経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本経済の最後の戦略を考える

2017年05月29日 | 経済
 経産省の若手のパワポが話題になっているが、新境地を開こうとするなら、暗黙の前提を疑ってみることだね。シルバー民主主義を克服し、高齢者から子育てへ、重点を移すという問題意識は、配分する財源が増えないことを前提にしている。今の二、三十代は、景気が良くなって給料が増えた経験がなく、生活維持に、女性や年寄りも含め、働く量を増やすしかない境遇にあったから、その発想は無理もない。それどころか、「成長を考えろ」と言っても、「夢みたいなことを」とか、「過去の栄光だよ」と返されそうだ。

………
 経済成長は、需要の安定がなければ実現しない。実際の経営者は、教科書と違い、収益性より需要リスクに強く影響される。収益性を見込んで、設備や人材に投資したところで、需要減退に見舞われれば、会社の存続にかかわるからだ。日本は、財政再建を最優先にし、景気が良くなりかけると、緊縮をかけて需要を抜き、安定を疎かにしたために、先進国の中で最も悪いパフォーマンスとなった。

 そして、ゼロ成長が政府債務のGDP比を悪化させ、財政再建への焦燥を強めるとともに、少子化対策や学術研究のような将来への投資を難しくし、成長力を衰退させた。もはや、企業は、成長なき国内をあきらめ、慣れない海外投資に打って出るようになり、落差に目が眩んで大ヤケドまでしている。成長と財政の悪循環は、逃れられない宿命のように、若手にも内面化されているのである。

 しかし、変化の兆しもあるようだ。経産研の若手研究者の田代毅さんが著した『日本経済 最後の戦略』は、債務と成長のジレンマを超えるため、アベノミクスの財政の崖に触れつつ、金融、財政、構造改革をフル活用すべしと説く。当たり前の主張に聞こえるかもしれないが、安定的な需要管理に力点を置くところに新しさがある。財政赤字ばかり気にする世の常識とは、優先順位が違うのだ。

 勢いよく始まったアベノミクスは、消費増税で2期連続のマイナス成長に転落し、その後の2度にわたる追加増税の先送りを経て、ようやく、足元で消費主体の2%成長にたどり着いた。しかも、消費増税の効果以上に財政収支は改善を見せた。優先順位の変更が、どれほど重要かの証左であろう。こうして、何かを削らなくても、人的投資ができるところまで来た。経産省の若手にも、最新の状況を分かってもらいたいね。

………
 巨額の政府債務は不安かもしれないが、リスクに対しては、ひとつずつ手段を用意することである。一番の懸念は長期金利の上昇だが、利子・配当課税の税率を25%に引き上げておけば、利払い費を上回る税収増が期待できる。そうした仕組みを作っておくことが、不安が不安を呼ぶ不合理な行動を未然に防止することになる。

 消費増税は、いつ上げると時期で縛るのではなく、一定以上の物価上昇を条件とすべきである。そうすれば、成長を阻害しないし、逆に、財政インフレの不安も払拭できる。また、経済にショックを与えないよう、上げ幅も刻むべきだ。社会保障費の毎年の自然増を埋め合わせる形で、数年に1度1%ずつ上げるよう計画するのが合理的だ。

 安定的な需要管理については、中央、地方、社会保障の三つを統合して収支を見なければならない。補正予算を管理の埒外に置くのもダメだ。いずれも、基本的なことで、出来ていない現状の方がおかしい。本予算で締め過ぎ、補正で、そのとき限りのものにバラまくというのをやめるだけで、子育て支援や貧困対策の財源は容易に確保できる。

………
 以上のような主張を本コラムに掲載して十年になる。ついに、安定的な需要管理を唱える若手研究者が世に出たというのは、誠に感慨深い。今後の活躍を期待しているよ。


(今日までの日経)
 配当、5年連続最高。陸運4社、人件費270億円増。国内設備投資 伸び最高 今年度13.7%増 本社調査 人手不足へ対応急ぐ。待機児童16市区で増加。豊島区シッターが成果。損益分岐点 40年で最低。脱デフレへ財政拡大論 前FRB議長。米家計の借金最高。主婦、コンビニ主戦力へ。米国に必要なのは増税だ。履歴書「設備投資を削ると利益は出が、怠ると衰退」
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5/24の日経

