ーセントアンナの奇跡ーMIRACLE AT ST. ANNA
2008年 アメリカ/イタリア
スパイク・リー監督 デレク・ルーク(オブリー・スタンプス二等軍曹)マイケル・イーリー(ビショップ・カミングス三等軍曹)ラズ・アロンソ(ヘクター・ネグロン伍長)オマー・ベンソン・ミラー(サム・トレイン上等兵)ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(ペッピ・“ザ・グレート・バタフライ”・グロッタ)ヴァレンティナ・チェルヴィ(レナータ)マッテオ・スキアボルディ(アンジェロ・トランチェッリ(少年))セルジョ・アルベッリ(ロドルフォ)オメロ・アントヌッティ(ルドヴィコ)ルイジ・ロ・カーショ(アンジェロ・トランチェッリ)ジョン・タートゥーロ(アントニオ・“トニー”・リッチ刑事)ジョセフ・ゴードン=レヴィット(ティム・ボイル)ジョン・レグイザモ(エンリコ)
【解説】
第二次世界大戦中のイタリアで実際に起きた虐殺事件を基に、兵士の葛藤(かっとう)と心の交流をサスペンスタッチでつづる戦争ドラマ。『マルコムX』のスパイク・リー監督が同名の小説を映画化し、リアルな戦闘シーンだけではなく、人種を超えた人間の尊厳と希望を見事に描き切った。主要な4人の若き黒人兵を、『大いなる陰謀』のデレク・ルークや『7つの贈り物』のマイケル・イーリーらが好演。戦争の無意味さや、人間の温もりがダイレクトに伝わってくる。
【あらすじ】
1983年、平凡な黒人の郵便局員が客を射殺する不可解な事件が発生。この事件の背景には、第二次世界大戦中のイタリアでのとある出来事が隠されていた。黒人だけで組織された“バッファロー・ソルジャー”の4人の兵士は部隊からはぐれ、イタリア人の少年(マッテオ・シャボルディ)を保護する。4人はトスカーナの村でつかの間の平和を感じるが、ナチスの脅威はすぐそこまで迫っており……。(シネマトゥデイ)
【感想】
この作品は、普通の戦争映画ではありません。
人の本質が極限状態の中で浮き彫りにされるという作品でした。
人間は、人種で区別されるものではないし、国や組織で区別されるものでもない。
強い人間か弱い人間か、人の気持ちや命を一番大切と考える人間か、そうでないかー。
この作品中には、いろんなグループが出て来て、その中にはいろんな人がいるということを露にしていきます。
無能な指揮官は、いかに部下を不幸にするか。
組織の中の汚い裏切りは、どんな悲劇を招くか。
しかし、この作品の言いたいのは、どんな悲惨な場所でも起きる小さな奇跡。
偶然のような奇跡の積み重なりが、光となって大きな奇跡へとつながっていく。
どんなに辛い人生でも、生きてさえいれば、奇跡を見ることだってできるんですね。
この物語は、事実なので、なんの先入観もなく見ても、素直に鑑賞できるのですが、時代背景や、イタリアの当時の内情を知っておくと、なお、面白いかと思います。
公式HPに詳しく掲載されています。
http://www.stanna-kiseki.jp/history/index.html
物語は、黒人の郵便局員ヘクター(ラズ・アロンソ)が切手を買いに来た市民をドイツ製の銃で撃ち殺したことから始まります。
遅れて来たジャーナリスト(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)に、刑事(ジョン・タートゥーロ)は家宅捜索の情報を与えます。
犯人のヘクターの自宅からは、ギリシャ風の彫像の頭が出て来た。
専門家に見せると、これは長い間行方不明だった値打ちのあるものだと言うことがわかりました。
イタリアのサンタ・トリニータ橋を飾っていたものですが、第2次世界大戦中、ドイツ軍に爆破されたのです。
なぜ、イタリアの彫刻がヘクタターの部屋に長い間保管されていたのかー?
ますます謎は深まります。
ジャーナリストはヘクターに面会に行きました。
そこで、語られた「眠る男」とは?
