ヒトの家畜化  3

ヒトの家畜化  3

 

ヒトの体は、意外に簡単に環境によって変化することがある。

 

例えば、身長の成長は、栄養によって大きく変化する。戦後すぐの6年生ぐらいの身長と約20年たったころの身長では10センチほども異なる。成人してもこの差はあまり変わっていない。これは食料難であった戦中・戦後の子どもたちは、遺伝子上に乘っている能力を十分に発揮するだけの栄養が取れず、時間だけが経過した結果である。その後成長の終わりごろに少し栄養が回復しても、十分に成長できる時間は存在しない。成長できる時間には限界があり、ある程度性的に成熟すると成長は止まる。

現在の子どもたちは栄養的な環境には恵まれており、遺伝子が持っている能力を十分に発揮していると思われる。一方、運動能力は必ずしも栄養環境だけに左右されず、如何に運動を繰り返すかに関係するから、体格の向上と一致しない。これらのことは文部科学省の統計を見て頂ければ、十分に理解できる。

 

最近の子どもたちで、歯列矯正を行っているのを見かけることが多い。これは矯正技術が進化していることもあるが、歯列を支えるあごの骨が短くなっていることと関係がある。骨はカルシュウムからできており、カルシュウムイオンは、筋肉の遠心と近心(筋肉の心臓に遠い部分と近い部分)の間に生じる電位差によって移動し骨に沈着する。最近の食物は、柔らかく食べやすくできており、子どもたちが沢山かむことが減っている。このため顎の成長に必要なカルシュウムが、十分に届いていないと思われる。以前に医学部にいたころに、骨折した部位の脇の筋肉に弱電流を流すと、2割以上早く骨折が回復する実験をしたことがある。最近の子どもたちは、硬いものを頑張って食べる習慣が無く、スナック菓子などを好む傾向にある。

ヒトとは異なるが、イノシシがブタに進化した過程を見るとヒトに飼育されるようになって、1万年程度で急激にあごの形が変化し、鼻が短くなり、歯数も減ってきている。

 

ヒトも自分の改変した環境によって、意外に家畜化が進んでいる。

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