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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

7/31の日経

2019年07月31日 | 今日の日経
 6月の経済指標が一斉に公表されているが、見た目以上に厳しいように思う。特に、製造業の景気悪化は大きい。産業別の新規求人増加数を見ると、製造業の減速ぶりは急だし、下げ止まりも見えない。サービス業にも不調は拡がっており、医療・福祉以外は、ほとんどが減らしている。労働力調査でも、雇用者数は増勢を保っているものの、就業者数では男性が低下局面に入っている。雇用の水準が高いために世間の危機感は薄いけれども、楽観を許さない状況である。

(図)



(今日までの日経)
 製造業、3社に2社減益 4~6月。増税後の景気予測、官民割れる。

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日本社会のしくみを図式化すると

2019年07月28日 | 社会保障
 「日本社会は、大企業、地元、残余の3つで出来ている」とする小熊英二先生の図式化は、農村から都市への人口移動を見た者にとって、とても納得のいくものだろう。日常で薄々感じていることを、ファクツ&フィギュアスで明確化することの意義は大きい。このほど出た『日本のしくみ 雇用・福祉・教育の歴史社会学』は、新書版とはいえ600ページの分厚さだが、日本社会を理解する枠組みを手にするために、ぜひ読みたい一冊だ。

………
 小熊先生は、国ごとの雇用慣行について、3つの社会的機能で類型化し、「企業のメンバーシップ」が支配的なのが日本、「職種のメンバーシップ」が支配的なのがドイツ、「制度化された自由労働市場」が支配的なのがアメリカという図式化もしている。これも、各国の社会の特徴を把握し、そこから派生する現象を位置づけ、問題点の解決策を考える上で、極めて有用な枠組みだと思う。

 これを使えば、日本の社会保障が厚生年金と国民年金に分かれているのは、大企業(カイシャ)と地元(ムラ)に対応したゆえだと解せる。問題は、非正規のような「残余」の人たちになる。厚生年金には加入できないし、店や農地があって家族で営むわけでもないから、国民年金だけでは、とても生活できない。氷河期世代の膨らんだ非正規や引きこもりの老後をどうするかは、老後2000万円問題とは比較にならないほど深刻な社会問題になろうとしている。

 解決策としては、適用を拡大して、6時間未満の勤務だろうと、厚生年金に加入させるしかない。しかし、社会保険料の会社負担の少ない、安い労働力として、二重構造の下部に位置づけられている以上、保険料の割引でもしないければ、なかなか進まない。割引には、加入者全体での負担なり、公費の投入が必要となるが、この決断する政治も、大企業と地元を代表しており、「残余」を基盤にしてはいない。

 氷河期世代は、結婚難によって、極端な少子化に陥った世代でもあり、「自活」を当然視し、緊縮財政を優先する政治の下で、結果的に見殺しの憂き目に会っている。今回の参院選に引きつければ、「とにかく負担はムリ」とする人たちの不満が、れいわやN国党の支持に表れたのではないか。こうした人たちをいかに包摂し、制度的にすくうかが、既成政党に問われているように思われる。

………
 小熊先生は、終章において、「改革の方向性は、その社会の人々がどんな価値観を共有しているかによって決まる」とし、勤続10年のシングルマザーと女子高生バイトの時給が同じで良いのかという問題に、3通りの回答を用意する。生活を配慮した時給であるべきか、同一労働同一賃金で正しいのか、生活問題は会社ではなく社会保障が解決するのか、どの価値観を選ぶかで政策は違ったものとなる。

 大企業と地元に属する人たちにとっての社会保障は、保険の部分はともかく、再分配の部分は負担でしかない。しかし、社会保険の適用拡大は、非正規の労働時間の抑制を解消することにつながり、社会全体の生産力を増加させる。また、非正規への育児休業給付の拡大は、出生率を上昇させ、年金負担を軽減する希望がある。つまり、効果的な再分配は、プラスサムになるのだ。第3の道は、現代における最有力の価値観たる経済合理性の見地からも、選び得ることを、エコノミストとして付言しておく。

