経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

アベノミクス・いまやデフレは脱却している

2017年12月30日 | 経済(主なもの)
 12/26の11月消費者物価で、「財」の季節調整値が前月比+1.3にもなっていたのを見たときは、商業動態の小売業が実質でプラスになるか心配だったが、名目前月比は+1.9と物価上昇を超える大きな伸びとなった。物価は、運輸や外食の力で「サービス」でも上昇しており、いまやデフレは脱却していると言って差し支えあるまい。消費は停滞を脱し切れずにいるものの、景気の「実感」では、いわば供給側の景気ウォッチャーは9月に50超えを果たしており、あとは消費者態度指数である。この50超えが成れば、日本経済の復活は完了だ。

……
 内閣府がデフレ脱却の目安とする4つの指標、消費者物価、GDPデフレーター、単位労働コスト、GDPギャップは、7-9月期には、いずれもプラスになっているので、既にデフレを脱却しているとも言えるが、消費者物価には、円安と原油高の影響があり、それら抜きでも上がっているかの見極めも必要だ。そこでポイントになるのは、サービスの価格であり、12月までの東京都区部の動向によれば、3か月連続での上昇となった。

 サービスの中では、帰属家賃や通信が低下する中、家事、医療福祉、運輸、外食が上がっており、差し引きしてもプラスになっている。宅配便の例で分かるように、人手不足になり、賃金を上げざるを得なくなり、価格に転嫁されるという常識的なルートである。日銀の異次元緩和で、物価への期待が強まったからではない。机上の空論に陥らず、労働需給の多寡が賃金を通じて物価を動かすプリミティブな現実を覚えておきたい。

 他方、懸案の消費は、商業動態が大きく伸び、11月家計調査の消費水準指数(除く住居等)も前月比+1.3となったことから、今後発表される消費総合指数や消費活動指数は、前月比+0.5位の高めの伸びが見込めよう。そうなると、10,11月平均は、ようやく、前期比が水面上に顔を出す形になる。消費が巡航速度の前期比+0.4まで行くには、この勢いで12月も伸びなければならない。なかなか険しいが、可能性がないわけではない。

 消費の伸びは、11月に急に所得が増したわけでなく、極端に低かった消費性向の回復によってもたらされた。この背景には、景気ウォッチャーと消費者態度指数の調査項目が示すように雇用環境の一段の改善がある。11月の消費性向の回復は、先に公表されていたウォッチャーや消費態度の結果から、予測できたものだった。消費性向の72.0は低めの数字なので、まだ上がる余地が残っている。

(図)



………
 「消費が振るわないのは、財政赤字に対する将来不安があるから」という、まことしやかな「理論」が語られるが、実際の消費性向は、「雇用環境が良くなると高まり、悪くなると下がる」という、誠に庶民感覚に合致した動きを見せる。ちなみに、株価と雇用環境への認識は、似た動きをするので、世間的には、「株が上がった資産効果で消費が増えた」と語られたりする。勤労者世帯は、あまり株を持たないと思うのだがね。

 2017年の消費を回顧すると、年明けから春にかけて大きく伸び、その後は減退、底入れという展開であった。将来不安がこのように変動したと説明するのは不自然で、素直に読めば、輸出等の追加的需要に従い、景気が変動し、それに消費も連れ添ったとなる。この見方なら、1年未満の短期の消費の変動も説明可能で、予測も立つ。むろん、政策的インプリケーションは、「緊縮財政で景気を悪くしたら、輪をかけて消費を減らす」でしかない。

 一方、供給面に関しては、11月の鉱工業指数は、判断が22年ぶりに「持ち直している」とされた。リーマン前の最盛期を飛び超え、ハシモトデフレ前の1996年1月以来なのだから、感慨深い。設備投資を占う資本財(除く輸送機械)の出荷は、10,11月平均が前期比+2.8と好調だ。反面、建設財の出荷は、公共事業の剥落、貸家投資の峠越えがあって、前期比-1.3と息切れが見られる。建設投資に代わり、設備投資が成長を牽引できるかが今後の焦点だ。

 11月は、労働力調査にも久々の動きがあり、9か月ぶりに失業率の更新を果たし、2.7%となった。男性雇用者は概ね横バイだが、女性雇用者が再び加速した。また、11月の職業紹介では、新規求人倍率の「除くパート」が前月比+0.04と、3か月連続の上昇で2.11倍となった。11月は新規求人数が伸び、特に「除くパート」の求人で、消費関連の卸・小売や飲食宿泊が強まっているのが特徴である。

