経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

キツネが見る家計調査

2013年12月31日 | 経済
 ネイト・シルバーの「シグナル&ノイズ」の中に、予測者にはハリネズミ型とキツネ型があるという話が出てくる。前者は、理論や原則など「一つの大きな考え」に頼り、後者は、特に原則を持たず「小さな考え」を集めて判断するタイプである。予測については、人目を引く前者より、自信なさげな後者の方が優れているらしい。

 まあ、筆者も、需要が経済を左右するという大原則を信じているから、ハリネズミ型かなと自省しつつ、その観点から見える、世間が見逃しがちな事実を提示するよう心がけているつもりだ。予測については外すことも多いが、なぜ外したかは分かる。少なくとも、理論に反する現実の方が間違っているとは考えんよ。

 さて、年末に発表された経済指標は、どれも景気回復の好調さを示す中で、ひとり家計調査は、二人以上世帯の季節調整済の実質指数が前月比-0.3%、勤労者世帯の実収入が実質で前年同月比-1.1%と浮かぬ結果であった。消費は一番最後と無視してしまえば、それまでだが、小さなことが気にかかってしまう。

 消費全体の不調さを、自動車など耐久財の駆け込み需要の強さと、物価上昇による名目の売上の確保が見え難くしているのではないか。引っかかるのは、10、11月と、基礎的な消費を示す「除く住居等」との乖離が約2ポイントと大きいことだ。お金を使う対象が、基礎的なものから駆け込み需要へシフトしている。

 もし、増税後に駆け込み需要が抜け、基礎的な消費レべルへと節約されてしまうと、相当な落ち込みになる。消費性向も高めなだけに心配だ。2014年度の経済見通しでは、0.2%成長という悲観派であるニッセイ基礎研の斎藤太郎さんは、消費の予測値を-1.1%としているが、そのくらいは行ってしまう。

 いやいや、世間はアベノミクスで沸いているのに、心配性なことばかり言っても始まらないね。「増税したら景気は悪くなる」という大原則に頼ってばかりのオールド・ケインジアンと言われそうだよ。ホント、来年は心配を吹き飛ばすような景気であってほしいな。それでは、皆さん、良いお年を。

(今日の日経)
 株高円安・歴史的値動き。消費税10%は不可避・大竹文雄。中国の地方債務310兆円、2年半で7割増。ソニーが家電で追加削減。経済教室・製造業の開発プロセス・柴田友厚。

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来年度は14.6兆円のデフレ財政

2013年12月29日 | 経済(主なもの)
 経済運営の要諦には、「景気が上向きだした時、増税は禁物」というものがある。なぜなら、増税と成長による自然増収が重なり、オーバー・キルを起こす恐れがあるからだ。したがって、いつも以上に、実態に即した税収の見通しを立てるセオリーが重要になる。これは、日本が最も疎かにしている部分である。

………
 2014年度の国の予算は、基礎的財政収支(PB)の赤字幅を5.2兆円縮めるものだった。筆者は、まあ、このくらいだろうと予想していた。むろん、財務大臣は中期財政計画の4兆円改善を目標として掲げていたし、11/29に財政審が「4兆円にとどまらない改善」を建議していたから、当然の流れではあるが、この数字には、ある意味が隠されている。

 仮に、これが3兆円だったとすると、消費税3%の増税分が4.5兆円あるのに、どこへ使ったんだという面倒な批判を呼んでしまう。反対に、6兆円もあったりするとすると、これはやり過ぎで、消費増税は2%以下でも十分だったとか、次の2%の消費増税は不用ではないかとかの余計な議論を起こすことになる。

 結局、消費増税の4.5兆円分だけPBが改善されることは、読み筋だったのである。しかし、PBがどうなるかは、他の税収も関わってくるから、そう都合良くいくものではない。むしろ、真相は逆だろう。上手く収まるよう、税収を操作したのではないか。素直な若手の新聞記者ならいざ知らず、収入の操作という財務担当者の禁じ手を犯してはいないか、疑うべきなのである。

………
 来年度、財政によって、日本経済に、どれだけのデフレ圧力がかかるのか。筆頭は、消費増税の8.1兆円である。来年度の増収は4.5兆円にとどまるが、一部の納税時期が次年度になるためであり、デフレ圧力が変わるものではない。ただし、ここから、税率アップに伴い自動的に支出が膨らむ分は差し引かなければならない。例えば、国が仕事を業者に発注する際には、代金に消費税分を上乗せして払う必要がある。