※本コラムのシングルマザーへの答えは、「非正規の解放、経済の覚醒」を参照のこと。


(今日までの日経)
 家計債務 アジアに重圧 中国、日本のバブル期並みに。国立大の予算、成果重視に。電子部品受注が減速。

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7/24の日経

2019年07月24日 | 今日の日経
 今週は主要な指標の公表はないので、先週金曜公表の全産業指数を出しておこう。景気の先導役である3需要は、今年に入って上向いている。輸出は引き続き低下傾向にあるが、建設投資が上昇しているためだ。中でも、民間企業の押し上げが大きい。公共も増えてはいるが、2018年の低下の戻しという側面がある。こうした動きは、製造業の設備投資は減退しても、非製造業は堅調とされることの証左でもある。

 ただし、この2か月は、さすがに頭打ちになった。また、2014年の消費増税前にも盛り上がりがあったことから、今後は低下に向かう可能性がある。輸出が低調なところへ、10月に消費増税を迎えるが、堅調な非製造業まで崩れるというリスクだ。景気対策を打つにせよ、しょせんブレーキとアクセルを両方踏むようなものになる。米国の利上げに伴う円高やハードブレグジッシのリスクもあって、多難な先行きである。

(図)



(今日までの日経)
 英、ジョンソン首相誕生へ 「合意なき離脱」高まる 与党党首選。さえぬ景気 政権にリスク 14年増税時より消費者心理弱く 緩和手詰まり、財政焦点。
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結婚不要社会に生きる

2019年07月21日 | 社会保障
 結婚ほど、常識で考えてはいけないものはないと思う。時代によって大きく変化してきたものなのに、今ある形が当然で、それ以外は倫理に反するとまで感じてしまうからだ。我々の当然が未来の非常識にだってなり得るという、価値観に対する謙虚さが必要である。結婚を語る上で、学術的成果を学ぶことは欠かせないのであり、その際、山田昌弘先生の『結婚不要社会』は、かっこうの手引きとなるだろう。

………
 かつての「嫁して3年、子なきは去る」ということわざは、女性の人権蹂躙そのものという感じがするが、社会保障などない昔は、イエを存続させるしか人々に生きる術はなく、相手を変えてみる以外に不妊の原因を知りようがないのでは、互いのためにやむを得ない仕儀であった。むろん、今では、結婚せずとも老後の保障は得られるにしても、社会を持続させるために、変わらず、結婚は重要な要素であり続けている。

 山田先生は、新著の第1章で、結婚難の原因は、意識変化ではなく、年収の高い男性と結婚できる確率の低下という経済条件の変化にあると指摘する。その背景には、1997年以降の非正規雇用の増大がある。むしろ、夫の収入への期待は変わらないまま、「婚活」という相手探し競争が起こり、結婚が愛情だけに基づくものになるという欧米のような方向とは逆に、想定外の「恋愛の衰退」までもが起こってしまったと説く。

 日本の結婚における経済的要素の強さについては、再認識させられる。日本では、家事の一環として妻が夫のお金まで管理するし、愛が冷めたからといって、夫から離婚される心配はなく、逆に夫がリストラされて無職になると、あっさり離婚に至るとされる。これだけ経済的要素が強いと、欧米のようなパートナーを組むことへの社会的圧力がない以上、男性の経済的地位が悪化すれば、結婚する理由がなくなってしまう。

 問題は、多くが結婚を選ばない社会は、持続可能でないことだ。これまでの少子化対策は、女性の仕事と家庭の両立という観点が強かったが、それだけでは足りないように思える。待機児童対策は着実に進んでいるものの、出生率の改善は停滞している。むしろ、環境整備に伴い、男性が共に働ける女性を求めるようになると、非正規にしか就けない女性にとっては、結婚のハードルは上がることになろう。