2017年05月24日 | 今日の日経
 昨日、3月毎勤の確報が発表になり、現金給与総額の前月比は+0.4と大きく上方修正された。予想通りの動きで、「賃金は今一つ」という一部の見方は、早合点だったということになる。これは、統計報告の遅い中小規模や消費関連産業が好調だったことによる。中小は、良くも悪くも余裕がない。景気が回復すると、中小から設備投資が始まるように、賃金にも中小は敏感に反応する。

 景気が回復しても、賃金や消費が今一つという局面は、輸出型大企業から始まり、内需型中小への浸透が十分でないということだろう。本格的な景気回復は、若い人たちには経験がないから、かつての常識が廃れているのかもしれない。経済成長も、生産性向上から始まるのでなく、人手不足から始まるという実態を、よく見ておいてほしい。「改革で成長」という観念的政策論とは異なり、現実は「成長で改革」なのだ。

 他方、4月の輸出は陰りを見せた。このところの伸びが大き過ぎた面もあり、鉱工業生産の予測指数の高さからすれば、まだ大丈夫だとは思う。しかし、外需は水物。好調なうちに内需に波及させ、自律的成長へと持って行かなければならない。外需に慢心し、財政の改善に気を良くするうち、チャンスを逃すことを繰り返してきた。景気は、まだ緒戦である。勝ち切ることが肝要なのだ。


(今日までの日経)
 ちょい乗りタクシー快走。外食の3割、値上げ計画。セルフレジ本格導入。工作機械受注4月2.4倍。大学の授業料出世払いで。バイト・パート時給2.6%上昇。夏のボーナス2.75%減・上場企業など。
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1-3月期GDP1次・祝2%成長、あとは水準

2017年05月21日 | 経済
 1-3月期GDPは、見事、実質2%成長に到達した。内容も、民需の寄与度が+0.4、外需+0.1とバランスも良い。何より、消費が前期比+0.4と伸びが回復した。前期の急伸後で望み薄だった設備投資と、ピークを過ぎた住宅も、プラスに踏みとどまり、在庫は調整を終え、寄与度+0.1と押し上げる側へ転じた。そして、公的需要だけが、緊縮財政の下、寄与度0.0と、サッパリ成長に貢献していない。まあ、経済運営が多少ヘボでも、逆噴射さえしなければ、日本経済は成長するということかな。

………
 正直、消費は、もっと行けると思っていた。名目では、直近3期の前期比の平均が+0.4になっているので、お許し願いたい。前期の生鮮物価高が収まり、反動の押し上げを期待していたが、円安による輸入物価高で殺がれたようだ。それでも、消費は、増税後の低迷を脱し、それ以前の伸びである前期比+0.4を取り戻すところまできた。これにより、家計消費(除く帰属家賃)は、実質で273兆円を超え、わずかながら、増税後の最大値を8期ぶりに更新した。

 そうなのだ。2015年1-3月以来、2年間も消費は増えていなかった。生活が豊かになっていないのだから、景気回復と言われても、実感が伴わないのは当然だ。実は、消費増税の駆け込み前の2014年10-12月期と比べ、未だ3.7兆円も少ないし、更に遡るアベノミクス・スタート時の2013年1-3月期さえ下回るのである。「生活にアベノミクスは効なし」は正当な主張だ。他方、高い評価が得られるのは、財政収支の回復と企業収益の増大であろう。

 今後、前期比+0.4を保つと仮定して、消費増税の駆け込み前水準を回復するのは、1年後の2018年1-3月期になる。まる4年の辛抱である。消費増税をしていない場合のトレンドとの差、つまり、「失われた消費」は16.7兆円にもなる。これが8.4兆円増税の代償だ。むろん、この間、社会保障の充実により、政府消費が3.4兆円増え、国民は恩恵に浴したが、公共事業を2.7兆円削って賄ってもいる。財政収支が大きく改善するわけだよ。