 この大きさは、当初、消費税を5%上げれば、1%分は支出に跳ね返ると説明されていたが、「増税分はすべて社会保障に」という建前論に巻き込まれ、表に出されなくなった。そうは言っても、上乗せの必要が消えるわけではないから、批判によって実態が見えなくなっただけである。これについては、2014年度予算のPB対象経費の歳出増は、特殊要因を除いて1.45兆円だから、これを差し引くことにする。よって、消費増税のデフレ圧力は6.65兆円となる。

………
 問題は、法人税、所得税、消費税の自然増収である。法人税については、2013年度予算の補正の際に、当初の見込みより1.35兆円、約15%上方修正されたが、実は、2012年度決算と比較すると、たった3%しか増えていない。証券各社による主要企業の今期の経常利益の予想は25%増以上だし、法人企業統計の4-6、7-9月期の経常利益も、前年同期比で24%増であり、金融保険業を加えると、その上を行っていて、いかにも少ない。

 2012年度の実績を振り返ると、証券各社の経常利益の予想が12%増程度、法人企業統計の前年度比が9.6%増であったところ、決算における法人税は、復興法人税を加えた実質で、前年度から11.3%増であった。これからすれば、2013年度でも、法人企業統計などの数字を念頭に、前年度決算から25%増の税収を見込んでも、おかしくないはずだ。

 これで計算すると、2013年度の法人税収は、補正後より更に2.1兆円多い、12.2兆円となる。また、補正の消費税収は、税収進捗率からすると不自然なので、これも0.25兆円の上方修正が必要だろう。これらと減税措置により、2013年度の税収は、補正より2.15兆円上ブレし、47.5兆円になると予想する。ちなみに、当局が消費税収を補正で修正しなかったのは、1%当たりの税収を2.7兆円から2.8兆円へ大きくしたくないためだろう。

 いよいよ、2014年度の税収だが、かさ上げされた2013年度の予想をベースとし、法人税収は、証券各社の予想を参考に10%増とするとともに、所得税と消費税の自然増収は、実質成長率に物価上昇率(消費増税分を除く)を加えた2.6%で伸ばすことにする。これらから減税を差し引くと、税収は、前年度の予想から、更に1.05兆円上ブレする。2014年度の全体の税収は、消費増税込みで、53.3兆円に達すると予想する。

 財政当局の2014年度の税収見込みは50.0兆円であり、これは、実態よりかなり少ない2013年度補正後の税収に、政府見通しの実質成長率1.4%の1.1倍を乗じた程度のものである。これを実態に即したものにするなら、2014年度には、別途、3.2兆円の自然増収という隠れた税負担が存在するということになる。

 結局、消費増税の6.65兆円に、自然増収の3.2兆円があり、また、今回の補正予算は、前回と比較し、2兆円のデフレ要因となっているから、これを加える必要があり、さらに、公的年金の給付カットが今年から来年にかけて約1兆円ある。しかも、これで話は終わらず、地方財政の1.7兆円の自然増収もある。しめて、2014年度は14.6兆円、GDP比で3%近いデフレ財政である。

……… 
 その地方財政だが、2014年度は、地方税が37.9兆円と1.4兆円増加するものの、公債費以外の歳出も1.5兆円増加することになっており、表面上、デフレ圧力はない。問題は、やはり、税収の過少な見込みにある。この節では、少々煩雑だが、1.7兆円の自然増収を、どう計算したか記しておく。なお、住民税は前年度所得に課税され、2013年3月決算の企業が年度明けに納税するものは、地方税では2014年度の税収となるから、消費増税後の景気には、あまり左右されずに確保される。

 2014年度の税収見込みについて、財政当局は、2013年度の地方財政計画をベースに、個人住民税は微増、法人二税及び地方法人譲与税は平均15%増の設定としている。この「15%増」は、国が補正予算で施した法人税の修正率に倣ったものだろう。むろん、これでは低すぎる。個人関係は、所得税の伸びを踏まえて5.5%増とし、法人関係は、先の25%増を用いる。これに減税を勘案すると、2014年度の税収上ブレは0.85兆円となる。

 今の計算のベースにした2013年度の地財だが、2013年3月までの景気上昇によって、税収は、地財の見込みより上ブレしているのは、確実な情勢である。そのため、どの程度、上ブレしているかを、2012年度決算をベースに、個人関係は、2012年度の所得税の3.8%増を用い、法人関係は、法人税の11.3%増を用いて、推計することにする。

