経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

7/31の日経

2012年07月31日 | 今日の日経
 カトーさん、まったく同感だ。昨日の鉱工業生産は冴えなかったし、販売統計からすると今日の家計消費も心配だ。生産も消費も7月に送られた感じはするがね。日本の経済運営は、過去の増税の決定や社会保障の負担増を忘れがちで、全体を見ないのが欠点。

 増税が景気を悪くしないという研究は、それが求められていた部分もある。欧州の失敗を見て、今度は悪くするという研究が注目されよう。失敗を予感しながら消費増税を打つ愚は避けたいが、財政当局の原理主義は、止められないからなあ。

(今日の日経)
 先端部材を日中米で量産。関電の節電目標ほぼ達成。転職市場が活況。社会保障費へ切り込み、再生戦略に明記。4-6月期パナソニック黒字確保。浜岡はトラブルで廃炉も。一目・ゼロ金利というバフェット流の模倣。大機・丹念な見直し必要な政策運営・カトー。経済教室・転職市場・宮本弘暁。
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7/30の日経

2012年07月30日 | 今日の日経
 ものごとが20年も続くと、人は、それが伝統的な文化だと勘違いするようになる。日本型雇用システムは、高度成長期の20年間にできあがったもので、戦前は、日本の労働者の流動性の激しさが嘆かれたものだった。「日本型」という名前がついていると、日本文化の所産のように思う人もいたりするが、誤解だ。労働経済学者には常識の話ではある。

 日本型雇用システムの年功賃金は、成長する経済では有利なものである。成長するなら、人的資源をできるだけ留めようとするのは合理的な行動で、高度成長期の経営者が恩情にあふれていたわけではない。逆に、現在のように成長しない経済では、非正規のようなスポット買いで調節することが必要になる。

 結局、本当に問題を解決しようとするなら、成長させるしかない。成長しないことを前提に、雇用システムを変え、社会保障をスリム化することを考えがちだが、前提を受け入れなければいけないということもあるまい。まあ、20年も成長していないと、それが日本の文化のように思えてくるのかもしれないが。

(今日の日経)
 介護ロボが保険の対象に。セブン・来年度最多1500出店。エコノ・3歳未満保育86万人を2017年度に122万人に。邦銀、インフラ融資で欧米勢を逆転。南欧の危機が企業直撃、個人消費落ち込む。米住宅・供給源で好転も力強さなく。中小80社が太陽光パネルで値上げ緩和。経済教室・年功賃金崩壊・堀雅博。

※新産業も保険料次第。※5年もかけるのか。消費税は一気だが保育所は少しずつ。
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不安から現実を認識する道

2012年07月29日 | 経済
 今日の「けいざい読解」は小竹洋之さんだ。むろん、小竹さんの論説も、日経の社論から出るものではないが、社論に「不安」を持っているように感じるんだね。正しいとは思いつつも、点検を忘れない態度は大切だと思う。本当は、「不安」の正体を明確に認識し、社論を少し変えてほしいと思うが、望み過ぎというものかな。

 「読解」の内容は、各調査機関の2014年度の成長予測が出始めたのをとらえ、成長の戦略が必要とするものだ。予測は、「消費税が日本を救う」の熊谷亮丸さんの大和総研を除けば、ゼロ成長からマイナスという惨憺たる結果である。普通に考えれば、こうした結果が予想される経済運営は、やってはいけないだろう。おそらく、後世の人には、なぜ、悲惨になると分かっていながら踏み切ってしまったのか、説明ができないと思う。

 後世の人に、財政破綻の「恐怖」があったことを語ったところで、「景気に合わせて1~2%にしとけば、良かったでしょう」と言われれば、それまでだろう。増税ショックを緩和するために、公共事業をバラ撒くなんて、最初から上げ幅を抑えておけば済むことで、話にもならない。いかに一気の増税がバカげているかを表すもので、ダメ戦略を戦術では取り返せないことの典型である。