 「こども保険なんて保険じゃない」と批判されつつも、公平なる消費増税に支持が集まらないのは、こうしたウラを国民は実感しているからだろう。「どうせ財政赤字の削減に使われて、福祉が大して良くなるわけじゃない」という抜きがたい不信が形成された。「保険だか知らないけど、子供のために使われるなら、いいんじゃない」という反応は素直である。この際、「こどもほけん」と、ぜんぶひらがなにすれば、ひはんもかわせるかもしれない。

(図)



………
 景気の今後については、特に不安は見当たらない。これはコンセンサスだろう。昨年後半からの回復の要因は、第一に、世界経済の加速に伴う輸出の増加、第二に、住宅の駆け込み反動減からの脱出、第三に企業の建設投資の上昇が重なったものだ。その中で、公共投資は足を引っ張っていたが、底入れに至った。こうした追加的需要が景気回復の起動力であり、所得と消費を向上させ、成長を波及させていく。

 足元では、輸出の好調さが続き、伸び切った住宅に公共が代わる形で、建設投資全体も安定している。日経が今期の雇用者報酬の鈍化を心配していたので、大元の毎勤の原データをチェックしてみたが、3月の現金給与の速報がたまたま下ブレしたのに引っ張られたように思う。むしろ、常用雇用は加速している状況だ。確報はこれからだし、4月のソフト・データにも加速感が見られるところだ。

 懸念材料を挙げれば、円安だろう。勤労者世帯が5割に低下し、税と保険料が高まっているので、賃金上昇が消費に結びつきにくくなっている。その中での輸入物価高は痛い。貿易黒字も増大しており、円高へ弾ける圧力は高まっている。緩やかに円高が進むよう、極端な金融緩和を徐々に修正する必要がある。アベノミクスの看板かもしれないが、緊縮財政の是正と合わせ、状況に応じた柔軟な経済運営が求められる。

………
 先日、経産省の若手勉強会のパワポが公表されたが、高齢者医療を削って、子育てに回せという「ゼロサム感」があると思った。2%成長の日本経済は、毎年、10兆円の供給力を新たに獲得する。年金の国庫負担が10兆円であることを考えれば、成長する日本にとって、高齢化の負担など、さほどのことはない。今までは、財政再建を優先し、景気回復の芽を摘むことを繰り返し、名目ゼロ成長に陥っていたから、苦しかったのである。

 アベノミクスの成果により、財政は、一般政府で見ると、赤字のGDP比が-2%を切るまでになり、日銀、年金、保険会社の安定的保有分以外の債務GDP比は60%程まで低下した。人的投資を拡大し、人口減少という社会の構造改革ができるだけの余裕が生まれている。財源論に終始する金庫番意識から脱して、少子化緩和に投資し、年金財政の好転で回収するという、若々しい拡大均衡の思想が必要ではないか。


(今日までの日経)
 こども保険検討へ、人材投資会議を新設。続く成長 届かぬ脱デフレ 賃金、なお伸び低く GDP1-3月実質年2.2%増。残業時間 公表義務付け。遠隔就労ロボVBに出資。
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5/17の日経

2017年05月17日 | 今日の日経
 昨日公表の3月消費総合指数は、低下は免れないと思っていたところが、横ばい。3月消費活動指数+は、若干の上昇と見ていたら、低下と、なかなか、読むのが難しい。でも、いずれも、前期比は+0.9となり、3か月間の動向も両者が重なり合う結果となった。もう、これだけで、2%成長になるような高い伸びだ。第一生命研の新家さんのGDPの最終予想も2%超に上方修正されているし、明日のQEが楽しみだね。

 高成長に移行すると、名ばかり研究大国も変わるかもしれない。企業の近視眼性でなく、マクロ経済が要因というわけだ。財政黒字化だって、一般政府で見れば、2018年には実現する。こちらの見方が国際標準と思うが。そうすると、2019年の消費増税4.6兆円は、全部歳出増に使ったって良いことになる。人的投資に充てれば、日本経済への国際的評価は、政府貯蓄を増やすより、むしろ高まるのではないかな。