………
 今後の施策の方向性としては、山田先生も言及する「非大卒若者」に焦点を当てたものが欠かせない。具体的には、非正規も、被用者の社会保険に加入できるように適用を拡大したり、育児休業給付を実現したりするものだ。結婚、妊娠すれば、仕事を辞めざるを得ない弱い立場にある人に対して、こうした「差別」があるようでは、結婚しようにもできないというのが実情だろう。

 もちろん、適用拡大をすれば、中小零細企業にも負担が生ずるから、これを緩和する必要があるし、すべての人に育児休業給付をするとなれば、雇用保険料を上げたり、公的負担を入れたりせざるを得ない。いずれも財源がいるわけだが、現状の緊縮財政を緩和することで、順次、実現していくことは可能である。次世代に借金を回すなとして、緊縮をしているわけだが、肝心の次世代が先細りでは、苦行は無意味であろう。


(今日までの日経)
 「最低」に張り付く賃金。食品値上げじわり浸透 シェア奪うPBも。

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7/19の日経

2019年07月19日 | 今日の日経
 昨日、6月貿易統計が発表になり、日銀・実質輸出入では、4-6月期の輸出が前期比+0.1、輸入が+2.5であった。6月の輸出の前月比は+4.2であったものの、前月の-5.0の反動の面が強く、減退傾向に変わりはないと考えられる。むろん、不振の原因は中国であり、景気対策によって今年後半には回復と言われてきたのに、未だ、その様子はうかがえない。むしろ、日経にもあるように、影響が世界的に拡大している状況だ。

 4-6月期の外需は、前期が輸入減でGDPが大きく押し上げられたのとは逆に、輸入増でかなり引き下げられることになる。ニッセイ研の斎藤太郎さんの推計によれば、寄与度は-0.5にも及ぶ。これを跳ね返してのプラス成長は、なかなか困難ではあるが、4,5月の消費や設備投資の指標はフレが大きく、6月のデータを待ちたいところである。いずれにせよ、景気の悪化は止まっておらず、MMTでなくても、現実的政策が求められる。

(図)



(今日までの日経)
 「スロートレード」再び 1~6月の輸出5期ぶり減。派遣時給上げ、生産性問う 厚労省が指針。MMTは現実的か。中国、製造業の不振鮮明 4~6月0.2ポイント減速の6.2%成長 景気対策 薄く。

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税収を知らずに緊縮は語れない

2019年07月14日 | 経済
 「財政は破綻寸前」と信じる人にとっては、2018年度の税収が、国で+1.6兆円、地方で+1.1兆円になったと聞いても意味が分からないだろう。一般歳出の伸びは、国の当初予算で+0.3兆円、地方で+0.6兆円でしかないから、財政赤字の削減は着実に進んでいる。裏返せば、デフレから脱却していないのに、それだけの緊縮が早々と行われていることになる。家計消費(除く帰属家賃)が実質だと0.5兆円しか増えていない中で、これほどの緊縮をすべきか、考えてみるべきではないか。

………
 財政危機を語る人は、不思議にも税収の動向を気にしない。アベノミクスの6年間において、税収は歳出を上回るペースで増加しており、財政危機の認識と合わないためと思われる。しかし、実態を見ずに財政再建もない。7/2に公表された財務省の収入調によれば、2018年度一般会計税収は前年度決算比+1.6の60.4兆円となった。また、7/12に出された総務省の地方税決算見込によれば、同じく+1.1の42.0兆円であった。

 国の当初予算で設定していた税収は、59.1兆円でしかなかったから、1.3兆円もの上ブレとなる。ただし、所得税に0.4兆円の還付予定の特殊要因が含まれるとされるため、実質的には0.9兆円となろうが、それでも、幼児教育無償化を消費増税なしで実現できるほどの大きさだ。2018年度は、予想外に輸出が失速し、企業収益が伸びなかったにもかかわらず、この結果であり、いかに予算での設定が少なく見積もられているかが分かる。また、地方税は、地方財政計画額に対して0.4兆円の上ブレとなっている。

