経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

11月鉱工業生産は前月比-1.0

2015年12月29日 | 経済
 鉱工業指数は週遅れの公表だったので、フォローしておこう。11月の生産は前月比-1.0で底バイのレベルであり、出荷は-2.5と大きめの減となった。在庫は、予想どおり投資財の在庫が減少し、全体では+0.4だったものの、10月の落ちが大きく、12月は下がることが予想されるため、前期以上の在庫減が10-12月期GDPに出ると思われる。

 住宅投資や公共投資は、建設財出荷の10.11月平均が前期比-1.1だったことを踏まえれば、あまり期待できない。設備投資は、資本財(除く輸送機械)の出荷が同じく+0.5にとどまっており、7-9月期が-2.2だったことからすると、弱い状況だ。投資財の生産は、11月は再び低下し、鉱工業生産のレベルに近づいて、景気後退期の様相を呈している。

 予測指数は、12月+0.9、1月+6.0であった。これからすれば、10-12月期の生産は+1.4程度になり、実現率が低くても、プラスは確保できそうだ。もっとも、7-9月期が-1.2だったことからすれば、横バイ圏内での動きである。1月は異様に高いが、一時的な上振れで、2月には反動減もあると思った方が良い。

 実は、1月の指数には、季節調整済であるにも関わらず、不思議にも「季節変動」が見られ、この5年ほど、毎年、やけに高い。筆者は、このクセが嫌で、今年1月分の公表時には、コラムでの分析を休んだほどである。1月の生産水準の平準化が年々進んでいるとかの理由が考えられるが、このあたりの検証を「経済解析室」でやってくれたら、ありがたい。

(図)



(今日の日経)
 日韓の慰安婦問題が決着。鉱工業生産・11月在庫増。サウジ財政赤字10.5兆円。経済教室・貧困の連鎖・阿部彩。
 
※経済教室の貧困の連鎖は、昨日の小原美紀先生、今日の阿部彩先生とも読み応えがあった。時宜に合った良い企画だと思うよ。まず、なすべきはダブルワークの解消だ。これは財源なしでもできる。どうすれば良いかは、11/1511/22を参照。
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アベノミクス・まさかの消費底割れ

2015年12月27日 | 経済(主なもの)
 さすがに、11月の家計調査が消費増税直後の水準を下回るとは思わなかったよ。二人以上世帯の季節調整済指数の実質消費支出は91.8と、2014年5月の92.4より低く、過去15年間で最悪である。3か月で合わせて-4.0という落ち幅も大きく、東日本大震災時の2011年2~3月にかけての-3.9を超える。政府・日銀の「消費は底堅い」は、まさかの底割れで根拠を失い、消費という「一部の弱さ」によって、10-12月期GDPはマイナス成長が濃厚となった。

………
 消費不振は暖冬が理由にされているが、たまたま、お金を使う機会がなかったというのではない。勤労者世帯の可処分所得も、最悪の水準に落ちており、使えるお金が減っているのである。9-11月の可処分所得の平均は、6-8月より-3.3も少ない。この間の消費支出が-0.8にどどまり、消費性向が+0.7と上がっていることを踏まえれば、むしろ、消費は健闘していると言えるほどだ。

 その背景には、就業の停滞がある。「雇用は良いのに消費が」と言われがちだが、労働力調査で就業者数を見ると、消費増税後に伸びが鈍り、今年の春から夏にかけては、ほとんど増えなくなったことが分かる。9,10月は回復したかに見えたが、11月は期待を裏切る大幅な減であった。雇用者数の増加は、自営業主・家族従業者の減少でかなり打ち消されており、割り引いて見る必要がある。

(図)



 他方、11月の新規求人倍率は1.93倍、前月比0.10増と大きく上昇した。しかし、就職件数で見ると、この2か月で低落に歯止めがかかった程度である。正社員、パートともに、消費増税以降、低下傾向に転じており、パートのみ、2015年前半に盛り返しが見られたが、再び元の低下トレンドに戻っている。つまり、求人倍率は、消費増税後も上昇傾向にあると言っても、必ずしも就職には結びついていないということである。