 その結果は、2013年度の地財の税収見込みから、0.85兆円上ブレしているというものだった。ちなみに、総務大臣は、経済財政諮問会議で、「上触れしてもせいぜい1兆円程度」と言っているところである。こうして、2013年度の地財のベースが高くなれば、当然、2014年度の税収上ブレも、かさ上げされる。したがって、地方財政での自然増収は、この二つを合わせた1.7兆円ということになる。

 ところで、今回の国の予算編成のポイントは、地方財政であった。地方税が多くなるほど、国が地方交付税を補填する必要が少なくなり、国の歳出削減につながるからである。本来なら、国は多めの地方税収を望むはずだが、消費増税の関係で法人税の上ブレを抑えたから、そうもいかなかったのだろう。地方税収の上ブレは、決算剰余金となり、大半が減債に充てられるだろうから、ムダ使いされるわけではないが、国民経済にとってはデフレ圧力になる。

………
 来年度は、14.6兆円のデフレ財政が実行に移される。ただし、これは目論見であり、5.2兆円のPBの改善とともに、国と地方の自然増収4.9兆円も得られる勘定であっても、結果的には、消費増税と国の自然増収は両立しないだろう。消費増税が景気を後退させ、企業収益を直撃し、法人税を大きく減らすことになるからだ。

 もし、消費増税を1%にとどめていたら、予定の税収は3兆円ほど少なくなっただろうが、代わりに、予定外の自然増収4.9兆円が手に入っていた。つまり、消費増税を圧縮していたとしても、税収は予定を上回っていたことになる。この状況なら、消費増税が先延ばしされたからといって、財政破綻のリスクが懸念されることは、まったくなかったはずだ。

 それなのに、まともな税収の見込みを立てず、消費増税を正当化しようと自然増収を隠匿したことで、米国の「財政の崖」にも匹敵する、常軌を逸したデフレ財政を招いたのである。このデフレ財政のGDPの3%近い大きさは、今年度のGDPの増加分のすべてを政府部門が取り上げるとか、来年度の増加分の2倍を吸い上げるとかいう途方もない規模である。

 米国は、古典派的な経済思想や「小さな政府」思想のメッカであるが、批判派も居て、現実性も併せ持っていたから、瀬戸際で「崖」から脱することができた。ところが、日本は、自分で数字を検証する者が少なく、米国思想の劣化コピーのような財政当局の主張に乗る者ばかりが目立つ。そうして不知のまま跳躍は試みられる。これで奇跡はあるのかね。


(昨日の日経)
 ベンチャー発掘に新基金。年金減額0.6~0.7%に下げ幅の圧縮を検討。ソフトバンクの大胆で周到な財務戦略。消費者物価1%超上昇。求人倍率1.00倍、非正規が増加。歳出切り込み不足・山田宏逸。夢の資源は6日間で壁。

(今日の日経)
 増産控え駆け込み増産。カジノに賭けますか。太陽光の屈折した普及策。リーマン5年・終わらぬ超バブル、米株高に警戒感。木村伊兵衛・スナップの絆。
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12/26の日経

2013年12月26日 | 今日の日経

(今日の日経)
 新成長戦略を来年6月に。デフレ勝ち組の窮地。日経平均6年ぶり16,000円台。高速道有料を15年延長。粗鋼生産3年ぶり1億1000万t。住民票を丸ごと代行。経済教室・中国の真の改革派・宮本雄二。チェンジアップ最終回。

※来年6月は消費増税で景気の谷底だろうね。そこで打ち出される規制緩和は、国民に受け入れられるのだろうか。
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12/25の日経

2013年12月25日 | 今日の日経
 メリークリスマス、国に安らぎを、民に喜びを。

 昨日、政府予算案が決まったが、締まった予算だね。昨日の日経で主計局幹部が語っていたとおりだと思うよ。財政再建を求める今日の日経の論調は、なんだか「日本財政新聞」みたいになっている。来年度の名目成長率の政府見通しは3.3%で、予算案は3.5%増だから、決して膨張していない。

 しかも、国債費を除いた基礎的経費は、特会統合による形式的増加の特殊要因を除くと、2.1%増に過ぎないから、消費増税による物価上昇率並みだ。安倍政権は、歳出でも成長の足を引っ張る決断をしたことになる。財政の評価は、経済の中で位置づけねばならない。日経は、GDPの1%もの基礎的収支の改善を超えて、もっと足を引っ張れと言いたいのかな。

