経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費税増税の目的とタイミング

2010年04月21日 | 経済(主なもの)
【消費税と景気】
 経済学は理論と実証だと言われる。確かに、理論の方は花盛りだが、実証となると、他の学問分野に自慢できるようなものではないのが実態だ。特に、マクロ経済となると、統計データを自由に統制できるわけではないから、実証といっても、そう解釈できる程度にとどまり、疑問の余地なく証明とは、なかなかいかない。

 今日は、1997年の消費税の引き上げが景気を失速させたという話をするが、このハシモトデフレの際は、消費税だけでなく、公共事業の大幅削減、特別減税の廃止、社会保険料の引き上げも行われ、さらに、信用収縮の発生、アジア通貨危機まであって、どれが主因なのかを証明するのは困難である。

 その意味で、消費税が主因であったか否かは、論者によって、どちらも取り得るところだ。ただし、消費税の影響がまったくなかったとする論者はほとんどいない。すなわち、主か従かの議論はあっても、無視はできないのである。したがって、政策論としては、「消費税の引き上げは、景気に悪影響を与えぬよう、慎重に行うべき」という主張を否定はできないはずだ。

【増税の方法論】
 それは具体的にどういうことなのか。例えば、消費税の引き上げは、「過去1年の物価上昇率が平均2%以上で、かつ直近3か月に上昇傾向にある場合にのみ、1%だけ引き上げる」という政策に対し、デフレでも上げろとか、一気に4%上げろといった主張はないだろうということである。まして、経済状況と切り離し、「2013年度には10%へ引き上げ」といった計画経済を行うかのような決定など論外ということになる。

 これは、消費税増税と社会保険料の負担減などを組み合わせた場合も同様である。組み合わせには必ずラグがあるし、影響は一過性であっても、消費にはショックを与える。これで意図せざる在庫増が発生し、設備投資が抑制されることが起これば、それだけで景気は崩れてしまう。ショックを最小限にする工夫は、するに越したことはない。

 消費税の引き上げで財政再建を目指すとしても、その究極の目的は、インフレや長期金利高騰の防止であろう。物価に連動して引き上げる政策を採れば、それで十分に目的を達せられるはずであり、マーケットの無用な不安も抑えられる。それ以上の急速な財政再建、「5年以内のプライマリーバランス赤字の半減」といったことを達成しなければならない理由はどこにもない。

【ハシモトデフレの実態】
 さて、1997年の消費税増税の影響だが、これを見るには、家計調査まで分け入る必要がある。増税の影響は、増税後でも消費が増えたかどうかを調べるだけでは十分でない。仮に、消費が増税後に少し伸びていたとしても、所得の伸びより小さければ、それは消費不足になるからだ。企業から見れば、生産を伸ばして賃金を渡したのに、同じ程度に消費も伸びなければ、在庫が増えてしまうことになる。

 はたして、1997年の4月の増税後、消費の伸びは、賃金の伸びを大きく下回ることになった。秋になって消費がいったん戻るものの、これは医療費の自己負担が増えた影響である。結局、全般的な消費の低迷は続き、本格的な不況へと至る。むろん、この間に在庫は急増し、企業は生産調整から設備投資の抑制へと動いた。

 当時の状況を体験した筆者にとって、消費税の影響がないとは、とても思えないのが実感だが、統計的に述べるなら先のとおりである。消費税は、バブル真っ盛りの1989年に導入したときは、増減税同額とされていたが、それでも当時の実質的な物価上昇率を、ほぼゼロに抑える効果を発揮している。目の前の値段が上がることが、いかに消費者行動に強く影響を及ぼすかという、価格メカニズムの強さを示す好例であろう。

 そもそも、消費から景気が失速するというのは、異例の事態である。通例は、景気が過熱し、金融の引き締めによって、設備投資が崩れ、そこから所得、消費へと波及する。消費から先に崩れるのは逆であり、そこには何らかの特別な動き、この場合は増税があると考えなければならない。

【おわりに】
 むろん、以上のような説明については、反論も可能とは思う。しかし、政策としては、財政再建自体を目的として、再度、危険を犯す必要はないはずだ。ハシモトデフレ後、不況によって、自殺者数は8000人も跳ね上がり、文字通り「悪夢の人体実験」となった。消費税の増税が経済に及ぼす影響を否定できない以上、リスクは最小限にとどめるべきであり、それが血で贖った教訓を生かすということであろう。

(今日の日経)
 財政健全化2案・法案原案増税にじむ。法人税引き下げ・民主、公約で方針。債権・国内投資家の買越額09年9月以来の大きさ。中国が豪社にサイバー攻撃。中国不動産融資残高44.3%増。住友鉱山ニッケル能力6割増。ブルーシール、香港に。太陽電池、価格競争が激化。敬座教室・社会で公平負担・神田玲子。都心の公有地に福祉施設。
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