 また、10月の毎月勤労統計の確報では、常用雇用が季節調整済指数の前月比で+0.2と、まずまずだったが、8,9月が+0.1と鈍かったことを踏まえれば、11月は安心できない。現金給与総額も気になるところで、3か月同じ水準にとどまっている。しかも、実質賃金は94.6と、1年前をわずかに0.3上回るに過ぎない。総労働時間は、最低値を更新し、低落傾向が続いている。依然、雇用の短時間化が進んでいることがうかがわれる。

(図)



………
 さて、10-12月期のGDPだが、11月の家計調査で「除く住居等」が前月比で-1.7にもなると、下方硬直性のある消費総合指数も、ある程度の低下は避けられまい。そうすると、残る12月に反動増で8月並みの高い数値が出たとしても、前期比はマイナスになる。消費は需要項目の「一部」でしかないが、6割を占めるため、これが足を引っ張るようでは、プラス成長を確保することは苦しい。

 他の需要項目については、11月の鉱工業指数の公表は週明けなので、見通しを述べるのはいささか早い。とは言え、前月に続き、投資財の在庫が減少していることは十分に予想され、10-12月期GDPを押し下げることになるだろう。住宅投資は一服しており、公共投資は緊縮財政のために下り坂にある。設備投資は、先行指標の機械受注が振るわない。あとは、上向きにある輸出がどれくらい牽引できるかである。

 今年は、1-3月期、4-6月期ともに、在庫増の成長への寄与度が0.5、0.3と最大項目になるという歪さだった。他方、消費は「除く帰属家賃」の寄与度が0.1、-0.4、0.2と推移し、次の10-12月期もマイナスであろう。これだけ消費が低迷すると、物価安になりそうなものだが、値下げでも売上増は期待できないと考えてか、むしろ、収益性を重視して、円安のデメリットを転嫁しているように思う。

 2014年度の消費増税に次いで、2015年度も8兆円規模の緊縮財政を敷いたのだから、消費の低迷は、政策どおりの結果ではある。本コラムでは、2015年度の国・地方の財政収支が一気にGDP比で2.5%も改善されると見ている。そして、来年度も更なる緊縮財政が実施される予定だ。アベノミクスは財政再建で大成功を収めた。むろん、それは、経済をほぼゼロ成長にし、2年前より消費を7兆円も減らす犠牲によって贖われた成果である。  
  

(今日の日経)
 マンション建て替えやすく、所有者合意2/3で。

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12/25の日経

2015年12月25日 | 今日の日経
 メリー、クリスマス。国に安らぎを、民に喜びを。

 日経には出てこないが、補正予算で、ひとり親家庭高等職業訓練促進資金85億円、生活困窮世帯の子どもに対する教育支援資金25億円、児童養護施設退所者等に対する自立支援資金67億円などが措置されている。一億総活躍が掲げられたことで、子供の貧困対策は進展を見た。救われる人が多からんことを祈る。
 
(今日の日経)
 来年度予算案96.7兆円決定、ひとり親世帯は児童扶養手当を加算(28億円)し、第2子以降の保育料を無料に(109億円)。社説・勤労税額控除も一案。
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政府経済見通し1.7%成長の評価

2015年12月23日 | 経済
 2016年度の政府経済見通しが発表された。実質1.7%成長は、強気と言って良いだろう。四半期ごとの見通しはオープンにされていないが、10-12月期から前期比0.4%成長を続け、消費増税の駆け込み需要がある最後の2017年1-3月期が0.8%成長になると目標達成だ。2014暦年が-0.1%成長、2015暦年が0.7%成長(見込み)の状況で、2016暦年が1.6%まで加速できるかどうか。そうなってほしいとは思う。

 消費の2.0%成長は、もっとハードルが高い。この見通しを達成するには、10-12月期から前期比0.4%強の成長を続け、同じく駆け込み需要の2017年1-3月期は1.5%成長を遂げる必要がある。2014暦年が-1.0%、2015暦年が-0.8%(見込み)の状況なのに、2016暦年は+1.5%のペースまで引き上げないといけない。