(今日の日経)
 米携帯4位を買収へ。来年度予算・増税控え景気に配慮。社説・財政再建と言えるか。中国の短期金利が乱高下。大機・高給取りをいじめるな・鵠洋。経済教室・農政改革・大泉一貫。

※短期金利を安定させながら、金融を引き締めぎみにするというのは至難の業。※数字がおもしろい。経済コラムのお手本だね。
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12/24の日経

2013年12月24日 | 今日の日経
 12/22では家計調査の面白さを味わっていただけたかな。一口に消費率と言っても、可処分所得で見るのか、実収入で見るのか、受取で見るのか、様々ある。「消費率一定」を見つけるのは、決して簡単ではない。若い人は、それぞれで試してみるのも勉強になるだろう。

 実は、今回、一番、気になったのは、2006年のデータである。なぜ、こんなに大きく動いたのか。オイルショックの1974年やリーマンショック後の2009年ならまだしもである。時系列データを扱う者なら、気づかなければいけないが、皆さんは、どうだったかね。

 この年は、世帯人員や世帯主年齢の動きがやや大きいが、これだけではなかろう。この頃は、団塊世代が60歳を迎えているので、その影響が臨時収入に出ているかもしれない。また、2006年、2007年は、定率減税の廃止などで緊縮財政を始め、消費を低迷させてもいる。

 そこで、前年からの変化だけでなく、水準を見たのが第3図だった。これからすると、2006年が低く過ぎるのでなく、2004年、2005年が高過ぎると見ることもできる。おそらく、その両方ではないか。こうした見方ができるのも、「消費率一定」の枠組があるからだ。

 その観点で言うと、1997年、1998年は低すぎることになる。政策による撹乱要因がなけば、法則は、より安定した形で表れていたように思える。「消費率一定」の枠組から、背景にある意識していなかった要因を見つけるのも使い方の一つである。

(今日の日経)
 景気は来秋に改善6割。来年度予算案きょう決定 補正含め100兆円超。中国短期金利に動揺続く。中国の止まらぬ液晶パネル増産。ベトナム経済に薄日。経済教室・農政改革・本間正義。日経小説大賞・芦崎笙。

※バブル崩壊になりかねないね。※本間先生のように、価格とコストで説明してもらえると分かり良いよ。※小説で賞まで取れるのが日本の官僚のすごいところだ。

※ヤフーニュースに、竹中治堅先生が「2014年度予算は緊縮財政?」を書いていた。こういう当たり前の見方が広がり、新聞記者もできるようになればと思う。
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法則の異変と神の見えざる手

2013年12月22日 | シリーズ経済思想
 法則はデータから導かれなければならないが、経済学では、そうした傑出したデータに、なかなかお目にかかれない。その貴重な一つに、赤羽隆夫先生が見つけた「家計の消費率は一定」という「法則」がある。具体的には、「家計調査において、非食料消費が実収入に占める割合は、30年の長きにわたり一定だった」という事実によるものだ。このファクツ・ファインディングには、伊東光晴先生も非常に高い評価を与えている。

 このことは、マクロの消費率ないし貯蓄率は、個人レベルでの選択の傾向性、すなわち、ミクロ的基礎では決まらないことを意味する。例えば、多くの人が少子化に備えて、一斉に貯蓄率を高めようとしても、それを引き下げてしまう「神の見えざる手」が働くということなのである。むろん、ミクロの行動に立脚するライフサイクル仮説などの消費理論も土台が揺らぐことになる。

………
 まずは、データを見ていただこう。青線で一定を保つ「非食料消費」がそれで、これは消費全体から食料消費を差し引いたものである。図は、積上げグラフであり、その上に「食料消費」が載り、さらに「税・保険料」(非消費支出)が載っている。これらが積み上がった残りの部分の「残差」は「貯蓄」を示すことになる。

 この半世紀、日本経済は、高度成長からデフレ経済まで変貌を遂げ、平均寿命や出生率も大きく動いたことを考えると、「実収入」に占める「非食料消費」の比率が時代を超えて一定だったことには、素直に驚かされる。また、「食料消費」は趨勢的に低下してきたことも見て取れるだろう。

