経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

財政赤字を続けたらどうなるか

2011年07月31日 | 経済(主なもの)
 「こんな膨大な財政赤字を、いつまでも出し続けてはいられない」。それは、そのとおりである。では、どこまでなら大丈夫で、もし限界を超えたら、どうなるのか、今日は、ちょっと、そんなことを考えてみよう。

 まず、日本国債は、円建てである。少なくとも、予想し得る将来において、外貨建てで資金を調達しなければならない事態はないと言って良いだろう。仮に、貿易赤字が続いたとしても、日本は世界一の債権国であり、多額の金利収入を得ており、しばらくは持つ。対応への時間的余裕はあるということだ。

 国債発行の目的は、輸入のための外貨の調達ではなく、国内における社会保障などの支払いに必要な「円」を確保することである。したがって、日銀が市場から国債を買い上げる限り、無限に発行が可能だ。直接、日銀が国債を引き受けなくても、日銀に転売できると思えば、銀行は、いくらでも国債を政府から買うだろう。

 問題は、そうなったとき、お金があふれるために、インフレが起こらないかということだ。もちろん、社会保障給付を受けた高齢者が、まったくお金を使わず、ただ溜め込むだけであれば、何も起こらない。インフレは、お金を使おうとするときに、需要過多の状況が生まれて、発生するからだ。

 日本が膨大な財政赤字を出しつつもデフレであるのは、社会保障給付を増やしている割には、高齢者がお金を使ってくれないことが一つの理由だろう。そして、もう一つの理由は、本来、お金を必要とする企業が、さっぱり設備投資をしないことである。お金が使われなければ、インフレにはなり得ない。

 企業が設備投資をしないのは、需要の伸びに不安があるからだ。日本の財政当局は、景気が少し上向くと、すぐに緊縮や増税をする。これでは、とても怖くて設備投資はできない。こうしたことは、この15年間、何度も繰り返された。2010年度では、景気対策打ち切りで支出は5.7兆円減らされ、自然増収で税収は2.9兆円増やされた。これだけ需要を抜けば、デフレが続かない方がおかしい。 

 逆に言えば、日本は、早期の需要の吸い上げを行うことによって、企業の設備投資の意欲をくじき、資金を余らせることをしており、それでもって国債を低利で発行することに成功しているのである。日本の財政当局が緊縮と増税に先走るほど、ますます企業の設備投資は衰え、成長は停滞する一方、政府債務は更に巨大化することになる。

 これが終わるのは、企業が萎縮し切って、国内では縮小再生産を繰り返し、ついに設備投資の原資となる資金を十分手元に持てなくなったときであろう。ここで、国債は引き受け手を失い、お金が市場にあふれ出し、インフレへと向かう。むろん、設備投資の衰退によって、既に成長力は失われているので、スタグフレーションとなる。

 インフレへと向かえば、それに紛れて増税は容易にできる。インフレのために実質値での社会保障給付も抑制されるだろう。こうしたことで、インフレを破裂させないことは十分に可能だ。政策手段はあるということなのだ。そして、残されるのは、疲弊しきった生産力であり、失われた成長性である。放置された少子化によって、労働力の損耗も激しいだろう。一言で表せば、「疲弊の日本」である。

 こうして見れば、日本は、更に巨額の政府債務を積み上げたあげく、企業の衰退を経て、ようやく中程度のインフレが始まり、それを抑制する過程で財政再建が成されることになる。需要は超過ぎみだから、設備投資は刺激されるものの、金利は高く、労働力不足もあって、成長は思うに任せないだろう。

 顧みれば、日本の財政赤字は、ハシモトデフレ以前は、まったく問題が無かった。財政の赤字は、社会保障基金の黒字で埋められていたからである。将来、高齢化で社会保障基金が赤字化すれば、需要増によって税収が増し、財政が黒字化するという、ただ、それだけの構造であった。しかし、ハシモトデフレをしたことで、賃金が伸びなくなり、保険料が集まらないようになって、社会保障基金まで赤字へ転落した。

 現在は、デフレによって企業にせき止められたお金を、財政が国債で吸い上げる形となっている。日本の財政当局がしていることは、緊縮と増税によって、企業の設備投資の意欲を衰えさせ、成長力を奪うことによって、企業にお金が溜まらない構造に変えるものだ。社会保障基金の次は、企業を壊そうというわけである。

 こうして、お金の溜まりどころを次々に破壊し、ようやく市場にお金が溢れるようなって、インフレに始まる財政再建が可能になるのである。社会保障が壊され、企業も潰されて、「焼け野が原」となった日本で、財政だけが健全化される。日本の財政当局が連れて行く未来は、なんと凄まじいものであることか。先走りをせず、成長とデフレ脱出を待ってから緊縮と増税をすれば、こうはならない。わずかな経済運営のタイミングの違いが国の将来を分けるのである。

(今日の日経)
 想定レート80円大勢に、企業は円高定着に備え。フェイスブック開国迫る。投機筋の円買い膨張。リスク確率論の軽視の代償・太田泰彦。メガソーラー陣取り合戦。復興消費が旺盛、支援者流入。読書・ポスト・マネタリズムの金融政策、日本のソブリンリスク。
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生産回復後の成長のために

2011年07月30日 | 経済
 「もはや戦後ではない」という有名な経済白書の文言は、時代の区切りとして受け止められたが、実際の内容は、復興による成長が終わり、新たな段階へ移行する難しさを指摘するものであった。震災から4か月以上が経過して、日本経済は、ほぼ震災前水準を取り戻した。同様に「災後」の段階にさしかかっている。

 時代の区切りとなった経済白書だったが、皮肉にも、翌年には不況に突入することになった。国際収支の悪化のため、引き締めを余儀なくされたからである。今の日本も、成長を維持するためには、輸出を伸ばすことが必要だが、米国の成長は停滞し、中国は引き締めを続けており、黄信号が点っている。

