経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

基礎的財政収支は、ある意味、黒字化できる

2017年01月29日 | 経済
 日銀が国債を保有すると、政府から利払いを受けるが、それは、納付金として、政府に還元される。つまり、政府は、実質的に無利子で歳出を増やせる。こんな財政でインフレにならないのは、供給力に比して、需要が足りないからである。お金は、企業がたくさん持っているけれども、貯め込むばかりで使おうとしない。供給力が在るのに利用しないという不合理な行動を取っている。だから、問題なく可能なのだ。

 それでは、政府が国債発行を嫌がり、企業の貯蓄を使わなかったら、どうなるか。これは、政府まで不合理な行動を取ることを意味する。使われない供給力にはお金が払われないから、失業が発生し、貯蓄を取り崩して消費に充てざるを得ない人が続出する。こうして、家計から企業に貯蓄が移る形で、経済の全体調整がなされる。失業で人的資本の蓄積は阻害され、設備投資も不足するから、供給力の構築には至らず、経済成長が失われる。

 結局、国債を増やすのと、成長を失うのと、どちらを取るかである。国債を増やすのは嫌かもしれないが、それを避けるには代償がいる。金融経済を膨らませないのと、実体経済を構築するのと、どちらが良いかの選択でもある。普通なら、膨らんだマネーの管理は面倒でも、国民生活を優先しようとするだろう。財政至上主義とは、代償が目に入らない人たちの主張でしかない。

………
 1/25に「中長期の経済財政に関する試算」が公表され、2020年度に基礎的財政収支を黒字化する財政再建目標の達成は困難なことが示された。しかし、「だから何なのだ」である。日経は、1/27社説で「社会保障費を軸とする歳出の削減・抑制が急務」とし、「目標の堅持は当然」とするが、ただでさえ、2019年に消費増税をする予定なのに、更なる緊縮をしたら、成長どころか、経済を壊しかねない。

 興味深いのは、現場の記者の方が現実を分かっていて、特集記事で法人減税が失敗だったことを明らかにし、利払いの管理の重要性も指摘している。これらから導かれるのは、消費増税や社会保障削減ではなく、法人税を含む資産課税の強化である。特に、利子課税の税率を25%に引き上げ、利払い増と税収増が自動的に均衡するようにする措置は緊要だ。

 今後の政治課題は、どんな形で2020年度目標を先送りするかだ。第一生命研の星野卓也さんが1/27にレポートしているように、「中長期試算」には、それを暗示する文言が新たに記されている。日経の論説が政権以上に財政タカ派である必要もなかろう。「中長期試算」から読み取るべきは、今の延長線上で公債残高のGDP比は安定するし、2025年度まで待てば黒字化するということだ。早期達成を焦り、危険な緊縮を試みる必要性がどこにあるのか。

 実は、国・地方の財政に、社会保障基金を加えた、政府部門全体では、2020年度に黒字化を達成できそうなのである。そういうことだから、もう十分ではないか。下図は、「中長期試算」に、日銀の資金循環統計を使い、社会保障基金分を算入した収支を簡易的に計算して、紫線で加えたものだ。2016年度は、前半実績を基に社会保障基金の収支のGDP比を1.2%の黒字とし、やや安易だが、それ以降も続くとした。

 社会保障基金をカウントすると、中心となる厚生年金の収支改善を背景に、国・地方の財政以上に急速な回復を見せたことが分かる。社保の単独では、2014年度には収支がほぼ均衡しており、2015年度はむろん、財政が凹んだ2016年度も黒字を拡大中だ。将来については、単に1.2%分をスライドさせただけだが、都合の良いことに、2020年度の赤字が概ね埋まる。説明ぶりとしては、「社保の堅調さを踏まえると、財政のみの黒字化に遅れがあっても容認できる」でどうかね。

(図)



………
 需要不足、すなわち、デフレ経済の下での緊縮財政は、供給力構築の放棄という代償を伴う。他方、膨らむ債務の後始末は面倒ではあるが、いろいろと方法はある。今日の日経でシムズ先生が示唆するように、基本的には、安定的な財政運営をして、2%程度の緩やかな物価上昇を実現し、実体経済を大きくする一方、日銀の金融抑圧や法人・利子配当課税を組み合わせ、徐々に債務のGDP比を下げていくことになろう。