 わずかに、「貯蓄」だけは、大きな景気の波を表していて、高貯蓄・高投資の高度成長期には増大、オイルショックの1974年以降は減少、バブル景気の出発点の1983年からは再び増大という動きをしている。その後、1997年のハシモトデフレを境に再び減少し、2006年以降は、イベントが相次いだせいか、揺らいで見える。

 なぜ、「非食料消費」は一定なのか。筆者の解釈は、所得と消費には相互作用があるからというものだ。所得増は消費増を促すし、消費減は、生産活動と設備投資を鈍らせて、所得減につながる。こうしたメカニズムが消費率なり貯蓄率を一定値へと寄せているのだ。このことは、貯蓄や投資を調整する教科書的な金利の役割が小さいことも意味する。



……… 
 赤羽先生が発見した「法則」は、要約すると、①「非食料消費」はほぼ一定、②「食料消費」は趨勢的に低下、③残る部分を「税・保険料」の負担と「貯蓄」が代替的に分け合うの三つである。②の「食料消費」の趨勢的な低下は、所得が増えても、食べる量を増やすには限界があることを思えば、すぐに納得できるだろう。これは、エンゲル係数と同様、豊かさのバロメーターにもなっている。

 ③の「税・保険料」と「貯蓄」が代替的であるというのは、「負担が増えると、貯蓄が減る」という関係性を示す。ただし、「増税しても、貯蓄が減り、消費の水準は維持される」と早合点してはいけない。実際には、「増税すると、消費の水準が低下し、それが生産活動と設備投資を落として、所得の水準も低下させ、そうした中で、それら以上に貯蓄の水準が低下し、これによって貯蓄の割合が減り、相対的に負担の割合が増す」と考えられるからだ。

 要すれば、増税によって税収は増すかもしれないが、GDPは低下し、国も民も貧しくなるということである。これが極端であると、GDPの大幅な低下が税収までも減らし、何のために増税したか分からなくなる場合もある。財政再建は、財政という自分の「庭」だけを見て、経済全体を考えないようでは、達成できない。

 実は、赤羽先生の三つの「法則」は、『日本経済探偵術』という本で一般向けに発表された1997年までは、見事に妥当していたのだが、その年に断行された、極端な増税と緊縮を内容とするハシモトデフレ以降、異変が生じることになる。「法則」は、不況期には需要を補うという平凡な財政に裏打ちされてもいたのである。これ以降は、財政再建至上主義が「法則」さえも捻じ曲げることになる。

………
 今度は、それぞれの割合を積み上げないで表した図を見ていただきたい。まず、異変は、「食料消費」に表れた。比率の趨勢的な低下が止まってしまったのである。「実収入」の額が減るようになって、より豊かに成れなくなったのだから、バロメーターがこうなるのも、ある意味、仕方がないところである。

 加えて、安定しつつも緩やかに低下していた「非食料消費」が逆に上昇へと転じた。代わって低下したのは「貯蓄」である。「実収入」が減る中で、消費水準をできるだけ保つため、「貯蓄」をあきらめたということだろう。そして、2006年以降になると、「税・保険料」の比率が上昇し、家計を圧迫するようにもなる。

 ここで過去に目を転じると、「非食料消費」の比率は安定していても、それ以外の項目は、時代によって移り変わってきたことが分かる。高度成長期は、「食料消費」が減る分だけ、家計は「貯蓄」を増やすというハッピーな時代だった。これが1974年のオイルショック以降になると、「食料消費」と「貯蓄」が減る分を「税・保険料」が奪う形となる。この時代は、緊縮財政と成長停滞が特徴だった。

 これが変わるのは、1983年以降である。転機は、レーガノミックスの輸出急増による成長の高まりだった。この時代が日本経済の最盛期となる。再び、「食料消費」が減り、「貯蓄」が増えるパターンに戻った。「税・保険料」の比率は横ばいだったが、ベースとなる所得が成長していたので、政府部門の黒字が拡大した。実は、GDP統計で明らかなように、中央政府は赤字でも、地方政府と社会保障基金を含めた政府部門全体では黒字だったのである。

 そして、1997年のハシモトデフレを迎える。財政当局は、中央政府の赤字を気に病み、無謀な緊縮と増税によって、成長を破壊してしまう。それは、国民に塗炭の苦しみを与えただけでなく、政府部門全体の収支まで赤字に転落させることになった。「財政再建」こそが、本物の危機的な財政状況をもたらした元凶なのである。