 今日の日経にあるように、米の4-6月期のGDPは1.3%の低成長になった。これが深刻なのは、1-3月期が1.5%もの大幅な下方修正をされたからプラスになっただけで、それがなければ、マイナスだったということである。実際、個人消費は0.1%増にとどまる。輸出関連は好調なものの、引き締めが続く新興国の需要を頼りにしている危うさがある。

 こうしてみれば、日本は、増税だ、緊縮だと、大騒ぎをしている場合ではないはずだ。23兆円もの復興費は、具体性が乏しく、この両年でどの程度の執行がされるかも分からない。それを賄う10兆円の増税は、5年の短期でする根拠がまったく不明だ。政治の問題以前に、支出内容を精査し、負担の平準化を図るという財政運営の基本を、当局が蔑ろにするからこうなるのである。

 河北新報によれば、宮城県知事は、県内分だけで12.8兆円の復興費が必要であり、国の23兆円では「全然足りない」と批判したようである。震災における建物の全半壊被害は、宮城県が全体の半分以上を占めることを踏まえれば、「全然」と言うほどではあるまい。疑問なのは、宮城県の全半壊被害が約10万戸であることを踏まえると、復興費は1戸当たり1億2000万円にもなってしまうことだ。

 これでは、「1戸1億円あげるから、復興はやめて、他県に引っ越してもらいたい」ということになりかねない。むろん、これは言い過ぎであるが、復興費に精査が必要なことは間違いない。おそらく、時間軸や既存財源の扱いの違いによって、県の試算が大きく見えるだけで、国の復興費の範囲とは異なる面があるのではないか。

 復興費の総額を決め、それに増税をリンクさせるようなことをすると、どうしても、こうした積み上げ数字との齟齬が生じる。混乱の中で、各県や市町村に正確な復興費を見積もれと言っても無理があろう。それゆえ、阪神大震災の際は、応急措置のみを切り出し、あとの復興費は、毎年の予算の中で措置する方法が採られた。今回は、復興費を増税にリンクさせたこともあり、復興費への詮索は避けられまい。現に、日経社説は、そうしたことを言い出している。財政当局は、増税を仕掛けるために、罪作りなことをしたものだ。

 増税についても、日経は政治を批判しているが、5000億円程度に抑えていれば、抵抗もかわせたように思う。それが可能なことは、本コラムの7/24などに書いたとおりである。財政当局は、一気の増税をもくろみ、いらぬ困難に直面しただけなのだ。歳出削減策も、高速割引の廃止で済むものを、子ども手当を持ち出し、潰しのテコにしている。被災者と一般国民の対立を意図的に仕組んでいるようなものだ。

 昨日は6月の家計調査が公表されたが、日経と異なって、筆者は、消費について、まったく楽観していない。販売統計は好調でも、こちらは低迷を続けている。この差異は、モノ以外への消費が振るわないためだろう。子ども手当支給月に見られた消費の持ち上がりもなくなった。支給開始から一巡し、年少控除廃止で効果が半分になっているのだから、無理もない。

 震災による打撃からの生産回復は予想より早く進んだ。その意味で、もはや「災後」ではない。今後は、回復以外の要因で成長を果たさねばならない。輸出に懸念がある中、内需も着実に伸ばす必要がある。世間的には、政治がだらしないとしか見えないだろうが、財政運営のあまりの稚拙さに、危惧を覚えるのは筆者だけだろうか。

(今日の日経)
 増税10兆円を明記できず、復興基本方針を政府決定。米1.3%の低成長、1-3月0.4%に大幅修正。日立・三菱電の収益復調。社説・復興増税から逃げるな。原発やらせ続々、6社と保安院も。復興債の償還期間が火種。震災前水準に近づく、生産95%、輸出94%。韓台のパネル・半導体大手が一段の業績悪化も。台湾マイナス成長。電子部品、通期で4社増益見込み。東電、大型火力を新設、2012年7月稼動。富士重、石巻で採用。用紙、中国で需要減少。
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参院選改革のための数理

2011年07月29日 | 経済
 余計なことを書いて、数値計算をするハメになってしまったよ。昨日、「なお、理論的には、500人まで増やすと、1県ごとの比例代表も可能になる」としたが、計算をし直したら、もっと少ない262人で可能なことが分かった。むろん、論旨に変わりはないのだが、数値については、謹んで訂正する次第だ。

 昨日は、人口最小の県が総人口の約1/250と見込み、半数改選のため、その倍の500人程度は必要だろうと簡単に考えたのだが、1票の格差を2倍以内に抑えればよいという条件を付すなら、これは逆に言えば、2倍までは許されるということになるため、500人の半分程度で収まることになる。「簡単」に言うと、こういうことだ。

 具体的には、人口最小の鳥取県の59万人を基礎に、その2倍弱の117万人で、各都道府県の人口を割り、必要な議員数を算出する。例えば、東京都は1316万人÷117万人=11.2で、小数点以下を切り上げて12人とする。同様に47都道府県について処理し、足し合わせると131人になる。参議院は半数改選だから、2倍の定数262人が必要というわけだ。

 参院の定数は、現在、242人だから、20人足りない。つまり、数理的に1票の格差を2倍以内に抑えることには無理があるのだ。47の選挙区を減らすか、定数を増やすかが必要になる。現在の各党の案は、定数を減らすことを前提にしているから、合区やブロック化で選挙区を減らさなければ、1票の格差是正は困難である。

 ちなみに、1票の格差を2倍より小さい数値、例えば1.5倍以内などに抑えるのは、非常に困難が伴なう。都道府県を選挙区にすると、1人区と2人区を設定する必要があるため、1人区から2人区に変わる人口の境目で、必ず2倍弱の格差がつくからである。こういう数理的構造から、2倍から少し下げようとするだけで、相当な定員増が必要になる。

 また、この構造があるために、1票の格差の指標を「倍率」にするのは、必ずしも適当でないことも分かる。例えば、東京の人口は鳥取の22倍以上だから、鳥取が定数1なら、東京は定数22であるべきだが、2倍以内であれば、先ほどの12人で収まってしまう。同じ2倍以内であっても、総定数が多いほど、東京には、より多くの定数が割り振られる。本当は、倍率だけでなく標準偏差(バラツキ)での評価も必要だろうが、一般には分かり難いと思う。