 小竹さんは、政府の「日本再生戦略」は総花的で決め手を欠くとするが、そのとおりであろう。最重点の電池産業にしても、今日の日経によれば、たった100か所の高速道のSAに急速充電施設を置くのに8年もかけるらしいから、実態が知れるというものだ。小竹さんは、TPPがお勧めのようだが、その効果は内閣府の試算でも年間3000~4000億円のものである。法人減税に至っては、「国内」にどれだけ投資してくれるかは未知数だ。今日の日経を見れば、減税は海外のM&Aに相当流出すると思わねばならない。

 少し長いが小竹さんの結論を引用すると、「企業や家計が求めているのは土建国家の復活でも、美辞麗句で飾るだけの再生戦略でもない。消費増税を軟着陸させる「賢い成長戦略」を練り直すべきではないか」というものだ。前半には、まったく賛成だが、後半は、答えが出るのか分からない「練り直し」より、増税幅を抑える方が簡単に思える。まあ、軟着陸がいかに難しいかは、「最後の道しるべ」でも見てほしい。

 もし、増税幅を抑えたとして、、金利が急騰し、「財政破綻」に陥るのだろうか。日本は、欧州と違って、独自の通貨と中央銀行を持つのだから、およそ考えられない。勘違いして欲しくないのは、「だから財政破綻しない」と言っているのではない。欧州型の資金ショートによる破綻がないだけで、インフレが進むことによる「破綻」はあり得る。ただし、それは急激に起こるものではないので、兆候が見てから緊縮や増税の対応しても間に合うのである。少なくとも、増税で失速させた経済を助け起こすよりは容易である。

 我々は、後世の人に対して、「財政当局に踊らされた」と言って、失敗の言い訳をするのであろうか。「財政当局は、政治家には公共事業を与え、経済界には法人減税を与えて篭絡し、消費税率を上げるだけのために、経済と財政を壊してしまいました。新聞や有識者は、不安を煽る世論工作に操られ、平常心と現実感を失い、忍耐強く問題を解決する方策を探れなくなっていたのです」と。罪は問われなくても、情けなくはないか。

(今日の日経)
 人工的に光合成、2015年実用化目指す。世界シェア・日本首位9品目に減。海外のM&Aに企業が大型借り入れを拡大。風見鶏・まとめる政治・大石格。2020年までに高速道に急速充電施設。けいざい読解・増税後の景気・小竹洋之。スペイン・国債購入が焦点に。ビール復調は本物か。検証・ツアーバス。太平洋を渡った浮桟橋を民主導で。ナゾかがく・クォークを動きにくく。
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7/27の日経

2012年07月27日 | 今日の日経

(今日の日経)
 富士通が三重工場を売却。平均寿命、女性27年ぶり世界一転落。クラウドでデータ消失。生コンに供給不安。住宅ローンの低金利一段と。蓄電池・自家発電に一括償却。経済教室・国際標準化戦略・江藤学。

※震災を除いても停滞。この傾向が続けば、年金への影響は大きい。
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相続税のボテンシャル

2012年07月26日 | 経済(主なもの)
 先日、国債を相続税で回収する戦術を述べた。むろん、相続税だけで財政赤字を解決できるものではないが、どのくらいのポテンシャルがあるかを大まかに試算してみた。おおよそ、消費税で言えば2%強、5兆円以上の増収の余地はあると考える。大きさがつかめれば、若い人たちにとってどんな選択肢があるか、示すことにもなると思う。

 高齢者が家計貯蓄の大半を持っていることは、全国消費実態調査(平成21年)で分かる。家計全体の持つ「貯蓄-負債」(純貯蓄)の総額は466兆円であり、これは、家計資産編(総資産)の世帯数分布と貯蓄負債高を掛け合わせることで得られる。そのうち、世帯主年齢60~69歳が43%、70歳以上が38%を占めており、合わせれば8割にもなる。

 消費税を上げるということは、現役世代を含む全体から税を徴収し、高齢世代が政府に貸している借金を返していく行為とみなせる。他方、相続税の増税は、政府に貸していた借金を、亡くなったときに消却を進めるものとも言えよう。政府の借金は、ある意味、返さないまま消えていくわけである。

