縮小によって将来の供給力が低下することで、将来世代の消費できる量が少なくなってしまう。確かに、この場合に限っては、「国の借金は将来世代の負担」になる。だが、今は、そんな状況なのか。消費は弱々しく、物価が上がるどころか、足下で鈍っている有様だ。金融は超低金利で緩み切り、投資が困難な状況には、ほど遠い。
結局、「国の借金は将来世代の負担」と言うためには、今、供給力が逼迫していることも、併せて論証しなければならない。そこに言及しないのでは、素人を言い包めるだけのレトリックと批判されても仕方あるまい。財政学者は、主流派経済学の利益最大化の行動原理に基づき、いつでも供給力はフルに使われているとみなし、財政赤字は常に投資を減らすと暗黙のうちの前提にして、現実を見ようとしないのである。
(図)
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それでは、財政赤字を膨らませることの不都合とは何か。将来世代の内部での貧富を拡大することだ。財政赤字を増やすと、多くの場合、消費に導かれて投資が盛んになり、むしろ、供給力は高まって、将来、社会全体で消費できる量は増える。ただし、それを分ける将来世代の中では、国債を相続した富める者と、遺産とは縁のない貧しい者が生じる。つまり、生じるのは、将来と今の世代間の不公平ではなく、将来世代の内での不平等である。
財政赤字は、格差という社会的な「負担」を残し、これを是正する難しい政治課題を将来世代に押し付ける。突き詰めると、貧しくて平等な社会か、豊かで格差ある社会か、どちらかの選択になる。どちらかとなれば、将来世代は、貧しさに耐えざるを得ないより、政治的な解決の道がある格差の方を望むのではないか。少なくとも、将来世代が、今の我々のような知恵なき衆生とは限るまい。
財政学者が、供給力の余裕の有無に関係なく、ひたすら財政赤字の削減を叫ぶようでは、なされる投資もなされなくなり、却って将来世代が得られる消費が少なくなる皮肉な結果になる。緊縮して少子化を放置するのと、赤字を出してでも将来世代を増やすのでは、後者の方が成長に有利で、生産も消費も増えるのは明らかだろう。財政赤字の可否は、供給力への影響を考えなければ、判断できないものだ。
今の世代が将来世代のためにできることは、財政赤字によって膨らんだ購買力の偏在を管理しやすいよう、利子配当課税や相続税を強化したりして、格差を是正できる制度を準備しておくことてあり、今、消費増税をして、成長を阻害することではない。消費増税については、一定の物価上昇が生じたら、小刻みに上げる制度を用意しておけば十分である。それで財政赤字の弊害は防げるからだ。
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国民は、「財政赤字は子供達の負担」と言われたって、「低賃金で結婚さえできないのに」と感じるだけで、むしろ、そうした実感の方が現実を正しく映している。賃金も、消費も、物価も低迷する中で、緊縮を渇望し、大層な理屈を並べる人々には、ぜひ、こんな素朴な質問をしてほしい。「あなたは、未来のお米を、どうやって、今、食べるつもりなのですか?」、「今、自分たちが消費し過ぎているから、未来のための投資ができないわけですか?」と。
(今日までの日経)
鋼材・紙、在庫だぶつく 外需・内需に停滞リスク。工作機械受注が急減速 今年3割減見通し、リーマン危機以来。AI翻訳、医療・法律で先行 深層学習で早まる進化。