 今回の計算で割り出される都道府県別の定数は、東京12、神奈川・大阪8、愛知・埼玉7、千葉6、兵庫・北海道・福岡5、静岡4、茨城・広島・京都・新潟3である。そして、19県が2人区、14県が1人区になる。これは半数改選の数であり、実際が東京5、神奈川3、北海道2であることを考えると、都会と言うより、人口の多いところの不利が分かるだろう。

 数理的に、格差、定数、選挙区数の三つは、あちらが立てば、こちらが立たずの「トリレンマ」の関係にある。筆者は、議員の数を減らすより、1票の格差是正を重視すべきと考える。安上がりでも、代表制が歪んだ議会では意味が無かろう。また、2倍以内という尺度でさえ、相当、小さい県が優遇されることも認識すべきだと思う。

 今回、お見せした、1票の格差を2倍以内にするために、定数を20人増やした上、全国区の48人を都道府県に配分する案は、レファレンス(参照基準)になると思う。定数増と多人数選挙区の出現によって、小政党も概ね現有議席は維持可能と考えている。その意味でも有用に思えるのだが、いかがであろうか。

(今日の日経)
 米債務問題、世界が緊張、格下げを意識。衆院選挙制度、民主、改革へ2案。ハイアール、東南ア拠点確保。奇妙な条件付数次ビザ。仏には原発事故対応の専門部隊。米、太平洋諸国に急接近・中山真。JTがスーダン会社買収。再生エネ特許に日本勢の弱さ。商社5社利益リーマン前9割に回復。経済教室・民法抜本改正・太田穣。

※米にはこういう戦略的発想があるが、日本はこの地域の重要性すら分かっていない。筆者も微力ながら努力してきたんだがね。
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参院選改革は移し替えで解決

2011年07月28日 | 経済
 日本の憲法体制を考える上で、選挙制度が重要であることは論をまたない。本コラムの構想は、衆院は、小選挙区制として、2/3の確保が容易な「決断の府」とし、参院は、ブロック比例代表制として、世論の縮図の「再考の府」とするものである。これで、憲法改正を伴わずに、憲法上におけるネジレ問題を解消しようというわけだ。

 今日の日経は、隣県を合区する参院選改革の民主党案を報じ、各党の案には隔たりが大きいとする。ここでは、バラバラに見える各党の案を、あえて一つの軸に並べて見せたあと、解決策を示そう。それが議論の進展に資すると考えるからだ。その「軸」とは、各党の違いは、全国をいくつの選挙区にするかにあるということだ。

 すなわち、全国を9つの選挙区にするのが西岡議長案、11にするのが公明党案、42が民主党案、47が自民党案と並べられるのである。むろん、自民案は都道府県が1区だから47であり、民主案は、10県を2県ずつまとめて5区にするから、5つ減って42になるわけである。あとは、いくつにするかで妥協を図れば良い。意外と20くらいが妥協点かもしれない。

 まず、自民党案の短所は、定数を倍増するようなことでもしなければ、47では一票の格差の是正は数理的に無理なことだ。しかも、一人区が多くなり、衆院と似た構造になってしまう。これでは長期的に、参院不要論を惹起しかねない。ここは、友党の公明に近づけるべく、妥協が必要だろう。

 民主党案は、一票の格差を縮めるため、都道府県の枠組みの最低限の「崩し」をしたものだ。自民も民主も政治実態がある都道府県の枠組みにこだわりがあるようだ。他方、二県の合区には、まったく政治実態がないため、どうしても納得感が乏しくなる。県より大きい枠組みは、やはり、ブロックなのである。

 その意味で、公明党の11案は、既に衆院の比例代表という政治実態がある。このうち、関東は、北関東、東京、南関東と、人工的に分割されているが、それでも、多少の納得感があるのは、関東という枠組みが被さっているからだろう。そして、衆院で受け入れられている大きな理由は、定数が180人もあって、一つの県で頑張るだけでも、当選できる点が大きい。

 参院は半数改選だから、定数を200人に減らしてしまうと、1回あたりの定数は100人になってしまい、一つの県で頑張るだけでは、当選が難しくなってしまう。これは、二県合区案への抵抗感も同じ理由だろう。定数1では、どちらかの県代表が出せなくなってしまうのだ。少なくとも、区の定数は、そこに含まれる県の数よりも多くなければならない。

 そこで、本コラムの提案は、参院の定数を「増やす」ことである。衆院の比例代表180人を移し変え、参院を360人してしまう。これだけ増やせば、1回の選挙で、1県から1人の代表を出すことは十分に可能になる。参院の県代表という考え方を、最低限は残せることになるのである。なお、理論的には、500人まで増やすと、1県ごとの比例代表も可能になる。

 いかがかな。議論が行き詰まったら、思考の枠組みを広げ、ビックディールを考えるべきなのだ。それは衆院との一体改革になるのは明らかだろう。政治家は、次の選挙のことだけでなく、憲法体制をどうすべきかを構想しなければならない。そうすれば、難しい問題に見えても、答えはおのずと明らかになるのである。

(今日の日経)
 三洋の白物家電売却、中国のハイアールに。子ども手当860万円軸に。社説・インド経済。参院選改革隔たり大きく。円高騰、主要通貨で際立つ。トップ交代、水産特区に追い風。B型肝炎、救済基金1兆円、増税7000億円、厚労省1000億円。中国初の空母、航行へ。FT・豪が米軍基地受け入れも。ドラッグ店・高齢化に需要。東電がイクシスから調達、契約更新相次ぐ。九電、企業統治不全。アイリスLEDを3倍増産。経済教室・危機の経営・伊藤邦雄。女性、猛暑で寿命縮む、今年は震災も。

※敵に塩を送ることにならねば良いが。※デフレにしているのだから、円の価値が高まるのは当然でもある。※東電の契約更新は火力分割のチャンスでもある。※九電のガバナンスの酷さは日経西部版に詳しい。※寿命の短縮は、猛暑でたまたまではなく、生活水準の停滞が原因かもしれない。寿命の伸びは年金にも大きく影響するので注目だ。
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子ども手当のバラマキ幻想

