経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

なすがまま社説

2010年09月30日 | 経済
 補正予算に対する各紙の社説が出揃ったので、コメントしておこう。政府が第一弾の景気対策を打ち出したときには、各紙とも、赤字国債の増発を懸念して、補正予算には反対であった。果たして現在はどうなったのか。

 まったく定見がないのは朝日と読売である。両社は、税収の上ぶれがあって、赤字国債を出さずに補正予算が組めるなら良いではないかという立場になった。言うまでもないが、税収上ぶれは、昨日、今日、起こった話ではない。2009年度の税収上ぶれが6月に発表になり、今年度に入っても企業収益が急速に回復してきていたのだから、当然そうなることは認識していなければならない。本コラムでは、3か月も前の7/2に指摘している。

 結局、彼らは、財政当局に完全にコントロールされている。与えられた情報でしか見識を作れないからこうなるのである。経済政策を判断するのに、政府需要の把握は基本中の基本だ。しかし、財政当局は財政再建に都合の悪い情報は出さないのだから、必要な情報は自ら推定しなければならない。

 定見がないのは日経も同様だが、さすがに情報操作には気付いたようで、「税収上ぶれの範囲なら良い」という言い方はせず、規模は景気の先行きに合わせるべしとしている。朝日と読売は、情報で操られていることすら認識していないだろう。これでは日本のマクロ経済政策が上手くいかないのは当たり前である。

 他方、毎日は、一貫して景気より財政再建であり、補正予算には後ろ向きだ。これはこれで立派である。とは言え、毎日も、財政がGDPの2~3%ものデフレ圧力をかけているとは思ってないだろう。この際、毎日は、低所得者がデフレで呻吟しても、財政再建を優先すべきだとハッキリ言ってはどうか。毎日の主張は、意図とは違うだろうが、結局はそういうことになるのである。

 大して効果のない日銀の金融緩和には異様に関心を持つのに、直接的な影響のある需要管理は、まったくお留守で、大規模なデフレ圧力をかけられていることにすら気付かない。日本の経済政策は、GO&STOP型と言われ、アクセルとブレーキの切り替えが極端であり、これが低迷から脱し切れない原因とされる。本コラムの目的は新聞批判ではない。早くこうした無知が克服され、穏健な経済政策によって国民が苦境から救われることを心から願っている。

(今日の日経)
 イラン石油開発撤退、制裁強める米。ロシア大統領北方領土近く訪問。領土、ロシアも対日圧力。外交と社交は違う・秋田浩之。日銀短観先行き悪化。民・公連携、政府に警戒感。円高・金利低下進む、米金融緩和観測背景に。大型船輸出を支援。AEI日本部長、曖昧戦略そのままにできない。パソナ6000人一時採用。太陽光発電によるCO2減の環境価値買い取り。経済教室・世界へ飛躍のチャンスに・石倉洋子
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中国投資の今後

2010年09月29日 | 経済
 今日の日経一面トップのレアアース報道は、高く評価できる。ニュース性には乏しいが、国民が強く関心を持つ事項を的確に伝えている。現状の全体像を明らかにし、危機にあって浮き足立つのを防いでおり、社会的な価値が高い。太田泰彦さんがきちんと指導してくれたのだろう。編集委員の存在感を示してくれた。

 さて、世論は、尖閣衝突事件の処理について、外交的失敗という評価が強まっているが、では、どうすれば良かったかとなると、そう簡単な話ではない。中国船長の行状からすれば、逮捕はやむを得ないだろう。あとは略式起訴による早期処理へ向け最善を尽くすべきだった。その際、手痛いミスになったのは、中国外交官との早期の面接を許し、容疑の否認へと転じさせたことだ。これで早期処理が困難になったからである。

 この時点で採り得る選択肢は、中国との全面対決で大きな経済損失を招いても正式起訴の手続を進めるか、人道的配慮という理由をつけて処分保留のまま釈放するかとなる。筆者は、損失覚悟で手続を貫くべきだったと考えるが、損失回避が馬鹿げているとまでは言えない。問題は、外交的配慮を理由にしてしまったことだろう。

 理由を人道的配慮にするのは、ある意味、嘘にはなるが、例えば、「違法行為の原因は、本人の著しい無知と中国の教育の不備にあり、処罰が適当でない」とか、「帰国後、本人が事態の責任を問われて、厳しい制裁を受ける可能性がある」とか、多少、嫌味な理由にしておけば、良かったのである。このあたりは、政治的なセンスが必要とされよう。