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 経済運営においては、需要を安定的に管理することが大切である。追加的需要が消費にまで響くことは、公共投資を4-6月期にドンと増やし、7-9月期にガクンと減らす「稚拙な自然実験」で端なくも証明された。11月指標では、デフレ脱却への区切りを示唆するものがいくつも見られたが、好調に慢心してか、2017年度補正予算は、前年度補正後との比較で1.1兆円緊縮することに決まった。所得が増え、消費意欲も高ぶる好循環へのチャンスに、一気に行けずに、躊躇してしまう。こうした勝負弱さを「良識」とするところに問題の根源がある。このペースだと、消費者態度の50超えには、まだ1年かかるかな。では、良いお年を。


(今日までの日経)
 17年 熱狂なき世界株高 金利リスクに。生産「持ち直し」外需底上げ。日韓置き去りの米中密談・秋田浩之。日本国債「安全」決着の舞台裏。給付面でも日本は低所得者に冷たい・田中秀明。

※秋田さんの論説を読むと、クライシスは現実的シナリオになってきたよ。
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12/28の日経

2017年12月28日 | 今日の日経
 また、ウルフさんが良いものを書いてくれたね。一つひとつ思い当たることが多いよ。収奪は限界まで行って破綻するものなんだな。利益を上げるために、若者を安く使えば、少子化を招き、長期的に人的資源が不足して、経営が持続できなくなる。でも、限界まで行ってしまうのが人間だ。「健全な危機感」といった生易しいものでは済まない。乳幼児への大規模な再分配が必要だと自覚するのに、あと何年かかるのか。

 12/22に11月消費者物価が公表になり、物価上昇の兆しが見えてきたね。サービス価格が上向いてきた様子を下図(赤線)で示しておくよ。高度成長期では、税収が揚がると、インフレもものかは、経済に還元していた。だから、平等社会、皆婚社会が実現した。今は、政府債務が大きいから、財政赤字に回そうかとなる。まあ、常識的だが、そうした、ちょっとした常識の違いが経済のパフォーマンスを分けることになる。

(図) 




(今日までの日経)
 民主主義脅かす格差拡大・Mウルフ。社説・人口減に健全な危機感をもっと。物価来年度0.9%上昇・民間予測。老衰多いと医療費低く。ブランドなき静岡伊勢丹。
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緊縮速報・進む財政再建、置き去りのデフレ脱却

2017年12月24日 | 経済(主なもの)
 日本では、「政府債務はGDPの2倍、もっと緊縮を」という、数字と事実をろくに見ない「バカの一つ覚え」が猖獗を極めている。経済財政の運営を論ずるには、成長とバランスする、どの程度の緊縮が可能かという、もう少し緻密な議論が必要である。「B1財政」の強弁は、「鎧袖一触で紛争解決」の主張と同じくらい危険なものだ。そこで、数字と事実を見せるため、資金循環統計の発表に合わせ、年に6回ほど、「緊縮財政速報」をお届けしたいと思う。今更、こんな基礎的なことを、何で年寄りがさせられるのかとボヤきつつも。

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 最新の財政収支を知るには、日銀・資金循環統計の資金過不足を見るにしくはない。四半期ごとの数字を参照せずして、財政の状況を語るなかれだ。12/20公表の2017年7-9月期の速報によれば、公的年金を含む一般政府の収支は、アベノミクスがスタートした2012年10-12月期からの5年間に、GDP比で-8.8%から-3.2%へと5.6%も改善していることが分かる。年当たりでGDP比1%超という大変な緊縮財政が貫かれてきたわけだ。

 この間の年平均の成長率は名目で2.3%、実質で1.5%に過ぎないから、これだけ締め上げれば、消費が低迷するのに、何の不思議さもない。アベノミクスの特徴が金融緩和と緊縮財政の組み合わせであるのは、紛うことなき事実だ。それにも関わらず、「もっと緊縮を」の声は尽きない。消費増税の延期ばかりが非難されるが、民主党政権の計画どおり2015年10月に追加増税をしていたら、輸出の衰えとの遭遇で、デフレスパイラルの破綻を来していたし、今年4月に上げていたら、今も景気回復の曙光は見えぬままだろう。