 成長の加速は、すべて「民」頼みであり、政府見通しの公需の寄与度はゼロとなっている。国は、実質的に補正0.5兆円、当初3兆円の緊縮予算を組み、地方は、0.7兆円の緊縮にするようだ。これに年金の支給開始年齢の引き上げによるデフレ効果が加わる。合わせればGDPの1%近くにもなりそうな重荷を背負いつつ、民は成長を果たさねばならない。

 政府経済見通しは、「政治的に高めではないか」という声もあるが、消費増税前には実現していたレベルである。したがって、そこへ戻る可能性は十分ある。ただし、足元の10-12月期から直ぐに戻らないと目標は達成できない。これがなかなか苦しい。換言すれば、10-12月期がゼロ成長だったりすると、早くも下方修正が必要になるわけだ。

 もし、下方修正となれば、成長速度は、前回の消費増税のときより低いレベルに在ることを意味するから、10%への再増税は経済的に困難ということになる。つまり、今回の政府経済見通しは、これを達成できそうにない情勢となれば、消費増税は延期されるというメッセージが込められていると見るべきであろう。


(今日の日経)
全電力会社に温暖化対策義務。内需主導の成長見込む・政府来年度見通し1.7%、民間を上回る。地方財政はリーマン後対応を縮小、地方債0.7兆円減。
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補正予算の隠れた意図を読む

2015年12月20日 | 経済
 3.3兆円規模の2015年度補正予算が決定された。参院選に向けて大型化すると考えた筆者の予想は大外れで、前年度並みにとどまり、ゼロ成長状態の景気を加速するものではない。同日の金融政策決定会合の結果も、追加緩和がなされたかに見えて、実は補完するだけのものと分かり、日経平均は急騰して下落する展開になった。財政、金融ともに、期待だけに終わり、現状が続くことになる。

………
 補正予算の中身を税収から見る人は少ないと思うが、ここに当局の意図は表れる。最大の注目点は、消費税収の補正を「しなかった」ことだ。消費税収の10月までの実績は極めて好調で、前年を36%、1.6兆円も上回っている。消費増税の平年度化分の増収予定額が1.7兆円であることを踏まえれば、その好調さが理解できよう。仮に、11月以降、各月の税収の伸びが名目成長率並みの2.7%に失速すると堅く予想しても、予算額を8000億円上回る。

 なぜ、これほど上ブレが確実でも補正しなかったのかと言えば、軽減税率の財源がアッサリ出てしまうからである。それどころか、2000億円のお釣りで、外食への拡大とか、保育の質の充実とかもできてしまう。官房長官が強気で軽減税率を押し通したウラには、こうした税収の見込みがあると推察する。全国紙や野党の「財源はどうするのか」という批判は、カラ騒ぎに終わるのではないか。

 これまで、消費税1%当たりの税収は2.7兆円とされてきたが、上ブレにより2.9兆円まで高まる可能性がある。そうなったときには、社会保障の財源論や財政再建の進捗にかなりの影響を与えよう。本コラムは、2015年度の税収上ブレを4.3兆円と予想しており、これをベースに名目成長率で伸ばしただけで、2020年度には基礎的財政収支ゼロの目標を0.3兆円ほど過剰に達成する見通しだ。今回の消費税収の上ブレは、過剰を更に積み上げることになる。

(図)



………
 補正予算の歳入で、もう一つ特徴的なのは、税外収入が0.35兆円のマイナスになったことだ。前年度の補正では+0.10兆円であった。これは、金利上昇に備え、日銀が納付金を5000億円ほど減らして蓄えるためである。補正予算の公債金減額は0.45兆円と、前年度の0.76兆円より少なくなったが、代わりに日銀が溜め込む。したがって、デフレ圧力は、ほぼ前年度並みと判断すべきだろう。マネー・ストックの拡大を求める日銀がマネーを吸い上げる役回りになるとは皮肉な話だ。