 いずれにせよ、事は済んでしまったのであり、これからどうするかを考えなければならない。日経には記事がないが、中国は検査の抽出率を上げて、輸出を停滞させる措置も取っている。日本が尖閣を諦めることは在り得ないのだから、日中対決は、今後も避けがたい。もはや、中国は投資できるような国でなくなったことは確かである。企業は、巨大市場の幻想に惑わされずに、粛々と撤退を進めるしかなかろう。

 中国はノーベル平和賞でノルウェーに圧力をかけてみたりと、国際社会のメンバーとしてふさわしくない行動を取っている。これでは、社会的責任投資の観点からも、中国に投資ができなくなってしまう。中国経済の変調の兆しも増えてきた。早晩、すべての外資は退かざるを得ないとすれば、早いほうが損失は少なかろう。中国は、本当に良い教訓を日本に与えてくれた。

(今日の日経)
 レアアース生産拡大、中国依存脱却へ動く。エルピーダ最先端DRAM量産。底堅い「軽」取り込み、トヨタ、ダイハツから調達。民間給与最大の23万円減、昨年406万円、89年水準に。軍事交流、米中再開で合意。中国、平和賞でノルウェーに圧力。欧州自動車大手、米での生産加速。東南アジア株軒並み上昇。トラック隊列自動走行。フェリー生産能力2割増。商業団地でカーシェア。経済教室・金融政策の再構築が重要に・安達誠司。
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日経の転向と中国投資の終焉

2010年09月28日 | 経済
 今日の日経は、興味深い記事が多かった。筆者の大局的な読みが次々に裏づけられているような感覚だ。他方、日経の論説は、今日の社説で見られるように完全敗北である。尖閣衝突事件と同様、どうして完全敗北したか反省してみることだ。 

 昨日のコラムでは、月曜の経済動向の記事が日経論説の方向転換を示唆していることを指摘したが、今日の社説・「補正は額ありきより中身だ」では、明確に補正予算支持へと転じた。回復基調が崩れつつあることを理由としているが、二番底になるまで補正は不用としていた論説はどこに行ったのか、おまけに「国債発行もためらうべきでない」となった。情けなさも感じるが、正しい認識に至ったことは歓迎したい。

 日経が読み違えた理由は、需要管理の観点がないためである。転向は、財政が前年度との比較で緊縮状態にあることの認識がなく、財務省の税収増の発表でようやく気がついたこと、また、早くから言われていた輸出の鈍化が現実のものとなり、その需要減の重大さを思い知らされたことによるものだろう。

 さて、尖閣衝突事件である。日本は完全敗北したが、外交の拙さは無論にしても、中国との全面対決は時間の問題だったのかもしれない。日本が中国経済に深く組み込まれたら、尖閣では日本が譲歩せざるを得ないという構図になっていたのであり、それが顕在化したと見ることもできる。

 日本は互恵関係に淡い期待を持っていたのだが、その幻想が壊されたのだから、中国経済に依存しない体勢を作っていくしかない。戦略的互恵関係は失われたと宣言すべきである。日本自身が対中国の長期投資や技術支援をやめるだけでなく、そういうことができないリスクのある国だということを友好国と共有する必要がある。

 尖閣衝突事件以降、中国に投資をしていて損失を被ったとしても、それは企業の自己責任となった。今後は、日中関係の悪化は一触即発であり、いつ投資や貿易が失われてもおかしくない。社員の安全さえ確保できない。これでは、カントリー・リスクは、アフガニスタンと変わらないではないか。

 日経は経済の現実を知り、日本は中国の現実を知った。現実を知るまでは、誤ることもあるだろう。大事なのは、現実を知ったら、もう誤らないことである。

(今日の日経)
 日銀、追加緩和を協議、3~6月の資金供給を拡充。補正、雇用・子育てなど柱、4.5兆円規模検討、首相が編成を指示。首相、ASEM出席へ。社説・対外外交の巻き返しには何が必要か。中国強硬、監視船を常駐、南シナ海と同手法。中国、通関手続きを厳格化、輸出数量指数8月5.4%低下。外需に停滞感、米アジア不振。投機筋の円買越額が半減、介入受け損失確定。国保、都道府県単位に再編。人民元、最高値を更新。アジア通貨上昇。大機・デフレ脱却は隗より始めよ。金利0.990%に低下。経済教室・素材、サービスに可能性・関満博。
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内需への可能性