2011年07月27日 | 社会保障
 デフレの只中だというのに、日本人は本当に増税が好きだね。毎日、紙面を賑わしているのは、そればかりだ。ところで、今年度、5500億円の増税がされているって知っとるかね? さらに、来年度は4400億円、そして、2013年度は800億円の増税が決定済みだ。「増税ファン」なら、このくらい知ってないといかんよ。

 ここで言っているのは、年少控除廃止による所得税と住民税の増税のことである。しめて1.1兆円になる。また、幻となった子ども手当の上積み部分の財源として、今年度は、所得税の給与控除の縮小などで2000億円の増税も行われている。これは、住民税にも跳ね返り、来年度以降、3000億円規模の増税になるのではないか。全部を合わせると1.6兆円だ。

 対するに、子ども手当の給付費は、2.9兆円であるが、従来からある児童手当分を除く、純然たる子ども手当分は、1.6兆円である。こうしてみると、子ども手当の財源は、既に手当てされていると言っても良いだろう。もう、バラマキでも何でもないのである。日本の財政当局の巻き返しの凄さが分かっただろうか。彼らは、こういう宣伝はしないけどね。

 これで驚いてはいけない。彼らは、子ども手当の削減も画策しているからだ。現在、与野党で協議が進んでいる案では4000億円が削減されるようだから、少子化の日本で、子育て支援どころか、以前よりも負担を重くして、一層、少子化を加速しようというわけだ。民主も、自公も、自分たちが、一体、何をさせられているのか、分かってやっているのだろうか。

 財政当局は、復興財源の既存歳出の削減分として、まだ協議中の子ども手当の削減分を、あえて織り込んでいる。先日も解説したように、削減分としては、高速道路の割引分を充てることも可能なのに、それを外して子ども手当の削減を織り込んだのは、与野党協議を後押しするためだろう。ダメなら、そこで高速割引を出すということかな。震災を、バラマキ潰しのダシに使うとは、大した狡猾ぶりである。

 昨年度、エコポイントなどの景気対策が打ち切られる中で、新たに始まった子ども手当は消費を下支えしたが、今年度は、7500億円の所得増税があるため、効果は半減し、消費は足を引っ張られることになる。来年度になると、効果はほぼゼロだ。どうして、これで復興で内需が盛り上がると期待できるのだろう。

 復興費を賄うためには、ある程度の増税も必要だろう。しかし、それは、5年という短期償還をするための一気の増税は避けるとか、復興需要でデフレ脱出が明確になるのを見極めてからにするとかの慎重さが求められよう。回復が順調なら、2012年度は3~4兆円の自然増収も望めるのだから、焦る必要はないはずだ。

 まあ、こう言っても、日本人は聞く耳を持たないだろうなあ。去年、増税したことも、すぐに忘れ、「もっともっと」だからね。せめて、こんなことをしておいて、「なぜデフレが続くのか」とか、「なぜ少子化はひどいのか」なんて、首をひねることだけはやめてほしい。「成長も将来も捨てて、増税を選んだ」と威張ってほしいものだ。

(今日の日経)
 東電リストラ、データセンター売却、リクルート株も。次世代電力計を集中整備。インド0.5%利上げ、引き締め姿勢強化、予想上回る幅、消費・投資の重荷に。復興財源、確保難しく、基幹3税すへての増税も最低賃金は小幅6円上げ。米車大手、陰る収益力、原材料高が影響。省エネ新型船を初受注。カルビーが米菓参入。微細気泡で使用削減、初期投資はファンド負担。経済教室・新陳代謝進め生産性向上・深尾京司。

※インドは減速が明らかでも、思い切った利上げをしなければならなかった。インフレ抑制に、こうした金融政策は避けられない。そして、その後の急速な成長の低下も。
※今日の深尾先生の論考だが、収益率も資本係数も、景気動向を表しているだけに思えるし、企業規模別の違いも、輸出関連企業の伸びや福祉関係企業の伸びを反映したもので、結局、外需や社会保障の拡大が生産性や雇用を伸ばしたということではないのかね。
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利払い費での隠蔽・仮装

2011年07月26日 | 経済
 数字がごまかせないときは、解説で煙に巻く。また、日本の財政当局の隠蔽・仮装のテクニックが炸裂だ。日経は「国の利払い費8年ぶり高水準」という見出しで財政危機を煽っているが、そこは「お付き合い」の上で仕方のないところもある。プロからすると、この記事は、まったく違って見える。

 先日も触れたが、財政当局は、国債発行額44兆円枠を、政治の財政における自由度を縛る手段にしている。国債を増やせるなら、財源捻出や増税の苦労をしないで、歳出を増やすことができるからだ。したがって、この44兆円枠は、何か減らせる事情ができたとしても、減らすわけにはいかない。もし、減らせるのなら、その代わりに歳出を増やしたいと、政治から言われてしまう。

 記事から数字を拾っていくと、「2010年度の利払い費は9.7兆円を計上するも、2兆円近く少なくて済んだ」とある。素人は「少なくて良かったね」で済むかもしれないが、玄人は「酷い積み込みをしてやがる」と思うわけである。利払い費を2割も読み間違えるなんて、それは意図的なものだとしか考えられない。あるいは、よほど無能なのか。

 つまり、44兆円枠を維持するため、余計に利払い費を積み込んでおいたということなのである。世間には、「史上最高の国債発行額」とか、「税収を上回る発行額」とか言って、散々危機を煽っていたのに、実際はこんなものである。むろん、税収の方も過少見積りをして、結果的に当初より4兆円も伸ばしている。先のフレーズを盛んに引用し、「財政危機」に踊った有識者は数知れないだろう。