 歳出に関しては、主要な3項目の合計が前年度より5000億円も少なくなっている。他にも実質的な緊縮をしており、よく官邸が許したものである。それをごまかすべく、「復興の加速化」をうやうやしく掲げているが、前年度は「剰余金の震災特別会計への繰入」としていたのをお化粧したに過ぎない。また、地方交付税交付金が3100億円増えているが、2016年度当初予算に組み込まれるだけである。いずれも、需要を増大させる筋合いのものではない。

 マクロ的には以上だが、歳出の中身は、周知のように社会保障に大きくシフトした。前年度、地域や産業の振興が主要項目を占めていたのとは対照的で、少子化対策や介護の強化が目玉となっている。筆者は、日本経済には再分配の強化が必要と考えるので、ここは素直に評価したい。そうした中、年金生活者への給付金3600億円が強い批判を受けた。しかし、その年限りの補正予算では、こうしたバラマキをせざるを得ない。昨年も地域商品券の名目で2500億円を配っている。

 補正予算は、予想し得る将来にわたり、続けなくてはならない情勢にある。毎年、バラマキのネタを見つけるのではなく、若者や女性に多い非正規に社会保険の適用を拡大し、同時に年金保険料の軽減をすべきである。年金には積立金のバッファーがあるので、万一、補正予算ができないときでも調整可能である。高齢者向けのバラマキを批判するだけで、代案を示さないのでは、補正の在り方は変わらない。なお、非正規の救済は、低年金で働かざるを得ない高齢者にも恩恵があることを言い添えておく。

………
 以上のように、2015年度補正予算は、概ね前年度並みで、約0.5兆円の緊縮的内容である。2016年度予算については、新規国債を2.5兆円減額するとともに、税外収入の0.3兆円減で分かるように、別途、日銀が0.5兆円ほど溜め込むようだ。すなわち、財政のデフレの圧力は、計3.5兆円くらいであろう。加えて、予算額以上の税収上ブレが3兆円ほど出ると予想する。なお、地方と年金の数字は、これからだ。

 前年の補正+当初+地方+年金のデフレ圧力が8兆円にも及んだのと比べればマシではあるが、なかなかの大きさだ。素直に考えれば、景気の加速は期待できず、むしろ、足を引っ張られることになろう。財政当局は、軽減税率で惨敗したが、デフレ予算の仕込みには成功した。リベンジのつもりかもしれないが、こんな調子で景気が停滞してしまっては、2017年の消費増税を決めることは困難になる。


(今日の日経)
 企業内保育所5万人増。新規国債34.4兆円に減、来年度予算案。
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12/17の日経

2015年12月17日 | 今日の日経
 火曜に10月の消費総合指数がオープンになり、106.5と前月比-0.3だった。家計調査の「除く住居等」の前月比-0.4に照応する動きである。消費増税直後の2014年6月が106.5、半年後の12月が106.6、1年後の2015年6月が106.4だったわけだから、まさに、日本経済はゼロ成長状態ということだね。

 2015年度補正予算は、前年度比で中立だったが、2016年度の本予算は2兆円の緊縮にするようだ。前年度の補正で0.8兆円、本予算で4.4兆円の緊縮よりはマシなものの、相変わらずだな。来年度は年金支給開始の62歳への引き上げもある。企業には賃上げと設備投資を求めるが、財政は、どこ吹く風で、遠慮なく緊縮というのが実態だ。

(今日の日経)
 保育士確保へ緊急対策。3万円臨時給付・自民で異論噴出。夫婦控除は17年度税制で。政府見通し実質1.7%。
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12/15の日経

2015年12月15日 | 今日の日経
 日経が軽減税率の舞台裏を詳しく報じてくれている。財源を見つけられないなら、消費増税は見送りという論理だと、2017年は9%という帰結になる。軽減との差が小さければ、混乱も少なくて済むだろう。筆者の推計では、今年度の税収上ブレが4.3兆円なら、2020年度の財政再建目標は、わずかながら過剰達成される。財政当局は、目標達成には更なる緊縮を求めてきたわけだが、その論理は、過剰達成なら、逆にも働く。