2010年09月27日 | 経済
 今日の日経は、月曜におなじみの経済動向ものである。7-9月期はかけこみで実力を超え、10-12月期は逆風が重いというもので、標準的な見方である。政府は中規模の補正予算へ動き出したが、それには触れていない。たしか、日経は二番底前の財政出動には反対だったはずだ。筆者は忘れていないよ。口を噤んで、ごまかしてはいけない。

 さて、日経が挙げる3つの逆風、①円高、②米中経済の減速、③国内の政策効果の息切れだが、まず、米国からいくと、これまでの過剰な住宅投資や消費をじっくり癒す段階に入ったと言えるだろう。減速はやむを得ないし、停滞も長引くと思わなければならない。

 中国は、米国の過剰消費による輸出で躍進したのだから、今度は逆回転が効いてくる。中国は消費の割合が小さく、小手先の消費拡大策は早くも一巡してきた。今後は、成長率の低下が資産価格の急落に波及するおそれもある。

 期待の新興国だが、インド、ASEANでは、米国の金融緩和によるマネーの膨張のために、過熱気味になっており、金利を高め、インフレを抑える局面に向かっている。米中に比べれば、はるかに将来性はあるが、代わりに牽引役を果たすには力不足である。結局、日本が外需に頼るというわけにはいかないのだ。

 日本の内需については、順調に推移している。このまま伸ばせば良いというだけのことだ。それを、わざわざ景気対策を打ち切って不安要因を自分で作っているのだから世話はない。財政出動については、財務省が税収上ぶれという「隠し財源」を出してくれたのだから、日経も素直に乗ったら良い。あとは、10-12月期に間に合わせるように、早く補正予算を成立させることである。

 今後の経済対策の焦点は、日銀の量的緩和ではなくて、補正予算の速度である。いったん需要を減退させてから、対策の効果が発揮されるようでは遅い。それでは需要に不安を持つ企業は設備投資を絞ってしまうからだ。需要に切れ目を作らないことが重要である。

 今日の日経では、この10年間に、いかに短時間労働者、非正規労働者が激増したかを報じている。これでは消費が伸びなかったのは道理だろう。逆に言えば、労働力には余裕があり、成長の余地は大きいということを示している。虚しく円安を追い求めるのではなく、内需には可能性があるのだから、それを拓くべきなのである。

(今日の日経)
 景気足踏み、回復力に不安。武富士、更正法申請へ。社説・豪資源税にどう対応するか。量的緩和の要請強める。短時間労働者、10年間で35時間未満が300万人増。35時間以上が533万人減、非正規社員1743万人32.7%増。リーマン前回復になお3年、電子部品。ASEAN・世界の工場へ名乗り、FTA網アジアで存在感。中国、米に反ダンピング関税。大阪ガス太陽電池で電力供給。交渉・自ら沈黙破らない。経済教室・為替介入資金を市場に放置・渡辺努。
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イマジン・ブレーカー

2010年09月24日 | 経済
 とあるアニメの主人公は、「幻想をぶち壊す」と叫んで、イマジン・ブレーカーなる必殺技を繰り出すそうだ。日経でおなじみの「法人減税で設備投資を促進する」という主張を聞いていると、筆者にもこの必殺技を与えて欲しいところだ。

 むろん、現実はと言えば、日経自身が実報で伝えるように、融資の3割が金利1%未満にまでなり、低金利が浸透しているにもかかわらず、企業は、先行き不安から、設備投資を手控えており、資金の流れが滞っている。

 こうした状況では、法人減税で企業に更に資金を与えても、設備投資が伸びるとは、到底、思われない。同様に、日銀の量的緩和で設備投資を促進するという説にも、まったくリアリティがない。これらの政策によるデフレ脱出は幻想としか言いようがないのだが、それでも、大嫌いな財政出動以外の策なら、何だってすがり付くということなのだろう。

 今日の記事では、内閣府の調査を引き、企業の見込みが2%成長から、1%成長へと低下しているとする。今後、民間需要が順調に推移しても、企業収益の回復で税収は年間4兆円程度の増が見込まれるわけだから、歳出を一定に抑制するという政策を続ければ、GDP成長率を1%低下させる圧力がかかる。企業の見込みは、なかなか現実的である。