 では、年間、どのくらいの資産が相続税の対象になるのか。70歳以上の持つ純貯蓄は177兆円、住宅宅地資産は520兆円だから、合計697兆円である。30年経つと、ほぼすべての人が亡くなるとすると、1年当たりでは23.2兆円になる。60~69歳については、64歳の人は10年で15.6%減ることが生命表(男)から分かるので、合計資産713兆円×15.6%÷10で、1年当たりは11.1兆円である。50~59歳も同様に計算し3.2兆円だ。三つの年齢階層を足し合わせると37.5兆円である。(正確を期すとコラムの範疇を超えるので大概にしておく)

 これをベースとして、現在の利子課税の税率20%を乗じると、税収は7.5兆円ということになる。実際の相続税の税収は、1.3兆円(2010年度決算額)であるから、実効税率は3%半ばと言えよう。税務統計では、課税件数は死亡者数の4.1%だけだし、課税された場合でも、課税価格に対する納付税額の割合は11.5%にとどまる。そもそも、今の税制では、配偶者+子2人なら、課税価格が2億円でも負担割合は4.8%にしかならない。

 税率を他税と比較すると、所得税+住民税は、年収300万円でも実効税率は6%程になるし、年金と医療介護の社会保険料(本人分)を加えると負担は20%近くになる。更に消費税も負担しなければならないわけで、相続税がこんなに軽くて良いのかという気がする。日本でも、米国でも、資産所得に対する税率が低いために、高所得者の税負担は中所得者より軽いとされて、問題視されている。相続税にも同様の課題がある。

 ちなみに、高齢者の資産は、1/4が金融資産、3/4が住宅土地資産なので、20%の課税とは、金融資産は、社会保障を行っている国が受け取り、住宅土地は子が受け継ぐというイメージになる。今後、高齢社会の進展に伴い、死亡者数が20年後には3割増しになり、相続する子の数も減って、何もせずとも相続税は増えるが、公平の観点での見直しも必要ではないか。

 筆者は、世代間の不公平論には組しないが(11/28参照)、もし、それを正そうとするなら、高齢者の資産に課税する相続税は、真っ先に検討対象になりそうなものである。それなのに、若い人たちを始め現役世代の負担する消費税ばかりがクローズアップされるのは、なぜなのか。しょせん、不公平論は、消費増税のために、分割統治をする道具でしかないということなのだろう。

(今日の日経)
 テルモが統合を提案。スペイン国債7.7%。欧州合意は仮面の結束・菅野幹雄。最低賃金7円上げ平均744円。鉄道の消費電力2割削減。株式利回り国債上回る2.7%。台湾・株式売却益に15%課税。輸入車販売1割増に。大機・企業の役割・魔笛。経済教室・国際標準化戦略・平松幸男。

※最近は魔笛さんのように国民経済の観点から正論を言う人が少なくて困るよ。

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7/25の日経

2012年07月25日 | 今日の日経

(今日の日経)
 スペイン財政緊迫、国債利回り最高。トヨタがカーシェア参入。屋根借りて太陽光発電。製造設備内外が逆転。企業の利益は国益と隔たり・西條都夫。コンビニが出店改装の投資を上積み。消えた年金・2240万件未解明。中国、再び不動産熱。マック・ライバルはコンビニ、IT武器に。フード系バイト自給1.4%増。経済教室・失業と貧困に隙間・岡部卓。

※こうなってもECBは買いに入らないのかね。※西條さん、良い視点だ。これは昔ながらの反大企業とは別もの。国内に投資させるには、国内の需要を育てることが大事。太陽光パネルと電気自動車を両方買うと、買い取り価格が低くなるような国ではとても。企業にとって負担の多い高所得国では、高度なものが売れるメリットがある。負担の切り下げ競争に出口はない。※コンビニは需要が伸びているから投資増。マックも追走。そして、バイト代も上昇。今の景気回復をよく示す動き。
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7/24の日経

2012年07月24日 | 今日の日経
 KitaAlpsさんの言うとおりで、本当に若い人たちの負担になっているかどうかは、経済を実物的に眺める必要があるんだね。将来に残せるのは、カネでもモノでもなく、それらを産み出す経済システムだから、無理な増税で成長を阻害し、生産基盤や人的資源を小さくしてしまえば、若い人たちが得られるものは減ってしまう。このあたりが、なかなか理解してもらえない。本当の「負債」は、CO2だったり、核廃棄物だったりするのだが。