 今日の経済教室はポーゼン&ブランシャール。賃金を引き上げたければ、法人減税をやめて、非正規の社会保険料の軽減に充てれば良いだけのこと。実際は、外形標準課税で逆のことをしている。彼らは、日本が2年連続で大規模な緊縮財政をしていることも知らないだろうし、社会保険の問題点を分かっているわけでもなかろう。日本の経済学者に、もう少し現実味のある提案をしてほしいものだね。

(今日の日経)
 東芝が最大7000人削減。検証・軽減税率・税制でも官邸1強。短観・先行きに慎重。経済教室・名目賃金5-10%上げを・ポーゼン&ブランシャール。

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癒しがたき緊縮策という病

2015年12月13日 | 経済
 マーク・ブライスの『緊縮策という病』で最も重い指摘は、「事実を積み重ねても、都合の良いイデオロギーは決して反駁されない」かもしれない。1.7%,1.4%と成長をしていた日本経済は、消費増税後、ゼロ成長状態に陥った。それでも、再増税を見直そうという機運は薄い。1997年に日本経済をデフレに突き落としたのも消費増税だが、失敗を繰り返そうとも、渇望に揺らぎはない。

………
 消費増税に限らず、経済政策では、同じ失敗が何度も試みられることは珍しくない。設備投資を促すはずの法人減税も、1997年の消費増税後に採られたが、目立つ効果はなく、今回も、消費増税の影響を打ち消すべく敢行されたが、あえなく失敗した。それにもかかわらず、更なる法人減税がなされる。

 異次元の金融緩和については、円安による企業収益の増大、株高による資産効果、インバウンドの拡大といった一定の効果をもたらしたが、消費増税のデフレ圧力を押し返すべくもなかった。それでもなお、成長をリードできるという幻想が与えられている。少なくとも、これには、まだ利用価値があるようだ。

 かつては、緊縮を主張する財政当局と、景気対策を求める経済界という構図でバランスが取れていたが、成長しだすと緊縮で芽を摘む経済運営を続けた結果、経済界は成長をあてにしなくなり、ひたすら企業負担の軽減だけを求めるようになった。こうして、緊縮財政+法人減税+金融緩和という、脱成長の三角思想が形づくられた。

 金融業の影響力の強い欧米では、もっと露骨で、三角思想でバブルを作り、崩壊の後始末まで財政に負わせる有様である。その理不尽さに対する憤りが、マーク・ブライスの著書の主題になっている。三角思想は、経済成長への貢献には無縁のものだが、当局と経済界にとって利用価値がある以上、廃れることはあるまい。

………
 さて、消費増税の軽減税率は、外食を除く全食品にすることで決着した。筆者は政治には疎いが、来夏には衆参ダブル選挙が行われ、そこでの公約は、9%への消費増税と軽減税率の組み合わせになるのではないか。10%にするのは2019年だろう。なぜなら、一気の消費増税で景気失速の憂き目に会った政権が同じ轍を踏むとは思えないからだ。

 さりとて、再び延期では、自らの言を完全に覆すことになる。友党の軽減税率の主張を丸呑みして、ダブル選への協力を取り付けるとともに、できる限り消費増税の悪影響を減らそうというわけである。9%への増税であれば、軽減税率に必要な財源は半分の5000億円で済むから、概ね確保できており、辻褄が合う。財政再建の目標は2020年であって、矛盾もない。

 経済政策としては、消費税1%分2.7兆円のデフレ圧力に対して、5000億円の軽減税率があり、年間1兆円の社会保障費の自然増を認めれば、1.2兆円まで縮まる。3兆円規模の毎年の補正予算を保ちつつ、多少積み増せば、相殺可能な範囲となる。一億総活躍の補正予算で国民を引きつけたように、これも政治的な資源となるだろう。