 この利払い費だが、もちろん、2011年度にも積み込まれている。2011年度の利払い費が過大だということは、前にも本コラムで指摘したが、それが現実になろうとしている。何しろ、国債金利が1.1%を割る低空飛行にも関わらず、2011年度は9.9兆円と、2割余らせた前年度より更に増やしているからだ。黙っていても、2兆円の「財政再建」は成されることになろう。そして、国民の無知に付け込んで、2012年度でも44兆円枠をセットするらしい。

 こんな事情があるから、財政当局は、利払い費が「8年ぶりの高水準」だとか、米英に比べて歳出比率が高いとか言って、解説で煙に巻こうと懸命だ。しかし、裏返せば、7年間は利払い費が少なかったということだし、独仏よりは低いということだから、日本国債の安定ぶりの理由を説明しているようなものだ。

 仕方がないので、富田俊基先生の「金利が上昇すれば、利払い費が急増するリスクがある」とのお言葉で締めくくっている。確かに、それは間違いではないが、金利が上昇すれぱ、利子課税による「税収」も急増するし、デフレ脱却による金利上昇なら、法人税や所得税も増加する。こういう都合の悪いことには、財政当局は口を噤むんだよね。

 いつも言っていることではあるが、筆者は、将来的な増税は必要だし、財政再建も大切だと思っている。しかし、それは、情報操作で達成すべきものではない。税収でも、利払い費でも、現実に即した見積りを立て、経済状況に合った需要管理ができるよう、財政運営をしなければならない。それを怠り、世間の目を欺いて闇雲に緊縮をかけて、デフレを助長したりするから、かえって財政再建が遠のくのである。財政危機を憂う「有識者」には、与えられる情報に対するナイーブさを、少しは改めてほしい。財政再建のためにもね。 

(今日の日経)
 電力5社2兆円燃料増。海上権益・後手の日本、欠かせぬ戦略。2次補正が成立。米債務不安、ドル安拍車、介入の観測も。国債の加重平均金利が1.29%と過去最低、利払い費1600兆円増に止まる、利払い費の歳出比率8%は10%超の独仏を下回る。経団連会長が協調介入を要請。被災者に公営住宅売却。復興財源・東京メトロ株売却浮上1700億円。ベトナムが貿易手続き日本方式採用。ロシアは原油頼み脱せず。経済教室・成長か衰退か・小峰隆夫。

※介入の要請ね。協調介入はあるまいよ。やるなら、米国の国債上限の妥結で、円安に触れたところで一気にかな。基調は戻らずとも、輸出企業に円を供給できれば、それで良しだ。

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純真を失わせない社会

2011年07月25日 | 社会保障
 主要な論者の1人なのでね。西沢和彦さんの最新の著書である「税と社会保障の抜本改革」を買い求めた。書店では見つけにくかったよ。いつもの経済や社会保障のコーナーではなく、税金のコーナーに置いてあったからね。税から始まるタイトルのためだろうか。

 西沢さんは「世代の視点を持て」とするのだが、年金で世代間格差を言う人は、本当の意味で、給付と負担が分かっていないように思う。確かに、団塊の世代は、負担以上の給付を受けている。他方、団塊世代の子世代は、負担以下の給付しか受けられない。そうすると、子世代の「損」は、団塊世代の「得」が原因であり、団塊世代の給付の削減で「損」が減らせるような気がしてくるのだが、実は、そうではない。 

 なまじ経済学に心得があると、「損」と「得」とを見つけた途端、すぐに、因果関係で結びつけがちだ。「フリーランチはない」とか、分かったようなことを言ってね。ところが、賦課方式の年金制度は、フリーランチが「ある」数少ない例外の一つなのである。これは、珍しくはあるが、年金以外にも見られるものだ。これを認識できるか否かが、経済学者と年金学者の境目かもしれない。

 もちろん、厳密なことを言えば、年金にも「損」を背負う人たちが存在する。それは最終世代である。第一世代が負担なしで給付を受け、最終世代が給付なしに負担をする。それが賦課方式の基本構造である。これが問題とされないのは、人類なり、国家なりは、永遠に続くと仮定するからである。絶滅しても大丈夫な制度など、考えてもムダなのだ。

 日本は少子化にある。そのため、少しずつ、給付を受けられない最終世代、それは、子どもを持たない人ということだが、それが出現しており、これによって、世代間で損得が生じる事態が起こっている。そうすると、「人口が減ることも、あり得ることなのだから、それに対応できない制度がおかしい」という反論もありそうだが、これもハズレである。

 賦課方式は、人口減少にも耐えられるからである。ある世代で少子化が起こっても、次の世代で少子化が止まり、減少した人口であっても、安定しさえすれば、「損」を、後に続く多くの世代で広く薄く分担することが可能だからである。日本で、それができないのは、少子化の止まるメドがまったくつかない底なし状況にあるからだ。繰り返すが、少子化の行き着く先にある「絶滅」を前提にしては、どんな制度も成り立たないのである。

 これに関しては、積立方式なら良いのではと、小賢しいことをいう人もいるのだが、考えてみたらよい、モノ・カネを溜め込み、1人も次世代を残さなかった最終世代が年をとって働けなくなったとき、一体、誰がサービスを提供し、モノを生産してくれるのか。働いてくれる次世代が居なければ、溜め込まれたモノ・カネがあっても、資産価値はゼロになろう。少子化に従い、せっかくの貯蓄も減価する。モノ・カネが人の代わりになると、安易に考えてはいけない。

 結局、西沢さんが主張するような世代間の損得を明確にしたところで、何の解決にもならない。「得」している団塊世代への給付を圧縮したくらいでは追いつかないほど、少子化の「損」は大きいからだ。解決策は、少子化を緩和すること、これしかない。反対に、少子化さえ解決できれば、団塊世代の「得」なんて、まったく問題にならないのである。

 こういう理屈が分かるのは、ほんの一握りの専門家だけである。おそらく、世代間の損得を、出すの出さないので揉めたあげく、それが明らかになったところで、世代間の損得の調整くらいでは解決がつかないことが分かり、その頃には、もう、少子化が手遅れになっている。そんな経過をたどるのではないか。 

