ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

鍵屋 @東京・根岸

2015年07月14日 | 東京都(老舗)

酒場好きにとっては聖地と言っても過言ではない根岸の「鍵屋」。安政3年(1856)に酒問屋として創業し、昭和初期から酒が呑めるようになり、現在のような居酒屋形態になったのは戦後だとか。最寄り駅は鶯谷。様々な文献に登場し、一度は訪れてみたいと機会をうかがっていた。黒板塀の現在の建物(大正元年建造とか)も味があるが、移転前の建物(安政3年建造)は「江戸東京たてもの園」に移築展示されているという、まさに博物館級の酒場。ちなみに今でも女性1人の客は入れないそうです(そう、酒場は男の為にあったのだ)。何とか時間の都合をつけて、というか、この店に来るためにわざわざ予定を組んで訪れた。言問通りから一本入った住宅街の中にポツンと店がある。ここだけ異質な空間。店先には開店を待ちわびる同好の士がひとり。まだ新しそうな黒板塀には「鍵屋」と書かれた徳利が埋め込まれている。しばらくして店が開き、暖簾が掛けられた。

店に入ってカウンターに腰を下ろす。電球が照らす「いぶし銀」の店内は、長い時間を経た店だけが持つ特別な雰囲気があり、その場に居るだけで幸せな気分になる。「ジリリリ…」と店にかかってくる電話も黒電話が現役だ。何というか、もうすでに「空気が旨い」。老齢の主人に、まずお酒(桜正宗)を燗してもらい、薄い木の板に書かれた多くない酒肴の中から名物の「うなぎのくりからやき」を注文した。酒はきっちり正1合を升で計り、銅壺(どうこ)で温められる。くりからやきは1人1本のみ、売切御免だそうだ。主人によると仕入れが高過ぎて、もう数が用意出来ないとの事。意地だけでやっているんだとか。焼けるまでは、お通しの柔らかく煮られた煮豆をつまみながら、酒を口に運ぶ。目に入る古道具、看板、古いポスターや、焼き台で忙しく立ち回る主人の所作を眺めながら呑む酒は、最高に旨い。女将さんが他の客に、酒は3種あり「桜正宗」「菊正宗」「大関」の順に辛口になっていくと説明していた。

まだ5時を過ぎたばかりだが、もう何組かの客が入ってきて、カウンターは満席に。主人も大忙し。若干テンパる主人を、女将さんが上手にサポートしていて、微笑ましい。しばらくして串に刺されたくりからやきが置かれた。甘辛いしっかりとした味付けで、旨い。もうこの時点で、くりからやきは売り切れになった。「合鴨塩やき」と酒を追加。塩は強くなく、ほとんどそのままといった感じ。酒は3種ともよくある普通の大手銘柄なのに、どうしてこうも旨いんだろう…。20種類ほどの酒肴はどれも、いわば「地味」なものが多いが、どれも酒(日本酒)を旨くしてくれそうなものばかり。全部食べてみたいが1人ではどうしようもない。早食い早呑みで、長居も苦手なので、未練たっぷりで(笑)勘定をしてもらった。

「ありがとう存じました」

主人と女将さんの声を聞きながら、まだ明るい外に出る。噂に違わぬ素晴しい店だった。(勘定は¥2,500程)

 

鍵屋

東京都台東区根岸3-6-23-18

( 根岸 ねぎし 鶯谷 うぐいすだに 鍵屋 かぎや くりから焼き 江戸東京たてもの園 )


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