 これを別の角度からみれば、資金は政府にも滞っていることになる。景気が緩やかに回復していても、労働需給は引き締まっていないから、企業収益は賃金に還元されにくい。それが税収増に結びついている。その分を、政府が低賃金の労働者を中心として還元することをしなければ、内需が伸びるわけがない。

 他紙で恐縮だが、9/20の毎日新聞は、「明日はあるか、社員の社会保険料、正直に払えない」で、低賃金労働者が保険料の重さに喘ぎ、国民皆保険から脱落する状況にあることを報じている。これが現実なのである。本コラムでは、「基本内容」で、低所得者層の社会保険の負担軽減を提案している。それは、2兆円もあれば、実現できることである。

 社会保険からこぼれる人たちが続出するというのは、社会が崩壊へと向かうことの始まりだ。この辛く、厳しい現実が見えず、企業の手元資金の積み上げを目指し、税収増をすべて政府が吸い上げようとする。日本のトップリーダーは幻想の中にいるが、イマジン・ブレーカーはアニメの世界の話でしかない。

(今日の日経)
 海外生産比率引き上げ加速、消費地生産重視。社説・科学予算に若手の目。融資の3割金利1%未満、緩和効果が浸透、企業は設備投資を進めず。中国のレアアース対日輸出滞る、尖閣で圧力。商業地に海外勢が投資再開、相対利回り高く。APEC薄れる独自性。米大統領パレスチナ国連加盟を。ユーラス米最大の太陽光発電。経済教室・失業の増加と長期化・阿部正浩。
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経済が目的とするもの

2010年09月23日 | 経済
 日本では経済は財政再建のために存在するようだが、世界的には国民生活のためにあり、最終的な目的は、より多くの消費ができるようにすることだ。投資も将来の消費を増やすためにするものと言える。

 その点で言えば、自国通貨安にして消費を押さえ、輸出を増やそうとするのは、どうにもおかしいことになる。以前のブッシュ政権のように、強いドルを唱え、消費を拡大することこそ、本質的に正しい行動のように思える。

 むろん、そうならないのは、輸出には設備投資を促進する効果があり、それによる雇用拡大と所得増を望むからである。本来は、そのあと、所得増に伴う消費拡大によって輸入も増え、輸出と輸入のバランスしていくというのが在るべき姿である。日本の高度成長期も半ばまでは、そうした理想的パターンであった。

 現在の米国は、財政と貿易の双子の赤字を抱えているのだから、金利を低下させてドル安にし、輸出を拡大させるのは、理にかなった政策である。リーマンショックまでは過剰消費にあったのだから、経済を拡大させつつ消費の割合を減らすのも何ら変ではない。

 政策を変えるべきは、新興国の方で、今日の日経の記事のように、外貨準備を増やすというのはおかしいのである。米国債を買って米国消費を拡大しようとするのではなく、自国の消費を拡大しなければならない。

 ただし、自国消費の拡大では、物価高を覚悟しなければならない。物価高は内需向け投資を促進するには必要な要素でもある。問題は、政治的に物価高に耐えられるかである。再分配の仕組みがないと、貧困層に強い痛みを与えるからだ。日本の高度成長期のように、物価高であっても暮らし向きは良くなったと、政権が支持を集めるようでないとならない。

 実際、インドネシアやブラジルは、それに成功し始めている。問題は、新興国の経済規模の半分を占める中国で、消費拡大は道半ばである。もし、中国に民主主義があるなら、物価高を覚悟で内需を拡大することもできようが、これを恐れざるを得ないところに問題がある。今後、物価高と再分配によって消費を拡大できなければ、中所得国として成長を続けることもできまい。

 さて、日本だが、貿易黒字があり世界最大の債権国なのだから、内需拡大はできるはずなのだ。問題は、財政赤字を気にして、度が過ぎた緊縮財政をとっていることである。前年度補正後から予算を10兆円も削減した上に、いまだ隠しているが、税収の上ぶれが4兆円ほども見込めるなら、デフレ圧力は巨大であり、いくら日銀が金融緩和をしたところで間に合うまい。デフレにならない方がむしろ変だと言える。

 日本も、中国と同様、ドルを買って米国債を積み増し、自国ではなく、米国の内需を拡大させる道を選んでいる。日本には民主主義はあるようだが、低所得層の生活向上を軽視するところは中国と同様だ。為替介入や量的緩和も結構だが、経済は何のためにあるのか、今一度、考えてみてはどうか。