 大切なのは、道具立てをしっかり整えることで、インフレが心配なら、「2%物価目標が達成されないうちは、消費増税はしない」としつつも、「達成されたら、3年おきに1%ずつ上げる」といったコンセンサスを作る。金融抑圧についても、金融経済が実体経済に比して膨張した事実を受け止め、毛嫌いせずに、景気拡大後における準備預金の引き上げや限定的付利などの穏当な方法を多角的に開発していかねばならない。

 シムズ先生の理論は難しいけれども、少なくとも、景気が底入れすると、待ってましたとばかりに緊縮財政を打って需要を抜き、企業の成長への「期待」を叩き壊すようなことをしてはいけない。インフレを予感させる奇策を誇示して、業界人の「期待」を煽る必要はなく、まずは、安定した財政によって、需要は増えていくだろうという「期待」を一般の人に与えることだ。その意味で、財政至上主義の呪縛による焦りから脱せるなら、政策的には難しくないのである。


(今日までの日経)
 脱デフレ 金融政策では限界だ シムズ氏。米成長率、1.9%に減速。NY株、初の2万ドル。外国人労働者、初の100万人。社説・25年度より後の財政・社会保障の姿示せ。8.3兆円の衝撃、かすむ財政健全化。大機・現在負担による消費抑制・和悦。基礎財政収支、20年度黒字化は困難に。


(おまけ)
 1/27の大機小機で、和悦さんは、「高齢化に伴う「将来」の負担を懸念して消費が萎縮しているというより、着々と増加する「現在」の社会保険負担が可処分所得を圧迫し、消費を抑えている」と的確に分析しておられる。それで、社会保障の効率化に取り組めとなっているのだが、単純に負担と給付を軽くすれば良いというものではない。具体策を描けば、次のようなものになる。

 0-2歳の乳幼児を抱え、保育所に預けていない親に、月額8万円を支給する。これで、超過需要で生じている保育所不足は解消されるはずだ。財源は、受給者が将来もらう年金である。要するに、年金を前倒しで支給するだけのことである。今もらえば、将来もらう年金は、いったん減るが、子供が3歳になって働けるようになったら、十分に取り返せる。つまり、社会保障を「将来」から「現在」にシフトさせるわけだ。
 
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1/25の日経

2017年01月25日 | 今日の日経
 11月の全産業指数は前月比+0.3だった。第三次産業指数は+0.2、鉱工業生産指数+1.5だったが、建設業活動指数は-2.8と不調だ。民間住宅の息切れは致し方ないにしても、公共の低落ぶりは情けないね。これで補正予算を打っていなかったら、どうなっていたことか。10,11月の平均の前期比は、全産業指数が+0.2だから、12月には、もう少しほしいところ。第三次産業指数は、まだ-0.1なのでね。

(図)



(今日までの日経)
 残業ゼロへ1000億円投資。賃貸着工8年ぶり高水準。電子部品 5四半期ぶり受注増。まず英とFTA交渉、トランプ外交。米に液晶工場、鴻海。潜在成長率0.8%に修正・内閣府。米軍が債権者に敗れる日・梶原誠。生保マネー、脱国債進む。
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2017年度も、やっぱり緊縮財政だが

2017年01月22日 | 経済
 政府予算案の国会提出により、2017年度の財政収支は、国の本予算、地方、年金の通算で、0.6兆円の緊縮と判明した。緊縮は、消費増税の2014年度はもちろん、2015、16、17年度と4年連続だが、2015年度の7.9兆円、2016年度当初の5.8兆円に比べれば、遥かに小さい。アベノミクスは、1年目の2013年度だけが3.2兆円の拡張財政であり、その後は、厳しい緊縮財政を敷いてきた。ここに至って、ようやく緩めることにしたようだ。

………
 2016年度の財政は、2015年後半に輸出が失速したにもかかわらず、大幅な緊縮に挑む無理なもので、年明けの円高株安に驚き、早くから方向転換を余儀なくされた。当初では5.8兆円の緊縮だったが、1次補正で熊本の震災対策を打ち、2次補正では建設国債を発行して3.1兆円の緊縮に緩め、3次補正でも赤字国債増発により1.2兆円の緊縮に改めるという経緯をたどった。

 2017年度の0.6兆円の緊縮は、こうした流れに沿う、現実に即したものである。内容は、国の本予算における公債金が-0.1兆円、地方の臨時財政対策債が+0.3兆円、厚生年金のフロー収支の赤字縮小が-0.8兆円となっている。これは、雇用増と料率アップに伴い、保険料収入が1.4兆円増となるのに対し、保険給付費等が0.7兆円増にとどまることによる。ちなみに、料率アップは、今年が最後で、上げ幅もこれまでの1/3ほどだ。

