経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

渦中で状況は分からぬもの

2014年04月27日 | 経済
 サブプライム問題がリーマンショックへと発展する直前、「蚊に刺された程度」とした人がいたように、渦中にあっては状況を甘く見がちである。「大した変化がない」のが日常だからだ。しかし、GDPの1.5%もの需要を抜く消費増税が日常であるはずがない。わずかな凶兆も見落とさない態度が欠かせないだろう。

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 一つは、軽いだろうと言われていた駆け込み需要は、17年前より引上げ幅が大きいという当然の理由から、やはり大きかったという数字が出てきていることだ。こういうことは「想定外」なのに、「でも、大したことはない」と合理化しがちなので注意が必要だ。新たな情報があれば、見通しは少しずつでも修正すべきなのだ。

 もう一つは、スーパーの飲食料品の動きである。昨日の日経は、お役所の評価そのままに、「持ち直し」としているが、数字を見ると、3月1~4週の前年比が3.0%、0.0%、4.5%、13.6%だったものが、4月には、-17.3%、-9.8%、-7.8%と、駆け込みの「貯金」を突き破るような落ち込みぶりである。現場の感覚では、マイナスが戻しているだけで、上向いている感じがするはずなので、「印象」を真に受けてはいけない。

 これからすると、景気の先行指標の外食の好調ぶりも割り引く必要がある。スーパーから外食へのシフトが疑われるからだ。また、今回の増税では、外食に限らず、かつての「増税分還元セール」ではなく、「新商品・新メニュー」で対応しようとしているから、目新しさの効果によって、所得減の打撃が「先送り」されている可能性がある。本当の勝負は、目新しさが薄れたときであろう。

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 かく言う筆者も、17年前は、お役所の言うことを信じて、「景気後退は一時的」と吹聴していたものである。「大丈夫」という世の中の雰囲気に流され、異変に気づいたのは、在庫が積み上がった秋口になってからであった。そんな当時の様子を伝えられないかなと思っていたら、良いレポートがあったので紹介する。

 日大の小巻泰之先生が4/17にニッセイ基礎研HPへ寄せた『消費税増税における「認知ラグ」の影響』である。これを読むと、前回の増税の際は、当初、景気の基調は強く、4-6月期の反動減も「想定内」と甘く見ていたものが、4-6月期のGDPが出た時点で、評価が大きく変わったことが分かる。

 春の強気は、今回とそっくりである。そして、駆け込みの「貯金」を使い果たした後に、おかしいと思い出す。また、リバウンドが期待されている7-9月期のGDPの結果が12月に出る前に評価が定まっていたこともポイントだろう。これは10%への消費増税への判断とかかわってくる。むろん、歴史は単純に繰り返さないし、今回は、なんとか切り抜けてくれないかなと、願ってもいるのだが。

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 昨日の日経では、コマツがコムトラックスという最新鋭の情報システムを持ちながら、現場の「戻る」という声を信じ、需要を読み違えたという記事が出ている。このように、ビッグデータのリアルタイムの情報があってすら、先を見通すのは難しい。これは、多くの事柄が連鎖するようになった最近の特徴なのかもしれない。そして、これに対抗して使える武器は、昔ながらの「わずかな凶兆も見逃すな」でしかない。


(昨日の日経)
 TPP日米協議を継続。参院・22府県を11に合区。消費者物価・都区部4月2.7%上昇、増税転嫁ひとまず順調。内閣府消費週間調査・前年比8%減。ファミマ500店でEV充電。増えるコインランドリー。コマツ・お家芸の需要予測揺らぐ、「戻ると信じた」。

※いつもながら内閣府のHPは探しにくいね。「新着情報」をきちんとしてほしいな。

(今日の日経)
 アジアで資金調達を円滑に。駆け込みでヤマダ一転増益。成長の天井・働き手減り制約強まる。タクシンノミクスの落日。読書・インドネシア創られゆく華人文化。

※駆け込みの激しさだな。※このくらいの制約が正常で、今までが緩すぎではあるがね。
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公的年金運用と国民経済

2014年04月25日 | 経済
 昨日の経済教室で伊藤隆敏先生が公的年金の積立金の運用について書かれていたので、コメントしようかなと思ったが、今日の玉木伸介先生の「下」を待って正解だったね。ポイントを押えた内容で、とてもありがたい。特に、スプレットに関しては、厚労省もこのくらい分かり易く説明してほしいものだ。またぞろ、高過ぎ批判が横行しそうなのでね。