驚愕の事実とはー。
第2次世界大戦中、ヘクターはバッファロー・ソルジャーと呼ばれる黒人ばかりの部隊にいました。
黒人部隊は1860年代に、南北戦争でも組織されて、「グローリー」(1989年)という映画になってデンゼル・ワシントンが助演男優賞を受賞しています。
それでも、当時は差別意識が強く、黒人部隊はあっても多くは後方支援でした。
しかし、戦争が激化していく上で、黒人部隊も数にしたらわずかですが、前戦に送られた部隊もありました。
ヘクターのいた第92師団もそのひとつでした。
彼らは、川を渡ってドイツ軍を追っていく任務を負っているにも関わらず、援護をしてくれるはずの本隊の隊長は、人種差別から、前線の黒人から報告も聞き流し、あろうことか、勝手に照準を変えて、黒人部隊の背後を攻撃する始末です。
部隊はバラバラになり、オブリー・スタンプス二等軍曹(デレク・ルーク)ビショップ・カミングス三等軍曹(マイケル・イーリー)ヘクター・ネグロン伍長、サム・トレイン上等兵(オマー・ベンソン・ミラー)の4人が川岸に渡りました。
トレインは、どこで拾ったのか、ギリシャ彫像の頭部を大事そうに持ち歩いていました。
トレインは、少し頭が悪く、巨体でどんくさかったのです。
トレインは農作業の小屋を偵察に行き、爆撃で柱の下敷きになった子供アンジェロ(マッテオ・シャボルディ)を保護する。
アンジェロは見えない何者かと会話をする奇妙な少年でした。
4人はアンジェロを連れて、村に入り、ある民家に押し入りました。
民家にはレナータとその父のルドヴィコがいました。
ルドヴィゴはかつてはムッソリーニの率いるファシスト党の党員で、村の人たちからは嫌われていました。
レナータたちは押し入って来た黒人のアメリカ兵を見て、嫌だと思いましたが、病気の子供がトレインから離れようとしないので、しぶしぶ泊まることを認めました。
やがて本部から無線がつながり、「ドイツ兵を一人捕虜にしろ」という命令が来ました。
村人と黒人の間に奇妙な親密さが生まれ、故郷では差別され虐げられている自分たちが、イタリアでは人間として扱われているという自由を感じます。
ちょうどそのとき、ファシストやドイツ軍に抵抗している「バルチザン」のグループが町を訪れました。
ドイツ将校を捕虜として連れていました。
黒人たちは、このドイツ人を彼らの尋問の後に譲ってもらうことを約束して、ほっとするのですが、このドイツ人を追って、ドイツの軍隊が大軍を率いてこの村に迫っていました。
ドイツ人将校とアンジェロは運命的な出会いをして、ドイツ軍に追われていたのです。
このあと、黒人兵、パルチザン、ドイツ軍、アメリカ軍が複雑な動きをして、大銃撃戦となって、黒人や村人たちはほぼ皆殺しとなってしまうのです。
そして、その生き残りがヘクターというわけなのです。
映画を見ていて、セントアンナの大虐殺が史実であることを知りました。
このシーンはすごく辛いものでした。
でも、こういう一般市民を虐殺する行為は、他にも行われていたようで、ますます心が痛くなりました。
劇中、銃撃戦で無抵抗な市民がバタバタと殺されていく場面で、アルトゥーロがアンジェロにいいます。
「よく見ておいて、これがぼくたちの子供時代だ」と。
心に重く響くセリフでした。
いつもなら、戦争の悲劇を暴いて終わりの映画が多いですが、この映画はもうひとひねりが利いていました。
見終わった後、すごく清々しい気持ちになるし、人間にも希望が持てました。
人間が悪いんじゃない、戦争が人間を悪くするのです。
戦争は絶対ダメ。
そして、差別も虐待も虐殺も、あってはならないことです。
極限状態に陥らないこと。
人間性を保つこと。
それを示してくれたのがトレインでした。