(今日までの日経)
 派遣時給下落、未経験者採用で。エコノ・名ばかり研究大国。財政黒字化延期、教育に照準、援軍に米大教授。米3M・経営は日本的でも高収益。中国・金融引き締め、景気に影。
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国民の実感としてのアベノミクス

2017年05月14日 | 経済
 アベノミクスの評価については、毎月勤労統計で分かるように、雇用の量は増えたが、実質賃金は低下し、所得と消費の向上は不十分で尽きていると思う。これはハード・データの結果だ。他方、国民の主観的な評価はどうか。ここで「人それぞれ」とすることもない。ソフト・データとしての消費動向調査を見れば良いからだ。その内容は、ハードと概ね同じであるが、少し辛目のものになっている。

………
 経済はハード・データで見るのが基本だが、ソフト・データには速報性があり、鋭く変化するので、景気の潮目を判断するのに役立つ。代表的なものに、内閣府の消費動向調査や景気ウォッチャー調査がある。日経は後者を「街角景気」と略称している。どのように使うかというと、例えば、12か月移動平均を作って、原データとのクロスをチェックする。交差点が景気の潮目であり、最近では、2016年の半ば、輸出が増えだした頃である。

 国民の実感は、下図を見てのとおり。「雇用環境」は、アベノミクスが始まった2013年に急速に向上している。そして、消費増税を境に長く低下傾向となり、ようやく、足元で底入れしてきた。「アベノミクスの出だしは良かったけど、消費増税後はサッパリだ」というところだろう。興味深いのは、庶民には縁遠く、消費者態度指数の構成要素外の「資産価値」が「雇用環境」とパラレルに動いていることだ。

 一方、「収入の増え方」と「暮らし向き」は、雇用と比べ、とても緩慢だ。2013年の向上が緩かった上に、消費増税後に大きく低下し、政権交代前を下回るまでになった。その後、徐々に回復してきたものの、「暮らし向き」は、未だ増税前を下回り、「景気回復と言われても、生活は苦しいまま」という声が聞かれるのも当然だろう。加えて、「暮らし向き」は、本来は「収入の増え方」より大きく動くものなのに、この半年の物価高で向上を抑えられたように見える。

 また、「耐久財の買い時」は、消費増税の駆け込みと反動で大きな影響を受けたが、長い冬の時期を超え、アベノミクス前のレベルに戻ってきた。今日の日経が家電の好調ぶりを伝えるのも理解できよう。記事にもあるように、政策に振り回される家電業界には、同情を禁じ得ない。企業経営にとっても、安定的な需要管理は極めて大切で、政策は罪な事をしてきたのである。

(図)



………
 アベノミクスを批判するとすれば、まずは、急すぎる財政再建だろう。それが実質賃金や消費の低迷に結びついているからだ。ただし、党派的には、消費増税を仕組んだのは民主党政権であり、安倍政権は無理な追加増税を阻んだ側というネジれた構図にあり、ストレートに、どの程度の緊縮が適当なのかという真っ当な議論にならない。しかも、大幅な財政収支の改善を果たしたにもかかわらず、まだ足りぬと言う人ばかりで、ほめられもしない。

 また、金融政策については、異次元緩和Ⅱは無用だったとすべきではないか。「輸出は為替より世界景気」という従来の知見が再確認されただけで、むやみな円安は、輸入物価高を招いて消費を抑制する方向に働いた。トランプ氏の大統領当選から現在までの円安局面では、極端な金融緩和を修正する重要な機会を逃しているような気がする。2%の物価目標の看板は下ろしにくいだけに、議論の価値があると思う。

 そして、成長戦略に関しては、雇用量の増加に合わせて「一億総活躍」を掲げ、総動員で家庭との両立に厳しさが増す中、「働き方改革」を打ち出し、労働生産性の向上も図るというのは、時宜に適していると言えるだろう。あとは、活躍や両立に必要な保育や介護の充実をどうするかであり、財源づくりを大いに議論してもらいたい。また、社会保険料の軽減と非正規への適用拡大は、重要なアジェンダとなろう。