 アベノミクス前、年金積立金の運用損失に散々批判が出たことを考えれば、玉木先生が言われるように、リスク投資を高めて振れを大きくすることは、国民の支持を得がたいと見るべきだろう。厚年基金は、高利回り狙いの失敗に懲り、アベノミクスを奇貨として、撤退の方向にある。資産運用は、結果が出た後の「納得」も大事である。

 むろん、今後、経済成長が加速していけば、国債中心の運用では成績が劣るということはあるだろう。その場合、誰が「得」をするのかも考える必要がある。そこが民間の年金運用とは異なる側面である。言うまでもなく、「得」をするのは、低利で資金を調達した「国」ということになる。

 つまり、国民にとっては、年金部門で損をして、政府部門で得をするわけである。年金の保険料率が固定されていることからすれば、国債中心の運用は、若者に有利で、高齢者に不利ということはあろうが、国民全体では差し引きになる。この側面を、株式や外債で運用することと比較してみてほしい。

 もっとも、絶対にアベノミクスが成功するというのなら、成長加速を見越して株式運用を重くする手もあるかもしれないが、消費増税という大きなリスクを犯しているのだから、格好の売り場を提供する、単なる株価維持策に墜しかねないおそれがある。パッシブの運用で十分ではないだろうか。

(昨日の日経)
 TPP日米合意へ最終調整。豪比が空軍力を増強。大機・数と率で見る高齢化・隅田川。経済教室・公的年金運用・伊藤隆敏。飛躍狙う科学者が奈良先端大に。

(今日の日経)
 日米がTPPで異例の延長協議、尖閣は安保対象。広がる家事代行。経済教室・公的年金運用・玉木伸介。
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設備投資の変動の分布

2014年04月20日 | シリーズ経済思想
 4/10に2月の機械受注が発表され、前月比8.8%の大幅減だった。1月の13.4%増から単に大きく振れただけでなく、3か月移動平均でもマイナスであり、1-3月期の受注も前期比2.9%減となる見通しであることから、内閣府も基調判断を下方修正したようだ。設備投資は、景気の原動力と言われるが、このように激しい動きを示す。

 今回は、消費増税に伴う駆け込み投資や、増税後の様子見という特殊要因があるとされるが、景気の転換期には、設備投資は激しい変動を見せる傾向があるので、これも一因と思われる。もっとも、転換が下方なのか、上方なのか分からないところが今回の特殊性だ。少なくとも、教科書とは違い、消費減退を設備投資の余地が生ずるチャンスとは、誰も考えていないようである。

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 そもそも、設備投資は、どの程度、変動するものなのか。過去30年間の鉱工業生産指数の資本財の季節調整値を見ると、下図のようになる。1991年のバブル崩壊を境に、上方トレンドだったものが、横バイないし、下方トレンドに変化したことが分かる。これに伴って、大きな波を描くようになり、変動の激しさを示すギザギザも目立ちだした。

 経営者にとって、上方トレンドが消え、多めの設備投資が癒されなくなったことは、リスクの上で極めて重要な変化だ。また、変動の激しさも、見通しを非常に立て難いものにした。バブル崩壊後、行過ぎていた設備投資に反動が来たのは仕方がないにしても、そこから脱したはずの1993年以降も、消費増税の2番底、ITバブル後の3番底、リーマン・ショックの4番底、東日本大震災の5番底と続く。

 近年、企業が資金を溜め込み、国内向けの設備投資をしなくなった、さらには、人的投資にも消極的であると言われるが、経営者は、かつてと比較にならないリスクを経験してきたのだから、ある意味、当然かもしれない。投資促進には構造改革というのは定番だが、大きくなったリスクにどう対処するかの問題が存在する。
(図1)


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 変動を、もう少し踏み込んで分析してみよう。資本財が各月に前月から何%増減したかを1978年~2012年まで算出し、変動にはプラスもマイナスもあるので、その2乗2根を取り、変動が大きかった順に並べてみよう。それが下の図である。これには、対数近似曲線を付した。R2が0.979なので、よくフィットしていると言えるだろう。つまり、資本財の変動は、対数順位分布になっている。

 平均値は2.1%であり、対数順位分布なので、当然、左側に寄っている。419サンプルのうちで163位だ。また、標準偏差は1.92%である。問題は、標準偏差の2倍を超えるサンプルが59個あり、そのうち3倍超えが21個あることだ。最大は震災があった2011年3月の16.96%で、標準偏差の8.8倍、それに次ぐのはリーマンショック後の2009年2月の10.78%で5.6倍である。以下、2011年5月の9.91%、バブル崩壊後の1992年9月の8.97%、2008年11月の8.52%と続く。
(図2)


