ー再会の食卓ーAPART TOGETHER
2010年 中国
ワン・チュアンアン監督 リサ・ルー(ユィアー(玉娥))リン・フォン(リゥ・イェンション(劉燕生))シュー・ツァイゲン(ルー・シャンミン(陸善民))モニカ・モー(ナナ(娜娜))
【解説】
中国と台湾の歴史に翻弄(ほんろう)された元夫婦の悲喜こもごもを描き、家族とはどうあるべきかを問い掛ける人間ドラマ。40数年前に妻と離ればなれになった台湾の老兵が、上海に新しい家族を持つ妻の元を訪ねたことから、家族それぞれの思いが浮き彫りになっていく様子を映し出す。監督は、『トゥヤーの結婚』で国際的な名声を得たワン・チュアンアン。第60回ベルリン国際映画祭の最優秀脚本賞にあたる銀熊賞を受賞した、深みのあるストーリーに感じ入る。
【あらすじ】
40数年ぶりに台湾から上海に戻ってきたイェンション(リン・フェン)だったが、生き別れた妻ユィアー(リサ・ルー)には別の家庭があった。「台湾で一緒に暮らしたい」というイェンションの申し出に、心を揺り動かされるユィアー。家族たちがさまざまな反応を見せる中、ユィアーはある決断をする。(シネマトゥデイ)
【感想】
とてもいい作品でした。
年輩の3人の登場人物が、何度か食卓を囲むのですが、そのシーンで泣けました。
3人3様のその食卓への思いが、重層的に伝わってきました。
同じ時代を生き抜いてきた人たちだけがわかる、深い感情がよく現れていると思いました。
登場人物たちが泣いてないのに、見ている私が泣いた作品は初めてです。
上海に住むユィアー(リサ・ルー)の元に、手紙が届いた。
1949年、中国の内戦で、共産党に敗れた国民党の兵士たちが台湾へ落ち延びた。
国民党の兵士だったイェンション(リン・フェン)の妻・ユィアーは妊娠していたのに、上海に取り残され、夫と生き別れてしまう。
子供を抱え、国民党の家族として差別され、困りきっていたところを、共産党兵士だったルー・シャンミン(シュー・ツァイゲン)に救われた。
二人はその後40数年に渡り夫婦として暮らし、二人の娘ももうけ、今では二人の孫にも恵まれて、成長著しい上海で平穏に暮らしていた。
そこに突然イェンションからの手紙。
中国と台湾の交流が許される時代となり、生き別れた家族が会える事業が始まっていた。
イェンションは、台湾で新しい妻をめとり、一人息子ができ、その息子は商才に長け事業が成功したのだが、若くして死んでしまった。
妻も死に、ひとりぼっちになったイェンションは、故郷を懐かしみ、ユィアーに会いたいというのだった。
ユィアーの現在の夫ルーは、大歓迎だと言ってくれたが、イェンションとの間にできた長男は、父に捨てられた傷を抱え、結婚もしないでいた。
長女も、反対。
家庭を持っている次女とその娘ナナ(モニカ・モー)は協力的だった。
それでも、家族はイェンションにご馳走を作って歓待し、その夜は自宅に泊めた。
ナナとユィアーを伴って、上海見物出かけたイェンション。
近々、ユィアー一家が越して来ると言うマンションの建設現場にも立ち寄った。
そこで、イェンションは「一緒に台湾へ行って欲しい」とユィアーに今回の旅の目的を打ち明けた。
ユィアーも若い頃の情熱が蘇り、一緒に暮らしたいと言う気持ちが抑えられない。
でも、どうやってルーに言い出す?
☆ネタバレ
二人はかなり躊躇するが、ルーに言うと、「そういうだろうと思っていた。気持ちよくユィアーを送り出すよ」と言う。
そして、家族会議が始まったのだが、長男は無関心、長女は大反対。
それでも、ルーはユィアーをイェンションに返そうとする。
ルーはユィアーと離婚しようとするのですが、そもそも二人は戦争のごたごたで結婚していなかったので、離婚できないと言われ、まず結婚することにします。
中国式の結婚の申請は、二人で写真を撮って役所に提出するのですね。
二人で写真を撮っていると、連れ添った年月が蘇り、心にさざ波が立ちます。
首尾よく結婚して、離婚届を出そうとしたら、今度は財産証明書がいるといわれ、その日の離婚はできなくなりました。
時間がたてば、ユィアーの情熱も薄れて来るし、ルーの方も未練が募ったようで、普段飲まないお酒を飲んで、普段は食べないご馳走を食べて、とうとうルーは脳梗塞で倒れてしまいました。
それでもルーは、ユィアーを連れて帰るようにイェンションに言うのですが、ユィアーには病気のルーを置いて台湾へ行く気持ちになれません。
ユィアーはイェンションを港まで見送り、辛い別れとなります。
それから1年後、ユィアーは車椅子生活のルーと上海の高層マンションに住んでいます。
家族のためにご馳走を作っていますが、長男も娘たちも急用で来れないと連絡が入り、ナナと3人の食卓となりました。
「昔は狭い家でもみんなが集まり食卓を囲んだものだったのに、広くなった今は、みんな来られないなんて…」とユィアーがつぶやきました。
見所は、3人が食卓を囲み、恋の歌を歌うシーンです。
戦争によって、失われた青春や幸せ。
3人のそれぞれの心情が伝わってきます。
3人は笑っているのに、私は泣けて泣けて…。
不思議な感情でした。
「再会の食卓」というのは邦題ですが、この作品にはおいしそうなお料理がたくさん出てきます。
湯気も立っていて、香りまで漂ってきそうでした。
ルーは普段は倹約家なのにイェンションには高級食材を振る舞って「もっと食べろ」と薦めます。
このあたりに、出世を諦めてでも、子供を抱えて困っていたユィアーと共に生きてきた彼の人間性を感じました。
人を想うって、本当に美しい感情ですね。
ユィアー役のリサ・ルーさん、「ラストエンペラー」で西太后を演じた人で、アメリカで活躍されている女優さんです。
見ているうちに、亡くなった姑に似ているなあと思い、夫にも聞いたら「本当に似ているね」と言っていました。
80歳くらいのようですが、美しかったです。