 こうした需要管理の状況を踏まえるなら、今年の日本経済は、久々に財政に足を引っ張られることなく、順調に成長できるだろう。その伏兵は円安で、輸出型大企業に収益増をもたらし、税収も伸ばす反面、輸出数量にはあまり貢献せず、輸入物価を押し上げて消費を冷やすことになる。2016年度3次補正は、円高に伴う税収減を補うものだが、税収減は消費の押し上げも意味する。今後、円安で税収が上ブレするなら、還元を考える必要が出てくる。

………
 アデア・ターナーのヘリマネは、議論としては面白いが、政策的には粗いものだ。究極的には、まじめに需要を管理するという、一世代前のオールド・ケインジアンには当たり前のことに尽きる。この3年のアベノミクスのように、いくら金融緩和をしても、激しい緊縮財政をしていたら、景気はなかなか浮揚しない。奇策は一つの手段でしかなく、金融政策とは切り離し、財政の把握と管理の改善に取り組むべきだ。

 ターナーから学ぶべきは、金融自由化によって、実体経済に比してマネーが膨張し、巨額の財政赤字は、その反映であることだ。したがって、国・地方の公債残高がGDPの200%になろうとも、それ自体を恐れるべきではない。「巨額の財政赤字は持続不能」と、したり顔で語られたりするが、「巨額の企業黒字も持続不能」なのか。二つは表裏一体で、まさか、緊縮財政で恐慌に陥れ、企業の黒字を無くすことで解決しようというのではあるまい。

 結局、企業がどれくらい黒字を使い、設備や人材へ配分するかを見通しつつ、その範囲で、緩やかに財政赤字を縮めるしかない。その際、物価は、需給状況を知るバロメーターとなる。とりわけ、為替や原油、地価と離れた、サービスの物価や単位労働コストは重要だ。物価を目標に据えて政策を進めるべきは、中央銀行に限らず、財政も同様なのである。

………
 余計なことを言うようだが、いわゆる「リフレ派」の方々に問いたいのは、誰しも分かる一気の消費増税への反対はともかく、どれほど需要管理を気にしていたかだ。異次元緩和をしておけば、多少の緊縮財政は平気と思って、ゆるがせにしてはいなかったか。金融緩和の効きの悪さを知り、需要が決定的と考えるオールド・ケインジアンの見方は、古色蒼然たる「理論より経験」でしかないにせよ、現実を読むには役立つように思う。

 アベノミクスを評価するには、雇用者報酬を基にするのが、国民の実感に近い。下図のとおり、2013年は、円安株高の中、名目が横ばい、実質で低下であり、2014年は、消費増税で実質が一段落ちして停滞し、2016年に入り、ようやく以前の水準に戻り、円安が後押しした。この間に、雇用者数は増えているので、「たくさん働き、4年越しで生活はマシに」というのが、偽らざる心境だろう。

 確かに、名目の雇用者報酬は、2013年から増加傾向にあり、リフレ策は「成功」と言い得るが、実質では、円安や増税で痛めつけられ、有難味は乏しい。円安で税収が急増していたのだから、もう少し財政に気を配っていれば、弊害を補完できただろう。そして、異次元緩和で円安にしていたのに、2015年半ばには、世界経済の停滞で輸出が失速し、2016年になると円安まで崩れた。これが緊縮財政を改めさせ、実質の消費を助けたのは皮肉である。

 後手に回った2016年の経済運営は、見苦しくはあったが、最悪と言うほどではない。図で分かるように、最悪なのは、2001~02年で、名実が開き、デフレが深まった局面だ。ITバブルが弾けて輸出が急減したにもかかわらず、公共事業を減らす激しい緊縮財政を試み、おまけに、銀行を不良債権処理で締め上げた「成果」である。それ以来、企業は、資金を貯め込むようになってしまった。

(図)



………
 経済政策上の最大の課題は、膨らんだ「購買力なきマネー」を、どう扱うかである。不安を覚えるほどの巨大さだが、購買力は乏しいため、財政赤字で吸収し、庶民に再分配することで、購買力に替えることまでしなければならない。資産取引で膨らんだものだから、「供給力なきマネー」でもあり、暴れないよう封じつつ、インフレと利子・配当課税で徐々に削いでいく必要がある。