 日常の感覚では「赤字は悪」だろうが、経済では「誰かの赤字は、誰かの黒字」で、すべての主体が黒字ということはあり得ない。日本の場合、政府の赤字が家計と企業の黒字になっていることを分かっていないと本質が見えない。結局、家計や企業が消費や設備投資を増やして黒字を減らしてくれないと、政府も赤字は減らせないということで、成長の範囲内でしか増税ができないというのは、こういう意味である。消費増税に反対する人に、会計を専門にする人が多いのは、そのためかもしれない。

(今日の日経)
 企業年金10年で7割減。スペイン国債利回り7.6%。ユーロ全面安。厚生年金・保険料の滞納最多。韓国・4強売上高GDPの過半。経済教室・生活保護の自立支援・阿部彩。エコノミスト一流への道。
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若者が借金を返す相手

2012年07月23日 | 経済
 先日、ある国立大の若手の先生が「高齢者福祉は財政赤字で賄われ、その借金は若い世代が返さなければならない、こうした不公平を正すためにも消費税を」という旨のコメントしていた。まあ、そういう見方もできるとは思うが、経済学というのは総合性が大事でね、「それって、誰に返すの?」と聞きたくなってしまう。

 日本の家計貯蓄の大半は、高齢者が持っている。したがって、政府にお金を貸しているのは、銀行などが仲介しているとは言っても、突き詰めれば、高齢者である。つまり、今の日本は、大雑把に言うと、お金持ちの高齢者からお金を借り、年金や医療・介護サービスという形で、お金のない高齢者に渡している構図だ。

 もし、お金持ちの高齢者がお金を使うことなく亡くなって、政府に貸していた分の資産を相続税で回収できたとすると、財政赤字の問題は、それで終わりである。若い世代が返すという問題にはならない。これとは反対に、お金持ちの高齢者が、寿命の尽きるのを前にして、「合理的」に行動し、急にお金を使い出したとしたら、消費が増大して景気が良くなり、若い世代は仕事にありつけるようになるだろう。

 もちろん、あまりに消費が増えてインフレになるようなら、消費を冷やすには絶大な効果を有する消費税を上げれば良い。結局、今の日本というのは、資産が偏在し、消費が不足しているのだから、相続税などの資産課税を強化しておき、消費税は将来の物価上昇に備えておくだけで良いということになる。

 現実には、これと逆のことが行われている。贈与税を緩めてみたり、デフレ脱出も見通せない中で、一気に消費税を上げようしているわけだ。そういう価値観を否定するつもりはないが、少なくとも、今の経済状況には合っていないし、社会厚生も小さくしてしまうだろう。消費税を引き上げて景気を失速させれば、困るのは、就職に難渋する若い世代だろうと、筆者は思う。

 当たり前の話だが、経済運営は、その時々の状況に合わせなければならないし、負担の問題は、構造を良く理解し、将来の動きも見通しつつ、制度を整えなければならない。財政赤字は是か非か、世代間は「公平」かといった価値論だけに訴えて、判断を済ませられる問題ではないのである。

(今日の日経)
 金融ニッポン・市場に育つ成長の芽。電子部品の受注回復。環境税見直しを・経団連。韓国に漁獲抑制を要請、輸入未成魚97%。みずほ最終益7割増。米議会の細る中道派。セブンが弁当供給能力3割増。米IT国境越え節税。経済教室・技術変化は格差を縮める・小林慶一郎。

※復興のために緊縮ができなくなって経済は底を打った。そうなれば世界から金融屋が集まってくる。日本国債の相対的な安全度が上がったようだが、これも1-3月期の高成長のお陰。成長こそ財政破綻を遠ざける。あとは消費から生産と投資への波及を期待したい。
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金融緩和も財政出動も

2012年07月21日 | 経済(主なもの)
 さっそく、P・クルーグマンの「さっさと不況を終わらせろ」を入手し、訳者解説を読んだ。本体はもちろんだが、山形浩生さんの解説も楽しみでね。日頃、自分とは違う考えの論者の主張も読むことを心がけているが、やっぱり、自分と同じ立場の論考を読む方がうれしい。各紙の財政再建至上主義に囲まれて、げんなりしているだけにね。