 では、2019年度はどうなるか。所得税+2.0%、法人税+6.8%、消費税+1.7%、その他+0.7%の設定だと、前年度決算比+1.6の62.0兆円となる。やはり、高等教育無償化を増税なしでの見込める規模になる。ポイントは、法人税の伸びで、基にした証券二社の企業業績見通しは、国の当初予算の設定より高めになっている。実際の税収額は、消費増税や特殊要因によってズレるが、ベースが2018年度と同様の緊縮傾向にあることを知ることが重要だ。

 こうして見れば、消費増税とは、従来の緊縮傾向の上に、教育無償化分を除いた純増税を載せるものだと分かる。要するに、デフレ脱却前に緊縮を加速しようというわけだ。既に、国・地方の資金過不足のGDP比は-2.0%まで改善しており、この傾向のままで2020年度内にも財政再建の目標を達成しようという状況において、景気が悪化する中、焦って純増税を敢行する意味がどれだけあるのかが問われる。

(図)


………
 税収を過少に予想してしまうと、結果的に緊縮財政を行うことになる。当局の予想は、いつも堅過ぎるため、需要状況を把握するには、独自に予想を立てる必要がある。本コラムの場合は、一般にも理解しやすいよう、できる限りシンプルにしており、所得税は名目GDP成長率で、消費税はGDPの消費増加率で、その他税は物価上昇率で伸ばし、法人税は企業業績見通しを用いている。

 3か月ごとに出る企業業績見通しは、景気によって大きく変わり得るものであり、税収の予想も動くことになるが、そこは最新状況を追っていくしかない。ちなみに、1年前の7月に予想した2018年度の税収は60.6兆円だったから、まずまずの結果であった。しかるに、政府の財政再建の道標となっている「中長期の経済財政に関する試算」では、前年度決算の税収の上ブレが判明し、当年度予算の税収が明らかに低くなった場合でも、それを出発点に試算を行っている。これでは、実態の把握が遅れ、無用な焦りを誘ってしまう。

 国の税収は、2018年度までの3年間で年平均1.4兆円増えており、他方、当初予算の一般歳出は平均0.5兆円増にとどまる。つまり、毎年0.9兆円緊縮している勘定だ。これを少し緩めてはどうか。0.7兆円緩めれば、無償化のような大型の少子化対策を毎年一つずつ増やしていける。歳出増でGDPが増えれば、1/4が税・保険料で戻り、実質的な負担は0.5兆円程で済む。これを怠り、緊縮一本槍で来たから、少子化を挽回できないのである。

………
 的確に税収を予想し、実態を把握して焦らず、余裕を見定めて、最も優先かつ有効な施策を打っていく。ごくごく基本的なことである。国の緊縮を緩めても、地方や社会保険は締まったままだから、国全体としては、緩やかに財政再建が進むことになる。焦って緊縮を加速したり、反発から消費税廃止を唱えたり、選挙となっては、極論が飛び交うのも致し方ないにせよ、数字にかんがみれば、着実に直せる道がある。「改革」は無用だ。財政運営を修正するだけで、日本の経済社会は、かなり善くできる。


(今日までの日経)
 米、日本に協力打診 イラン沖で船舶護衛。新車市場が急減速。外国人最多の266万人 20代3割、労働力支える。少子化対策 盲点を探る(上) 晩婚・晩産化止まらず。
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7/10の日経

2019年07月10日 | 今日の日経
 月曜公表の6月景気ウォッチャーは前月比-0.1と、わずかに続落となった。家計関連はマイナス、企業関連はゼロ、雇用関連はプラスだが、消費はサービスが落ち、企業は、製造業が底入れの兆しがあるのに対し、非製造業が下げ止まらず、雇用のプラスは5月の10連休で労働需要が減った反動と思われる。総じて内容が良くなく、先行きが5か月ぶりにプラスになったくらいである。