 その基礎として、需要管理は欠かせないものとなった。マクロ経済は、自由や市場に任せれば済むような単純なものではない。少なくとも、財政均衡を追求していけば、金利の調整力が働き、経済全体が最適に導かれるといったナイーブな考えは危険である。金融政策も、マネーストックや物価といった結果ばかり追わず、それらが意味する需要管理の動向にも思いを致さねばならない。


(今日までの日経)
 TPP離脱・NAFTA再交渉 トランプ流。つかみ損ねた「脱デフレ」06年7~12月日銀決定会合。青果物、国内で供給不足。自賠責保険6.9%下げ決定。国富4年ぶり減少 15年末時点、3290兆円。バイト時給、2.1%高。経済教室・過剰なサービス見直しを・苅谷剛彦。ヘリマネ早期導入を アデア・ターナー。
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1/18の日経

2017年01月18日 | 今日の日経
 月曜公表の11月機械受注は、製造業が上昇し、底入れの兆しを見せた。非製造業(除く船電)は低下したが、前月の反動もあり、緩やかな拡大傾向に変わりはない。前回のコラムで指摘したとおりになって良かったよ。機械受注は、製造業と非製造業を分けて見るのがポイントになる。なぜなら、製造業は輸出、非製造業は消費に連動しているからだ。つまり、金融緩和より、需要リスクが決定的というわけである。

(図)



(今日までの日経)
 EU単一市場を完全撤退 英首相。私立高、都が無償化へ。混合介護解禁、東京・豊島区で。円と株 弱~い連動。
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前門の債務、後門の悪魔

2017年01月15日 | 経済
 好きなクルーグマンのエッセイに「ベビーシッター協同組合」の話がある。ある程度、利用券を多めに配布すると、マッチングが円滑に成立するようになるが、度が過ぎると、希望が増えて、提供が足りなくなってしまう。つまり、需給がバランスするよう、利用券の量を調節するのが大切というわけだ。経済をデフレにもインフレにもしないために、マネーは適切に管理しなければならない、それだけのことである。

………
 日本の財政赤字は膨大で、しかも、日銀が年間発行額を上回る国債の買い入れを行っているから、いわば、政府は、日銀からお金をもらって、様々な施策に使っている。それでもインフレにならないのは、政府が債務を膨らます一方、債権を大きくしている者が居るからで、それは、かつては家計で、今は企業だ。企業がお金を貯める一方、政府が使うことで、バランスが取れている。だから、経済全体では問題が生じない。

 財政赤字を気に病み、緊縮するだけなら、バカでもできる。難しいのは、政府がお金を使わなくなる分、企業にお金を使わせるところにある。日本の財政当局は「自分の仕事ではない」とばかりに無頓着だが、そうしないと、バランスが崩れ、経済が縮小してしまう。デフレ下では、緊縮財政をすると、企業は需要リスクを感じ、更にお金を使わなくなるため、急進路線は極めて危険だ。したがって、使うお金を民間が増やす様子を確かめつつ、緩やかに財政再建を進めるしかない。

 先週はアデア・ターナーを取り上げたが、こうした現実的な路線を取ると、政府の債務は巨大化することになる。GDPの200%になると言われると、不安もあろうが、腹を括って抱えざるを得ない。不安に駆られて、消費増税のような実体課税に走るのが最悪で、信用の基礎になっている成長力を失ってしまうと、トップヘビーであるだけに、本物の経済危機を招きかねない。

 最善は、お金を余らせている企業や、所有者の富裕層に課税することである。経済全体のバランスを取るには、これが正しいが、いくつも壁がある。最も厚いのは、政治力より、経済思想である。資本・資産への課税は、投資収益を減らし、成長を阻害するという考え方だ。実際には、実体への投資は、収益性よりも需要リスク次第で、財政で需要を安定的に管理すれば、成長は確保できる。高度成長期には高課税であったことを思い起こすと良い。

………
 「投資は収益性でなく、需要リスクで決まる」のは、人生が限られるために、リスクに対処できず、不合理に行動するためである。これは、経済学の根本に関わるので、説得は容易ではない。そこは諦めて、具体の問題に一つひとつ当たるほかあるまい。その際、大切なのは、お金を余らせる行動は不合理なものであり、政府が財政赤字を出してカバーするのは、やむを得ざる合理的行動であると、内心に納めておくことである。

