経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

キシノミクス・懐疑の中の物価上昇

2023年04月30日 | 経済(主なもの)
 物価上昇が懐疑の中で育っている。1年前の自分に、「資源高と円安で物価高となり、それに連れて名目消費が伸びて、賃金上昇にまで至るよ」と話したら、「何なの、そのシナリオは」と呆れていたと思う。異様な円安になっても意固地に金融緩和を修正しなかった黒田前日銀総裁に、先見の明があったかのような成り行きに、経済を読むことの難しさを思わざるを得ない。もっとも、現実になっても、読めぬままの人も多いけれど。

………
 4月の消費者物価(東京都区部)は、総合が前月比+0.5で、生鮮エネ除きで+0.7と強い。サービスも+0.2とついてきており、今年に入って明らかに潮目が変わっている。1-3月期の商業動態・小売業は、前期比+2.8とジャンプアップした。今年の春闘での賃上げは、連合集計で+3.69%と30年来の高さである。正直、予想外の展開で、アベノミクスで政府が旗を振っても動かなかったことがウソのようだ。 

 なぜ、賃上げができたのか。売上げが伸びているからだ。法人企業統計では、消費増税前のピークに近い。コスト高だろうが、収益がなかろうが、売上げが伸びていれば、何とかできるものだし、無理をしてでも人手を確保しないと、商売が立ち行かなくなる。そうすると、名目であっても、消費が伸びていることがいかに大きいかとなる。実質でも1-3月期は堅調だ。こうした消費の伸びの背景には、ここまでの名目の可処分所得の地道な上昇がある。

 アベノミクスでも、増税と円安によって物価高となったが、社会保険料のアップで可処分所得を抑制していたから、賃金上昇の割に消費が弱く、デフレ脱却とはならなかった。しかし、可処分所得が堅調なら、値上げに応ずることができる。名目での消費が増え、売上増から賃金増へ波及してきたのであり、2%はともかく、持続的な物価上昇への移行は、十分、あり得る。起きてしまえば、当然の流れに見え、何が拙かったのかも分かる。 

 1-3月期の鉱工業生産は、前期比-1.8と、2期連続のマイナスであり、資本財(除く輸送機械)も-6.4、建設財も-1.7と、投資は、まったく冴えない。輸出の停滞が影響しており、輸出で景気が良くなるいつものパターンからは外れている。雇用も、量的には、1-3月期の労働力調査の雇用者は+5万人にとどまり、新規求人倍率が1-3月期は若干のマイナスになるなどしている。それでも、物価も賃金も上がっている。

(図)


………
 植田日銀は、過去25年の金融緩和の検証をするようだが、1997年の緊縮財政による需要ショックでデフレに転落し、輸出で景気が上向くたびに、緊縮で需要を抑制し、消費、売上、賃金、物価を低迷させてきた経緯をたどることになる。余計なことをしなければ、自然に需要が循環し、消費、売上、賃金、物価が加速していくという現実を目の当たりにしつつ、金融緩和の意味を考えることになろう。


(今日までの日経)
 日銀、25年間の緩和検証へ。ホンダ、国内に電池工場 GSユアサと EV向け4000億円規模。コロナ、感染対策自主判断に 来月8日「5類」決定。

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4/27の日経

2023年04月27日 | 今日の日経
 コロナで遅れていた5年に一度の将来推計人口の令和5年版が公表された。出生の仮定はは、中位の合計特殊出生率が1.36人とされ、前回(2017年)の1.44人から下方修正された。低くはなったが、前々回(2012年)の1.30人よりはマシな水準である。実績は、2019年以降、推計から大きくズレてしまったので、2022年の実績見込みである1.25人から、今回の1.36人まで戻れるかどうかである。いずれにせよ、厚生年金の代替率5割の給付水準を維持するには、加入期間延長や勤労者皆保険などの対応が必要となりそうだ。

(図)