 「世代間の格差」を騒ぎ立てるのは、団塊の子世代に当たる若手の研究者に多いように思う。彼らは、自分たちが団塊の世代に搾取されていると思い込んでいるからだろう。しかし、年金で損をする本当の理由は、団塊の子世代が少子化を起こしたことにある。負担より給付が少なくなるのは、支えてくれる世代を少子化で細らせてしまったからなのだ。

 30年後、団塊の子世代が老境を迎えたとき、支える世代からは、「子育ての負担をしなかったのだから、保険料より給付額が少ないのは当然」という論理を突きつけられるだろう。それは、彼らが、今、団塊の世代に言っていることと同じ論理である。自分らの主張が自分らに突き刺さることになろうとは、思ってもいないだろうがね。

 本当に、そうなるか、支える世代の代表である近所の幼稚園児に尋ねてみた。「お父さんやお母さんのお手伝いをするなんて偉いね。キミは、よその人でも助けてくれるのかい?」、彼は、ちょっと、けげんな顔をした後、こう答えた。「助けるよ、良い子だから」。この子が純真さを失わないでいられる社会にすることを願ってやまない。

(今日の日経)
 シェア調査・日本の首位企業も劣勢。膨張中国、身構える周辺国。日本近海のメタンハイドレード、18年度に技術確立。アジア通貨安、元が見えない天井に、対円では2割元安。セブン・震災後の力。政府の科技5年計画、環境・エネ重視。ホットスポット、降雨で沈着。経済教室・復興へ統計の追跡継続を・乾友彦。

※中国に対し、米は比を押し立てて臨む構図になった。日本には大したことができないのは残念だな。
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復興予算のカラクリを破る

2011年07月24日 | 経済
 久々に日経が他紙に先んじて復興方針のペーパーを手に入れてくれた。まあ、もらう順番が来ただけかもしれないが。そこで、もらった手前、辛辣なことは書きにくい記者に代わり、筆者が分析してみたい。昨日のコラムと重なる部分もあるが、財政当局のカラクリをお見せしよう。

 まず、復興方針の歳出削減の3兆円の中身である。一次補正の際には、子ども手当上積みの見直し2100億円、高速無料化実験1000億円、高速割引の見直し2500億円、ODA縮減500億円の4つで合計6100億円を捻出した。おそらく、これを4年続けることで、2.4兆円は確保するということかと思う。(この他に、高速無料化の平年度分200億円×4年や一次補正で500億円あったエネ特会の整備資金からの確保も考えられる)

 日経は、ODA削減について、震災に支援を寄せてくた世界各国に、「恩を仇で返すようなもの」と強く批判していたのだから、これをこの先も続けるので良いかと、問わなければならないだろう。他方、高速の無料化や割引はスッパリあきらめ、割引原資である2兆円の「埋蔵金」を供出すべきだろう。原発代替で火発を使わざるを得ないのだから、自動車のCO2の削減には努めなければならない。

 財政当局は、こうした3兆円の歳出削減をした上で、10兆円の増税をもくろんでいるようだが、「経済予備費」の8100億円枠は温存するつもりなのかね。これは、景気悪化の際の隠し財源である。災害発生時などの本来的な予備費3500億円は別途あるから、すべてを震災に当てても差し支えないものだ。実際、一次補正の財源にもしている。

 この枠がこの先4年分で3.2兆円ある。今回、これが方針の中に入っていないことが明らかになったわけだから、10兆円もの増税は「不要」ということが判明したことになる。やれやれ、こういう隠蔽工作があるから、油断ができないのだよ。これだけで復興増税は6.8兆円に圧縮される。さらに、本来の予備費も、台風被害などが無く、余った場合には復興債の償還に充て、増税を圧縮すべきであろう。 

 ところで、まだ決定事項ではないが、子ども手当については、国債特例法案で野党の賛成を得るため、一層の削減が検討されている。これが4000億円分とされる。もし、これが実現すると、4年で1.6兆円の財源捻出だ。そうすると復興増税の必要額は5.2兆円へと半減する。こうなれば、10年返済なら、5200億円の増税で済み、今年度予定していた法人減税4300億円を取りやめれば、概ね足りることになってしまう。

 ここで、2016年度以降のことも、考えてみよう。一次補正で実現した財源捻出は、高速割引以外は有効と考えられるから、3800億円×5年で1.9兆円になる。先の経済予備費は5年分で4.1兆円だ。これらだけで復興予算に必要とされる4兆円を2兆円も上回ってしまう。これに、子ども手当の削減もあれば、更に2兆円もプラスになる。これを見込んで、初めから復興増税をやめるも良し、後の法人減税の財源にするも良しだろう。

 いかがかな、日本の財政当局が使うカラクリが分かったと思う。むろん、復興増税ができれば、財政再建に資するのは間違いないから、それが必要だという意見もあろう。いずれにせよ、選択肢はいろいろあるわけで、復興には増税という単純思考は改めていただきたいものだ。

 さて、財政当局は、来年度の予算編成の基本方針として、国債発行枠は、復興債除いて44兆円以下とし、政策経費は前年度同額の71兆円とすることを、「そろりと」決めたようである。昨日のコラムでも指摘したように、一見、当然の方針のように見せかけて、キツイ縛りをかけるのが、彼らの常套手段だ。

 まず、政策経費を前年度並みにしてしまうと、高齢化に伴う社会保障費の自然増1兆円強をどう処理するのかを考えなければいけない。既定経費は、これまでのムダ削減で散々叩いているから、ここから財源が簡単に出てくると思ってはいけない。せいぜい、復興費へと移し込める公共事業費の圧縮くらいのものだろう。ここは72兆円に増やしておかなければ、ダメなのだ。

 また、2011年度当初予算で、年金国庫負担分に充てた2.5兆円の埋蔵金のことを考えれば、国債発行枠を46.5兆円に広げておかないと、またも埋蔵金探しでさ迷うことになる。他方、2012年度の税収は、震災でゼロ成長となる今年度の反動で、3%弱の高い成長率が予想されるため、3~4兆円の税収増が見込める。つまり、3~4兆円の税収増を設定するなら、社会保障費の自然増も、年金の国庫負担分も賄えるということであり、国債発行の44兆円枠を設定するなら、これが絶対条件になる。