………
 ハード、ソフトとも、データが示すのは、直近における景気の加速である。税収も、保険料も増しているが、それらをすべて収支改善に充て、貯蓄するのが適当なのか。少子化や非正規の苦境を思えば、人的投資をすべきときであろう。それは、長期的な経済成長を確保する道でもある。正直、筆者には、アベノミクスの是非なんて、どうでもいい。人的投資が円滑になされる未来の経済と制度、それを生きているうちに見たいだけだ。


(今日までの日経)
 家電買い替えの波 耐久財消費11%増。上場企業 2期連続最高益へ。建設単価2割伸び、労務単価1割。日本の稼ぎ投資が軸・経常黒字リーマン前に迫る。4月の街角景気5か月ぶり改善。解雇の金銭解決に限度額。ユーロ圏1.7%成長。派遣料金、上昇目立つ。うつで病休 半数が再取得。半導体活況、リーマン前水準。
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5/10の日経

2017年05月10日 | 今日の日経
 3月毎月勤労統計の結果が出たが、順調だったね。日経夕刊の見出しは「10か月ぶり減」だったが、前年3月が跳ねていたためで、少しミス・リーディングだ。1-3月期の常用雇用は、前期比+0.6のペースを保ち、給与総額は+0.2である。これは、過去3四半期の平均と同値でもある。一方、実質賃金の3四半期平均は-0.1だ。低い給与の伸び、それをマイナスにする円安という構図だ。金融緩和は、戻すべきを直してないように見える。

 雇用+給与で分かる所得増は+0.8で、年率3%超だから十分だろう。それでも消費が加速しないのは、勤労者世帯は、高齢化で全世帯の半分に低下しており、賃金にかかる負担は、所得・消費税、社会保険料で5割近くになるからだ。地方財政や社会保険で「黒字」が発生しているのも当然である。日本人は国の財政しか視野にないから、不思議に思うばかりで、次世代への投資すら、負担増とセットでないとと思い込んでいる。

 ニッセイ研レポート(5/9)で日大の小巻泰之先生が、消費増税の経済活動に与える影響を検証していて、税率2%以上の変更は消費へのマイナス効果が大きいとし、小幅の引上げなどを提言している。ある意味、当たり前の話で、1997年の2%アップ時に大打撃を与えておきながら、2014年に3%の上げを敢行する方が常軌を逸している。この国は、今に至っても、全体を見た需要管理というイロハすら、かけらもないんだよ。

(図)



(今日までの日経)
 地方の基金残高21兆円。賃金増パート先行、パート比減。日経平均が年初来高値、円安追い風。輸入食材 値上げの波。消費者心理、値上げで4月は悪化。
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世代間のフェイク・ニュース

2017年05月07日 | 社会保障
 肺がんとライター所持の間に密接な関係があるからと言って、がん対策でライターを撲滅したりはしない。真の原因は、喫煙であり、ライターは喫煙の反映でしかないからだ。では、世代間に損得があるからといって、給付と負担を是正することは正しいのか。実は、損得の原因は、給付と負担ではなく、少子化にある。つまり、財政当局系の人に多い、「世代間の不公平を是正するために負担と給付を見直せ」という主張は、フェイク・ニュースということになる。

………
 世代間の損得は、賦課方式という世代間の支え合いの制度の中で起こる。賦課方式は、親への給付を子の負担で賄い、その子の給付を孫の負担で賄うという連鎖だ。公的年金が典型だが、医療保険も、医療費の1/3を後期高齢者が占めるので、ここにも賦課方式の要素がある。この賦課方式では、長寿化や給付増で得、少子化で損という現象が起こる。もし、長寿化だけなら、すべての世代が得をして、損する世代がないという不思議なことにさえなる。