 あとは漸進主義である。「財政赤字は不合理、一刻も早く消費増税」という視野狭窄の人達を宥めつつ、安定的財政で少しずつ成長を加速させ、2%物価上昇を確保し、金利上昇に伴う利払いは利子配当課税で解決する。膨張した債務は、日銀内に封じて、金融抑圧というインフレ課税で殺ぎ落していく。そもそも、不合理な行動で出来たものである以上、それも仕方がないし、嫌なら直接の資産課税でもするかとなる。

 ターナーが指摘するように、金融自由化による資産取引の重畳によって、実体経済に比して、金融経済は膨張した。これが不安だと言うなら、金融経済で始末をつけないといけない。金融経済と実体経済の各々の均衡を分離し、それらの関係性で経済が動くというケインズ的発想が必要ではないか。少なくとも、金融経済のツケを、実体経済に持って来てはならない。

 インフレを恐れる気持ちは分かるが、財・サービスには消費増税、土地や株・債券には資産課税と、政策を機動的に割り当てれば済むことで、手段を財政赤字削減という「万能薬」に転化してはいけない。むしろ、財政は、実体経済の構築へ、真摯に使う必要がある。例えば、公的年金は黒字を出しているが、「お札」を蓄えつつ、経済の担い手を少子化で失いつつあるのでは、将来、年金で何を得るつもりなのか。紙切れで良いなら、構わぬのだが。

………
 さて、今週は、11月消費活動指数が公表され、10,11月平均は前期比+0.6となり、2%成長へ前進した。ただし、消費総合指数は、家計調査に足を取られたようで、同0.0となり、一抹の不安を残す。11月家計消費状況調査からして、下ブレと思われる。他方、12月消費動向調査は、生鮮食品の高騰が和らいだせいか、前月比+2.2と大きく上昇し、10,11月の低下を取り戻した。12月景気ウォッチャー調査は、前月比横バイだったが、この2か月の上昇を維持したもので、好調と言えよう。

 輸出増で出来過ぎの感があるものの、景気動向指数は上昇し、景気の拡大と加速がうかがわれる。本コラムは、10月指標が出るひと月も前から2%成長を予告していたが、形になってきた。回復を疑う者は、もう居るまい。住宅+公共+輸出の追加的需要が先導し、賃金と消費が増嵩していけば、財政が中立にさえあると、成長は次第に加速する。設備投資の増加も、非製造業から製造業へと広がろう。手詰まりの金融緩和に目を奪われず、需要を注視しているなら読めるシナリオである。需要リスクこそが経済を動かすのだから。

(図)



(今日までの日経)
 未婚中年、親と「黄昏同居」。中国の貿易変調 2年連続減。トランプ氏、貿易赤字で日本を名指し。円一時113円台後半 日経平均229円下げ。景気一致指数1.6ポイント上昇 11月 2年8カ月ぶり高水準。公的年金、運用益10兆円超 10~12月。消費者心理上向く 12月指数43.1に上昇、3年3カ月ぶり高水準。認可外保育所にも公的補償。
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財政赤字を、さもなくば金融膨張に

2017年01月08日 | 経済
 イギリス人というのは、妙なクリエイティビティを持っているように思う。現実を合理的に突き詰めると、常識を超える方策が現れる。『債務、さもなくば悪魔』のアデア・ターナーは、業界出身の元金融サービス機構長官だ。官民の巨額に膨らんだ債務は、金融自由化の産物であり、中央銀行が受け容れざるを得ないものだと主張する。それが無利子・無期限の国債なら、ヘリコプター・マネーと呼ばれ、超低利・超長期の国債なら、金融政策の範囲内とされるだろう。

………
 本コラムが使う格言に「金持ちにするのは簡単だが、豊かにするのは困難だ」がある。もし、日銀が全国民の口座に1000万円を振り込むならば、すぐにも、日本を金持ちの国にできる。しかし、国民が預金通帳の数字を眺めて楽しむのみならず、引き出して使おうとすると、財・サービスの供給能力に変わりはないのだから、需給の逼迫でインフレが発生し、お金の価値が消えるだけで終わる。ゆえに、豊かにするのは難しい。

 ターナーが指摘する最重要の事実は、1980年代以降、GDPに比して、民間債務が大きく膨らんだことである。債務は誰かの債権でもあり、債権は現金に替え得るものとして保有されるから、マネー=「お金」が膨らんだと見ても良い。つまり、世界は金持ちになった。しかし、大して豊かになったわけでなく、先進国では格差が広がった。いや、得ただけ使わない金持ちに配分が偏っていたからこそ、マネーは膨張できたと言える。