(今日の日経)
 新興国の外貨準備急増、上位10か国6月末15%増で500兆円。新卒採用の解禁を夏以降に。米株、割安でも買われず・梶原誠。社説・追加緩和への備え急げ。中国、強気の裏の誤算。電子部品値下がり鮮明。日本拠点拡大、IT、サービス、金融、医薬。投信、8割が成績マイナス。日銀に量的緩和の風圧。戸別補償、EPA推進へ拡充。セブンが高級PB。セントケアの終末期訪問介護、介護は儲からず人手不足。大機・デフレスパイラル。超長期債の利回り低下。採用抑制、あふれる人材。経済教室・地方空港・上村敏之。
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財政出動否定の思想

2010年09月21日 | 経済
 遥か昔のことである。学部で初めてミクロ経済学を習ったとき、こんな当たり前のことを数学にしただけで、何がおもしろいんだと思ったものである。他方、ケインズの「合成の誤謬」を聞いたときには、これこそ学問だと感じた。論理を進めて常識を超える認識に至るというのが、ギリシャ哲学以来の学問の基本なのだ。

 マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱授業」が人気を呼び、「これからの正義の話をしよう」が話題になっているのを見ると、ギリシャ哲学の特徴である、対話を積み重ねつつ論理を進め、認識を深めていく伝統が現代に生きているように思う。これは、知識の詰め込みとは違った、とても楽しい課程なのだ。 

 とは言え、ケインズの「合成の誤謬」の論理の進め方には、何かスッキリしないものを感じていた。個々には正しい行動が、集合すると誤ったものになるというのは、とても魅力的なレトリックだが、どの時点で誤ったものに転化するのか? この疑問が解けたのは、ずっと後になってからだった。

 答えを言ってしまうと、「個々には正しい行動」ではなく、「個々にもわずかに誤った行動」をとっているのである。わずかなので、個々には目立たないし、不合理にも思えないのだが、それが集積し、影響し合うと、巨大な不合理へと発展してしまう。個々の経営者がリスクを恐れて設備投資を抑制し、機会利益を捨ててしまうことが、経済全体では恐慌にまで及ぶことになる。

 経済政策とは、こういう不合理を正すものである。経済は放っておくと不合理に至るわけだから、政策介入は、経済のムダを減らし、効率性を高めることになる。大恐慌を契機にして、経済学はケインズのものに変わった。大恐慌の在り様は、不合理なのが誰の目にも明らかだったからだ。

 ところが、ケインズの「個々には正しい」という曖昧さが逆戻りのタネになる。「正しさ」を基礎に置くと、いくら集積させても、論理的に不合理は生じない。大恐慌の記憶が薄れると、ケインズの論理の甘さが衝かれだし、経済は自由にしておけば、合理性を発揮するもので、介入は不効率という思想が復活するのである。

 結局、現在の政策論争は、経済というものが、合理的なものと見るか、不合理なものと見るかの思想の違いを表している。前者なら、たとえ高失業率の状態にあるとしても、それは合理的な結果であり、財政赤字という「犠牲」を出して介入するのは、合理性を乱すバカげた行為になる。

 日本では財政出動に対する忌避感が強いが、思想的な背景を探るとこういうことになる。財政出動を望む者は不合理な現実を訴え、それを否定したい者は各種の理論を引いて反論する。そういう、かみ合わない構図になるのは、深い理由があるわけである。

(今日の日経)
 株式売買、日米欧で低迷、470兆円の手元資金を抱えながら設備投資を手控える。米国は過剰消費、欧州は金融システム不安、日本は構造的なデフレ。アジア諸国はドル買い介入。中国、海洋戦略絡み強気。買い取り債権、追加損失は回避。ブラジル、貧困家庭補助金、最賃引き上げで内需けん引。経済教室・公務員制度改革・加藤創太
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財政当局の知恵出し

2010年09月20日 | 経済
 内閣改造も終わり、ようやく政策も動き出したようだ。注目すべきは、玄葉政調会長の補正予算に関する発言だ。日経は、「協議は三段構え」と、政治過程として注目しているようだが、経済政策として見ても、なかなか興味深いものだった。