 今後は、どうなるのか。そこで、消費税の増収効果が収まった2015年7-9月期から今期までのトレンドを延長したのが下図のトレンドBで、今期は、やや下ブレしたので、前期までのトレンドを示したのがトレンドAである。すなわち、早ければ2022年1-3月期、遅くとも2025年4-6月期には、財政赤字がゼロとなる。重要なのは、これらの見通しは、2019年10月に予定する10%消費増税を前提としていないことである。

 消費増税1%は、単純にはGDP比で0.5%程の収支改善の効果がある。これはトレンドの約1年分だ。つまり、追加の消費増税の意味とは、黙っていても財政再建が達成できるのに、たった1年早めるため、成長を失わせるかも知れない需要ショックを、経済に与えようとする試みと言える。どうして、そんなリスクを犯す必要があるのか。焦りは失敗の素、財政再建を着実に達成する見地からも、消費増税に合理性はない。

(図)



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 財政再建の議論では、内閣府の『中長期の経済財政試算』が基になされ、12/23の日経でも、新しい財政再建の目標年次を2022年度にするのか、2025年度にするのかの図が出ている。この議論の真の争点は、後の年次なら、消費の純増税なしでも目標の達成が望め、前の年次なら、無理でも純増税が避けられなくなるという攻防である。実は、先の図のトレンドBは、今夏の『中長期』の経済再生ケースに近い。しかも、『中長期』の「プライマリーバランス」より「資金過不足」は低めに出るから、PBなら、2025年度より早く達成できる可能性が高い。

 他方、目標を早期の2022年度に設定し、目標死守のために強引に増税を行い、外需の異変に見舞われたりしたら、まさに「自殺」のための計画になる。おまけに、『中長期』は、命がけの計画にしては、成長率の設定が高いとか、税収の弾力性が1で低いとか、議論を呼ぶ中身である。その点、資金循環のトレンドなら、実績の延長という堅実性がある。そして、トレンドが下がるようなら、弾力性の高い法人・資産課税の強化を考えれば良い。どうしても消費増税をやるのなら、IMFの助言に従って1%に刻み、歳出増と見合いにすべきである。

 さて、12/22に、2017年度補正と2018年度予算が決ったので、当面の緊縮の見通しを示しておこう。まず、2017年度予算は、「補正後」の歳出総額が4年ぶりのマイナスで、1.1兆円の減となった。加えて、補正後の税収見込みは57.7兆円であるから、前年度税収「決算額」から2.3兆円の増となる。すなわち、合わせて3.4兆円、GDP比0.7%の緊縮だ。財政再建は進むが、デフレ脱却は置き去りである。よって、「資金過不足」は、トレンドBの上を行く結果を残すと考えられる。実際、法人税納税がある11月の財政資金対民間収支は、「租税」が対前年同月比14%増と大きく伸びており、10-12月期にも傾向は明らかになるだろう。

 また、2018年度予算も、対前年度当初予算比+2600億円と、安倍政権下で最低となる、6年ぶりの低い伸びに抑制された。この動向からは、2年連続の補正後減も十分にあり得る。加えて、税収は、本コラムでは政府予算額より約7000億円多いと予想しており、前年度決算見込額からは2.0兆円程のプラスとなろう。したがって、GDP比0.4%位の緊縮となり、収支は、トレンドBに近い速度で改善をたどると見ている。要するに、着実な財政再建の道を歩むと同時に、デフレ圧力を経済に加えるのである。

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 唐突な総選挙によって、降って湧いたように、幼児教育の無償化が決まった。結構なこととは思うが、少子化対策の観点からは、パートや退職の女性にも育児休業給付を拡げて、0-2歳児の保育需要を冷やすことや、低所得層の社会保険料の軽減と適用拡大で、結婚しやすくすることの方が喫緊の課題である。消費増税との見合いでなら、相当のことが可能になるが、長年の緊縮財政が有意義な政策の論議をする機会を失わせてきた結果、文教族の手近かな政策の採用へ安易につながったように思う。緊縮財政の知的弊害であろう。

 世間には、消費税1%程度の純増税なら問題ないと純粋に考える人もいるが、今回の税制改正で分かるように、せっかく、軽減税率で「墓穴」を浅くしても、日本の財政当局は、財源探しと称する「深堀り」に余念がない。1997年のハシモトデフレでは、消費増税だけでなく、公共事業の削減や社会保障の負担増までして悲劇を呼んだが、2014年にも同じことをやっている。二度やることは、三度やるだ。今回のコラムでは、予算の実態を示す数字を示したが、当局の出来合いの資料では分からない。監視をするために、日経に限らず、記者の諸君には、自ら数字を拾う努力をしてもらえたらと思う。筆者も年なんでね。