 民主党政権は、「財政の見通しが甘かった」と国民に謝罪したけれども、これほどの失敗をしても、まだ財政のことを分かっていないようである。過ちは、繰り返されることになるのだろうねぇ。「真に無能な者は、自身の無能さも分からない」とは言うものの、救われないのは国民である。

(今日の日経)
 歳出削減3兆円を財源に、復興予算は今後5年で13兆円。低品質石炭を発電燃料に。エネを問う・時間軸考えた意見に集約。働き手が人口の5割切る。法人増税2~3年限定、来年度国債発行枠は復興債除き44兆円以下、政策経費71兆円。政府保有株売却を検討。対日直接投資・実哲也。仏は原発76%。ARF・米比は法的枠組み必要、カンボジア慎重。中外・新卒外国人・水野裕司。謎かがく・巨大地震に超長期周期。読書・日中国交正常化、赤ちゃんの不思議、隠れていた宇宙。

※ コメントは後刻。→ すまない。時間が取れなかった。
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民主党の財政運営の評価と課題

2011年07月23日 | 経済
 民主党の岡田幹事長は、2009年の衆院選マニフェストについて、「見通しの甘さについて国民に率直におわびしたい」と陳謝するに至った。マニフェストに必要な財源を、ムダ削減で生み出すのは、土台、無理だったのであり、「ウソ」で政権を獲った罪は重い。そのあたりの経緯は、権丈善一先生のHPを見ていただければ良い。

 民主党が、ムダ削減で16.4兆円も捻出できると考えたのは、国民を騙す狡猾さがあったというより、財政について無知であったからだろう。なぜなら、民主党が政権をとった2009年の夏、財政的には、絶好のチャンスに恵まれており、財源なしで、マニフェストの多くを実現することも可能だったからだ。

 民主党は、政権獲得後、最初に編成した2010年度当初予算で、前年度より10兆円もの歳出削減を行った。そこまでしていなければ、マニフェストの多くが実現できただろう。リーマン・ショックで圧倒的な需要不足にあったから、経済的にも正しい選択になったはずだ。しかも、それで国債が増えるというものでもなかったのである。

 2010年度後半、景気対策が次々に打ち切られると、日本経済は、前半の好調さから一転して、マイナス成長へと落ち込んだ。管政権は、11月になって、慌てて4.4兆円の補正予算を組み、景気対策を追加したが、これは国債ではなく、前年度剰余金と当年度税収の上ブレ分で賄われた。それなら最初から10兆円のデフレ予算にしなければ良かったのだ。

 これができなかったのは、予算編成のときに、財政当局から、史上最高だった前年度の44兆円以下という国債発行枠をはめられ、埋蔵金を2兆円減らされ、4兆円も低い税収見積りをされたからだ。国債も埋蔵金も経済的には同じだから、46兆円でも構わないという知識もなければ、税収隠しを見抜く眼力もなかった。そもそも、いかに財政赤字が深刻でも、一気に10兆円もの緊縮をかける危険性への経済感覚すらなかったのである。

 こうした財政に関する民主党政権の無知さ加減を笑うのは簡単だが、財政のカラクリを、どれほどの人が理解しているであろうか。マスコミでも、44兆円の国債発行枠の絶対視したりするし、税収上ブレの発表があっても、それが仕組まれたものだと疑わないナイーブさや、経済への悪影響を気にせず、財政再建を喜ぶ能天気さは、共通しているように思う。

 先日、政府は、復興費の総額を10年間で23兆円としたが、その財源については、いろいろなカラクリが考えられる。このうち6兆円は、一次と二次の補正で措置済みだから、あと17兆円ということになるが、23年度予算では、経済予備費8100億円、予備費3500億円があり、この枠を震災にあと9年分使うとすると、それだけで10.4兆円になる。また、被災3県向けの従来からの公共事業費枠のうち、仮に3000億円を復興用に割り振ったとすると、2.7兆円になる。これだけで13兆円が用意できてしまうのだ。

 むろん、予備費枠を全部震災に回してしまうと、何かあったときには、別途措置が必要になるが、大半を使える可能性は高い。また、被災地には、従来からある公共事業枠に「上乗せ」すべきとの考えもあろうが、復旧にとどまらず、より良いものを作る復興となれば、全部を上乗せというのも公平でなかろう。政府が、増税期間5年としたにもかかわらず、10年の復興期間を置いたのは、財源確保上の意味も隠されていると見なければならない。

 さらに、復興費の中身として、中小企業の資金繰り枠2.5兆円を含めると、これは投融資枠であって、実質的な負担は金利減免分に留まるし、復興するインフラや施設の中には、利用料によって償還されるものもある。こうしてみると、23兆円の復興費に、本当に増税が必要なのかという疑問が湧いてくる。

 まあ、みんな、善良だから、震災という名目なら、増税も簡単に受けてくれるのだろうな。それが日本人の良いところでもあり、ダメなところでもある。筆者としては、そこにつけ込む行為は、許しがたいがね。震災のような場合にこそ、負担が楽にできるよう、財政のテクニックを善用すべきだろう。

(今日の日経)
 EU、ギリシャ再支援で合意、米欧財政消えぬ懸念。原子力賠償支援法案成立へ。エネを問う・リスク減らす新鋭原発。子ども手当・所得1000万円で減額案。総額2.3兆円で4000億円減。防衛省が東南アで技術指導。電力情報開示、異例の指示。円高長引く観測。野村予想・4%増益に上方修正。ギリシャ国債保有ゼロ。有機EL、日本勢の出遅れ必至。

※子ども手当はこの減額で完全な財源確保に至る。財源に無頓着な民主党にそういう認識があるかは知らぬが。もうバラマキではなくなったが、乳幼児へのメリットも年少扶養控除廃止で差し引きでゼロである。※野村の予測は税収に明るい見通し。
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数字と経済合理性で勝負