 他方、5月機械受注は、民需(除く船電)が前月比-7.8%となった。それでも4,5月平均は前期と比べ+4.2%という水準だが、機械受注は振れが大きいので、少し長い目で見ると、非製造業は横バイ、製造業は低下が止まらない状況にある。現下の景気は、輸出の減少が続く製造業は不振でも、非製造業は堅調とされるが、ウォッチャーでの景況感の悪化が実体に波及してこないか心配である。

(図)



(今日までの日経)
 外需2カ月連続マイナス 5月機械受注 中国経済の減速反映。5月旅行収支、訪日客効果で黒字に 10連休の出国上回る。
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緊縮速報・2018年度もデフレの仕組みが駆動

2019年07月07日 | 経済(主なもの)
 新たな発見をするときに、思わず口を衝く言葉は、「わかった」ではなく、「おかしいな」だとされる。既存の考え方の枠組に矛盾するような現象との出会いこそ、セレンディピティである。日本の公債残高はGDPの2倍にもなろうというのに、なぜ、インフレの気配もなく、デフレに沈んでいるのだろう。ここで「いずれ必ず破綻する」と唱え続け、「おかしいな」と考えなければ、何も見つからない。せっかく、奇妙さに直面しているというのに。

………
 少し遅れたが、6/27公表の1-3月期日銀・資金循環では、4期移動平均で見た「中央+地方政府」の資金過不足のGDP比は-2.0%と、前期から若干の低下だった。これにより、2018年度内4期の平均は-2.3%となり、前年度より1.1%改善した。加えて、社会保障基金(主に公的年金)の資金過不足も0.2%改善しているので、いわば、財政収支の赤字は、GDP比で1.3%も縮小したことになる。これだけ緊縮すれば、年度の名目成長率が0.5%に低迷もしよう。

 一方、7/1に2018年度の国の税収が公表され、60.4兆円と、前年度比1.6兆円の増であった。所得税に0.4兆円の特殊要因が含まれるとされているが、バブル期の過去最高額を更新することとなった。こうした国の状況を踏まえると、税収規模が42兆円の地方は、国の7掛けの1.1兆円程の増収になっていると考えられ、保険料収入が31兆円の厚生年金も、1.2兆円の増収が予定されている。

 財政破綻論が喧しいにもかかわらず、なぜ、財政収支は改善するのか。それは、毎年の国の当初予算の歳出増を5000億円に抑制しているために、成長率が0.8%を超えようものなら、税収増が歳出増を上回って、緊縮の強いブレーキがかかるからである。地方では、地方税が増えても、不足を補う国の財源措置が減って、歳出が膨らまないようになっており、年金でも、賃上げや雇用者の伸びで増収になる中、給付はマクロ経済スライドで抑制される。

 こうした仕組みで財政収支は改善する。その半面、内需にデフレ圧力が加わり、いつまで経っても物価が上向かない。名付けて「デフレ・ギャランティ・プログラム」(DGP)である。MMTでは、物価を安定させる仕組みとして、雇用で調節する「ジョブ・ギャランティ・プログラム」」(JGP)が提唱されているのだが、既に、日本は、インフレ抑制どころか、物価を低迷させるほどの仕組みを完成させており、異様な実績を上げているわけだ。

(図)


……… 
 MMTの弱点は、物価や金利を安定させる仕組みに具体性が乏しいことである。ところが、日本をよく観察すれば、これに代わる無駄に強力な仕組みが既に実証されている。こうした隠れた「制度」の存在が、海外のMMT論者に、巨大な財政赤字も問題にならない実例と誤認させている。デフレ脱却を望むなら、MMTを導入してJGPを整えるといった迂遠なことをするより、自らを顧みてDGPを緩めてはどうだろう。