 こうして、財政の数字と事実が広く国民に知られて行けば、来年6月に決まるとされる財政再建の目標年度は、自然と2025年度に落ち着くだろう。そして、秋頃の2019年度の消費再増税の決断に際しては、1年早い2024年度には到達できそうとなり、1年早める1%の純減税は見送られ、無償化に使う分だけの9%で行こうとなるのではないか。むろん、数字の分かる人間が官邸に居ればの話ではある。はてさて、「来年のことを言うと鬼が笑う」というから、この辺にしておこう。少し疲れたよ。では、Merry Christmas to you 。


(今日までの日経)
 膨らむ歳出 かすむ改革 18年度予算案、最大の97.7兆円。財政健全化 いばらの道 6月にも新計画。税予算・財務省PB目標22年度、内閣府25年度。保育定員、厚労省が試算根拠。ハイデ日高、値上げ後も客数増。経済教室・企業は需要要因の中でも消費増加率重視・小川一夫。税予算・もっと吹かさないと。

※小川一夫先生、ナイスですな。「企業は消費を見て行動する」という世間の常識を肯定する経済学者は珍しくてね。
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12/21の日経

2017年12月21日 | 今日の日経
 今日の経済教室で早川英男さんが言うような「わずかながらも、デフレ脱却」は、筆者も同じ認識た。その上で、早川さんは、潜在成長率の向上と財政健全化が必要だとするのだが、それは、どうかね。むしろ、2020年の財政再建という、どだい無理な目標は達成できなかったものの、大幅かつ急速に財政収支を改善したことが、成長率を抑制し、生産性の向上を鈍らせたのではないか。ようやく需給が引き締まり、深夜の労力ムダ使いなどが減り、人手不足対応型の設備投資がなされてきたのが、今の状況だ。

 緊縮財政で需要が不足気味のアベノミクスの間、景気は、輸出と建設投資という追加的需要に動かされてきた。昨日の全産業指数を見ても、景気のベースは輸出で、それに建設需要が彩を添える形だ。2014年の消費増税は、輸出で何とか持ちこたえ、それが衰えた2015年は停滞、住宅底入れと輸出再開で2016年は浮上、2017年の建設投資の盛り上がりと輸出加速があって足下の「デフレ脱却」がある。まあ、企業の建設投資は、金融緩和の功績かもしれない。あとは、緊縮の足枷を引きずりつつも、好循環が回りだすかどうかだよ。

(図)



(今日までの日経)
 家計・企業、金融資産3000兆円 9月末。経済教室・デフレ脱却 ほぼ達成も経済再生半ば
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12/19の日経

2017年12月19日 | 今日の日経
 昨日、11月の貿易統計が公表になり、輸出は極めて好調だった。輸入も伸びているので、さすがに7-9月期並みとはいかないが、10-12月期もGDPを引っ張ってくれるだろう。輸入の増加は、消費増の反映でもあるので、こちらの戻りも期待したい。景気ウォッチャーのコメントで分かるように、世相も明るくなってきた気がする。ドコモの安室奈美恵さんのCMを見ると、1997年までの活気が思い出されるよ。今も躍動を見せる彼女と違い、日本経済の栄光は失われ、すっかり衰えてしまったがね。

(図)



(今日までの日経)
 人手不足 業種で格差。サービス値上げ3度目の挑戦。法人統計、前倒し調査。国債の想定金利1.1% 2000億円減。
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日米地位協定と明治の不平等条約

2017年12月17日 | 経済
 トランプ大統領が来日した際、羽田空港でなく、横田基地に降り立ったことに、ワイドショーの識者は疑問を呈していた。講談社現代新書の矢部宏治著『知ってはいけない』がベストセラーになったことで、朝鮮戦争の準戦時体制を引きずり、日米地位協定が主権の侵害とも言える大きな特権を米国に与えていることが広く知られるようになってきたせいだろう。さらに、伊勢崎賢治・布施祐仁著『主権なき平和国家』によって、国際的に見て不利なことも明らかになってきた。では、どうやって直すのか、奇しくも両著とも、あとがきに不平等条約の例を引いているのだが。