 逆に、一気に10%にしてしまうと、経済への打撃が大きいのはもちろん、他の政策で緩和することも困難である。補正予算を仮に6兆円まで積み増しても、公共事業などでは執行に難があり、今回の3000億円の一時金を遥かに上回るバラマキをしなければならなくなる。とても、まともな経済政策にならない。

………
 財政当局は、ひたすら緊縮がしたい。経済界は、景気がどうなろうと、法人減税と金融緩和による円安株高がもらえれば十分だ。しかし、政治は、庶民から生活の安定向上を問われる。民主主義の下では放漫財政になるとされた時代からは、隔世の感がある。政治は、当局と経済界からの献策が望めない中で、経済を癒す新たな思想と政策を生み出していかなければならない。そこに難しさがある。


(今日の日経)
 軽減税率で自公決着。

※『緊縮策という病』は、まず、若田部先生の解説に目を通した上で、第Ⅲ部で結論と2014年の最新状況を先に押さえてから、読み始めるのが良いように思う。
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12/10の日経

2015年12月10日 | 今日の日経
 10月の機械受注は、「除く船電」で+10.7と驚きの結果だった。9月の伸びの反動減が出ると思っていたのでね。ただし、仔細に見てみると、ひと月限りの上ブレに終わる可能性が高く、結局、底入れしたくらいの評価になるだろう。

 まず、製造業と非製造業に分けると、製造業は底入れ程度の上昇である。急伸は非製造業(除く船電)だが、内訳をみると、前月比プラスは、農林漁業、鉱業、運輸業、リースの4業種に限られ、中でも運輸業は、プラスの83%を占める。原系列では3業種で97%にもなる。運輸業の主な内容は鉄道車両の発注であり、持続性のあるものとは思われない。

 そもそも、緊縮財政で所得が吸い上げられ、内需が停滞しているのでは、設備投資が加速する理由がない。設備投資についても、均せば極めて緩やかな増加の中で、月々のプラス・マイナスの振れに一喜一憂というのが続きそうである。

(図)機械受注統計調査報告・内閣府 



(今日の日経)
 軽減税率は加工食品も、財源1兆円規模。


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2次速報と2年前のGDPとの比較

2015年12月09日 | 経済
 やれやれ、7-9月期GDPは2次速報でプラス転換となり、2期連続マイナスの景気後退は避けられたか。しかし、「潜在成長率が0.5%くらいだから、ゼロをはさんで上下するのは当然」と言うのは、どうかと思うよ。2012年は1.7%成長、2013年は1.4%成長だったものが、消費増税後にゼロ成長状態になったのだからね。(民主党政権時代の成長率の方が改定で高まったのは御愛嬌)

 実質GDPの水準を見ると、7-9月期は529.7兆円で、2年前の529.0兆円から、わずか0.1%の増でしかない。民間消費は-2.2%で、除く帰属家賃となると-3.0%にもなる。2年前までのトレンドとのギャップは18兆円だ。「緊縮財政恐るべし」としか言いようがあるまい。ちなみに、消費のマイナスの半分以上を埋めているのが純輸出だ。金融緩和による円安の恩恵を、緊縮財政が食い尽くしている。これがアベノミクスの実態である。

 1次速報の在庫減はやけに大きかったが、2次では寄与度が-0.5から-0.2に修正された。多くのエコノミストも指摘するように、これで10-12月期GDPも在庫減圧力にさらされることになる。11月景気ウォッチャーも季節調整値で50.4と今一つ。雇用は踏みとどまっているから、2015年度の各期GDPは、本コラムが再三指摘するゼロ成長状態のまま、マイナス、プラス、マイナス、プラスのまだら展開になるのではないか。

(図)



(今日の日経)
 原油安止まらず一時36ドル台。実感なきプラス成長7-9月期GDP1.0%増に上方修正。本格回復は年明け以降に、街角景気も低調。統計ズレが上振れ招く。

※その後、12/12の日経は、商業動態の在庫の9月速報値に集計ミスがあったと報じた。

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