2011年07月22日 | 経済
 今日は、日経論説よ、良くやったとほめたい。社説・「電力供給力とコストの情報を開示せよ」のことである。情報を求める論説は地味だが、威勢のいい政府批判は格好がついても、聞き流されれば、それで終わり。しかし、政策を決定づける「カギの情報」を引き出せば、政策が変わることになる。

 原発の是非を安全性で議論しても、事故確率を社会的にどう評価するかになって、決着がつかない。しかし、原発のコストがLNG発電より高いとなれば、誰も選ばないだろう。CO2の問題もあるが、それは削減の代替措置のコストを計算することで、比較可能である。安全保障の観点では、LNGは石油より偏在していないし、原発へのテロを考えれば、原発は不利ですらある。

 こうした「数字と経済合理性で勝負する」という議論の仕方を、日経は、一層、広げる努力をしてほしい。残念ながら、国会は、議論でなく、罵倒の場になっている。本当は、情報を引き出すのは、国会でなければならない。日経は、何がオープンになっておらず、どんな情報がカギなのかを報道していかなければならない。それは、日本のためになる。

 さて、今日は、数字で勝負のキーワードで、復興策にかかる財政運営も考えることにしよう。政府は、総額23兆円の予算が必要としたが、正直に言って、根拠は、いい加減なものだ。「阪神大震災の2倍」、それだけである。震災から4か月も経って、積み上げではなく、つかみの数字とは、どういうことか。

 素人目に見ても、今回の大震災の被害総額は、内閣府の公式発表で16.9兆円であるのに、それを大きく上回る予算が必要と言うのは、理解しがたいだろう。そもそも、阪神の被害総額は9.9兆円だから、その2倍でもない。しかも、阪神のときの国費負担は6兆円だった。今回の復興費の「23兆円」という数字は、どこから出てくるのだろう。

 いい加減な政府から離れ、積み上げの数字を見てみよう。宮城県は、高台移転や区画整理に2.1兆円が必要としている。同県の住宅被害は、警察庁発表で全壊6.9万戸、半壊5.9万戸であるから、半壊を全壊の1/2と置くと、1戸当たり2100万円になる。住宅価格の安い東北なら、新築住宅が買えてしまう額だ。実は、今回の震災で、宮城県は最大被害地であり、住宅被害は全体の57%を占める。これから計算すれば、全体でも4兆円弱ということになる。

 内閣府の被害総額16.9兆円の内訳は、ライフライン1.3兆円、社会基盤2.2兆円、農林水産1.9兆円、その他1.1兆円であり、これらの合計は6.5兆円だ。これらは、全額国費で再建するというのでも構わないだろう。ただし、これらは、長期的には、震災がなかった場合の更新投資で半分は埋め合わされるものではある。

 残る10.4兆円の被害は、建物等である。全壊半壊の1戸当たりで計算すると、1戸当たりで6000万円にもなってしまう。これは、おそらく、基本的に個人負担で対応すべき、一部損壊46.4万戸などの積み上がり分が大きかったと考えられる。結局、先の住宅分の4兆円弱とインフラ系の6.5兆円を合わせると、本当に手当てが必要な被害額は、11兆円程度と推定される。なお、この他に産業復興のために投融資枠が必要だが、それは純然たる財政支出とは異なり、負担は利子軽減分にとどまる。

 こうしてみると、政府が打ち出した23兆円の中身は見当もつかない。被災地で使われない省エネ関係の費用が含まれるのか、本来は従来の公共事業費で措置されるものまで含まれているのか、はたまた、表面的には大きく見える投融資枠がカウントされているのか。いずれにしても、根拠がハッキリしないのである。

 他方、増税の方は明確である。復興債10兆円を5年で償還するので2兆円の増税になるようだ。なぜ、10年償還でなく、5年償還なのか。おそらく、2兆円増税ありきで、5年たったら財政再建の財源として継続させるつもりなのだろう。30年は利用できるインフラ投資が大半なのに、10年国債の半分の5年で償還しなければならない理由は見つけがたい。

 増税時期も、復興で盛り上がる2012年度からというのは、いかにも財政タカ派である。2012年度に盛り上がるかどうかは、なってみなければ分からない。獲らぬタヌキの皮算用どころか、海外経済の不調で輸出が伸び悩んだり、復興が遅れれば、景気の足を引っ張る爆弾になりかねない。復興を確認した後の2013年度からで十分なのだ。

 仮に、経済が順調に回復したとすると、2012年度は法人税を中心に、3~4兆円の自然増収が見込める。2010年度は、まさにそうだったのだ。復興増税をやってしまうと、増収と増税のダブルパンチで、またぞろデフレ回復にブレーキをかけることになる。復興予算を23兆円積んだところで、狭い被災地での執行は年間5兆円がやっとだろう。そうなれば、実質的な国の歳出総額は、今年度並みにとどまる。焦って増税する必要は何もない。

 いかがかな、「数字と経済合理性で勝負する」なら、日本の財政当局がもくろむ経済運営は、やってはいけないものの典型なのである。財政状況を憂う賢者のような顔をして、実際には、数字や状況も分からずに、間抜けなことをしているのである。このあたりも、是非、日経に正してもらいたいものだ。

(今日の日経)
 住宅ローンで低金利競争、異例の年0.7%も。トヨタが世界生産を上積み。エネを問う・独立王国が融通を阻む。台湾、TPPに意欲。円上昇一時78円台前半。社説・電力供給力とコストの情報を開示せよ。復興策の総額23兆円、阪神の倍、8割を当初5年に。がれき処理費の執行まだ6%、人手不足で体勢整わず。欧州基金活用、周辺国危機も視野。輸出回復を自動車けん引、貿易黒字3か月ぶり。イラク復興、中国が主役。ブラジル景気に減速感。経済教室・公と民の連携を震災示す・根本祐二。

※トヨタからの税収も上向くね。 ※米国の期限が過ぎたら介入だ。それで輸出企業に円を供給。 ※がれき処理ですら、執行に難渋している。 ※これで「貿易赤字で財政危機」の論者も静かになるだろう。
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