(今日までの日経)
 人口減で縮む国力 将来推計人口、生産性向上が急務 2070年、3割減8700万人 出生は59年に50万人割れ。

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金融緩和と産業政策が成功しないのはなぜか

2023年04月23日 | 経済
 異次元緩和でもデフレ脱却はならなかった。金融緩和をしても、設備投資が盛んにならないのは、設備投資には需要リスクが強く作用するため、並行して緊縮財政による需要抑制策を取ると、金融緩和での収益性の改善による効果は、容易に打ち消されるからである。産業政策も同様で、補助金や税制によって収益性を高めて投資を促進するものだから、需要管理が拙いと効果は望めない。

………
 4/18の諮問会議では、経済戦略が議論されたが、柳川先生のペーパーを見る限り、需要の好循環が必要とする一方、緊縮財政もするという話になっていて、戦略の目標が矛盾しており、とても上手く行きそうにない。また、総じて、有識者は成長を高めるような賢い財政支出をしろと言うが、アベノミクスでは、成長率も、投資率も、大して高まらなかったから、その間の産業政策はムダだったという評価になり、打ち手を喪失するだけになる。

 まともな戦略を立てるとすれば、金融緩和や産業政策の効果が発現するよう、需要を安定的に増加させるような財政政策を構想するものになる。コロナ対応で赤字が膨らんだから、早急に緊縮というだけでは、愚かな財政になるとしか言いようがない。むろん、財政赤字が膨らむリスクも管理しつつ、やり過ぎないようにするのも大事であり、それがブランシャール流の21世紀の財政政策である。

 日本経済の経験をたどると、成長率を高めることに成功したのは、間違って有効な政策を取った時である。1985年のプラザ合意での円高に過剰な危機感を抱き、金融緩和と財政出動を行った結果、1988年以降の設備投資の高揚に至った。その後は、1989年の消費税導入もあって、物価は安定していたものの、金融緩和を長引かせたために、株や土地のバブルを膨らませてしまう。日本は、1972年のドルショック後も、似たようなことになっている。

 もし、アベノミクスで、消費増税をやらず、財政出動を続けていたら、1988年のパターンになっていたかもしれない。もしかすると、1972年のインフレが伴うパターンに発展していたおそれもある。それくらい、財政をどのくらい使うかの程度問題は、重要である。諮問会議の有識者のように定性的な議論をたたかわすだけでは、矛盾する目標を統合するような有効かつ十分な戦略は、とても編み出せない。

(図)


………
 経済政策は、金融と財政を統合させた戦略が必要で、金融緩和や産業政策を闇雲にやれば良いというものではない。そこに陥ってしまうのは、設備投資は、収益性だけで動かせるという、経済学の教科書的には正しくても、現実にはそぐわない観念があるからだ。ブランシャール先生だって政策を変えてきたわけだから、我々も少しは経験に学び、失敗を繰り返さないようにすべきだろう。


(今日までの日経)
 物価高、食品が中心に。輸出、消える円安の恩恵。半導体総崩れ、特需消滅、設備投資も急失速。訪日消費「コロナ前」視野。内需株高 値上げこなす消費に期待。

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4/19の日経

2023年04月19日 | 今日の日経
 4/9のNスぺ「日銀10年」は、よくまとまっていたね。異次元緩和をしても、デフレ脱却はならずで、得たものは、ケインズの昔から言われていた金融緩和の無力さの証明だった。大事なのは、これからで、異次元の産業政策に進むようでは、また無力さの証明をすることになる。アベノミクスでは大型の産業政策もしていて、こちらもあまり意味がなかったという教訓も学んでおきたい。

 昨日は、諮問会議の特別セッションがあったが、相変わらずだ。ブランシャール先生にも参加していただいて、財政による需要管理を、何を対象に、どのくらいやるのかを考えたらどうかと思うよ。バイデン政権の失敗のように、供給制約のあるところに需要を出したら、インフレの弊害まで出てしまう。世界の経済政策の議論は、「標準」とは言えないにしても、そこまで進んでいるんだよ。

 成長の加速には、投資が必要で、この国で一番足りない投資はヒトへのものだろう。若者に再分配をすれば、結婚や出産を伴って消費が増え、それが設備投資も引き出す。再分配で勤労者皆保険にすれば、ネックの労働供給も増し、サプライサイドにも好都合だ。少子化が緩和すれば、持続可能性が増すわけで、ブランシャール先生のグリーン投資と同じ意味合いがある。