 必要なのは、ネオリベ、リフレ、MMTへと処方箋の「セオリー・ホッピング」をするのではなく、つぶさに実態を把握し、意図せざるデフレ構造を認識することだ。日銀・資金循環を見れば、着々と財政収支が改善しているのだから、デフレにはなっても、財政破綻なんてあり得ないと分かる。しかも、消費増税の2014年以降も改善しているのだから、緊縮になる仕組みが存在しなければ「おかしい」。そこで気づくべきなのだ。

 最近、財政破綻論の新刊を目にしたが、財政収支の改善トレンドが一時的に消えた2017年頃の状況を基に、GDP比3%の財政収支の赤字が続くという前提で、公債残高の発散を導き出していた。むろん、最新の状況では、またトレンドが復活しているので、こうした投射は、実態に合わなくなっている。年金を含めれば赤字が2%を割る今の状況なら、MMTのような極論はともかく、0.7兆円程のDGPの緩和なら、破綻の心配など無用だろう。

 参院選が始まり、野党は消費増税の凍結を掲げ、代わりに法人税等を上げるという主張のようだ。しかし、毎年、0.7兆円程の財源が出て、新たな施策が打てると分かっていれば、公約に並ぶ施策は変化するだろうし、実現の可能性が段違いとなる。0.7兆円は小さく見えて、幼児教育や高等教育の無償化の大きさだ。参院選で政権交代はないにしても、現実味ある施策の提案は、与党の不安を高めて取り込む動きを呼び、日本の政策を変容させていく。

………
 本コラムの主張はシンプルなものである。最新の財政収支を把握し、地方や年金も含めた全体像を理解し、性急すぎる緊縮の緩和を提案する。そのため、今回のように必要な統計データを迅速に紹介するようにしている。裏返せば、この国では、そんな常識的なことができていない。更新なき過小な税収見込みを用い、国の赤字ばかりを強調し、度合いを慮らずに緊縮を渇望する。どうしたら、ここから抜け出してくれるのか。移り変わるのは、理論ばかりである。


(今日までの日経)
 建設市場 陰る五輪特需。判断「下げ止まり」。協会けんぽ、18年度5948億円の黒字 過去最高に。

※健康保険は、あまり貯蓄をしないので、通常、デフレ要因にならないが、2016年度0.5兆円、2017年度0.45兆円、2018年度0.6兆円と、この3年は大きめの黒字を出している。

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7/3の日経

2019年07月03日 | 今日の日経
 月曜に日銀短観が出て、大企業製造業の業況判断の前期差が市場予測を下回る-5となった。大企業非製造業は+2だったものの、先行きが-6になっている。一般的な評価は、一長一短のようだが、筆者にとっては、心配が本当になったネガティブサプライズだった。しかも、調査の基準日は、6/11だから、製造業にとっては、米国の対中関税第3弾(6/15)が十分に織り込まれておらず、非製造業にとっては、5月の10連休の余韻が残る時期である。

 他方、6月の消費者態度指数の前月差は-0.7となり、5月が-1.0と大きめの低下だったにもかかわらず、更に下げた。低下は9か月連続で、水準は消費増税後の2014年11月並みである。この時には、不況色の強まりから、消費増税先送りの決断をしている。その後、輸出が上向いたことで事なきを得たが、果たして今回はどうか。景況感が悪化する中で、消費増税が争点となる選挙が行われることと合わせて、波乱含みの様相である。

(図)



(今日までの日経)
 税収60兆円超で最高、バブル期から構造変化 消費税、4倍弱に増加/法人税、減税で目減り。内需の持続力、景気を左右 6月景況感。ソフトバンクGの資金取引、税収4000億円かさ上げ。路線価、沖縄伸び率首位 19年。

※沖縄の地価は、金融緩和に、ある程度の実需が伴うと高騰するという例だね。
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