 金持ちが増えただけで済めば、まだ良いが、財・サービスの実体経済の上に載る、マネーの金融経済が膨み、経済は、トップヘビーとなり、不安定化した。バブルとクラッシュが頻発しだし、実体経済をも揺るがす事態となった。また、マネーを膨らますには、低金利と低物価が不可欠で、金融緩和と緊縮財政が切望され、税制も「資産に軽く、実体に重く」が正しいとされる。バブルのおこぼれが経済を潤すうちは紛れていても、不公平な本質が露わになる時は、必ず巡ってくる。

………
 もはや、膨張せる債務は、現実であり、課題は、管理と融解に移っている。バブル崩壊を経て、債務は、中央銀行が流動性供給で引き受けることになり、民間のマネーがもたらすはずの需要は、代わって政府が、財政赤字を増やして提供せざるを得なくなっている。こうして見れば、日本が、財政赤字しか視野になく、消費増税という実体課税の一本槍で解決しようとする愚かしさが分かろう。

 一方、必要に迫られ、渋々ながら、取るべき施策もなされている。量的緩和という名の日銀による国債の引き受けである。既に新規の国債発行額を上回り、国債利率はゼロに近づき、保有国債の平均償還期間も長くなっている。もし、これが無利子・無期限となれば、ターナーの言うヘリコプター・マネーとなろう。これを程度の違いとするなら、日本は世界の先端を行っている。

 買い入れられた国債は、日銀の当座預金の多額の残高に姿を替えている。金融自由化で可能になった資産間取引の重畳によって膨らんだマネーの最終形態だ。マネーは、本来、財・サービスの使用権でもあるが、GDPの停滞で分かるように、供給の裏づけはない。在るけれど、使えない代物になっている。そうなった以上、これが暴れないよう管理し、長期的に融解させるしかない。そうした「封じ込め」を覚悟すべきである。

 具体的には、景気回復で資金需要が増し、当座預金が大きく流失するおそれが生じたら、日銀は、準備の引き上げと一部への付利で、ブレーキをかけなければならない。ターナーの100%準備銀行には至らずとも、従来にない高率となろう。また、金融監督で、資産投資に係る融資に目を光らせる必要もあるし、政府は、利子・配当への税率を25%に上げて態勢を整え、金利上昇時の更なる重課の構想も示すべきだ。

 逆に、需要が足りず、物価が低迷するようなら、財政赤字を躊躇すべきではない。その際、放漫財政の防止には、ターナーの中央銀行の独立性だけでは足りないため、工夫が必要だ。例えば、公的年金を使い、若者の保険料を軽減したり、子育てや奨学金の支援をする方法がある。度が過ぎると、将来の年金が目減りするため、野放図にはならないし、需要追加で成長を押し上げられるなら、将来の供給力が増すことで還元される合理性もある。

………
 ターナーを読むにつけ、日本が課題と対応の先進国だったという思いがする。バブル崩壊後、財政赤字で補ううちは良かったが、我慢が足りずに緊縮財政に走り、1997年以降はデフレに突っ込んだ。その後、円安による輸出で活路を見出すも、内需に波及させられず、リーマンショックで破綻した。アベノミクス以降、ようやく、デフレが緩み、8%消費増税の傷が癒えて、なんとか、実質の雇用者報酬が過去を上回るところまで来た。

 金融経済のホンネは、金融緩和と緊縮財政のレジームによるマネーの膨張である。それが実体経済を毀損するまでになった。自由な金融が福音をもたらすという幻想が潰えた今、やはり、「人は死せるがゆえに不合理」であり、短期的利益に惑わされ、長期的利益を失わないよう、制度は設計・運用されなければならない。ある意味、当たり前の見地に立ち戻ることになる。レジームを変える手始めに、財政観の転換が要ることは論をまたない。

(図)



(今日までの日経)
 中国、資金流出35兆円超。雇用 4年で250万人増。米利上げ 加速視野に 12月賃金、7年半ぶり伸び率。物価上昇、賃金下押し 実質、11月0.2%減。短期バイト時給上昇。16年度税収、伸び悩み 4~11月3.6%減。公立大の授業料無料に NY州が全米初。高所得者、負担一段と。
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