 今、我々は、原材料高に伴う名目だろうと、売上げが伸びれば、賃金も上がるという現象を目の当たりにしている。売上、賃金、物価、消費は、一体のもので、消費税や社会保険料で可処分所得を抑制すれば、いずれも上がらないというのも、アベノミクスの教訓だ。流れを堰き止めず、更なる消費増につなげ、設備投資を引き出し、もっと売上げを伸ばす。こういう循環を回すように財政政策を使うという戦略を構想するのが諮問会議の役割だろう。

(図)



(今日までの日経)
 中国、3台に1台EV。円相場、強まる膠着感 日本の競争力低下映す。小売り7割、コロナ前回復 今期純利益。東南アで部品供給網拡大 中韓EV生産で需要増。トラック・船、国内物流の荷動き鈍化。

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21世紀の財政政策はどうあるべきか

2023年04月16日 | 経済
 金利が成長率より低いなら、財政を経済政策に活用するのは有益だとするのが、『21世紀の財政政策』でのブランシャール先生の主張だ。金利=成長なら、基礎的財政収支をゼロにするのが財政再建の目標になるが、金利<成長なら、多少のマイナスでも大丈夫だ。まあ、そういうことである。ただ、金利や成長率が何で決まるのかを真面目に考えていくと、なかなか話は面倒になってくる。

………
 多少、引っかかるのは、先生が財政の実践例を挙げる第6章で、欧州は締め過ぎ、米国は出し過ぎ、日本がちょうど良かったとするところだろう。オールドケインジアンの私は、もう少し緩めるべきだったと思うし、正統派は公債の膨張を問題視するだろう。いずれにせよ、欧日米の相対的な立ち位置は、先生の言われるとおりである。

 日本は、いち早く、1997年以降、長期停滞に入ってしまったが、これは、橋本政権による過激な緊縮財政による需要ショックから始まる。成長率の基礎となる設備投資のGDP比がどう動いたかと言うと、バブル期の過剰が解けて、せっかく上向いてきたのを低下させ、以降、浮き沈みを繰り返す。従前との違いは、盛り上がりの局面がなくなったことだ。

 盛り上がってもおかしくなかった局面は、構造改革の小泉政権期、アベノミクスの第二次安倍政権期だが、いずれも、緊縮財政で需要を抑圧し、好循環を堰き止めて、設備投資の加速を阻害した。低い成長率は、こういう形で決まったわけである。他方、金利は、需要を抑圧すれば、投資の見込みが立たなくなるので、資金が求められなくなり、ゼロ金利にしたって、まったく問題が生じない。これで金利<成長ができ上がる。

 金利が貯蓄と投資を調整するという前提を置くと、話は面倒になるが、貯蓄と投資は、需要で導かれると考えると簡単だ。財政をどのくらい使えば良いかも分かりやすい。名目3%成長を目標にするなら、財政による需要の創出を3%増にする必要がある。景気が上向いたからと言って緊縮していたら、そりゃ金利も成長率も上がるまいて。

 名目成長の目標が3%で良いのか、内実の物価の目標が2%で適当かは、労働供給の潜在力次第だろう。資本はすぐ増やせても、ヒトはそうはいかないからだ。物価の目標は、金融政策の単なるノリシロではなく、生産性格差インフレーションに相当する。成長で増える需要がどのくらいサービスに向き、どのくらいの労働力を供給できるかで目標は定まる。

(図)


………
 経済政策は、金融政策と財政政策の両方を節度をもって使うべきである。常識的な結論に聞こえようが、オールドケインジアンの立場であればこそだ。実際、私も歳だしね。金融政策が万能との立場になると、取るべき経済政策は違ったものになる。金融緩和でバブルを作って需要を創出し、緊縮財政や他国通貨安で物価を抑制するという時代が終わって、21世紀の経済政策においては、両方を使うようになるということなのだろう。


(今日までの日経)
 米大手銀、4割増益も与信費用3.8倍。女性の働き方、正規にシフト。バイト時給3月2.1%高。ファストリ、営業最高益。台湾IT総崩れ 2割減収。高級品消費、なお中国頼み 25年に世界市場25%占め首位。イオン営業益最高に迫る。中国消費、盛り上がらず。