 フリーランチはないとする経済学の直観に反することが起こるのは、期間が無限だからである。長寿化が起こると、長くなった給付期間を賄うために、現役世代の負担を増やす必要があるが、負担をした現役世代も、いずれは長くなった給付期間を享受するので、損にはならない。むしろ、その間に更に寿命が延びれば、得になる。損を被るのは、支える者なき最終世代だけである。その出現は絶滅を意味するので、損得以前に脱すべき問題だ。

 実は、少子化というのは、この絶滅が少しずつ現れる現象である。行き着く先は、絶滅だから、年金制度を対応させるどころの話ではない。制度が維持されても、日本人が絶滅していたら、意味がなかろう。結局、世代間で損得が現れるのは、世代による給付と負担の過不足ではなく、すべて少子化が原因である。それなのに、負担と給付の是正に血道を上げ、少子化を放置するなど、亡国としか言いようがあるまい。

 財政当局系の人は、一般の人の「世代間での損得は、給付と負担の過不足のせいだろう」という予見を上手く利用している。がんとライターに相関関係があるというデータに嘘はなく、世代間で損得が見られるのも、そのとおりだ。しかし、ライターが原因でないように、損得の本当の原因は、少子化、すなわち、員数にあって、1人当たりの給付と負担ではない。これは、見方や価値観で変わるものではなく、数理的な帰結だ。意図的に主張するなら、フェイクとされても仕方のない行為である。

(図)



………
 少子化による損を解消するのは簡単で、子供のない人には年金を給付しないだけで済む。望んで結婚をせず、子供もいらぬのなら、養育の負担を免れた分を老後の備えにして、他人の子供の世話にならないようにする。こうすれば、世代間で損が生じないのは自明だろう。ただし、これには倫理的な問題が伴う。現実には、健康上や経済上の理由で、望んでも得られなかった人がたくさんいるからだ。

 健康上の理由の人は限られるので、そうした不運は、保険の観点から、全員が多少の損を承知で負担することは説得的だ。問題は、経済上の理由である。例えば、就職氷河期で非正規にしか就けず、家庭を持てなかった人に、老後も自己責任だとするのは、あまりに酷だろう。しかも、その就職氷河期は偶々でなく、過激な緊縮財政がもたらしたデフレという人災なのだから、なおさらである。

 厚生年金の場合、そうした子供のない人の給付は、積立金や税で賄う形になっている。したがって、若い人らが「世代間の不公平があるから、保険料が返って来ないのでは」と不安になる必要はない。「世代間の不公平」は、財政再建のために、社会保障の給付減と負担増を押し通すためのネタでしかない。むしろ、若い人らは、子育て支援や非正規の軽減を求める方が理に適う。それでインフレになったとして、困るのは、持たざる若者より、金持ちの年寄りではないか。

………
 世代間の不公平の原因は少子化に在り、子のない人をいかに減らし、どう支えるかが問題だ。その本質が分かれば、景色は違って見える。「こども保険」は、子のない人の自己責任を問う代わり、子のある人を有利にすることでバランスを取るものだ。本質を突いているので、保険として難があるにもかかわらず、理があると感じるのである。使い途も、少子化克服のため、薄撒きではダメだと悟ることができよう。

 今週の日経の経済教室は、シルバー・デモクラシーがテーマだったが、おそらく、将来の利害対立は、世代間では起こらない。「育ててくれた親以外の高齢者を、なぜ、支える義務があるのか」という現役世代からの素朴な疑問から発する、子の有無による対立となろう。「子の有る高齢者+現役のその子」の連合に対し、子のない高齢者は、少数派ゆえ、多数派の温情にすがる立場となる。これが寛容であるよう少子化を緩和し、国民の分裂を未然に防ぐことが、財政再建に勝る、現下第一の政治課題である。

 かつて、この国は、「満蒙は日本の生命線」というフェイク・ニュースで道を誤ったことがある。本当の生命線は、平和の下の通商であり、米国の輸出する石油であった。植民地の重要性に嘘はなかったが、本質は覆い隠されていた。世代間の不公平に惑わされ、財政再建に意を注ぐうち、少子化対策に後れを取れば、同じ国家崩壊の悲劇を招く。社会保障を専門にする人ほど、「不公平に拘るのはどうか」という意見になる。有望な若手政治家が為にする論に憑かれる様は見るに忍びなく、日経には「嘘でないなら書いて良い」と考えてほしくない。