………
 この悲惨な社会実験は、「神の見えざる手」がどんなものかを明らかにすることになった。三つ目の図を見ていただきたい。分かりやすいよう、家計調査の「実収入」と「非食料消費」を、1993年を100として、指数化してある。まず、1995、96年と、「実収入」の伸びが先行し、景気回復の過程にあったことが分かる。問題は、次の1997年である。「実収入」が2.7%も伸びたにもかかわらず、「非食料消費」は1.5%に止まった。

 所得は生産活動の成果として支払われるものだから、所得が増えたときに消費が伸び悩むと在庫増となる。1997年には、実際、そうなった。すると、企業は生産調整に乗り出し、当然、残業や雇用が減り、所得も少なくなる。そして、所得が少なくなれば、更に消費が減り、一層の生産調整が必要になる。これも現実に起こったことである。

 図で分かるように、生産活動が反映される「実収入」は急速に下げている。そして、「非食料消費」の指数を追い抜いたところで、ようやく底入れを果たした。この時点で「非食料消費」が高めに推移したことは興味深い。その後、「実収入」と「非食料消費」は、同じ指数に収まる。結局、増税によって、消費の比率は、一旦、下がったものの、需要調整という「神の見えざる手」が働き、所得が減らされることで、比率は元へ戻ったのである。

 1997年の増税によって、「非食料消費」を、わずか1.2ポイント吸い上げた代償は、実に大きかった。「実収入」は、2006年までに12.2ポイントも低下した。しかも、2012年になっても、これを下回っている。ちなみに、1998、99年に、法人税率を7.5%も下げて対抗したが、「実収入」の急降下が止まらなかったことを言い添えておこう。



………
 赤羽先生の発見を数式にすると、非食料消費=実収入×k (kは定数) と表せる。これは、価格×生産量=賃金×kを意味していて、価格=賃金÷生産量×kと変形できる。この「賃金÷生産量」は、ユニットレイバーコスト(単位労働費用)であるから、先生も本で指摘するように、「物価はULCに比例する」という、各国でも共通して見られる現象を示しているわけである。これからすれば、デフレ脱出へ向けて、何が必要かは明らかだろう。

 既に、「デフレ脱出にも、3%の消費増税を乗り越えるにも、賃金アップが必要だ」と叫ばれてはいる。しかし、1997年の経験は、今回は望むべくもない2.7%ものアップがあったにもかかわらず、2%の消費増税にも耐えられず挫折したというものだ。増税で家計を圧迫すれば、消費は減るのであり、それを補うだけの外需の急伸や、消費減の下での投資増という異常事態でもないと、救われないのである。

 赤羽先生の「法則」と言えるほどの美しいデータは、1997年以降の財政再建至上主義の下では乱れ気味である。ただし、需要調整という「神の見えざる手」は、いまだに強い力を見せつけている。これに逆らい、緊縮と増税によって執念を果たそうとする者は、ギリシャ神話のイカロスのごとく、翼によって脱するつもりが、結局は、過信のために翼を失い、墜落する憂き目に会うことだろう。

(昨日の日経)
 財政規律の緩み目立つ一般会計95.9兆円。軽自動車増税に業界は沈黙。訪日外国人1000万人突破。日銀総裁・買い入れペース変わらず。中国、地方の借金止まらず、短期金利再び上昇、建設銀行株が下落。

(今日の日経)
 国立大の利益は東大首位。邦銀海外資産100兆円。政府見通し1.4%成長。風見鶏・ライス補佐官の発言2日後に中国は識別圏設定。
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12/20の日経

2013年12月20日 | 今日の日経

(今日の日経)
 米緩和縮小でマネーが先進国に回帰。基礎的財政収支5兆円近く圧縮、中期財政計画を上回って改善。地方税収1.4兆円増。税収50兆円に映る官僚の計算・石川潤。日商会頭・円安に警戒感。マンション発売は来年も高水準。経済教室・公務員改革・稲継裕昭。スマホにシニアが二の足。

※新興国が弱まる分だけ先進国が強まるかが問題。※計画以上の緊縮財政をやれと、誰が指示した。※こちらも立派なデフレ要因。※税収のベースになる13年度はまだ伸びるだろうが、14年度は景気失速で見込みを下回るかもしれない。※米国流礼賛が多い中で、稲継先生の議論はクリアだ。どの程度の緊縮財政をするかは、政と官の役割分担の焦点と思うよ。
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12/19の日経