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4/11の日経

2023年04月11日 | 今日の日経
 景気が回復している。3月の基調判断は、景気ウォッチャー、消費者態度とも、上方修正された。景気ウォッチャーの現状(方向性)は前月比+1.3で、家計関連は鈍いが、企業関連、雇用関連の伸びが大きかった。現状(水準)も同様だ。現状(先行き)は前月より加速している。また、消費者態度は、前月比+2.6と高めの伸びで、ことに雇用環境が高い。ポストコロナの本格化、インバウンド、賃上げなどが理由だろう。モノの輸出は停滞する中、内需主導での回復という、いつもとは違うパターンだ。予想外の高めの賃上げを受け、思いがけず景気は転換点を迎えた。

(図)



(今日までの日経)
 2月の旅行収支、コロナ前超え 訪日客回復で黒字に。海外勢、賃上げ期待、内需株に買い。
維新系知事、3府県に 41道府県議会で議席倍増。

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少子化対策に負担増は必要ない

2023年04月07日 | 社会保障
 少子化対策のたたき台が公表されたが、財源を巡って迷走しそうな雲行きである。そして、今回も、乳幼児期の支援という肝心な部分が後回しにされそうで、この国は、また失敗するのではないかと心配だ。どうして、こうなるのかね。要するに、少子化対策の意味とか、財源確保の仕方とか、基本的なことがぼんやりしたままなので、刺さる施策が立案できずにいるのだと思う。

………
 まず、財源だが、2.5兆円は難なく用意できる。12年後には、小中高の児童生徒が250万人減るので、1人当たり年100万円の学校教育の公費負担が減るからだ。6年後だと、1.1兆円である。現時点で、小中の給食費の無償化には3,650億円あれば良く、高校生に月1万円の給付をしても3,000億円で済む。財源は、徐々に現れるので、始めは公債で賄う部分があっても、その程度は許されよう。

 続いて、すべての女性に育児休業給付をするには7100億円が必要であり、勤労者皆保険を実現するために低所得者の社会保険料を軽減するのに1.1兆円かかるので、この二つを加えて、2.5兆円である。ここまでなら、少子化対策に負担増は必要ない。むしろ、勤労者皆保険になると、年金財政が改善するので、一般政府全体では、財政赤字が増えないどころか、減ることになるだろう。

 少子化対策を、あれもこれもとメニューを増やし、予算倍増の5兆円が目的化すると迷走する。成果を上げるには、政策の狙いをハッキリさせ、若い人の認識を新たにし、行動を変えなくてはならない。低所得でも子供は持てるのだ、学校にかかるカネは心配ないのだといったメッセージを届けなければならない。子育ての負担軽減なら何でも構わず、見合いに税や社会保険料を重くするのでは、成功はおぼつかない。

(図)


………
 少子化対策の効果が薄いのは、既に生まれている子供への支援は効果がなく、効果は、これから生まれる子供の分しかないからである。例えば、児童手当を増額する場合、来年以降に生まれる子供だけを対象にしても、現在の18歳以下の全員を対象にしても、効果は同じになる。全員を対象にしたら、費用対効果が薄くなるのは、当然である。

 その点、すべての女性への育児休業給付は、これから生まれる子供が対象なので、効果は高い。こういう打ち手を優先して負担増なしで実現すべきである。もし、十分な効果が得られなかったとしても、非正規では生活保障がなくて産むに産めないという明らかな障害を放置していては、少子化が収まるわけがないので、挑戦に悔いはないはずだ。

 財源については、子供の減少で財源が出るということ、少子化の緩和や皆保険の実現で年金財政に余裕が生まれること、税収増で2025年度にはプライマリーバランスに達して、それ以降の自然増収は新規施策に充てられるようになることをしっかり踏まえて、設計すれば良い。社会保険料を重くするだけでは、知恵がなさすぎる。


(今日までの日経)
 世界のテック人員削減、1~3月16.8万人 昨年の通年超え。首相「世代・立場超え協力」少子化対策、財源の議論開始。海外生産「縮小」最多11%、高める37%。米雇用減速、利上げ停止観測強まる。パートの賃上げ、満額回答4割弱。