(今日の日経)
 日銀総裁、教科書通りできない。風見鶏・習氏人気 好機かリスクか。

 ※金融緩和より需要リスクが遥かに強力なんて、教科書にはないからね。
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5/6の日経

2017年05月06日 | 今日の日経
 中国のバブルが弾けたら、どうなるのかね。国家資本主義だから、迅速な資本注入がなされて、先進国のような銀行危機はないかもしれない。それでも、先食いによる建設投資と設備投資の停滞は避けられないだろう。加えて、元安による物価上昇となり、それで消費も減速だ。足元の成長率の加速は、すなわち、将来における成長率の低下を意味する。あとは、それで政治に変動が生じたりしないかになる。

 働き方改革で労働生産性の向上が叫ばれているが、財の値段が下がって、サービスが上がれば、賃金増を通じて実現したりする。極端なことを言うと、農産物の輸入自由化で食料価格を下げるだけで、他は努力しなくても、生産性は向上する。それからすると、円高はプラスだ。保育や介護の賃金を上げつつ、通信価格や民間家賃を抑制するのも良かろう。中国のこともあり、内需を強めながら、緩やかな円高がベスト・シナリオかな。

 滝田洋一さんの「経済の元気、源はいつか見た建設・不動産」(5/2)は面白かったよ。建設業の全要素生産性が上がっていることを指摘しているのだけど、規制改革があったわけでも、ロボットを導入したわけでもなく、ブームで建設単価が他の物価と比べて上がっているということ。生産性は相対的な価格次第というわけで、構造改革より需要管理が大事なことがよく分かると思う。

(図)



(今日までの日経)
 中国バブル再び。4月米雇用21万人。時価総額1兆超が最多に並ぶ。子ども、東京が唯一増。人手不足・過剰な日本流にメス。ヤマト1万人採用。GDP5期連続プラスへ。人手不足 若手・非正規に手厚く。大機・一撃必殺増税論。

※スパムが多いので、コメントとトラックバックは、しばらく中止にします。
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アベノミクス・日本よ、成長は帰ってきた

2017年05月01日 | 経済(主なもの)
 1-3月期GDPでは、ついに消費主体の経済成長が実現する。消費は、今期は高めの伸びが期待でき、ここ3期を均した速度は年率1.6%となろう。それは、消費増税で大打撃を与える前の2012~13年の伸びと同レベルであり、日本経済の復調を意味する。失われた10期を超え、16兆円もの大損害を残しつつも、成長は帰ってきた。今後は、雇用数の増加に見合う年率2.0%成長へ更に加速できるかが焦点となる。

………
 3月の商業動態の小売業は前月比+0.2であり、CPIの財が-0.3であったことを踏まえると、実質では、これを上回る伸びとなろう。したがって、3月の日銀・消費活動指数は、若干のプラスが見込まれ、1-3月期の前期比が+0.8まで高まる可能性がある。前期が低迷した反動も含まれるが、ここ3期を均しても+0.6という高さになる。消費の復調と加速をうかがわせるのに十分な数字だ。

 また、3月の家計調査は、相変わらず不安定な動きを見せ、消費水準指数(除く住居等)が前月比-2.0もの低下となったものの、1,2月の「貯金」で、前期比は+0.2に収まった。GDPの消費を占う内閣府・消費総合指数は、3月がそれなりの低下となろうが、前期比で+0.7程を確保できそうである。ここ3期の平均は、先述の活動指数より下がるにせよ、+0.4くらいになると考えられる。

 +0.4というのは、2012~13年にかけての民間消費の伸びと同レベルである。その後、消費増税で大打撃を与え、慌てて異次元緩和第二弾を打ったが、輸入物価高で苦しめただけで、2015~16年は+0.1へと沈んだ。そのため、増税前のトレンドとの差は広がり、今や16兆円に及ぶ。8兆円の税収を得るのに、2倍の消費を潰したのだから、度を過ぎた財政再建の愚かしさが分かろう。+0.4への復調は、この傷口が広がらなくなったことを示す。