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 明治の日本が幕末に結んだ不平等条約を外交によって解消したのは、近代化の輝ける成功の歴史ではある。その反面、曲折を経て、40年もかかっている。そこから見えてくるのは、対外的な交渉の厳しさと同時に、国内的な結束を保つことの難しさだ。威力をもって反故にする革命外交ではないのだから、解決は双方の合意によらねばならない。そうなると、いかに法外な既得権であれ、手放す者にもメリットがなければ、合意は成立しない。倫理に訴えれば、ただ取りできると考えるのは甘い。そして、問題は、交換に与えるメリットに対して、「妥協を許さない」という国内的な批判が必ず出ることだ。

 「妥協は国辱もの」という在野からの批判は、世論に受けやすく、政府を悩ませることになる。明治の条約改正において、井上馨は、「取らんと欲せば、必ず酬うる所なかるべからず」の方針で臨んだが、領事裁判権の撤廃と引き換えにする外国人判事の採用は、強い批判にさらされ、改正交渉は断念するに至った。また、大隈重信による交渉も、やはり、それが違憲論で紛糾し、批判派のテロによる負傷で頓挫した。結局、不平等条約は、国内の司法制度の整備や日本の国際的地位の向上といった、機が熟するのを待つまで実現できなかったとも言えるのである。

 現在の問題に引き付ければ、沖縄の普天間基地の返還は、県内の代替基地の提供が条件となっており、事故の危険を早く除くために県内移設で妥協すべきか、基地を減らすために代替なしの返還を求め続けるべきか、県内の世論は二分され、そうした苦しい選択を迫る「本土」への恨みも深まっている。沖縄と本土の対立は、米国には既得権への圧力を逸らすのに好都合で、ある種の分割統治なのだが、嘆いてみても始まらない。そうした構図に嵌めようとするのがパワー・ポリティクスの常套手段だと見切らねば、対抗しようもない。

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 『主権なき平和国家』で一つ分かることは、ドイツが基地管理権を取り戻したのも、冷戦の終了後だということだ。それまでの緊迫した軍事情勢では、主権への制約を是正できなかったのは、致し方なかったのかもしれない。他方、日本はどうか。むろん、冷戦終結でソ連の脅威は収まったが、いまや、朝鮮半島は危機の度合いを高めている。とても、米軍の行動を新たに制約するような外交が展開できる状況ではなかろう。とは言え、今から、しておくべきこともある。それは、平和になったときの明確なビジョンを用意することだ。

 もし、朝鮮半島が平和になったとしたら、それが一体、いつになるかは分からないにせよ、未来に希望を抱くのは悪いことではなかろう。その時、米軍基地をどうするのか。まずは、名目的な基地の管理権を譲り受け、次いで、交渉を重ねて利用に関する特権を徐々に返させることになるのではないか。少なくとも、権利は、平和になれば自然に戻ると、安易に思ってはならないだろう。いわば、戦後処理の方策は、戦いが終わる前から用意しておかなければならない。

 顧みれば、1972年の沖縄返還も、ベトナム戦争が終結に向かったという背景なしに考えることはできない。大規模な基地の縮小が実施され、撤退にカネが要るだけでなく、失業者があふれて社会不安にもなりかねなかった。その後始末を日本に押し付けられるというメリットがあればこそ、返還もあり得たのである。加えて、米国は、繊維の通商交渉でも、取れるものを取った。主権を回復するための外交は、かくも厳しい。更に言うなら、キューバのグアンタナモのように、どんなに植民地主義と非難されようとも、実利を失うだけなら、返さないことさえある。

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 ビジネスにおいても、明確なビションを共有し、一つずつ地歩を築いていくのは、基本的な事柄である。行く先で一致していないと、リスクがあるほど、どこまで踏み込むかで路線対立が生じたりする。特に、「アメリカ」相手の手強い交渉は骨が折れる。揺さぶりにも動じないだけの構えは必須だ。外交だと、そこに平和や主権といった理想や正義が絡むのだから、現実路線は一段と困難を極めよう。一歩前進のための妥協に、一致して価値を見出せるのか。しかし、結束して当たらずして、打開の道は拓けまい。