 玄葉会長が提示した財源は三つあり、①今年度予算の国債費不用分、②09年度の決算剰余金(1.6兆円、通常は半額を国債償還)、③今年度税収の上ぶれ分である。これまでの補正予算の論議では、①と②は俎上に乗せられていたが、今まで伏せられてきた③が、いよいよ登場した。規模には言及していないが、ここがポイントだ。

 税収については、リーマンショック前の2007年には51兆円もあったから、景気が順調に回復していけば、増税がなくても、09年度の補正後見通しである36.9兆円と比較して、14兆円程度の増収が見込める。既に、09年度で1.9兆円上ぶれしており、残りが、あと3年で回復するとして、10年度に4兆円程度を見込んでもおかしくはない。

 つまり、野党が主張する4~5兆円の経済対策を丸のみする以上の財源はあるわけである。ここは菅政権を支えるべく、財政当局も知恵を出してきたのだろう。むろん、10年度は「見込み」であるから、大きさをある程度コントロールできる。与野党の協議を見ながら、規模が最小限で済むように数字は作られよう。

 マクロ経済的には、09年度決算剰余金は、10年度へ繰越される公共事業の分もあるので、そのまま需要が追加されるものではないが、10年度の税収上ぶれ分は、新たな需要に結びつく。今年度予算は、前年度補正後より10兆円も少ないのだから、税収上ぶれが4兆円あるとなると、財政だけで14兆円ものデフレ圧力をかけていたことになる。日本経済がデフレで苦しむのも当たり前で、謎でも難問でもない。税収上ぶれ分を経済に還元することは必須であろう。

 ところで、今日の日経のエコノフォーカスは出色の記事だった。森本学、浜岳彦記者の労を多としたい。内容は、非課税制度の導入にも関わらず、企業の海外での稼ぎが日本を潤さず、資金が現地に留まっているというものだ。理由には、企業の現預金残高は203兆円と過去最高であり、国内の将来には期待が持てないことを挙げる。加えて、米国では軽減と国内投資義務付けの組み合わせで成功したことを紹介している。

 経済政策の基本は需要管理であるのに、財政の情報には無頓着であり、その一方、企業の実態を見ずに、法人減税で企業の資金を積み増して成長させることに過大なほど期待したり、超低金利下でも更なる金融緩和に熱心だったりする。今日の日経紙面では、日本の経済政策を巡る言論の問題性が浮き彫りになったように思える。

(今日の日経)
 国保保険料の上限上げ、中所得層は負担減。中国、閣僚級の交流停止。65歳以上の就業率は男28.4%、女13.0%。。時には正義の話をしよう。ASEAN中間層拡大消費に熱気。米消費、新学期商戦、家電は苦戦。三菱化学LED材料量産。新聞配達用電動バイク。働きやすい職場・ソニー首位。帝国ホテル・トイレ掃除のプロ。書籍の電子化代行業続々。経済教室・公務員制度改革の論点・稲継裕昭。理系卒、年収実は文系より高く・西村和雄。
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ゆく夏と秋冬の訪れ

2010年09月19日 | 経済
 誰しも似たような印象を持つものだ。今日の西岡幸一さんの論説を読んで、そう思った。菅首相が代表選で「雇用、雇用、雇用」と連呼したことについて、「What」があっても「How」が無いというのである。もちろん、本コラムのテーマは「どうすれば」である。

 別に、「How」が無いのは首相だけに限らず、日本全体の問題であろう。西岡さん自身が言うように、この数年、経済再生、成長戦略と銘打った多くのプランが出ているが、見るべき実効はない。何かサプライズが欲しいという気持ちは良く分かる。

 論説は、その後、企業の投資拡大への期待へと移っていく。法人減税について、消費税の引き上げと相殺になる格好では企業も不本意だろうとし、配当や留保にばかり回さず、投資や従業員にも、とするところが、やや意外である。それを言うなら、低所得層の社会保険料の軽減といった、もっと直接的な政策手段があるので、あまり触れないのが、日経らしさだからである。「How」の議論が一歩進んだということかもしれない。

 さらに、論説のまとめで、P・ドラッカー言を引いて、「利益は企業の目的ではない。事業を継続するための条件だ」とする。そうなのだ、それゆえ、企業は、資金が手元にあっても、リスクを回避しようとして、設備投資も人材確保もしないのである。日経一面で報じたように、法人の預金残高は高水準で、銀行からの借り入れは低迷を続けている。

 長くはあるまいが、為替介入によって、とりあえず、円高は小康を得た。介入のタイミングは、筆者の予想より早い段階だった。今日の日経を見る限り、当局は金利差や投機筋の状況を良く読んだ動きをしたようである。これは素直に評価したい。戦術的には勝利を収めたと言って良いだろう。 

 むろん、必要なのは戦略であり、どうやって企業の設備投資を引き出すかにある。輸出に期待ができないことは、ハッキリしているのだから、内需向けの設備投資を呼び起こさなければならない。そのために必要なのが、企業に更に多くの資金を持たせるようにする政策なのだろうか? 