(図)



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 今後の焦点は、成長の基礎体力である消費が更なる加速を見せるかだ。その可能性は十分にある。なぜなら、毎月勤労統計の常用雇用は、消費増税後も、コンスタントに前期比+0.5~+0.6を保ってきたからだ。雇用が堅調でも、消費が低迷したのは、消費増税や輸入物価高で実質賃金が低下したことによる。ここに来て、パート増による平均賃金や労働時間の押し下げにも歯止めがかかり、雇用増がストレートに所得と消費の増加に反映される環境が整ってきている。

 3月の新規求人倍率は、除くパートが+0.06の1.87倍と、12月の1.90倍に次ぐ高水準になった。他方、パートの求人は一服し、人手不足の下、パートでは確保しがたく、フルで集めようとする形へ変化しているようだ。こうした形はバブル期にも見られた。求人は、医療・福祉が多いのは当然ながら、1-3月期は、建設、製造、運輸という、賃金が高めで男性の雇用に結びつく求人が加速した。

 他方、3月の労働力調査では、就業者数が前月比+13万人、雇用者数が+1万人であった。プラスではあるものの、1-3月期の増加には、やや陰りが見られる。完全失業率は、男性が3か月続けて低下して2.8%となり、女性は2.7%が続く。一時的かもしれないが、次第に人材の供給力に制約が表れてきたのかもしれない。雇用量の動向については、連休明け公表の3月毎勤でも確かめたい。

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 景気の先行きについては、輸出は拡大トレンドを維持しており、住宅は小康を保ち、公共は底を打っている。これらで構成される追加的需要は、12月頃に下ブレしたものの、それを取り戻すように推移している。鉱工業生産は、3月が前月比-2.1となり、1-3月期の前期比が+0.1にとどまったけれども、4,5月の予測指数は、+8.9、-3.7と非常に高水準であり、景気の加速を予感させる内容となっている。

 鉱工業指数に関しては、設備投資の指標である資本財(除く輸送機械)の出荷は、1-3月期の前期比が、前期の急拡大の反動もあって-2.9となった。建設投資の目安となる建設材出荷も、同様に-1.0にとどまる。それでも、GDPの設備投資については、輸送用機械が堅調で、企業の建設投資が盛んだったため、寄与度0.0~-0.1と見ている。また、住宅と公共の建設投資の寄与度は、ほぼゼロであろう。

 GDPの在庫の寄与度は、7-9月期が-0.3、10-12月期が-0.2と成長率を下げてきたが、1-3月期は、プラスとなりそうだ。鉱工業指数で分かるように、製品在庫はプラス、流通在庫は変わらず、原材料在庫の仮置きがマイナスというところで、寄与度は0.1弱と見る。また、GDPの外需については、ニッセイ研の斎藤太郎さんによれば、寄与度0.1強のようである。以上を踏まえるなら、1-3月期GDPの成長率は2.0%前後が妥当であろう。

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 一部に「今の景気の回復ぶりからすれば、この4月からの消費増税は可能だった」との声もあるが、それをしていれば、増税幅と同じ5兆円の消費減に見舞われた上、失速状態が更に長く続いただろう。経験には学ばねばならない。そして、この半年の回復局面は、財政出動も、金融緩和も、成長戦略も、大してないまま達成されている。つまり、過激な緊縮財政をしなければ、放っておいても日本経済は成長する。まさに一害を除くにしかずである。 


(今日までの日経)
 訪日消費 底入れ感。エコノ・法人税は6.1兆円減税。円高でも最高益。米0.7%成長に減速。ASEANに円供給枠。錯誤・世代間の不公平、置き去り。子ども保険への期待・大機・吾妻橋。ヤマト、9月にも5~20%値上げ。介護認定 自立と逆行。幼児教育・保育の無償化 公費1.2兆円必要 こども保険で内閣府が試算。
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