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 設備投資の見込み外れは経営を直撃しかねないから、最悪の事態も念頭に置く必要がある。そうしたときに、これほど大きなリスクが存在するのは脅威だ。特に、バブル崩壊で最悪の変動を経験していたはずなのに、それを超える変動が2000年代に2度もあったというのは、リスクへの認識を変えるには十分であったろう。

 確かに、東日本大震災は1000年に1度、リーマンショックは100年に1度であり、極端な運の悪さが重なっただけなのかもしれない。しかし、阪神大震災やITバブル崩壊だってあったのだから、日本経済は、激しい変動が起こりやすい構造になっているのではないか、そう疑うことも有益ではなかろうか。

 見方の一つは、成長力と変動には相互関係がある可能性だ。成長力の衰えが変動を大きくし、変動のリスクが成長力を鈍らせてしまうという関係があるのかもしれない。いわば、飛行機が着陸態勢に入ってスピードを落とすと、機体の揺れがガタガタと大きくなりだすというイメージである。

 もう一つは、経済政策の変化だ。阪神のときは、応急対策だけでなく、直ちに全国的な経済対策も打ったが、東日本のときには、増税論議を延々と続けて復興対策を遅らせた。また、日本経済は、内需を育てようとせず、輸出に大きく依存するようになって、外からのショックに強く影響を受けるようにもなっている。

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 設備投資は景気の原動力であると同時に、逆に景気によっても動かされるし、ライバルの対応にも左右される。後追いは安全かつ有利でも、競争で劣勢になるおそれがあるからだ。つまり、設備投資は、需要や競争を通じて波及効果が働き、急速に増えたり、減ったりするわけである。したがって、変動が対数順位分布になることは、自然であろう。

 ここで考えたいのは、本当は、もっと変動が激しいべき順位分布になっていないかという問題である。以前にも触れたように、べき分布と対数正規分布は「地続き」になっている。映画の観客動員数はべき分布だが、ニコニコ動画の再生数は対数正規分布なのだそうだ。時系列データの場合は、将来にわたり観測を続けて行って、べき分布だったと判明する可能性もある。二つの分布には楕円と放物線のような間柄があるのかもしれない。

 べき分布となると、分散は無限大だから、合理的にリスクに対処するのは不可能で、対数正規分布であっても、観測期間が長くなるにつれて、分散が拡大するのでは手に負えない。まさに、バブル崩壊で未曾有の大変動を経験したはずなのに、それを超える大変動に二度も会い、記録が塗り換えられたたようにである。むろん、サンプルが有限だから、分散は計算できるものの、頼れる指標とは言い難くなる。

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 景気の原動力たる設備投資、データは鉱工業の資本財だが、これがいかに揺れ、どれほどリスクを見定め難いか、その一端が分かってもらえたと思う。裏返せば、「安定」には、大きな価値があるということである。日本人は、リスクというと、財政赤字による将来の金利急騰ばかりを気にするが、変動リスクが大きくなっていることは意識に上ってないようだ。大胆な金融緩和と一気の消費増税の組み合わせは、そうした無頓着さの表れだろう。足元の設備投資の動揺を、当然のもの、無害のものと思ってはなるまい。

(今日の日経)
 自動車保険を値上げ。大卒採用来春16%増、小売り・建設伸び、理工系確保難しく。読書・憎しみに未来はない。

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4/18の日経

2014年04月18日 | 今日の日経
 日銀は強気、内閣府は素直というところか。4/17公表の消費者態度指数がこうも弱ければ、無視するわけにもいくまい。上がりぎみの物価を反映して暮らし向きが弱いのは当然にしても、雇用環境の落ちが気になる。昨年1-3月に不思議と消費が伸びたときとは、逆パターンだっただけにね。

 増税直後、世間的に楽観的であったのは17年前も同じだったよ。問題はこれから。渡辺先生の東大物価指数における駆け込みと反動が前回以上というのは極めて興味深い。一般的な見方と逆のデータは貴重だ。売上は維持できていても、実質では下がっている可能性があるので、日銀支店長が集める現場の声だけでは、必ずしも消費は分からないものだ。

(今日の日経)
 日立・マツダ最高益・今期見通し。日銀・駆け込み反動「想定内」。月例報告・下方修正、弱い動きも。経済教室・4月1日の東大物価指数・税抜き前年比0.8%上昇、食品日用品の駆け込みは前回増税時より大・渡辺努。

※久しぶりの執筆だな。元気とも言えんが、天邪鬼力を発揮して、がんばるよ。
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