 山形さんは、クルーグマンも考えを変えてきたと指摘するが、筆者も同感だ。「金融緩和でインフレ期待を高めるべし」と言っていたというくだりには、懐かしさを覚えた。金融緩和で期待を作るのは容易ではないから、当時は、何を言っているのかと思ったものだ。そのクルーグマンも、現実を踏まえて財政重視に修正してきたのは立派なものである。日本では、十年一日の「理論家」が多いから、特にそう思う。

 ちなみに、本コラムは、財政運営についての論説が中心だが、別に金融緩和を軽視しているわけではない。それは当然の前提と考えている。ただ、日銀に金融緩和を求める論者は、世の中にたくさんいるので、重ねて批評したりしないだけである。それとは対照的に、財政運営については、基本的な実態把握さえできてない論者が多いので、ここで書いているわけである。

………
 さて、考えを変えてきたクルーグマンだが、これからも変わると思うね。いま必要なのは財政出動だが、それを使ったとしても、長いながい戦いを余儀なくされるからだ。確かに、米国経済のゆっくりした回復は、財政出動の物足りなさもあろうが、そもそもバブル崩壊の傷とは、癒えるのに時間がかかるものなのである。経済運営の要諦は、いかに忍耐強く財政出動を続けるかにある。

 日本を例に取れば、リーマンショックに際して、麻生政権が果敢に財政出動をしたまでは良かったが、十分に回復していない2010年度に、一気に10兆円の緊縮財政を敷き、年度後半に景気を失速させ、円高を招いている。また、2011年度は、大震災のショックがあったのに、復興増税に拘って財政出動を遅らせ、ゼロ成長にしてしまった。近頃、判明した復興予算の執行停滞や税収の8000億円もの上ブレを勘案すれば、事実上の緊縮財政をしていたようなものである。

 思えば、2010年度には、無理せず、エコポイントなどの経過措置を取れば良かったのだし、2011年度は、阪神大震災のときと同様、復興と経済対策を迅速に打って、成長を確保することもできたはずだ。日本の財政運営は、急減を防ぐ措置も考慮せず、過去の成功例も無視するという稚拙なもので、まったく忍耐強さに欠けている。

 米国の場合は、なんとか、ここまで漕ぎ着けたが、年末には「財政の崖」が待ち受ける。それをクリアできても、イライラするような鈍い回復が続くだろう。普段なら、金融緩和で景気を押し上げてくれる住宅投資は、バブルの後遺症で上向かないし、景気を支えている輸出は、欧州の自滅で景気減速が新興国に及んでいることもあって、予断を許さない。ひとり財政が景気を支える「孤独な戦い」を強いられるかもしれない。

 不況期の財政出動は、単に需給ギャップを埋めるというものではない。安定した需要に導かれ、設備投資が出て来るのを待つ必要がある。バブル崩壊後は、企業の財務が痛んでいて、なかなか設備投資に結びつかないことも多いが、それでも、我慢して財政出動を続けなければならない。その上、米国は経常赤字国てあり、財政出動の継続には、金利や通貨の安定に難しい舵取りがいる。当然、雑音も大きいだろう。クルーグマンも、そこまで達観して財政出動を説く日が来るのだろうか。

………
 こう言ってはなんだが、財政出動をしてヒーローにはなれない。1992年から1993年にかけて、当時の宮澤政権は、大規模な公共事業を打ったが、GDPの減少を押しとどめるのがやっとだった。それは、住宅投資が崩落し、大幅な円高にも見舞われて、ひとり財政が支える構図になったからである。これによって、1997年以降と異なり、家計の所得と消費は温存されたのだが、誰もありがたいと思わなかった。宮澤の奮闘は評価されるどころか、財政出動の無意味さの証拠にすらされている。

 また、財政出動には「漏れ」の問題がついて回る。マンデルフレミング効果は有名だが、そこまで行かなくても、内需の目減りは避けがたい。最近では、太陽光発電の買い取り制度によって、中国産のパネルの輸入が急増しているように、経済政策に工夫がないと、せっかくの財政出動が海外に流れてしまう。生産力が弱い米国では、なおさら問題だろう。