(今日までの日経)
 人民元国際化 立ち往生。児童手当支給絞る。トランプ減税 実現目前。

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12/15の日経

2017年12月15日 | 今日の日経
 7-9月期の設備投資は堅調だったけれど、先行指標の機械受注は今一つだね。確かに、輸出増を背景に製造業は伸びているが、非製造業は明らかな下り坂で、底入れしたのかも分からない状態にある。両者がクロスされ、全体では横バイというところ。要因は建設業の低下で、建設需要が崩れていたのだから、必然的な結果ではある。自律的な設備投資の回復を判定するには、まだ時間がかかりそうだ。

 こうした跛行性があって、7-9月期の消費は停滞したが、10月も、消費活動指数が前期平均と比べて-0.0、消費総合指数が同じく-0.2にとどまった。停滞は一時的なものと考えているが、いつ抜けるのかは、まだ見通せない。ところで、日経が「消費でなく貯蓄に課税を」と珍しいことを書いていると思ったら、子会社の論説委員のウルフさんだった。遠くに住む外国人の方が現実が見えているのかな。日本狼は絶滅して久しいよ。

(図)




(今日までの日経)
 個人軸に2800億円増税。FRB半年ぶり利上げ。訪日客効果、地方で人材不足。新規国債8年連続減額、税収1兆円増。経済見通し1.8%に。消費でなく貯蓄に課税を・FT・Mウルフ。
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12/13の日経

2017年12月13日 | 今日の日経
 今日の日経の「脱デフレへ薄日」にあるように、景気ウォッチャーで見ると、百貨店の調子は良い。悪かった衣料や一般小売も上向いたが、先行して良くなっていた自動車と家電、コンビニは停滞ぎみだ。冬のボーナスの時期を迎えて、これから、全般的に良くなって行くかどうかに注目だ。一方、所得税の純増税が決まったようで、これは軽減税率の穴埋めらしい。軽減税率で消費増税の打撃が軽くなると期待していたが、しっかり打撃を用意するつもりのようだ。デフレだ、消費不振だと言いつつ、法人に甘く、個人に厳しい税制改革をいつまで続けるのかね。

(図)




(今日までの日経)
 中間層に動きじわり。成長へ好循環の兆し。所得増税、純増税900億円、軽減是率の財源。社債発行に金利先高観。ボーナス・非製造業2.34%増。

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7-9月期GDP2次・雇用者報酬の20年

2017年12月10日 | 経済
 金曜に公表のGDP2次速報は、設備投資が大きく上方修正され、年率で2.5%成長に達するというポジティブ・サプライズであった。日経によれば、金融業の投資の多さが要因だったようであり、追加的需要が一服する中では、出来過ぎの感はあるものの、まずは結構なことである。また、世間的には見過ごされがちだが、消費が停滞する中でも、雇用者報酬は着実に伸びている。消費の潜在力が増しているということで、今後の加速を期待したい。

………
 「日本企業はカネばかり溜め込んで投資しない」と言われる中、設備投資の前期比は、実質年率+4.3%となり、前期の+4.9%に続いての高い伸びとなった。カネの溜め込みは、そのとおりでも、国内への設備投資は、それなりに始まったと言えよう。水準で見ても、実質GDPに占める設備投資の比率は、リーマンショック前のピーク時に迫るところまできた。ただし、当時と違うのは、研究開発への投資が多いことだ。これは、研究開発をカウントしなかった旧基準のGDP比の水準との比較で読み取ることができる。

 長期的に眺めると、「1997年のハシモトデフレから、企業の行動が変化した」とする向きもあるが、現在のように外需に恵まれると、設備投資はなされている。要するに、経営思想より需要ということだ。かつてとの比較で足りないのは、むしろ、公的な投資である。もちろん、いまさら公共事業の時代ではないから、GDP上で投資にカウントされずとも、人的な投資を伸ばし、少子化を緩和して、人間そのものを増やす「投資」が求められる。

 7-9月期の設備投資は、上方修正によって順調に伸びた形へと変わった。それでも、輸出・住宅・公共の追加的需要に一服が見られるので、今後に多少の懸念もある。それだけ、追加的需要は有力で、企業収益の高さで大丈夫と思うのは早計だ。設備投資と企業収益との連関は、需要逼迫下では収益性も高まるからに過ぎない。上り坂の際、設備投資は、追加的需要に遅れる場合があり、鉱工業生産の資本財(除く輸送機械)の見通しの強さは安心材料だが、10-12月期に伸び悩みが出るおそれはある。

(図1)