 今年の夏は暑かったが、景気の秋は、輸出停滞と景気対策の期限切れで、冷え込みが急速だろう。予想外に消費が粘りを見せ、設備投資の後退が見られないうちに、なんとか秋冬を乗り切ってほしいものだ。夏を無為に過ごしてしまった以上、あとは幸運を祈るしかない。

(今日の日経)
 銀行の国債買越額最大、貸し出し低迷で。原油確保へ産油国に水。主役は企業、政府は脇役・西岡幸一。社説・癒えぬ金融危機の傷。首相、ガス田対抗の方針を確認。円、先高感ひとまず後退、日米金利差拡大、投機筋の買い余地縮小。発電交付金の使途拡大。投機資金が流入・シンガポール。読書・未来の売れ筋発掘学、アジアの激動を見つめて。
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解決策のない経済研究

2010年09月18日 | 社会保障
 新内閣の発足で、紙面は課題と期待で埋め尽くされ、新たな情報はない。そんなわけで、小さい記事だが、世代会計論を取り上げてみる。マクロ経済運営の話も少し飽きたところだし。

 世代会計論の研究結果というのは、大概、同じである。将来世代の受益と負担が大幅なマイナスになるから、すぐにも負担増をして将来にツケを回さないようにすべしというものになる。これを見ると、まじめな人ほど、負担増もやむなしと思ってしまうが、これには、落とし穴がある。

 それは、世代会計論は、少子化の影響をものすごく受け、日本の場合は、それで、ほとんど説明がついてしまうことだ。例えば、1人当たりの生涯の年金給付総額が4000万円の制度を持つ社会で、世代が半減する少子化が起こったとする。すると、親世代の4000万円の給付を維持するためには、半分になった子世代は、当然ながら、一人当たり2倍の8000万円の負担をしなければならない。この場合、子世代は、2倍の負担をしたからといって、老後に、孫世代から2倍の給付を受けるわけにもいかないから、給付が4000万円に維持されると、受益と負担の差は、マイナス4000万円となる。

 このマイナス幅を縮小するには、どうすれば良いのか? 一つの方法は、親世代の給付を減らすことである。あるいは、親世代に新たに負担を課すことでも同じになる。これが世代会計論で、よく見られる主張になる。例えば、親世代の給付を2000万円に半減させれば、子世代の負担は4000万円で変えずに済む。ところが、少子化が孫世代へも続いているとすると、子世代の給付も2000万円に半減させないといけなくなるから、受益と負担の差は、2000万円に縮小するものの、やっぱりマイナスになる。要するに、少子化が続く限り、マイナスは続くのだ。

 結局、負担や受益をいじっても、マイナスは解消できない。賦課方式から積立方式に変えるという方法も言われたりするが、そこで必要になる「二重の負担」と「少子化による受益と負担の差」は、数理的に同値だから、解決策として意味が無い。唯一の解消策は、少子化を止めることである。これは、いずれかの時点で実現しなければ、究極的には絶滅に至るから、避けて通れない課題でもある。

 若手の研究者には、「人生のムダ使いになるから、世代会計論はやめておけ」と言いたい。いくら精緻な計算をして負担増を訴えても、受益と負担の調整では解決のつかないものなのだ。経済研究は、社会問題をどうすれば解決できるかという視点を失ってしまうと、世間を驚かす、ただの数字遊びになってしまう。

(今日の日経)
 景気対策・野党と合意可能・菅改造内閣発足。消費税議論呼びかけ。IMF中国の出資大幅上げ。子ども手当導入で将来世代650万円の追加負担・三菱UFJリサーチ・小林庸平。マレーシア、民族政策で苦悩、中所得のワナ。FT人民元改革に教訓。粗鋼生産、伸び率縮小、アジア輸出が鈍化。外為どっとコム1か月の業務停止命令。
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