 加えて、中央政府が財政出動をする一方、地方政府が緊縮財政をしてしまうということも起こる。実際、今の米国の失業率の改善の遅さには、地方公務員の整理があるとされる。日本のバブル崩壊後も、1996年までは、地方政府がかなりの黒字を出していた。これは社会保障基金にも言えることである。こうした政府部門全体の調整が効かないチグハグな状況下で、財政出動を背負わねばならないのである。

 筆者も古いので、バブル崩壊後の日本の対応を髄分と経験したし、デフレ脱出では、日本が何度も何度もチャンスに出会っているのに、それと同じ回数だけ失敗を重ねてきたのを見てきた。米国も、クルーグマンの思うようには行かないだろう。財政出動の貢献は、なかなか感じ取ってもらえず、家計と同一視する財政赤字へのナイーブな批判に、どうしても勝てない。願わくは、今度こそ復興の契機を活かし、最高の先達となりたいものである。  

(今日の日経)
 不動産の売買復調、金利低下で投信が取得。ユーロ95..39円。オリラン・4-6月期に営業最高益。東電値上げ企業は14.9%。復興増税なぜいま増額・大塚節雄。小粒な太陽光続々、中国勢攻勢。来年度の政策的経費は71兆円以下難題に、社会保障費の自然増だけで1兆円。低成長なら就業者850万人減。スペイン不安再燃。百貨店、都心で集中投資。コンビニ6月2.6%減。大樹・長期金利の二極化・山河。建設工事の請負費か一段高。

※金融緩和は、まず資産価格に来る。日銀も気になるだろうね。他方で円高ユーロ安だし。※復興予算の積み増しは、被災地の将来の公共投資を前倒すだけなので、長い目でみると財政負担は変わらないからだよ。※経費も増えるが、税収増はそれ以上だろう。※財政再建より若者就業だと思うが現実はね。※6月の家計消費が心配。
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7/20の日経

2012年07月20日 | 今日の日経
 昨日のコラムでリンクをつけた「雪白の翼」にハテブが打たれていたのは、ちょっと驚いたね。確かに、「雪白の翼」で書いた経済運営の技法を使えば、消費増税による2014年4月の「財政の崖」を緩和することもできるとは思う。公共事業で緩和するのと違い、「増税の一方、バラマキをする」という批判を受けることもないわけだし。

 ただ、高度すぎるんだよね、「雪白の翼」の技法は。年金数理の応用だから、まあ、普通の人には理解の外だろうし、マヌケな財政運営ばかりしている日本の財政当局に見せても、猫に小判だろう。今日の日経では、政府・日銀の脱デフレ協調に関する記事も載っているが、雑多な政策リストの「成長戦略」を盾に、量的緩和の拡大を迫るだけの単調さである。

 金融緩和の怖さは、景気が回復し、市場金利が反転したときのブレーキが利きにくくなることだ。むろん、インフレになるまでには時間がかかるし、消費を一気に冷やす「最終兵器」の消費税が待っているから、一般物価は心配ない。問題は、金融資産が高騰するリスクである。したがって、資産課税などの金融政策を補完する手立てを用意しておく必要があるのに、法人課税を緩めるといった逆のことをしている。少なくとも、こうしたリスクは、政府が責任を負うと宣言しなければ、日銀が乗れるわけがない。

 こんな具合では、とても高度な技法なんて、夢のまた夢である。学生の頃、マックス・ウエーバーの「政治は堅い板にじりっじりっと穴をあける作業」という一説を読んで、そんなものかなと思ったが、歳を経て、堅い板とは人々の政策に関する「観念」なんだろうと思うようになった。人々の「観念」こそが最も変えがたいものだということだね。

(今日の日経)
 国内増税10年ぶり能力減。首都代替に5都市。原子力規制委員長に田中氏。東電値上げ9月に8.47%。北陸電力・廃炉可能性ない。脱デフレ、協調に潜む火種・森本学。米・HSBCに厳罰検討か。米干ばつ国土の6割。経済教室・LIBOR不正・鹿野嘉昭
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