2013年12月19日 | 今日の日経
 ついにテーパリングが始まったね。今朝方、FOMCは債権購入額を月100億円縮小することを決めた。NYダウは最高値を更新し、円は104円台へ下げた。まずは順調というところか。財政問題も片付いたところだし、このまま大きな変動もなく進んでくれたらと思うよ。

 あえてリスクシナリオを言えば、思いのほか長期金利が上昇して、米国の住宅や自動車が崩れることかな。今年は、財政の「坂」による需要への悪影響を、金融緩和の継続によるローンの後押しで、住宅と自動車の好調さが補った。今度は、その逆がないとは言えない。

 そうして米国経済が今年に続いてぐずつくようなら、新興国に信用収縮が波及することもあろう。そこで一番心配なのは、バブル気味の中国だ。日本も円安なのに輸出が増えない事態になると、消費増税の需要ショックに加え、円安は内需を損なうだけになる。

(今日の日経)
 本州3社が本四の債務を肩代わり。公共事業は実質2%増。診療報酬は据え置きか微減。別枠加算4000億円削減、地方交付税2%減。ビットコインが世界に台頭。米住宅着工11月22.7%増、中国住宅価格が大都市で30%超上昇。トヨタが東北で電池3割増。輸入ガラス浸透。経済教室・公務員改革・野村修也。首都圏バイト大卒正社員並み。

※公共事業は消費増税による物価上昇分だけの増だね。※地方の税収増も大きいようだ。
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12/18の日経

2013年12月18日 | 今日の日経

(今日の日経)
 消費税を全て転嫁は4割弱。物価が上がると起業家も挑みやすく。30年国債4000億円増発。北洋銀が公的資金完済へ。業種別短観・海外需要鈍く。工作機械15%増。経済教室・公的年金のリスク割合は慎重に検討を・山口修。

※どれも山口先生のおっしゃるとおりだね。パッシブ改善のような地道な努力が必要で、今の株価上昇局面に引きずられてはいかんよ。そもそも、健全なマクロ経済運営こそが最善の年金運用になることを心すべき。一気の消費増税をすれば、需要縮小から企業収益が減り、株価は下落する。ここで株式運用を増やすべきなのか。デフレがぶり返せば、円高要因となって海外運用も危うい。他方、将来のインフレに備えるには、物価上昇に応じて小刻みに消費税を上げる仕組みも必要。年金の世界だけで考えてはいけない。
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12/17の日経

2013年12月17日 | 今日の日経
 GDP7-9月期2次速報の時点で、公共投資の大幅な下方修正があり、第一生命研の新家さんは12/9に「景気認識のツールとしての是非すら問われる」と嘆いていたが、もっともなことだ。2011年11月には、震災復興の大型補正予算が成立し、「復興需要で景気浮揚」と盛んに言われたが、執行難のために、ほとんど増えていなかった実態が明らかになった形だ。

 本コラムでは、そうなるだろうと、当時から無理な財政運営を批判していたが、今更の感はある。対照的なのは、1995年の阪神大震災の時で、震災対応とは別に、ショックに対応するべく経済対策を全国的に打ったから、公共投資は伸び、1996年の景気回復へとつながった。それが1997年の消費増税の断行にも連なっていく。

 足元を見れば、公共投資が伸びているが、これは、昨年度の補正予算で、安倍政権が全国的に公共事業を増やしたためであろう。それが円安による観光需要の増加と相まって、内需関連の景気の好調さをもたらしている。まあ、それが来春の消費増税を決める「二の舞」にもなってしまったわけだが。

 円安で輸出型の製造業の収益が好調なのは当然としても、円安に苦しむはずの非製造業も好調だし、中小企業にも波及してきている。内需を少し追加しただけで、これだけの効果が出るのは、経済構造はリーンなものに既になっているということだろう。改革すべきは、経済構造ではなく、財政運営なのだ。

※公共投資の下方修正で、12/1に紹介した設備投資の予測モデルが実態にかなり近づいたよ。新家さんが12/16に言っているような設備投資の上方修正があると更に近くなるね。

(今日の日経)
 M&Aが東南アで最高に。消えた内外格差、ピークは95年。教育訓練費は91年の6割強に減少。企業の国債保有が急増。日銀短観・中小もプラス。バイト時給5年ぶり伸び率。年金支給額1.9%増、受給者数2%増。需給ギャップを下方修正。マンション発売22%増、注文住宅は反動減。円安でも輸入増、ステン、木材など。経済教室・研究用原子炉・家泰弘。
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