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 もう一つの7-9月期GDPの特徴は、前期での+1.1の急伸の反動もあるとは言え、家計消費(除く帰属家賃)が前期比-0.7と減退したことである。その一方、消費を支える雇用者報酬は、前期比+0.7と、4-6月期の+1.0と同様、着実な前進を見せた。雇用者報酬の増大は、女性と年配の動員という「量」で稼いだものではあるが、パイは大きくなり、GDP比率でも底入れしている。物価と生産性の指標となる単位労働コストも、わずかながら直近の最高を更新した。

 アベノミクスの評判の悪さは、「量」で稼いでいることと、下図の緑線と黄線の推移の差で分かるように、円安誘導と消費増税で物価を上げ、実質を下げてしまったことにある。庶民感覚としては、報酬が大きくなったというより、懸命に働いて生活の苦しさを埋め合わせているのが実感だろう。また、名目の長期的な水準は、決して高いものではなく、リーマン前やITバブル時のレベルを超えただけで、ハシモトデフレ前には追い付いていない。つまり、20年前より少ないのである。

 雇用者報酬の着実な増加を踏まえれば、今後の消費は消費性向がカギとなる。7-9月期の減退は消費性向の低下も一因だ。消費性向は、財政や社会保障の将来不安ではなしに、目先の雇用環境に左右されるため、消費動向調査と景気ウォッチャーをチェックすると、11月は前月比+0.8と+2.5であり、10月に続き大きく上昇した。10月は、ウォッチャーのいわば供給側の小売と飲食関係が大きく下がるアンバランスさがあったが、11月は、そちらも強い。10月は、消費性向の戻りが少なく、不発だったのと比べ、11月の消費は、結果が楽しみである。

(図2)



………
 過去20年の名目雇用者報酬の推移をたどると、感慨深いものがある。1997年に成長力を失い、ITバブル崩壊で二番底、リーマンショックで三番底をつけ、単位労働コストは、趨勢的に下がり続けた。それで、ようやく迎える更新のチャンスである。この時代、設備投資は、バブル崩壊が一段落した1994年頃から、リーマンショックの2008年まで、追加的需要に従ってきた。そして、リーマンショックが落ち着いた2012年頃から、再び同じ傾向が表れている。

 ほとんど「法則」と化してきたのは、景気が上向いたら緊縮をかける摘芽型財政で、需要と設備投資の間の好循環を妨げてきたからである。ある意味、異常な現象であり、それ以前には当たり前だった、好循環によって設備投資が追加的需要から離れて行くのが本来の姿である。今後、消費性向が戻って消費が強まり、これに呼応して設備投資は盛んになる展開になるのだろうか。20年ぶりに「法則」が変わり得る転換点に立っている。


(今日までの日経)
 デフレ脱却へ薄日。日欧EPA交渉妥結。生産性・人づくり革命 政策決定。配当が最高の12.8兆円。現金「使う力」追い付かず、「稼ぐ力」は10年で33%増。所得増税1000億円確保。補正予算2.9兆円程度。米減税案に成長効果なし・FT。
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12/5の日経

2017年12月05日 | 今日の日経
 今日の経済教室の柴田悠先生の論考は、とても興味深かった。やはり、ファクツ&フィギュアスがないとね。エビデンス・ベースド・ポリシー・メーキングからすれば、待機児童の解消が第一目標になるが、そうならないのが日本の政治の分からないところ。EBPMとか言っても、財源がなければ、ただの緊縮財政の道具にしかならない。「無償化より待機児童」という実のある議論ができるのも、消費増税1%分を教育・保育に使うという土台があってこそだ。

 逆に、消費増税を借金の穴埋めにしか使わないのでは、希望ある未来なんて、まったく描けなくなる。消費冷却力が強すぎて、歳出増と両建てでないと、とても使えない。0-2歳児の保育は供給力に難があって、財源があれば直ぐにできるものではないから、現金給付から現物給付へと移行する工夫がいるだろう。財政再建は、まず、利子配当課税の税率を20%から25%に引き上げ、国債金利が上がったら、その分だけ税収が自動的に増える仕組みを作ることだ。財政再建=消費増税の念仏思考から、早く脱してほしいものだよ。


(今日までの日経)
 経済教室・低所得層の全入・無償化を 待機児童の完全解消 先決・柴田悠。法人税、実質負担20%に。日銀マネー供給 鈍化が鮮明に。
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