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4/5の日経

2023年04月05日 | 今日の日経
 2月の国の税収は、累計の前年比が+9.5%と極めて好調であり、2022年度の税収の予測値は72.5兆円となり、前年度決算より5.5兆円程の増収が見込まれる。ただし、3月の企業業績見通しが大きく下方修正されており、1兆円程の下ブレはあり得る。いずれにせよ、2022年度当初予算の予備費を除く一般歳出の伸びは0.5兆円に過ぎなかったので、財政収支は大きく改善する。こうした自然増収は、財政再建に充てられるため、少子化対策の財源は、別途、負担増によって措置される模様だ。

(図)



(今日までの日経)
 奨学金「給付型」門戸広く 年収上限600万円に緩和。茂木氏「保険料の拠出検討」 少子化対策の財源で。経経済維持へロボ密度倍増。日銀短観、製造業が5期連続悪化。労働者派遣市場の現状 時給上昇で反転。英の産業競争力、低下鮮明 EU離脱で。

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キシノミクス・好調な消費、不調の生産

2023年04月02日 | 経済(主なもの)
 2月の商業動態・小売業は、前月比+1.5と伸びて、1,2月平均の前期比は+1.8となった。名目とは言え、加速感がある。他方、2月の鉱工業生産は前月比+4.1ではあるものの、1,2月平均の前期比は-2.8で、1-3月期は2期連続のマイナスになりそうである。消費は好調だが、輸出の低下で、生産は不調だ。景気としては珍しいパターンで、高めの賃上げを背景に、更なる内需拡大による回復に期待したい。

……… 
 小売業は、自動車が増え、衣服・身の回り品も伸び、百貨店も好調だ。物価高でも明るさが感じられる。この背景には、家計調査や毎月勤労統計に見られるように、収入の順調な増加がある。物価の上昇は続いているが、ある程度の消費の強さがなければ、上げられないものだ。3月のCPIの東京都区部は、総合が前月比+0.3であり、やはりサービスも上がった。消費、賃金、物価が共に上がる形になっている。

 2月の雇用については、失業率が+0.2の2.6%と戻ってしまい、就業者も前月比-30万人と、12,1月に増やした分を戻した形で、総じて横ばい状態が続いている。2月の新規求人も、前月比-0.06の2.32倍で逆戻りである。人手不足が言われる割に、求人はコロナ前より少ないままだ。毎月勤労統計でも常用雇用は今一つであり、伸びているのは、時間当たりの現金給与総額である。

 他方、2月の鉱工業生産は、1月が前月比-5.1だったところに+4.1であり、2022年7-9月期に資本財(除く輸送機械)が盛り上がったものが剥落している。消費財は低落が続いており、建設財については、コロナ後の最低レベルである。鉱工業生産は、数量ベースなので、物価高の下では見劣りがするにせよ、消費増税前の水準の回復はおろか、コロナ前の水準さえも、未だギャップが大きい。

 2月の住宅着工は7.2万戸と前月より増えたが、1月に減った反動の範囲内であり、一進一退の状況だ。建設資材が高騰する中で、戸数と面積が保たれているのは、まずまずかもしれない。住宅着工の面積は、消費と同様、消費増税後に水準を下げるのを繰り返し、コロナ禍で一段と下げた後、2021年前半に持ち直したが、ズルズルと後退している。こちらも消費増税前の水準には遠い。

(図)


………
 名目値ではあるが、消費は意外に好調だ。春闘の賃上げ率も思いのほか高かった。非製造業の機械受注も上向いている。色々と批判はあるにせよ、ガソリンや電気ガスの補助も、消費にはプラスである。物価対策を行ったことで、コロナ後でも補正予算の剥落が少なく済んでいる。こうしているうちに、外需が戻って来れば、景気の回復に漕ぎ着けられるが、欧米は、まだ見通せないところだ。


(今日までの日経)
 ヤマト運輸、個人向け宅配便値上げ。少子化対策たたき台、給付が先行。半導体「ブロック化」鮮明。TPP、英加盟で新段階。給付型奨学金の対象拡大 理工系など、年収600万円まで。検証 異次元緩和10年・忘れられた成長の「約束」 緩和開始時の長期金利は0.6%前後、約定平均金利(新規)は0.7%。

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